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なんの考えもなしに思いつくままに書いてまーす( ´艸`)
ホラー好きの方は大丈夫かもですが、苦手な方は閲覧をお控えくださいますようお願い申し上げます。
ぜひコメントを…!
田中は俺の中学生の頃からの友達だった。俺は田中と、栗山といつもつるんでいた。部活もせずに放課後は図書館でラノベばっかり読んでたな。
「おい、聞いてんのかよ」
運転席から栗山が、すこしだけいらだちを含んだ事でいった。
「ああ、わりい」
「郵便局の近くらしいから、見えたら言ってな。俺運転しながら周り見れねえんだよ…」
栗山は高校時代から結構体重も増えたようで首の下にはそれなりの肉がついている。今は食品工場の副工場長をやっているらしい。
「それで、なんでお前仕事辞めたんだよ」
「やーなんか、ノリかな」
「ノリかな、じゃねえよお前ー。もう43歳だろ?わけえならまだしも」
俺はこの秋に20年勤めた会社を辞めた。理由は、特にない。ただ突然、面倒になったのだ。
理由もなく辞められる俺も大概ではあるが、同僚や上司も引き止めもしなかった。俺の存在は他愛のないものだったのだろう。俺にとって周囲の存在が他愛ないように。
窓の外では小糠雨が降っていた。町は濡れぼそり、陰気な雰囲気が強くなっていく。
田中が死んでから一か月が経った。
「本当にここなのか?」
「お、ほら。田中って」
僕は表札を指さして言った。
「ここ、かあ。なんか古い家だな。だからあいつ俺たちを絶対家に呼ばなかったのかな」
「さあ、なあ」
俺たちが田中の実家にこうしてはるばる訪れた理由は焼香を上げるためだ。なんせ俺も栗山も三日前に彼の死を知ったのだ。葬式だってとっくに終わっていた。知り合いを辿りなんとかおおよその場所を特定して早朝からおっさん二人で目印の郵便局を探していたというわけだ。
建付けの悪い玄関の戸をがらがらと開ける。途端に、鼻孔を黴の臭気が突き刺した。栗山と目を合わせると彼は目を白黒させていた。匂いに敏感なのだ。気を取りなおすように咳払いを一つ。
「ごめんくださーい」
「すみませーん」
返事はない。玄関からまっすぐ伸びた廊下。右手に二つ襖が並んでおり、左手には居間に通じるらしいドアがあった。
「ごめんくださーい…あーいねえな」
栗山がふうう、と長く息を吐いた。
「確か母ちゃんが一緒に住んでいるんじゃなかったっけ?親父さんはいなかったよな?」
「おお、そうだったはずだけど…」
うわ、と思わず声を出してしまった。
廊下の突き当りに立った初老の男性がこちらを見ていたからだ。
「すみません。驚かせてしまいましたね」
男性が差し出したお茶をしげしげと眺める。匂いも普通の緑茶のようだ。
俺質は居間に通されてテーブルを挟んで老人と向かい合っていた。室内は思いのほか綺麗に整理されており、小さいブラウン管テレビ、ラジカセ、冬から出っぱなしなのかこたつがおいてあり、その上に釣り雑誌等が重なっていた。
ただ、強い黴臭さだけは依然として漂っている。
「そうか、聡くんのおともだちですか」
「俺たちもすみません。突然、連絡もなく尋ねてしまって…」
「いえいえ、いいんですよ。」
その男性は困ったように微笑んだ。髪はすでに真っ白で、鼈甲のフレームの眼鏡を描けている。その人は田中の義理の父親だということだった。田中の親が再婚したとは俺たちは露ほども知らなかった。
「聡君も喜ぶことでしょう」聡君という呼び方に俺は距離を感じた。
「俺たち、聡とはよく遊んだんです。なあ」
「ああ」
「そうですか。わざわざおいで下さって…」
でも、と男性は口をつぐんだ。
「あの子、一部の男子にひどいいじめを受けていたようで」
栗山はその一言で黙ってしまった。気まずい空気が場に垂れこめる。
「あの、ではお焼香をさせていただいても…?」
栗山が頭を掻きながらそういうと老人は快く頷いた。
「ああ…ごめんなさいね。ではこちらへ、ご案内しますよ」
俺とは席を立とうとして、足が動かないことに気がついた。まるで石膏で下半身を固められたようだ。
「あれ?」
「なあ、これ」栗山も目を開いて驚いている。
俺と栗山は老人をゆっくりと見る。
「ああ、もう立てませんか…」
男性は先ほどの全く同様の優しげな微笑を浮かべていた。
とある日
「なあ、田中」
「なあに」
「ちょっとさ、今日ノート貸してくんない?」
「…俺も今日、その授業あるんだけど」
「いいじゃんいいじゃん!友達だろ?」
「お、どうしたのお前ら?」
「おお、栗山。田中がノート貸してくれないんだよー冷たいだろ」
