泥棒同盟
魔法使いさん達の世界は戦争もない平和な世界です。
しかし、警察は存在します。なぜなら時には犯罪を犯す魔法使いさん達がいるにです。
魔法能力が低くどうしようもなくて犯罪に手を染める魔法使いさんがいたり、それとは逆に高い魔法能力を使い金稼ぎの常套手段としている魔法使いさんもいるのです。
今回はそんな後者な魔法使いさんが主人公。
小さな小さな物語が始まり、そして大きな物語へとなっていきます。
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俺は百面相魔法使い、一瞬にして全身を変化させることが出来る。そして、それを利用したスリ師だ。
なんでスリ師なんかしているかって?
普通に働いて金を得るのが馬鹿らしいからさ。スリの方が一瞬で金が手に入る。本当に単純な理由さ。
それに警察に捕まるなんて考えられないほどバカな自信家だからかも知れない。
まぁ、そんなわけでスリ師をしてもう何十年とたっている。
今日のターゲットはあいつ、大きな翼を持った移動魔法使いだ。肩掛けカバンをかけているが少し翼に隠れてやがる。もちろん取った後すぐに気付かれること前提ではあるが、あの大きな翼で隠れ別人へと変身出来そうだ。
俺はゆっとくりと彼に近づいた。
そして、スリとは思えないほど大胆に鞄を開け、財布だけ盗んで行った。
もちろん、完全に姿は変えている。今回は特徴的な髭の生えた紳士へと変身した。
完璧だ。そう思いほくそ笑んだ俺の目の前にはさっきの移動魔法使いがいる。
顔が近いと表現するには役不足なほど至近距離だ。一瞬にして移動してきやがった。完全にスリしたことがバレている…気がする…。
いや、冷静になれ。どうやって顔が変わった俺のスリがバレるんだ。何か用事やワケがあるのかもしれない。
そんな色々と考えがよぎる俺を無視しているかのように彼の口から答えが出た。
「お前、今俺の財布を盗んだだろ。正直に言ってみろ」
うわ、完全にバレてる。こんなの初めてだ。
なるべく冷静でいようと心がけてはいるが自然と目が泳いでしまう。
「いや、何を言っているのかね?」
「とぼけるな、俺の金には全て俺のサインが書いてある。スリ防止用にな。本当にしてないとでも言うのなら今すぐ確認しても良いぜ?」
とぼけても無駄だ。なんて用心深いやつなんだ。もし確認してそんな金なんか出てきたら俺は完全に終わりだ。
バレることを考えてない俺がまずかった。完全になす術がなくなっている。
俺は観念して交渉することにした。
「分かった。観念した。大変申し訳ない。この通り、盗んだものはお返しします。さらに、今回の口止め料としてあなたが要求する金額をいくらでも差し上げます」
交渉決裂しないことだけを俺はただただ願った。
「構わないよ。ただ口止め料の内容を少し変更してさせてもらおうかな。詳しく話をしよう」
どうやら俺の願いは叶ったようだ。スリ師人生はまだ続けられそうだ。
安心している俺の腕を掴み、彼は人の気配が全くない路地裏へと連れ込んだ。
「俺の見た限り、お前はスリに慣れてるように感じる。まるで職業としてやっているようだ。だから、こうしよう。口止め料として今後お前のスリした金額の3割を俺に渡す事にする。これでどうだ?」
「構わないが、それだとお前も犯罪に加担することになるぞ。それでもいいのか?」
「ああ、構わない。俺も同業だ。口止め料のついでにお互い情報交換でもしようじゃないか」
驚いた。同業にスリをしてしまったなんて。
ただこいつ、百面相魔法使いでもないくせに俺に正体を明かして通報されることを考えてないのか?
