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火炎レストラン

「いらっしゃいませ、火炎レストランへようこそ。本日ご予約のお客様ですね」


お出迎えした彼はコックのような白い服にエプロン姿だが、頭にはコック帽ではなく魔法使いを象徴しているような白のとんがり帽子をがぶっている。


丁寧な動作でテーブルまでエスコートしてくれる彼が今回の主人公さん。


この世界の魔法使いさん達はほとんど食べなくても生きていける。そんな厳しい中でレストラン経営を続けていく彼にはワケがありました。


そんな彼の小さな小さな物語。

時計を彼の学生時代に戻してみましょう。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「君は進路をどうするつもりかい?このままでは何処にも行くことができないよ」


俺はかなり厳しいそうな顔をしている先生の前でただひたすら黙るしかなかった。

進路相談なんて大嫌いだ。どうせ俺は何にもなれない劣等生でしかないんだ。


俺は火炎魔法使い。火炎魔法使い専門の学校に通っていて、もう卒業する時期になった。

周りはすでに進路が決まっているやつばっかだ。学校で学んで適度な温度の火を継続的に出せる継続系のやつらは街灯などの着火職、調理人などになる。逆に高度な火を出せる高火力系のやつらはガラスやレンガなどを製造する工場勤務する奴が多い。さらには、どちらも出来ないやつは本格的に勉強し大学へ行く。そして、研究員となるんだ。


劣等生の俺はどうかって?

俺はどんなに学んでも適度な温度の火を瞬発的にしか出せない。無論勉強するのも嫌いだし、大学なんて勘弁だ。だから何処にも行く場所もなければ、受け入れてくれる場所もない。


だんまりを続けている俺に痺れを切らしたのか、次までには考えておくんだぞとひとこと残して先生は去っていった。

1人残された教室にいるのも意味がない。加えてだんだんと虚しくなってくるのでさっさと帰ることにした。



「 おーい、一緒に帰ろうぜ!」


帰る途中後ろから話しかけられた、声の主は幼馴染だ。彼は植物魔法使いで俺とは別の学校に通っているが家が近く小さい頃からよく遊んでいる。


「どうしたんだ?なんか元気ないな」


顔を覗き込みながら心配している様子みたいだ。そんな彼に俺はさっきのことを話した。


「だったらさ、一緒に練習しようよ。俺はさ、継続系が得意だから野菜を育てて農家になろうとしてるんだ。だけど、燃え続ける薪もつくれるからさ、それで着火職なんか目指して練習すればいいんだよ」


「どうせ無理だって。学校でもやったことあるよ」


嫌そうな俺を無視して、彼はほらやってみなよと言わんばかりに薪を出してきた。

仕方がなく俺は持っている杖を使い、思いっきり燃える炎を連想して火を出した。


「すごいや、全く燃えない!焦げ目しかついてないじゃないか!」


「だから、言ったじゃないか無理だって。ってか、なに変に感動してるんだよ」


「だって、こんなもの初めて見た事なんだもん。火を出して燃えないなんてすごいじゃないか!」


こいつはなにを言ってるんだ。俺は呆れ顔でただただ目を輝かせている彼を見た。全くもってすごいことなんてない。


「一体これでどうやって生きていくんだ。なにもすごくない!火を出せない火炎魔法使いなんてもう恥ずかしいよ。ただの役立たずじゃないか!」


知らぬ間に呆れ顔だった俺の顔は涙が今にも出そうになっていた。


「なぁ、お腹空いてないか?」


そんな俺を見て見ぬふりなのか素っ頓狂なことを言い出す彼。


「俺さ、農家になるからさ、お前に俺の作った野菜を美味しくして欲しいんだ」


「そんなの無理だよ!俺は継続系の魔法も使えない、調理できる程度の火すら継続して出せないんだよ!コックにもなれないんだ!もう役立たずなんだって!」


「そうだな。でも、残念だがその調理器具はここにはないんだ。ただ野菜があるだけさ」


感情的になった俺を無視して、彼の手には野菜がみるみる育っていった。


「え、このまま野菜を焼けって言うのか?」


感情的になっていた俺は急にあっけらかんと返事をした。うん、と彼は余裕の笑顔を見せている。


「手を火傷するかもしれないぞ」


「その時はその時だ。ただ俺は俺の野菜をお前に美味しくして欲しい」


さぁ早くと言わんばかりに俺に成長しきった野菜を差し出す彼の手に俺は火を放った。

すると、野菜にだけ焦げ目がついて彼の手は無事だった。


「え、これって」


俺が答えを言う前に彼の口から先に出てきた。


「そう、焼き野菜だよ。無論お前の火は弱くて継続力もない。だけど、繊細なだけなんだ。的確に対象に火を当てることができる。こんなことが出来る魔法使い滅多にいないよ。お前は自身が思っているよりすごい魔法が使えるんだよ」


俺の目からは涙が出ていた。生まれて初めて褒められた。認められた。今日この時間がなによりも嬉しく思えた。

ずっと劣等生だった俺に彼は出来ることを見つけてくれたんだ。


「なぁ、俺とレストラン経営しないか?」


俺は嬉しさのあまり口が勝手に動いた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「本日のメニューは取れたて焼き野菜とハーブティーでございます」


先ほどエスコートしてくれた主人公さんは話した。

そして、木の皿にのった野菜が彼が持つ杖から出される炎で一瞬にして焼き野菜となった。さらに、木のコップに入ったハーブティーも一瞬にしてホットティーへと変化した。

木の皿も木のコップも焦げ目すら付かず全く燃えていません。


彼は自身の繊細な魔法能力をレストランでのパフォーマンスとして使うことにしました。

あまり食べなくてもほぼ生きていける魔法使いさん達も食事ではなく、彼のパフォーマンスをエンタテイメントとして楽しむためにやって来るのです。

こうして彼は厳しい環境下でもレストラン経営を続けているのでした。


もちろん、焼き野菜の野菜もハーブティーの茶葉もつくっているのは彼の大事な人、幼馴染です。


彼らのレストランはこれからも繁盛していくのでしょう。


今回の小さな小さな物語はここまで、おしまいおしまい。





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