「え、なんなの田中。俺たち、友達じゃないの?」
「友達だけど…」
破裂音。
「だけど、何?」
「ちょっと、栗山。やりすぎだって」
「田中。お前調子乗んなよ」
「ごめん、栗山君…○○君」
現在
次に気が付いた時、右頬に固い感触があった。薄目を開けるとそこは薄暗い空間だった。床はコンクリートのような材質らしい。
「うえ…」
強烈な臭気に思わずえづいてしまう。この家に入った時から漂っていた黴臭さの比ではない。何かが腐敗した臭いだ。そうこれと似たにおいを感じたことがある。
学生時代、誤って離れに猫を閉じ込めてしまった友人がいた。あろうことかそいつは一夏過ごしてからそれに気が付き、そのあまりの惨状にとりあえず俺を呼び出した。
…これどうして片づけようか。もう、液なんだけど…。
「栗山ァ…!どこだっ!」俺の声はいやに空間に響いた。かなり密閉性の高い部屋なのだろうか。なんとか立ち上がる。視界は霞み、まだ手足にはしびれが残っていた。
部屋を見渡す。割れた瓶、赤黒く染まったガーゼ、水を吸ってぐしゃぐしゃになった書類、注射器…。
「…病院?」
俺はよろめく足を必死に前へと動かし、その部屋に出口に向かった。
そこは長い廊下だった。といっても、廊下を照らす照明はなく、部屋から漏れだした範囲だけが視認できるだけでその先は完全な闇に覆われていた。先ほどの部屋に戻り足元を見渡すとテーブルの上に懐中電灯を見つけた。恐る恐る電源をいれると点いてくれた。
廊下に出る。照らす先はひたすらに長い廊下だ。
その時だった。
ごおおおおおー、と。
横隔膜を揺さぶるような轟音が鳴り響いた。それを最初、俺は「声」だとは思わなかった。何かのモーター音だと思った。だが、よく聞けばそれが生物の鳴き声だと分かった。丁度、牛の鳴き声を録音してギターのエフェクターで思いっきり歪ませればこんな声になるかもしれない。
つまり、こんな鳴き声の生き物がいるはずがない。
俺はすでにその時どこか狂いかけていた。
ごおおおおおーっ。
俺は走り出した。その声が俺の後ろから徐々に近づいてきたからだった。
「くそっ!」
俺は全力で走ったつもりだったが足は思うように動いてくれない。目の前で懐中電灯が作るスポットライトが緑色の残像を作った。
死にたくない。死にたくない死にたくない。後ろから、どっどっどっ。という重い足音が近づいてきた。俺は廊下に転がっていた消火器に足を取られ、気が付いた時には床に転がっていた。
「ごおおおおおおおおー」
背後から絶叫が近づいてきた…。
とある日2
「もしもし○○君?」
「…田中君?何、こんな夜中に…」
「ねえ、ちょっと今いいかな」
「無理。まじで時間考えてよ」
「お願いだよ。○○君にしか頼めないんだ…」
「え、泣いてんの?もう、なんだよ」
「今、俺の家来れない?」
「は、何言ってんの?今、夜中の3時だよ?」
「お願いだよ。ああ、もうだめだ。こっちに来る…」
ごおおおおおっ…。
現在
「はっ!!」
「びっくりしたっ。どうした○○…。おい、顔色、悪いぞ…」
「…栗山?」
目を大きく開いて驚く栗山がいた。
「ここは」
俺は田中の実家の居間にいた。小さいブラウン管テレビ、ラジカセ、冬から出っぱなしなのかこたつがおいてあり、その上に釣り雑誌等…。
「お待たせしました」
そう言いながら台所からお盆を手にして歩いてきたのは田中の義父であった。
「ひっ…!」
思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
「ど、どうなされましたか?」
怪訝な表情で俺を見る。眼鏡の奥の瞳が怪しい光を帯びているように見えるのは気のせいだろうか。
「○○!お前大丈夫か?!」
「帰ろう」
「はっ?」
「帰るんだよ!ここから!」
「何言ってんだよ!ちょっと落ち着けよ」
栗山が俺の背中を軽く叩いた。すると、徐々に動揺が去っていくのを感じた。
先ほどの映像はあまりにもリアルだった。だが、あんな怪物がいたり、時間が巻き戻ったりそんな事が現実に起こりえるわけがない。
俺は疲れているのだろうか。
「すみません。あの、ちょっと虫がいたもので、俺虫苦手で…」
「…はあ」
首を傾げる老人は俺の前に湯呑を置いた。さきほどの事が幻覚だとしても、俺は出されたお茶を飲む気にはなれなかった。しかし、俺の気も知らず隣では栗山が手に取って口元に持っていってしまう。止める暇もなかった。
「すみません。突然押しかけてしまって…」
それから数分、雑談が続いた。そして、栗山が頭を掻きながら言った。
「あの、ではお焼香をさせていただいても…?」