九月十四日(火) 2
バイト帰り、夜道。
街灯が点滅する人気のない暗がり。
いつものように客に怒鳴られ店長にネチネチ言われ、肩を落として帰る途中。俺は自分の運命を心底呪った。
「こいつ藍川っつってえ、いっつも俺らに飯オゴってくれるイイやつなんスよぉ」
あのチンピラが、俺の目の前に立っていた。それだけじゃない。
「へぇ、お前らまだカツアゲとかやってんの? 暇だねえ」
「違いますよ〜、あくまでこいつが自発的にオゴってくれるんスよ!」
「今日もまたオゴってもらったんスよね! なぁ藍川ぁ!」
「じゃあ俺もゴチになろっかな!」「いいッスねそれ!」
五人。
いつもの三人に加え、明らかにキレてる金髪と赤髪が、俺を愉しげな目で見ていた。
嘘だろ。これまで一回もこいつらこの道で見たことないぞ。何でだ。何でいるんだよ。やつらは仲間内で談笑しているように見えて、確実に俺の逃げ場をなくすように包囲していた。気づけばもう一歩も動けない。
怯える俺を無視して、あいつらは話を続ける。どうやら話題は今日の出来事のようだ。
「あ、でもこいつ今日オレらに舐めた態度取ったんすよね〜」
「ああ? どんなのよ」
「財布ポイってオレらに投げて、『欲しいなら拾えば?』とか言いやがったんスよ!」
「うっわームカつくー! で、で? 殴った?」
「当たり前じゃないッスか! 三人でボコボコッスよ!」
うるせえ。自慢みたいに言うんじゃねえ。俺は心の中で舌打ちする。でもそれだけだ。何も言えないし、何もできない。悔しい。
だけど次の瞬間、金髪がきょとんとした顔で、わけの分からないことを言った。
「は? 立ってるじゃん」
「はい?」
「三人でボコボコにしたわりには立ってんじゃん。お前らちゃんと殴ったの?」
「え、や、だって、あんまりやると教師どもにバレるんで……」
「甘え!」
信じられねえ。それともこれがこいつらの「普通」なのか? 金髪があいつらの内の一人を唐突にぶん殴った。殴られたやつは腹を押さえて唸ってる。素人の俺から見ても、アレは完璧に入ってた。
「馬鹿! てめえらほんとに馬鹿だな! 殴るってのはこうやるんだ! で、蹴るってのはこう! こうだ! 分かったか! 返事しろ!」
その上蹴る。蹴る。蹴る。なのに無理矢理笑って「はい!」だなんて元気よく返事をしてる。させられてる。なんだよこれ。
怖い。
この暴力には、意味がない。
空虚なのに確実に人を傷つけていて、それが俺には剥き身の包丁よりずっと物々しくて、不気味に見えた。
「あー、で」
金髪が俺を見た。それだけで嘔吐感がこみ上げる。やめろ。その空っぽを俺に向けるな。やめてくれ。願いに反して金髪は俺の顔をわし掴みにし、強引に自分の方を向かせた。くそ、怖くて力が入らない。離せよ。
「藍川くん? だっけ? とりあえず十万出せ。今ないなら降ろしてこいよ」
「……え?」
ジュウマン? 充満? 十万? 十万円? 何言ってるんだこいつ?
そんな大金、俺の時給何時間分だ?
