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速達便

大きなカバンに沢山の手紙やハガキを入れ、背中に生えた大きな翼で自由自在に空を飛ぶ彼女が今回の主人公さん。


制服である紺色の近代風ドレスにアームバンドを付けて、胸元には真っ赤で大きなリボンを付けている可愛い郵便配達員さん。


そんな彼女は実は立派な速達便の先駆者なのでした。もしかすると本当に主人公だったのかも知れません。


さぁ、今回も小さな小さな物語がはじまります。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私は小さい頃からずっと思っている夢があるの。


今でも忘れられないわ。

小さい頃ママに連れて行ってもらった郵便屋、当時私の背中に生えていた小さい翼と同じぐらいの羽達が何百いや何千もの手紙やハガキを一生懸命運んでいたの。とても幻想的なその郵便屋に私は心を奪われ、今でも憧れているの。


だけど、小さかった翼は身体と共にどんどんと大きくなり、今となってはこの夢は叶えられないことを知っているわ。

あの小さい羽達は羽魔法使いさん達のもの。沢山小さい羽を出して色んなものを沢山運ぶことや動かすことが出来るの。でも、私は移動魔法使い。背中にある大きな翼は私しか運べないわ。


魔法の種類が違うのよ。そう何度も何度も私自身に仕方がないと言い聞かせてはいても、やっぱり夢を諦めることが出来ないでいる。だから、今でもその夢を追いかけているの。


「はぁ、またダメだった。でも、諦めないわよ!次よ、次!」


私は多くの郵便屋に履歴書を出しては返され、面接に行っては追い返されを繰り返している。当たり前よ、どこも移動魔法使いなんて募集してないもの。

どこもかしこも求職者は羽魔法使い達ばかり。彼らは頭に小さな羽が生えているの。そんな中、私のこの大きな翼、目立ってしょうがない。ある意味注目の的になってるわ。


もちろん移動魔法使いだって適職は沢山あるわ。そんなの私だって知ってる。むしろ私なら時速1000キロ以上出せるから1番就職が難しいとされている人と人との会話を一瞬で繋げる伝書職にだって就ける。


「時速1000キロで配達すれば私1人でも一気に仕事が片付くわよ!なにが、羽魔法しか…よ、全く!」


やだ、鬱憤がたまって気づけば大きな独り言を言ってしまったわ。


けど、そんな独り言を叶えてくれたかのようにある看板が私の目に入った。


「速達郵便。お手紙やハガキを早くお届けします?」


ここなら私でも郵便配達員になれるかも知れないわ。そう思った時にはすでに体が看板のもとへと向かい、郵便屋に入っていった。


郵便屋の中はやはり小さな羽達が忙しなく運んでいた。速達郵便といっても他の郵便屋より少しスピードが早いくらいのものだった。もちろん移動魔法使いなんていやしないわ。そこにいるのは皆頭に小さな羽を生やした羽魔法使いの配達員達だった。

私は期待した分少しがっかりしたものの、とりあえず特攻して聞いてみることにした。


「すみません、あの看板を見たものなんですけど、ここって求人募集していますか?」


「いらっしゃい、看板見てくれてありがとう。おやおや、これはもしかして最近噂の移動魔法使いさんじゃないか」


「ええ!!私って噂になってるんですか?!」


「もちろん、郵便配達員にどうしてもなりたがっている移動魔法使いがいるってね」


わははと笑うおじさんはとても優しそうに見える。名札を見る限りここの店主らしい。

彼は私をすぐに追い出さず話を聞いてくれる様子だった。私はチャンスだと思い、話を続けた。


「あの、だったら話が早いと思うんですが、私、郵便配達員になりたいんです!」


噂になっていることは少し恥ずかしかったけどそんなもの気にせず、私は今までで一番大きな声で話し、勢いよく頭を下げた。


「そうだね、少し面白そうだ。大変だと思うけどやってみる自信はあるかい?」


「はい!頑張ります!!」


終始笑顔の店主はうんと首を縦に動かした。

嬉しさのあまり体が羽ばたいてないのに浮いているみたいに感じた。やった!諦めなければ郵便配達員になれるのよ!

