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第3話 異世界召喚の初体験Ⅲ

「鈴木様、どうされたのですか?もう鈴木様の案内は終わりましたよ?これからはこの世界で女作りに励んでください」

「いてて……。ここ、どこなんだ?移動するなら言えっての。まだ聞きたいことはあるんだから。それと女作りはやめろ。俺はそんな私欲の限りを尽くしてるような行動は起こさない」


 俺はストレッチでもするように身体を捩って、全身に走る痛みを誤魔化す。吐き気は先程より感じなくなったのだが、痛みだけは慣れではどうしようもないようだ。


「ここはニアの端に位置する村です。まだ私に聞きたいことが?」

「あぁ、あるさ。そもそも、すぐに着くから大まかな説明になるって言っても、瞬間移動してアイテム渡すだけってのはおかしいだろ」

「面倒な方ですね。きちんと案内して欲しいのか省略して欲しいのか、はっきりしてください」


 いきなり何の説明もなく瞬間移動を初体験させられ、シレっとマジックアイテムを渡されて、「はい、わかりました」言う奴がいるか。


「このアイテムって結構大事なものだろ?せめて使い方くらい言ってくれなきゃ困る」

「はぁぁ……。仕方ないですね……」

「おい、溜息吐くな」


 目の前にいるアドバイザーとやらは、あからさまに嫌そうな表情を浮かべながら、ピシッとした姿勢を崩してやれやれといった感じにこう放言する。


「そのアイテムは~、保持者が願うものなら~、一応なんでも~、願いをかなえてくれま~す。アイテムのボタンを押して~、願いを言えば~、叶えられま~す」


 棒読みして中途半端に言葉を伸ばす彼女を俺は殴りたくなった。

 さっきまでと明らかに口調も態度も違うぞ。面倒そうにやるな。


「へぇ、じゃあ大概どんな願いをするものなんだ?」

「普通は魔法とか願うんじゃない?でも、『この人を伴侶にしてください』とか言って娶れば日本に帰れるんだから、それがいいと思うけどね。もういいでしょ。私帰るから。あとはそっちで好きにやって」


 これはもう、完全に仕事放棄だな。

 キャラ崩壊も甚だしい彼女を叱ってやりたいが、その前に一つ確認しておかないといけないことがある。というか、今できた。


「待て。今なんて言った?」

「まだ何かあるの?もういい加減あなたみたいな面倒くさい人に構ってるとこっちが疲れるんですけど」

「このアイテムで伴侶を作れば、早く日本に帰れるとか言わなかったか?」

「言ったけど。だから何?」


 いや、別に何かあるわけではない。

 あるんじゃなく、俺のプランが変わるだけだ。


「それって相手は誰でもいいんだよな?」

「いいって言ってるでしょ。もういい加減にしてよ。私は早く戻って録り溜めてたドラマを見たいんですけど」

「おい、これはあんたの仕事だろ」


 さすがにそれは身勝手が過ぎる。

 そんなことを言うなら、今頃俺はリアルタイムで今期イチオシのアニメを見ているはずなんだぞ。


「そうだけど、あなたは私の案内要らないんだから、それなら早く帰らせてくれたっていいじゃない」

「そっちの都合で勝手に連れてきたくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあとそんなことが言えたな。早く帰りたいのはこっちだっての」


 思いついてやめようかと思ったんだが、俺はこいつの所為で知らない世界に放り込まれたんだ。

 こいつの名前は……、確かサラ・アリーナだったよな。


 体育館の呼称みたいな名のあんたには、こうしてやるよ。


「俺の願いは決まったわ」

「そう。良かったわ。なら、早くして。ちょうど今日は平日だし、ここでパパっと決めちゃって頂戴」


 ん?平日?

 こっちの世界にも土日と平日を分ける慣習があるのだろうか。日本特有の文化かと思っていたのだが。

 まぁ、いい。どうせ俺はすぐに日本に帰れるんだから。


「じゃあ言うぞ」

「いいわよ」

「サラ。あんたを俺の妻とする」


 そう言って、俺はアイテムのボタンを力強く押した。

 すると、そのアイテムが独りでに煌々と光りだし、次第にその光は周囲を呑み込んで次元空間のようなものを創造した。


 ——なんてことはなかったが。

代わりに、俺の握られた右手の指と指の隙間から光が漏れだした。

 開かずともわかる、その特徴的な形状と冷たさ。付けたことなど一度もなくとも、憧れはしたその証のアイテム。

 その輪は金属特有の光沢を放ちながら、フォルムに赤く光る鉱石を埋め込まれ、軽快にこう発する。

 

 『願いを受諾しました。サラ・アリーナ、あなたはこの鈴木拓斗を夫とし、一生付き従いなさい』


 アイテムから音声とともに、指輪は自然に不自然な現象を引き起こす。やがて赤色光はその淡さをレーザーのような直線へと変化させ、サラの胸へと突き刺さった。

 当の本人は「えっ?」と驚きの声を漏らして、一歩後退する。

 同時に水晶玉を落として、ガシャンという音を辺りに響かせた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!何それ、笑えないんですけど。私どうされちゃうのよ。こんな奴の妻なんて、絶対嫌よ!私は……って、痛い痛い痛い!!!」

「どうだ。ざまあみろ。俺の人生を狂わせようとしたんだ。なら、その責任くらいとってもらおうじゃねぇか!!」


 俺は彼女に向かって指を差しながら、そう哄笑する。

 俺のことを利用しようとしたんだ。『モテない男』的なことも言ってたしな。この制裁に近い俺の行動も一概に酷いと言われはしないだろう。

 まぁ、日本に帰る前に伴侶束縛を解除してやるつもりではあるが。


「ふざけないでよ!あんたは帰れるからいいかもしれないけど、私は一生あんたの傍から離れられないのよ!日本に帰ったら、私を解放してくれるんでしょうねぇ!!」

「無事、日本に帰れたらな。それまでは精々こき使ってやるから、覚悟しろよ」

 


 こうして俺の異世界生活は、伴侶に指定したサラとの共同生活として、お互いに反発しながらも離れることのできないジレンマを抱えながら始まったのだった。

とりあえず、異世界召喚が完了したところまでアップしました。

この先をいつアップできるかなあ……。

一応、第10話くらいまでは書き溜めてあるんですが、明日以降も順次アップしていくか、もう少し溜めてからにするか悩み中です。

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