回想するパワードスーツ
何だ。この熱さは。
何だ。この乾きは。
何だ。この痛みは。
俺は一体、〝どう〟なった――?
『…………! ! ――――!?』
何か聞こえる。誰かが喋っている。目の前にぼやけて見える人影。赤い髪。俺を罵倒しているのか?
「うぐ…………ッ」
聞こえない。聞こえないはずなのに、胸が軋むように痛んだ。その声を聞きたくなかった。じゃあ俺はどうしたいんだ? 何を聞きたかったんだろう。
『丁度いい。貴様、我が手足となれ』
記憶の最奥。まだ人間だった頃の俺。老人の声を覚えている。アウラド=オゥルシルグ。十年前、ギャンブルで借金背負って人生詰みかけていた俺は、アウラドに首筋を噛まれてグールとなった。
その頃からだ。俺の記憶に靄が掛かり始めたのは。
まず自分の名前を忘れた。その後に妻の顔。名前。生まれた場所。住んでいたところ。それでも忘れたくないものがあった。
…………。
その名前ももう、覚えてない。
『ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhh――――!』
誰かが立っている。俺に立ち向かう何かがある。その姿を見ると、心のどこかがひどく痛む。そうだ。俺は何かを忘れていた。そのことすら、今の今まで忘れていた。
俺は何を忘れていた? 自分のこと? 妻のこと? 家のこと? 借金のこと? 違う。俺と妻の間には誰かがいた。俺と妻の手を力いっぱい握りしめていた誰かがいた。
目の前のこいつは誰だ。こいつを殺せば俺は思い出すのか。この痛みは何だ。俺は何か間違ったことをしているのか?
この飢えは何だ。腹が減っているわけではない。それ以上に何かが足りない。それが何なのかは、考えても分からない。
足りない、足りない、足りない――。この喪失感は、どうしたら失くせるのだろう。
俺は虚しさから逃げるように右手を突き出した。巻き込んで、消し飛ばせ。やり方は分かっているはずだ。
なのにどうして、俺の痛みは止まないんだ?




