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不倫屋

「はじめまして、本日はよろしくお願いします。楽しみましょうね」


 大きな木下で待ち合わせをしている男女2人、のように見えますが実は違うようです。

 それには理由がありました。


 今回の小さな小さな物語がはじまります。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 人生において結婚というものはある意味で契約だ。そして、不倫や浮気というものは契約違反と同意義だと考えても問題ない。


 だが、世の中の紳士淑女達はやはり美しいものに目がない。それは人だって同じこと。

 美人や美男がいれば、不倫や浮気をするつもりはなくても無意識のうちに近寄ってしまうものだ。


 俺は不倫屋。別に不倫や浮気を手伝っているわけじゃないぜ。むしろ、逆だ。

 不倫や浮気をしないように、俺が百面相魔法で美女になりすまして、お客様の欲求を満たしてあげる職業なのさ。


 だから、俺しかいないこの店にはデート用のドレスが大量にある。それに、俺は女の仕草や話し言葉や趣味なども勉強している。

 だが、大事にしなければならないのは、俺自身男だと自覚することだ。そして、下も男のままでいることだ。本当に不倫や浮気になってしまいかねないからな。ごく稀に俺が恋してしまいそうになることがあるのは内緒だ。


 そんな中、俺は毎日毎日様々なお客様とデートをしているが、今日来たお客様はやけに珍しい。


 普段は大人が来る場所なんだが、今回はまだ小学生ぐらいのガキが来た。


「僕、道に迷ったのかい?おじさんが教えたあげようか?」


 俺は優しく彼に声をかけた。

 ううん、と首を横に振ると彼は話し出した。


「お仕事を頼みに来たの。素敵なお姉さんになって」


 驚いた。本当に仕事の依頼をする気でいるらしい。


「僕、お仕事を頼むにはお金が必要なんだよ。僕には……」


 こんな小学生みたいなガキに金なんか持ってるはずがない。そう思い、諦めてもらうために宥めようとしたところ俺の話を聞き終わる前にガキは小遣い程度の小銭を出して来た。


「お金はしっかりあるんだ。だからお願い。素敵なお姉さんになって」


 必死にお願いするガキに俺は押し負けてしまい、依頼を受けることにした。だが、相手はガキだ。お金のことなど頭に入れず、破格の値段で仕事を受け入れた。


「分かったよ。僕はどんなお姉さんが良いんだい?」


 俺は女性が載っているカタログを見せていった。うーんと悩むガキ。そして、悩んだ挙句紙とペンを要求され絵を描きはじめた。


「このお姉さんがいい」


 満足そうにガキは俺に描いた絵を見せてきた。

 正直言って無理だ。ガキが描いた絵だ、完全に作画崩壊しており、かろうじて女だと分かる程度だった。

 仕方なく俺は顔や体を少しずつ変化させて、ガキが求める女性になりきることにした。


 何十回とやり直してやっと納得してくれたようだ。出来上がった女はお世辞にも美人とは言えない女だったがガキの価値観なんて大人の俺たちが分かるはずがない。


 そして、デートは公園に行きたいのだと言うので俺は着いていくことにした。


 ガキと遊んぶのなんか100年ぶりだろうか、いつもの仕事とは違い調子が狂わされる。どうして対応していいだろうか。


 悩んだ挙句、ちょうど良く花畑があったのでそこで遊ぼうとした。

 俺は慣れた手つきで花冠を作ってやった。


「うわぁ、凄い!綺麗!」


 嬉しそうに花冠を被っているが、何故か子供がはしゃいでいるような印象を受けなかった。どことなく、大人しめで控えめにみえた。


「ねぇ、お姉さん、手繋いでいい?」


 俺はガキの要求に応えた瞬間、ガキは喜ぶどころか泣いていた。


「おい!どうしたんだ?」


 俺は予想外のガキの表情に驚いた。


「僕に本当にお母さんがいたら、こんな感じなんかなぁ。暖かくて優しくて嬉しいなぁ、羨ましいなぁ」


 そう言うガキは先ほどより更に大粒の涙を流していた。

 俺はここでやっと、ガキが不倫屋なんかに来た理由が分かった。母親の代わりを探しにやってきたんだ。

 それにしても不思議だ。こんな小さなガキを残して母親は何をやっているんだ?


「僕はお母さんがいないのかい?」


「ううん、いたの。だけど、ある日僕は孤児院ってところに連れて行かれたの。それっきり、お母さんは何処にいるのか分からないの。でも、どうしても会いたかった。だから、孤児院でいっぱいお手伝いしてお金を貯めて、会いに来たんだ。ここなら本物のお母さんじゃなくても会えるかなって」


 ガキに憐れみながらも職業柄かあまり感情移入は出来なかった。むしろ、不倫屋にこんな使い方があることを知り、今後に活かしたいと仕事なことを考えてしまっていた。

 俺はお母さんでも女でもない、ただの男だ。それを忘れては不倫屋失格なんだ。相手がたとえどんな環境であっても、どんな過去を持っていても、感情的になることは出来ない。


 ガキが泣き止むまで俺は頭を撫でていた。そして、いつのまにかガキは寝てしまい、サービス終了の時間となった。


「今日はお母さんといれて本当に忘れられない一日になったよ。ありがとう、お兄さん。また、お小遣い貯めて来るね」


 泣き止んだガキは笑顔を取り戻していた。また来られては、また破格の値段で仕事をしなきゃならないことにはなるが断らずに俺はガキを見送った。


 それから俺は不倫屋の看板を下ろした。

 願いの人に出会える場所、夢屋として新たな看板をあげることにした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 こうして主人公さんは新たなスタートを切ったのでした。

 商売転換は好調だったようです。以前みたいな不倫相手を探しに来る人のほかにも、叶わなかった恋心を叶えに来る人、理想の友達を求めて来る人、などなど以前よりも格段とお客さんが増えました。

 そしてもちろんあの子供も時々やってくるようです。


 今回の小さな小さな物語のおしまい、おしまい。



毎日投稿しておりますが、明日から二日間休載させていただきます。(もしかすると3日になるかもしれません。)

もし気に入っていただければ、他の物語達も見てあげてください。

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