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5、婚約指輪



「魔王様、勇者マルチナのパーティーが攻めて参りました」


 ガーゴイルが跪き報告する。


「‥‥レベルは?」


「勇者マルチナLv85、戦士レナLv73、僧侶メリルLv68にございます」


「‥‥ふむ、悪くないな。『勇者の剣』と『勇者の証』を装備したら敵などおるまい‥‥」


 魔王は玉座から立ち上がり、身体を動かしだした。

 今までの勇者マルチナ達ではない、油断は禁物だ。


「‥‥余が創り出した、最強の勇者の姿見てやろうではないか」


 トントン!


「‥‥入れ」


 勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。

 

「魔王、覚悟!」


 勇者の剣を魔王に向け、威風堂々と勇者マルチナ。


「‥‥‥‥何故そのマントを装備している」


 仁王立ちの勇者マルチナの身体を包むは、とにかく派手な『豪華なマント』

 あまりにも恥ずかしく、あまりにも場違いなマント。


「何でって‥‥ダンジョンの宝箱に入っていたのだ、凄いマントなのだろう?」


「‥‥‥違うのだ、それは其方の宿屋の客集めの為に宝箱に入れてるアイテムだ、装備しても意味はない。‥‥‥何より、其方は恥ずかしくないのか?」


「‥‥恥ずかしいに決まってるだろ!」


 頬を染める勇者マルチナ。


「さっさと売ってしまう事だな」


「‥‥やはりあのダンジョンは、貴方が作ったものだったのか」


 何を今更、勇者マルチナ。


「‥‥他に誰がおるのだ」


「何でそこまでしてくれるんだ!」


 何でと言われて、魔王は考え込んだ。

 何故なのだろうか‥‥


「‥‥‥わからん。強いて言うなら暇つぶしだ」


「私が好きなのか!」


「‥‥‥いや、そういうのじゃない」


「指輪まで渡してきた!」


 左手の薬指に光る『勇者の証』


「‥‥‥それは、勇者専用のアイテムだ」


 溜息を吐く魔王。


「男が女に指輪を贈るのは結婚を申し込む時だ‥‥婚約指輪くらい私だって知ってる」


 仁王立ちの勇者マルチナ。


「‥‥‥婚約指輪とは何だ?」


 ガーゴイルの方を向く魔王。


「人間の男が求愛する際、女に贈る指輪だと認識しております」


「‥‥つまり、勇者マルチナは勘違いをしておるのだな」


「‥‥‥そうですな」


 肩をすくめる魔王とガーゴイル。


「勇者マルチナよ、それはそういう物ではない」


 キッパリと魔王。


「はっきり言っておく私達は敵どうし、それに私は余り貴方の顔が好きでは無い!」


 キッパリと勇者マルチナ。


「‥‥‥‥今もしかして、余は振られておらんか?」


 魔王の呟き。


「振られましたな」


 ニヤニヤしているガーゴイル。


「‥‥‥何を笑っておるのだ」


 腑に落ちない顔の魔王。


「‥‥‥顔は好みではないが‥‥嫌いではないんだ‥‥しかし私達は勇者と魔王‥‥返事は少し待ってくれ!」


「おお!魔王様、まだ脈はありますぞ!」


 ニヤニヤしながらふざけるガーゴイル。


「‥‥‥怒るぞ」


 魔王は深い溜息を吐いた。


「指輪は大事にする!」


 勇者マルチナは左手の指輪を、大事そうに右手で包んだ。


「勿論、他の貰った物も大事にするぞ!」


「‥‥‥マントは売り払え」


 豪華なマントを大事そうに撫でる勇者マルチナを見て魔王の一言。


「マントも大事に使う!」


「‥‥‥わかった、もう良い。今日はもう戦わんのか?」


 投げやりな魔王。


「魔王、覚悟!」


 豪華なマントをはためかせ勇者マルチナ。


「よく来たな勇者マルチナと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。





「捨てて来て」


「‥‥奥方様の亡骸を捨ててよろしいのですか?!」


「‥‥‥本当に怒るぞ」


 ガーゴイルは深々と頭を下げた。


「しかし、こ奴らかなり強くなりましたな。13ターンも戦っておりましたぞ‥‥」


「‥‥余の体力もかなり削られておった」


 やはり勇者の剣と勇者の証の効果は大きい。


「‥‥こ奴らに邪神が倒せますでしょうか?」


 魔王の体力が残り100を切ると、邪神の復活という強制イベントが発生する。

 勇者達は魔王討伐後、喜ぶ間もなく邪神討伐に旅立たねばならない絶望イベントである。


「まあ、余を倒せるのなら邪神にも勝てるだろう」


「そう期待しましょう」


 ガーゴイルは数名の部下と共に、勇者マルチナパーティーの亡骸を抱え外に出て行った。

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