表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鯨の空  作者: 藤原(の)コウト
トリプル・バンク・ブッキング
27/56

絶望するルーザー

 心臓がうるさい。(にじ)む手汗が不快でならない。

 やっちまった。とうとう僕は重大犯罪に手を染めてしまった。


「はっ、はっ……」


 万引きとか運び屋とかそんなチャチいもんじゃない。僕は、自分の意志で、誘拐の片棒を担いでしまったんだ!


「(……もう、戻れない)」


 後戻りできない。僕はハンドルを握る手に力を込める。


町宮(まちみや)ァ! さっさと車ぁ出さんかい!」

「は、はいっ!」


 急発進でアクセルを踏む。落ち着け。落ち着け! どうせ焦ってたって何にもならないんだ。

 僕が綾ちゃんを騙したって事実は、どう足掻いたって変わりやしないんだ!!


「…………ぅ」


 僕は意識的にバックミラーを見ないようにしていた。今綾ちゃんの顔を見れば、僕は絶対に決意が揺らいでしまう。中途半端は駄目だ。やるなら徹底しないと、僕が殺されてしまう。

 僕が生き延びるために綾ちゃんを怖い目に合わせる。そうだ。何も痛めつけようとか、レイプしようって話じゃないんだ。身代金が手に入ればそれでいいんだから、それ以上は何もしなくていいんだ。

 綾ちゃんは助かるんだ。僕が何もしなくたって。そういう風に僕は僕を正当化した。これが正しいことじゃないってことは、誰よりも僕が分かっているけど。


 だけど、いつも僕の前には障害が立ちはだかる。


「っえ、井上さん、何を……?」

「あァ?」


 ビリッ、と、何かを引き裂くような音。思わずバックミラーを覗けば、綾ちゃんの制服の胸部分が破かれていた。息が止まった。


「ぁ、待って下さい! ひ、必要なのは身代金だけじゃないんですか!?」

「お前よ、ガキちゃうねんから……女(さら)ってんやったらやるこたぁ一つやろが」


 待てよ。待ってくれ。急に世界の輪郭(りんかく)がぼやけた。現実を直視できない。

 何でだよ……。


「(何で僕の人生はこうもうまく行かないんだッッッ!!)」 


 ああ、神様。いるなら返事をしてくれ。僕はどうなってもいいから、せめて綾ちゃんだけは助けてやってくれよ。彼女は何も悪くないんだよ! 悪いのは僕なんだ。綾ちゃんを騙した僕が極悪人なんだ……!


 そうやって天に祈ったって、結局は現実逃避にしかならない。僕にはまだ立ち向かう勇気すらない。

 自分の境遇を呪った上で、本気で変えようと努力もしない。不満を垂れながら生きているだけの人間が、人を傷つけこそすれ、一体誰を救えるってんだ?

 僕の物語は、そういうつまらない結末に着地する。


 いつも通りに。いつも以上に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