「痛っ!」
バチッ、と音がした。それが聞こえた瞬間には俺は地面に倒れていた。殴られたんだ。痛みは後からやってきた。
「聞こえたんなら返事しろよ」
ぐっ、と金髪は俺の髪を持ち上げた。痛い。離せ。わずかに漂う呼気が酒臭い。その奥に甘ったるい臭いを感じる……これ、もしかして薬か? 気づいた瞬間、今までで一番怖気がした。ヤバい。俺は今間違いなくヤバいやつに目をつけられた。
「返事しろ!」
ちくしょう! 何だってどいつもこいつも、こういう類の連中は揃いも揃って声がデカいんだ。思わず反射的に従いそうになる。でも間違っても「はい」なんて言ってたまるか。
俺がそうやって生まれたての子鹿みたいに震えていると、金髪が「ぷっ!」なんて吹き出した。
「はは! あはは! こっ、こいつ、マジでビビってやがる! はは! ぶはは!」
なんだよ。なんなんだ。しょうがねえだろ。ここまでされたら普通ビビるだろ。なんで笑うんだ。ビビってる俺の姿はそんなに滑稽だったかよ。
「あーあー、ウケるわ君。なあ藍川くん。十万ってのはウソウソ、許してよ」
さっきとは打って変わって、比較的穏やかな口調で金髪は囁く。肩をポンポンと叩く大柄な手が不快だ。
金髪は未だにへたり込む俺の耳に口を寄せて、
「三万」
「……は?」
「三万で手ぇ打ってやるから、な?」
は? 手ぇ打つ? 何が? 何で? 手ぇ打つって、まるで俺がお前らに悪いことしたみたいじゃねえか。俺のせいでお前らに迷惑かけたみたいじゃねえか。
俺は何もしてない。なのに何で金を払わなくちゃならないんだ?
「君、あいつらと同級生なら十八だろ? まだ親御さんのお世話になってるだろ? だったらお父さんとお母さんに迷惑かけたくねえよな?」
「母さん……!?」
反応して、やっちまったと思った。金髪の目に明確な悪意が宿った。
「へえ、お母さんと仲良いんだ? カワイイねえ。それとも母子家庭なのかな?」
言い当てられる。見透かされる。看破される。気持ちが悪い。目眩がする。現実感が消失する。浮遊感で内蔵が持ち上がる。吐き気。くそ。その目で俺を見るな。睨み返す度胸もない。胃液と焦燥感で体の内から焼かれる気分だ。
俺じゃどうにもできない。助けを求めようにも、こんな夜道じゃ誰も来やしない。
ふと担任の投げやりな注意喚起を思い出す。来るとしたら、そんなのそれこそ不審者くらいのもんだ。この際不審者でもいいから助けてくれ。俺は半ば本気でそう願っていた。
「たった三万。そんくらいだったらあるだろ? それとも、君のお母さんにも頼んでみようか?」
「やめろ! やめ……て、ください……」
意気消沈する俺を眺めて、金髪は満足げに笑った。くそ。さぞ楽しいだろうよ、自分より弱っちいやつ一方的に虐めるのはよ。それでついでに金まで手に入ったら、そりゃ笑いも止まんねえだろうさ。ボロい商売だよな。
……何で、何で俺なんだ。何で俺じゃなくちゃいけないんだ。そこらに溢れてるスタバ大好きな金持ち連中でもいいだろう。何で俺みたいな明らかに貧乏臭えやつ狙うんだ。
背が低いからか? 猫背で歩いてるからか? 自信なさそうな顔してるからか? 弱そうだから? 一発殴りゃ言うこと聞きそうな雰囲気してるから? それともたまたま目についたのが俺だってだけで、本当は誰でもよかったのか?
ふざけんな。ふざけんなよ。誰でもいいなら、俺でなくてもいいだろうが。俺以外がどうなったって知らねえよ。怪我したって入院したって死んだってどうでもいいよ。だから俺には手ぇ出さないでくれよ。俺は俺の人生で手一杯なんだ。お前らなんかが入る余地なんてないんだ。
ただほっといてくれよ。それだけで俺は十分なんだから。そのくらい猿だって出来るだろ?
