大型移動車〜バスのはじまり〜
ある会社に勤めている頭に小さな羽を生やした羽魔法使いさんが今回の主人公さん。
なにやら悩んでいるそうです。一体どんな物語になるのでしょうか?
今回の小さな小さな物語が始まります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は総務部の人事課にいるサラリーマンだ。ここにつくまでにたくさん勉強して大学まで卒業した。今でもこの立場を立派な仕事だとは思ってはいるが、最近頭を悩まされていることがある。
それは人員整理の命令だ。
俺がいる会社は主に移動車用の羽を提供している。移動車ってのは交通手段の一つではあるが、今では完全たる成金のステータスの一部として扱われている。まるで嗜好品のようにな。
もし移動するなら移動魔法使いの移動タクシーの方が安し、速いし、便利だ。それに比べて移動車は高いし、遅い。だから利用者も限られてくるし、俺たち会社の利益にもその影響は響いてくる。
まず移動車は動かすために羽魔法使いを派遣もしくは使用人として雇わなければならない。そして、移動車そのものもほとんどが木材で凝った彫刻がなされているが、これも困ったものでこのせいで移動車自体が重くなり移動速度が遅くなってしまっている。
成金のステータスになっているだけあるだろう。移動車は素敵な彫刻品を見せびらかして移動するものってわけだ。
まぁ、そんな感じで、羽を提供する俺たちはサービス、つまり速度と安定感と羽の美しさ、主にこの3つを重視される。
みんな揃ってれば文句はないんだが、まぁ様々な羽を提供する羽魔法使い達がいる。求められている事を提供出来ないやつも出てくるってもんだ。
そこで上から言われたのが人員整理、簡単に言えばサービスの悪いやつをクビにしろってことだ。
正直、この仕事自体はそんなに頭を悩ますことではない。過去の利用回数が少ないやつやクレームが多いやつを下から順に切っていけばいいだけ、それだけの話だ。
だが、問題はそこじゃない。俺はそもそもクビなんてやりたくないんだ。そいつらを人員削減せずに何か他で利益が出る利用価値がないか探しているんだ。
そうして頭を悩ませている俺がふと窓に目をやると、荷物を2人の移動魔法使いが運んでいる姿が目に入った。
普通の移動魔法使いは羽魔法使いと比ではないほど力持ちだ。なのに何故2人で運んでいるのだろう?
1人では持てないほど荷物が重いのか?だが、そんなに重くなりそうな大きさではない。それなら……
ここで俺はピンと考えが思い浮かんだ。そうだ!一人で出来なれば、複数人でやらせれば良いんだ。
とは言ってもなぁ、それじゃあ彼らの給料が下がってしまう。それに納得してもらえるか、どうかもあるし、何よりそれだとどうしても結局利用価値を見出せてない気がする。
悩まされて眉間にシワがよっている俺に隣から声をかけて来た。
「何をそんな深刻な顔をしてるの?」
声の主は同じ課で羽魔法使いの同僚だ。相談したところであまり頼りにはならないが先ほどのことを正直に話した。
「んー、そうねぇ、複数人かぁ」
目線を斜め上へ向けながら考えている。そして、そのついでかのように彼女からどんどんと羽が出てきた。
「おい、無駄に羽を出すな。邪魔だ」
俺が注意すると彼女が今度は俺をからかってきた。
「複数人って言うから出しているのよ。ほら、想像してみて、何かわかるかもしれないわよ」
そういうと、たくさんの羽達が俺や俺の周りにある机からペンまで至るものを天上に当たるまで上へと浮かばせてきた。
それをみて楽しそうにしている彼女。俺は完全に遊ばれている。
呆れてる俺にふとある光景が目に入った。彼女の羽が一つで机を持ち上げているではないか。
もちろん、俺の机は何の装飾もないシンプルな木材机だ。もしここに本来移動車を動かすのに必要な四つの羽をつけるともっと速度をあげ、安定できるはずだ。
「閃いたよ」
俺は呟いた。こっちの会社からシンプルな移動車を用意するんだ。それも大型の。
何故かって?
もちろん、複数人の羽魔法使い達を使うためだよ。
シンプルなデザインだと安定感がある、そして複数人だと本来の彼らの魔法能力以上の速度も出る。
だが、もちろん高級感はない、何のステータスにもならないだろう。
むしろ逆だ。今まで移動タクシーや移動車に乗れなかった層でも乗れる破格な値段の交通手段とするんだ。
「大型の移動車を作ろう!」
俺はさっき閃いたことを彼女に提案した。
「なるほどね、新しい層を掴むってことね。それにシンプルなデザインの移動車だと仮に大型でもそこまで費用はかからなさそうね。これなら上の許可も通るかもしれないわ」
彼女も大賛成だった。俺は画期的な提案が出来たことに満足していた。
そして、俺たちの予想通り、上司の許可はすぐ降りた。大型移動車のはじまりだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
のちに大型移動車はバスとなり、街中を飛び回ることになるのです。そして、彼の会社は誰もクビになることなく、むしろバス会社として経営拡大して人員も増加していくのです。
彼の提案は大成功を収め、彼は主人公へとなっていくでしょう。
これは小さな小さな物語、ここでおしまい、おしまい。
毎日投稿しております。
もし気に入っていただければ、ほかの小さな物語達も見てあげて下さい。