今までの苦労がやっと報われた気がした。



それから私は急いで配達するまでの準備にかかった。

配達員は皆外に出ないので制服というものはなかった。だから、私なりに紺色のドレスを新調し、胸には郵便屋を象徴して大きな赤いリボンを付けたわ。配達の為の手紙やハガキを入れるものは入社祝いだと言い店主が大きな茶色い鞄をくれた。


後は、社員達への自己紹介だが、案外皆私をすんなり受け入れてくれたわ。むしろ、よくここまで頑張ったと褒めてくれる人もいたし、仲間としてみんな仲良くしてくれたの。


私の初出勤は順風満帆だった。

時速は40キロまでと決められてたけど、何らミスなくこなせていたわ。最初は時速1000キロでやってやろうと意気込んでいたけど、仕事をやるうちに手紙やハガキの一枚一枚には色んな気持ちが込められていてどれだけ大事なものか実感出来たの。今ではこの時速がちょうど良く感じているわ。

そして、なにより羽魔法使い達と違って、届けた人の笑顔を見ることが多く、今まで持っていた憧れ以上にこの仕事が素敵に思えた。



そんな日常の中、私たちの街が異常気象に襲われた。

普段、悪天候時は私たちは配達を中断する。大事な手紙やハガキたちをダメにしてしまう可能性があるからよ。


でも、今日は晴天だった。もちろん天気予報も一日中晴れだったわ。なのに、急に雲行きが怪しくなりはじめ、ついには竜巻が発生した。


「まずい、このままじゃ手紙たちをダメにしてしまうわ」


そう独り言を呟いた途端、私の大きな翼は竜巻の風に巻き込まれた。私の体は激しく揺れ動いた。

時速は40キロって決まっているの、でもこの規則を破らなきゃ、竜巻に巻き込まれこの手紙たちを守ることが出来ない。

私の頭の中では走馬灯のように今まで手紙やハガキを届けた人たちの笑顔が溢れていた。みんなの笑顔の方が大事なの、私がクビになってもいい、守りたいのは私の夢じゃなくみんなの笑顔だわ。

そう思い、私は速度を上げた。40キロをとうに超え1000キロをも超えたスピードで竜巻を抜け出し手紙やハガキを届けていった。


全てを届け終わり郵便屋に帰ってきた私はびしょ濡れで、竜巻に巻き込まれたものに当たりまくったせいかボロボロだった。さらに規則を破ってしまいもう配達員には戻れないのじゃないかと考えがよぎる私の心もボロボロだった。

複雑な感情が入り混じり上がらない視線を無理にあげるとそこには壮絶な光景が広がっていた。


「なにこれ」


驚きのあまり言葉が口から漏れた。

ビリビリに破れた手紙やびしょ濡れのハガキたち、そしてそれを運ぶ羽達もボロボロになっていたの。それと共に羽魔法使いさん達のすすり泣きも聞こえてくる。私が憧れていた郵便屋とは全くもってかけ離れた姿になっていた。


「君!無事だったのか!良かった!手紙とハガキはどうしたんだい?もしかしてみな失くしてしまったのか…?」


私の姿を見て安堵する店主。そして、私のぺったんこになった鞄を見たとたん心配そうに途切れ途切れな話し方で聞いてきた。


「いえ、一枚も失くすことなく全部届けました。ただ申し訳ございません!時速40キロの規則を破って1000キロ以上も出してしまいました!これでも私なりに手紙やハガキたちを大事に考えてしたことです!どんな処罰も甘んじて受け入れます!」


私は大きく頭を下げた。目には大きな雫が今にも溢れ出しそうになっている。

しかし、返事は意外なものだった。


「本当にこんな中全て届けたのかい!?君は良くやった!本当に凄いよ!!ありがとう!!」


店主は勢いよく私に抱きつき、話を続けた。


「見ての通り、我々配達員はみな異常気象により大損害を受けた。おそらく他の郵便屋も同じだろう。ここらの街で仕事を全う出来たのは君たった1人だよ。本当に良くやった!」


店主の言葉と周りの羽魔法使いさん達の拍手とで私は驚きながら、目の大きな雫は今度は嬉しさで溢れ出していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


今回のお話はここまで。彼女はこれから活躍が評価され、各新聞や郵便屋業界の主役になるのです。


やがて彼女の服が制服となり、全ての郵便屋には移動魔法使いが採用させるようになりました。そして、移動魔法使い達は速達便として悪天候時に活躍したり、早く届けたい人たちの希望を叶えたりするのです。


彼女が主役のお話はまたどこかでお話ししましょう。

小さな小さな物語はこれでおしまい、おしまい。


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