「分かったら、とっとと降ろしてこいよ。あ、逃げようっつったって無駄だから。俺顔ひれーから、どこ行ったってすぐ見つけちゃうかんね?」
そう言って金髪は近くのコンビニを指さした。俺が働いているとことは違うコンビニだけど、何が悲しくて同系列の店でカツアゲされるための金降ろさなきゃなんねえんだ。だけど逆らうための気力はすでに奪われていて、俺はふらふらと、街灯に群がる蛾みたいにコンビニに向かって歩き出した。
ああ、何やってんだろうな。こんなことするために金稼いだんじゃないんだけどな。
踏み出す一歩一歩がとにかく重い。まるで体の制御権を誰かに奪われたみたいだ。
「おせえよ藍川くぅん!」
金髪か、赤髪か。声で個人を判別する余裕も失われて、だけどとにかく誰かに尻を蹴られた。受け身も取れずぶっ倒れる。頬に痛みが走る。笑い声が聞こえる。くそ、にゃーにゃーにゃーにゃーうっせえな。発情期の猫かよ……。
にゃあ?
「!?」
顔を上げると、目の前に黒猫がいた。
それだけじゃない。いつの間にか夜道は、大量の猫で埋め尽くされていた。
「は……?」
それは俺の声か、それとも後ろの不良の声か。もはや個々人の声など、猫の鳴き声に覆われて聞こえない。
ただ分かるのは、その群れの中心には人がいたこと。
その人間が、小柄な少女だったこと。それだけだ。
「………………は?」
その摩訶不思議な光景を前に、俺はそう呟くしかなかった。
「…………」
俺の驚愕とは裏腹に、少女は何もしなかった。フードで隠された表情と、ほつれだらけのパーカー。それに通した腕をだらんと下げて、じっと不良共を見つめていた。
何だ? 何してるんだこいつ? 俺は純粋に疑問だった。
だけど、不良共にはそうは映らなかったらしい。
「な、な……」
その声は震えていた。
さっきまで俺を楽しそうにいたぶっていたやつが、俺より弱そうな少女に怯えていた。
「なんだてめえ! ど、どっから来た! くそっ!」
取り乱している。明らかに狼狽している。何故だ? あいつらには、この少女がそんなに恐ろしいものに見えてるのか?
「…………」
「ひっ!」
少女が一歩だけ進んだ。それだけであいつらは後ずさった。
少女が手を伸ばした。それだけであいつらは尻を向けた。
「ばんっ」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!?」
少女が一声放った。それだけで、あいつらは叫び声を上げて逃げてしまった。足をもつれさせてコケるやつもいた。まさにほうほうの体と言った風だった。
後に残ったのは猫たちの鳴き声だけ。俺の鼻先まで迫っていた危機は、あっさりと解決してしまった。
「……な、何が……?」
そこで俺は視線を感じた。人の無遠慮な視線だ。少女が俺を見ていた。
じっと。じーっと。じぃーーーーーーーーーーーーーーっと。しかも無言で。あまりにも見つめてくるもんだから、気まずさに耐えられずにこっちから声を掛けた。
「え、えっと。とりあえず、助かった……ありがとう」
「!」
……何でそこでびっくりするんだ。少女はそれこそ猫みたいに軽やかな動きで、俺に対して警戒のポーズを取った。スペシウム光線でも放ちそうなポーズだ。じゃなくて。
「(…………何なんだ、こいつ?)」
俺は今しがた起こった出来事に思いを馳せた。少女が現れた途端に変わった不良の態度。その絶叫。猫の群れ。いかにも怪しい少女の格好。ボロボロのパーカー。俺を見つめる大きな瞳。
「えっと……」
「…………」
少女は俺に狙いを定めたまま動かない。なので俺も動けない。どうすりゃいいんだ。
しばらくにらめっこしていたが、俺が根負けした。尻もちをついた状態から起き上がると、目を逸らして落ちた荷物を拾い上げた。
「じゃ、お、俺帰るわ。助けてくれてありがとな」
「待って」
何でだ。
「あなた、私が怖くないの?」
「は?」
緩く握られた裾を振り払うわけにもいかず、俺はただ全力で怪訝な顔をした。だけど少女の目は訝しむにはあまりにもまっすぐで、俺は二度目の敗北を喫した。何だこの空気感は。さっきまでの緊張が嘘のようだ。
「そりゃ、怖いよ。さっきまで普通だったやつらをあんなにしちまうんだから。俺はあんなの見たことない。そういう意味で、俺はあんたが怖いよ」
「化け物、って思う?」
何だその質問、と思ったが顔に出すだけにしておく。
「知らん。あいつらにはそう見えたんじゃねえの」
「これでも?」
ぶっきらぼうに答えると、少女は被っていたフードを降ろした。ぼさぼさのセミロングと、前髪に少し隠れた両目が飛び出す。より具体的に言うと、白くて柔らかそうな肌と、丸みを帯びた輪郭と、宝石みたいな光を湛えた瞳が俺を見据えていた。
「これでも怖くない?」
「………………、」
……………………。
…………………………かわいいな。
「どう?」
「しっ、知らんし! は、はぁ? 意味分からんし! 知らんし!」
決して今の静寂は見とれてたわけじゃない! 突然宇宙の真理が分かりかけて悟りそうになっただけだ! 決して、目の前の可憐な少女に見とれてたとか、そんなの断じてありえないんだからねっ!
