九月十六日(木) 3
「わー、ふかふかだあ……」
「柔軟剤使ってるしな。喜んでもらえたなら何よりだよ」
一時間後。俺は持ってきた服やタオルを春原に渡し、春原は喜び勇んでそれに着替えた。男の古着で悪いが、春原が嬉しそうなのでいいんだろう。
「ありがとう、光くん!」
「どういたしまして」
つか、似合うな。母さんに買ってもらった適当な服ばっかだってのに、春原が着るとおしゃれに見えるから不思議だ。やっぱモデルが違うからかね。
「ぶらって結構着心地いいんだね! 前から着てればよかったよ!」
「そ、そうか……」
それについてはノーコメントで。春原母ァ……。
一応、ワンセット洗濯してもツーセット余る、程度の量は持ってきた。それに床が畳張りとはいえ、いつまでもそのままで寝てるわけにもいかないので、枕とバスタオルも持ってきた。毛布代わりには心許ないが、ないよりかはマシだろう。
なにせ、と俺は思考を巡らす。
なにせこれから寒くなる。寒さ対策を万全にしておかないと、痛い目を見るどころか最悪死ぬまでありえる。入念に装備を整えておいて損はない。
春原はこれから一人で生きていくことになる。それは春原の体質上、俺みたいなのが現れない限りたぶん避けられないことだ。できることならその体質もどうにかしてやりたいが、現状情報がなさすぎて対処のしようがない。
それに俺には時間がない。叶うなら、俺のような誰かに出会ってそいつに治してもらいたい。俺にはできないことだから、誰かに託す。どこの馬の骨だか知らねえが、春原を頼んだぜ。
俺のお下がりを着てはしゃいでる春原を見ながら、俺はどこか遠くを見ていた。成層圏の外。銀河の向こう。宇宙の果て。
俺がいなくなった後も、元気にしてくれよな。
…………。
……まあ、まだ三日あるんだ。今抱えている心配事のいくつかは、それまでに解消できていたらいい。まだ終わっちゃいない。すぐ近くには変わらずあるけどさ。
それでも、今だけは――今だけは、この幸せを噛み締めさせてくれよ。
「ほれ春原、どうだ? うまいだろ」
「おっ、おおおおおいしい……! こんなの食べたことない……!」
春原をコンビニスイーツで餌付けする俺を、黒猫が部屋の隅で冷ややかに眺めていた。




