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貴族の息子

 魔法使いさん達の世界では貴族が存在しているのです。彼らは先祖代々受け継がれた消滅魔法使い達です。

 貴族達は毎日魔法使いさん達が暮らす街をより良くするための統治をしています。


 そんな貴族に生まれたまだ幼い男の子が今回の主人公さん。


 小さな小さな物語が始まります。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 僕は自身の消滅魔法が大嫌いだ。先祖代々受け継がれた高貴な魔法なんていうけれど、僕にとっては知ったこっちゃない。


 火が出せる火炎魔法とか、植物が出せる植物魔法とか羽が出せる羽魔法とか、何か出せる魔法の方が絶対カッコいい。

 それに比べて、消滅魔法はただ他人の魔法を永久に無力にするためのもの。出すどころか奪うだけの魔法。どこが高貴なのか僕にはちっとも分からない。


 だから、僕はカッコいい魔法を観に行くためにパパとママには内緒で街へ出かけるんだ。僕ら貴族は庶民とは住む街が違う。何か用事がない限り滅多に街から出ないからさ。それに僕のような子供は街に出ることすらパパとママから禁止されている。


 でも、今日も庶民達の街へやって来たんだ。羽をたくさん操って買い物してる羽魔法使いさん、街の道端に花を植えている植物魔法使いさん、他にも大きな翼で郵便配達している移動魔法さん、みんな生き生きしていて本当にカッコいいや。


 後、大量の羽をつけて動く大きなバス、スピードが早い移動魔法さんのタクシー、僕がいつも乗る移動車よりももっともっと面白そうな乗り物だ。



 ずーと歩いてると僕は知らぬ間に工場が沢山ある路地裏にいた。工場の中は見えなかったけど、このあたりは杖を持った魔法使いさん達がたくさんいる。たぶん火炎魔法使いさん達だ。

 ここもカッコいい場所なんだろうなって思って、ワクワクして観ていた。


「おい、小僧、こんなところにいたら危ないぞ」


 ふと声のする方を見ると杖を持ったボロボロな服を着たおじさんが座っていた。


「僕に注意かい?おじさんこそボロボロじゃないか」


 ムッとした顔になった僕の言葉は少し棘があった。

 初対面のボロボロおじさんに、なんで注意されなきゃいけないんだ。どうせ関わり合いもないんだから好きにさせてくれればいいのに。


「見たところ良いところの坊ちゃんなんだな。悪い事は言わない。ここはおじさんみたいなボロボロで何処も行くあてのない人たちの集まる場所だ。下手すると襲われるぞ」


「そんな嘘、僕には通じないからな。子供だからってからかうなよ。おじさん杖持ってるから火炎魔法使いでしょ、火炎魔法使いはすごいんだよ」


 おじさんの言うことなんて嘘ばっかだと思った。どうせ子供の僕を馬鹿にしているんだ。

 僕の知ってる火炎魔法使いさん達は凄く立派だ。街灯に火をつけて街を明るくしてくれるし、寒い日には暖かい火を付けてくれる。それに、美味しい料理を作ってくれるのもみんな火炎魔法使いさん達だ。

 こんなに良い魔法なのに何言ってるのか分からない。


「すごい魔法かい、そうかい。有難いね。けど、誰もがそうカッコよく魔法を使えるわけじゃないんだよ。おじさんみたいに落ちこぼれる魔法使いは沢山いる。君は知らないだろうがな」


 僕のことを全く信じてないおじさんに腹が立った。言い返そうとしたその時、僕の体が宙に浮かんだ。


「ええとこのお坊ちゃん、はっけーん。こいつは良い、高額の身代金が狙えそうだ」


 僕を抱えた大柄な男が言った。その男の両隣には杖を持った火炎魔法使いの男が2人、また隣には背中に大きな翼を持った恐らく移動魔法使いの男が1人いる。


「はなせ!警察を呼ぶぞ!」


 僕は驚きと恐怖でとりあえず思い浮かぶ言葉を叫んでいた。


「呼べるものなら呼んでみろ。炎に焼かれて痛い痛いことになるぞ。それに、もう二度と大人の体にはなれなくなるぞ。それでもいいのかい?坊ちゃん?」


 杖を頬につけられ脅されている。だが、そんなもの僕にとってはへっちゃらだった。なんせ、僕は消滅魔法使い。焼かれる前にその魔法を消してやる。


 だが、僕を抱えている大柄な男の正体が何か分からない以上、先に魔法を使う事は危ないと変に冷静になって思っていた。もしあいつが植物魔法使いなら蔓で体を拘束されてしまう。もし百面相魔法使いなら一瞬にして筋肉を増加させ俺の体なんか簡単に折られてしまう。そして、最悪、自由に時間を操れる時間魔法使いなら一瞬にして僕は灰になってしまうだろう。


 おじさんの言っていたことは本当だった。僕は今更ながらに恐怖で涙が出てきた。


 その時だ。目の前のボロボロおじさんが立ち上がった。


「もし小僧を焼く気なら、俺が先にお前ら全員諸共焼いてやる」


 そう言うおじさんは先ほどとは違い覚悟ある目で杖をこちらに向けてきた。


「へ、そんな落ちこぼれのお前に何が出来る?俺たちはプロの犯罪者集団だ。お前が魔法を使う前にこっちからお前を先に燃やしてやるよ」


 隣の火炎魔法使いは余裕綽々でおじさんなんか相手にすらしていない。

 それに続いて俺を捕まえている大柄な男も話し出した。


「そうさ、俺たちはプロなんだよ。警察だって怖くねぇ。いざとなればこいつは俊速で移動できるし、こいつら2人は一瞬にして警察を灰に出来る、それに俺は百面相魔法使い、どんなに探しても体が自由自在に変化するから見つかりやしないさ」


 奴らは得意げだった。ボロボロおじさんもなす術がないのか怖気付いている様子だ。

 だが、僕は違う。


「そうか、お前ら。右から順に移動魔法使い、火炎魔法使い、百面相魔法使い、火炎魔法使い。お前ら今日から人権がなくなったな」


 僕は消滅魔法を使った。

 まず最初に気付いたのは移動魔法使い、大きな翼が一瞬にして無くなったからだ。それを見た火炎魔法使い達は炎を出そうとしたのか焦りながら何度も杖を振り回している。

 そして、百面相魔法使いの男はみるみるとヒョロガリな男となり、僕を抱えることが出来ず、僕は解放された。


 そして、4人の男達は皆、これからの人生に恐怖し半狂乱になりながら逃げて行った。

 また、彼らだけでなくボロボロおじさんも大きく目を開き驚いている。


「助けようとしてくれてありがとうおじさん。言ってなかったけど、僕は貴族なんだ。おじさんを救えて良かったよ」


「それは驚いた。あぁ、ありがとう」


 未だに驚きがおさまらない様子でボロボロおじさんも礼を言っていた。

 その後、僕はすぐボロボロおじさんの言うことを聞き、この場を離れる事にした。


 そして、僕はこの一件で自身の消滅魔法が嫌いではなくなった。奪うだけの魔法が人の役に立つ事を初めて実感したからだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 この小さな小さな主人公は後に警察官になるのです。そこで彼は今よりもずっと自身の魔法価値を理解する事でしょう。


 小さな小さな物語のおしまい、おしまい。


毎日投稿しております。

気に入っていただければ、他の小さな小さな主人公達も見に行ってあげてください。

そして、また明日もお楽しみしていてください。

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