「…………?」
少女が疑問符と共に首を小さく曲げた。それと共に漂ういい匂いは……しない。野生っぽい臭いがする。嘘だろ。美少女ってみんないい匂いがするんじゃないのか。現実を見せられた気分になって、俺はちょっと落胆した。
そんなことはどうでもいい。一人の男の幻想が崩されたくらいだ。それよりこいつは、一体なんて答えてやれば満足するんだ? 俺は混乱する。とっくに俺の一日の会話許容量は限界を超えている。これ以上のコミュニケーションは心身に影響を及ぼすに違いない。早めに正解を答えて、会話を打ち切らなければ。
「こ、」
「こ。」
「怖くない」
……どうだ? 正解か? これで満足か? 俺は少女を一瞥する。
「…………」
何で黙るんだ……! 回答はしたんだから、せめて何か反応をくれ! 少女は十秒後にやっと口を開いて、
「そっか」
とだけ言った。
……そっか、って何だよ。
「あなたは私が怖くないんだね」
「……ああ、一応」
一応って何だよ。俺の対人スキルは絶望的なくらい摩耗していた。
だが〝一応〟俺の回答に少女は納得したらしく、「うんうん」と何度も首を縦に振り、言葉を吟味し、「じゃあ」と結論を出した。
「あなた変な人だ」
「はぁ?」
思わず口に出してしまった。でもしょうがないと思う。あれだけタメといて出た結論がこれなら、誰だって同じ反応をすると思う。どっちが変だ。どっちが。
「あっ、ごめんなさい。怒った?」
「い、いや……」
しかし面と向かってそうとは言えないのだった。謝られたらつい気にするなと言って後で絶対にむし返す、現代人の悪いクセだ。
「えっと、じゃあ……妙な人?」
俺はこれまでの人生で一番不服そうな顔をした。
「違くて……うーん、あなたは……変ですね……?」
そういう問題じゃない。
「変……変……お、お前は変だ」
なぜそうなる。
「ごめんなさい。よく分からないです」
最終的に謝られた。謝られても。
「…………」
「…………」
再び俺たちを静寂が支配した。さっきと違うのはどっちも気まずいってことだ。少女は俺以上に気まずさに耐性がないらしく、目に見えてわたわたし出した。「ゆ」とか「お」とか何かしらの単語の頭文字だけを発音しては黙るを繰り返している。さすがにこっちが見てられない。
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
「待って」
くそ、さっきの二の舞だ! というか引き止めるなら明確な目的を持て! 引き止めてから用事を考えるんじゃねえ! 俺は心の中だけでそう叫んだ!