用心深いのか賢いのか馬鹿なのか、分からなくなってはきたが俺にとっても口止め料としては安いもんだし、情報交換代と考えれば悪くはない。
「なるほど。バレたのも納得できる」
「ちなみに、お金にサインしてあるって言うのは真っ赤な嘘だ。他人の金しか持ってないスリ師が自身の金に執着するわけないだろう」
ははと笑われた。最悪だ、俺はまんまと奴の手口に騙された。最初から交渉する気でいたんだろう。
「完全に騙されたってワケだな。そうだ、もしよかったら情報交換よりもう一歩踏み出して、協力関係を結ばないか?百面相魔法に抵抗があるなら、俺の本当の素顔をバラしても構わないからさ」
そう言いながらもすでに俺は本当の姿を見せていた。こいつは観察力もあるし、頭の回転も早い、それにあのかなり素早い行動、魔法能力も高いのだろう。
「協力して何をする?」
質問が返ってきた。彼も少しは乗り気のようだ。
「協力してもっと大物を狙うってことさ。スリの3割じゃあしれているだろう。だから、2人で本格的に泥棒してもっと大金を得る。本来なら分け前は5:5だが、それを俺2:お前8で分けようって話さ。俺は百面相魔法使い、正体がバレないしだからいくらでも特攻出来る。お前は後の俺の逃げ道さえ協力してくれれば良い」
俺の提案を聞くや否や彼はニヤリと笑った。どうやら交渉成立のようだ。
それから俺らは協力してターゲット探しをした。条件は警備が薄い事、お宝一品盗むだけで大金が得られそうな事だった。
そこではじめてのターゲットはある成金の豪邸にした。
会社経営が成功したのか各地に別荘を建て、留守の時間が多い。また、別荘は建てたばかりのものが多く警備が薄かった。そして、成金だからかお宝収集が大変お好みで、部屋に飾ってある彫刻品や写真集はどれを狙ってもスリの何倍も儲かるものだった。
作戦は至ってシンプルなものだ。俺が本来の姿から変身し侵入。もし誰かと遭遇したら火炎魔法使いだと名乗り火事を起こすと脅す。そして、何か盗んで家から出た瞬間に彼に一瞬で遠くまで運んでもらう。最後に盗んだ宝は彼が知ってる闇市場で換金してもらうってわけだ。
まずは彼にベランダまで送ってもらい、俺は窓を蹴り割り、侵入した。
「一体なんだ?!」
中から声がする。使用人でも雇っているのだろう。俺はテキトーに置いてある彫刻品を手に取った時、声の主と遭遇した。
「おい、待て!何をしている!!」
大声で警戒する執事。だが、俺は作戦通りにまるで火炎魔法使いかのように杖を出した。
「そうだな、まぁ簡単に言えば泥棒だ。だが、警察を呼ぶのはあまり良い選択ではないと思うぞ?この通り俺は火炎魔法使い、損失は彫刻品一品だけ済ました方が賢明だと思うぜ?」
彼が悩み苦しんでいるうちに俺は入ってきた窓までまた戻った。
「今回はこのお宝だけ頂戴するだけさ。ガラスの修理は後で頼むよ」
言葉を言い残し俺はベランダから飛び降りた。もちろん怪我をするつもりはない。
飛び降りた途端、彼が俺をキャッチし、猛スピードで空を飛んでいった。
「最高のタイミングだよ、ありがとう。成功したな」
俺ははじめての泥棒でまだ興奮がおさまらなかった。スリよりもスリルがあって病みつきになりそうだ。
「ああ、俺たちはこれで何回か大儲け出来そうだな。それにしてもこのスピードで移動酔いしないなんて流石時間を利用したプロのスリ師だな」
彼も楽しそうにしている。それに、俺をかなり認めてくれているようだ。
俺たちの泥棒同盟はいつの間にか結成されていた。
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ここまではまだ小さな小さな物語。この後、彼らは泥棒を続けていくうちにやがて大きな物語へとなっていきます。
それまでの小さな小さな物語はまた明日お話ししましょう。
今回はこれでおしまい、おしまい。
毎日投稿しております。
もし気に入っていただければ、他の小さな小さな物語達も読んであげてください。
今回は明日も彼らが活躍します。泥棒同盟の行く末を見届けていただけると幸いです。