夜道を歩くルーザー
爆発音と火薬の臭いが離れない。
あの恐怖と緊張が、まだ僕の頭の中を駆け巡っている。
「はぁ……」
町宮昌明、つまり銀行強盗しようとしたら逆にされた負け犬こと僕は、一人とぼとぼと夜道を歩いていた。ついさきほどのことを思い出す。
僕はさっきまで、ヤクザの事務所にいた。「山平組」――この街を仕切る彼らと僕の繋がりは、一年前からだ。高校の時にどうしても金が欲しくて、ヤクの運び屋なんてやってしまって、それ以来脅されて絞られまくっている。まあ、典型的な『カモ』だ。
これまでは親を騙したり万引きとかしてなんとか工面していたのだけど、それももう完全に立ち行かなくなって、追い詰められた僕に「山平組」はある提案をした。それが銀行強盗だ。銃をぽんと渡されて、明日までに金を用意しろと指示された。
それも失敗して、僕は本格的にどうしようもなくなってしまった。それでさんざん怒鳴られ、それだけならまだしも、次はないと脅された。
だから次はきっと、もっとひどいことをやらされる。「山平組」は近々隣町のヤクザ、「川口組」との抗争を控えているらしく、その準備のために金を集めようとしているらしい。彼らは〝短期間〟で〝高額〟を稼ぐ方法を求めていて、その手段は僕もいくつか思いつくけど、全部が全部ロクでもない。
それを自分がやると想像すると、もっとロクでもない気分になる。
「はぁ……」
こんなことになるのなら、失敗するくらいなら、あの銀行で銃撃戦に巻き込まれて死ねばよかった。生きることで苦しみが引き伸ばされるのなら、いっそあそこで終わって欲しかった。それを言うなら、そもそも運び屋なんてやらなきゃよかった、んだけど。
僕は肩を落として歩いている。これからを思うと気が重くて仕方がない。家に帰るこの足を止めてしまいそうになる。家に帰って、ベッドに寝転んで、目を閉じれば終わる問題じゃない。寝ても覚めても、僕が危機的状況にいるのは変わらない。
だから僕は、死にたいくらい憂鬱なんだけど……。
「かっこよかったなぁ、あの人……」
僕の脳天気な口は、そう呟いた。
僕が頭に描くのは、あの女銀行強盗だ。燃えるような赤髪、堂々とした通る声、目出し帽から覗く鋭い眼光、物怖じしない鉄の心根、無敵と思われたパワードスーツさえ撃退させたしぶとさ。どれを取っても僕にはない、力強さを湛えていた。
僕は、彼女に強い憧れを抱いたのだ。
「また会えないかなぁ……」
胸に想念を秘めて僕は帰路を急ぐ。
心なしか夜空がいつもより明るく見えた。僕のお先は真っ暗なのに。なんて洒落を言えるほど、僕の心は躍っていた。