「まだ何かあんの?」という顔をしていると、少女は案の定あたふたし始めて、
「えっと、えっと、あ、そうだ。お名前は?」
「……藍川光」
「そ、そうなんだ。へぇ〜」
沈黙。
「ご、ご趣味は?」
「読書と人間観察」
「あう。あ、頭がいいんだね!」
沈黙。
「……好きな動物は?」
「バビルサ」
「??? り、理由は?」
「アホそうだから」
「にょーん……」
沈黙。にょーんって何だ。
「あ、じゃ、じゃあこれは? 逆に嫌いな動物とか……」
「あのさ」
「ん」
「何がしたいの?」
「んゆ……」
俺の心の底からの質問に、少女は押し黙った。半目で空を仰いだり、指先をくっつけたり離したり、忙しなく動き出した。さっきまで俺も混乱してたはずなんだが、俺以上に混乱している人間を見ると落ち着くもんなんだな。
やがて少女はうずまってしまった。これには俺もぎょっとする。大丈夫かと声を掛けようとした直前、少女がこっちをキッと睨みつけてきた。
「お、お友達になりましょうって言ってるでしょ! さっきから!」
言ってねええええええええええええええええええ! と心の中では絶叫したのだが、現実では喉が枯れたように声が出なかった。そうか、これが絶句というやつだな。俺は新たな概念を獲得した。
一方で少女は何やら吹っ切れたらしく、さきほどとは打って変わって流暢に、
「名乗り遅れました。春原愛奈です。光くんって呼んでいい? あいかわってよく分からないので」
初対面の人間に名字を「よく分からん」と一蹴された。新体験だ。
「……ああ、うん。もう何でもいいよ」
「やった! 初めてのお友達だ!」
どうでもよくなって許可したら、予想以上に喜ばれた。年不相応に幼い喜び方だ。ここまで無駄に体力を消費させられたが、その無邪気な笑顔を見ていると疲れも吹っ飛ぶような心持ちだった。ちっ、顔がいい人間は色々得だな。怒るに怒れん。
「よろしく! 春原です!」
きゃぴきゃぴと春原は俺に握手を求めてきた。一瞬躊躇して小さい手を握り返すと、遠慮なくぶんぶんと振られた。女子の手なんか小学生ぶりに触った。もっちりしてるんだな……。
「……よろしく」
「よろしく!」
ぶっきらぼうに振り返しても、春原は喜んでくれた。が、眩しい彼女の笑顔を直視できずに目を逸らしてしまう。しょうがねえだろ童貞なんだから。
まあ、でも。
こんなまっすぐな笑顔見たの、いつぶりだったろう。
春原の顔を見てると(見れないけど)、ここ数年機能していなかった感情が湧いてくる。つられ笑いしそうになったのなんて、本当に久しぶりだ。
母さん以外でこんな、温かいコミュニケーションをしたのは高校入って初めてかも知れない。正直、春原の整った顔立ちで繰り出す笑顔に、俺は籠絡されかけていた。うん。先ほどまでの妙な言動も、不思議ちゃんと思えばかわいいものじゃないか。そんな感じに心開きかけていた。
「じゃっ、友達ならお家に泊まらせてくれるよね!」
「ああ、もちろんだ!」
待て。
ちょっと待て。なんつったこいつ。さらっと爆弾発言をしなかったか? そして俺。さらっとOK出さなかったか?
「やったー! 実は私家出したばっかで、屋根のあるとこ探してたの!」
ともすれば、俺が友達申請にYESと答えた時より、春原は喜んでいた。こいつ天然に見えて計算深いぞ。すっかり俺は騙されてしまった。
「ね、ね? だから助けてよぅ。お願いだから!」
春原が上目遣いで懇願する。この仕草は考えなしの天然か、それとも悪魔みたいな計算か。俺の鋼の精神が活躍の場を求めている。今がその時なんじゃないか?
「い、」
「い?」
「一泊だけだぞ!」
所詮は鋼だ。
ダイヤモンドほどの硬度はなく、そして春原の救われたような笑顔はダイヤモンド以上の価値があった。
その後のテンションの上がった春原のハグは、たぶんプライスレスだった。




