尋問されるバンクロバー
「さぁて、楽しい楽しい尋問の時間だ」
眼の前のチビがそう言うと、白い光が私とKの顔を照らした。まぶしっ。
私とKは椅子に縄で縛られて、その周りをチビの部下が取り囲んでいる。表情の読めないグラサン共は揃いも揃って銃を持っていて、全部の銃口が私らの方を向いていた。ヤクザとやってることがほぼ変わらん。本当に日本警察かこいつら。
「いいか、貴様らカスに許されたのは質問に答える権利だけだ。それ以外は許可を取れ。許可を取る際の発言にも許可を取れ。さもなくば撃つ」
めちゃくちゃなこと言ってんなこのチビ。だがKに負けず劣らず顔がいい。それだけで全部許してしまうほど頭ハッピーでもねえけど。
顔面がいいチビは見下しながら言う。
「分かったら返事だ。はいとYESのみ発言を許可する」
「質問よろしいでしょうか」
「カスが許可なく喋るな。却下だ」
「まあどうせ勝手に言うんだけどよ、ガキが大人にガンくれてんじゃねえよああん?」
「犯罪など短絡的なことをするヤツが大人だとは俺様は思わないな」
「何だとテメエ上等だ表出ろォ!」
「やってみるか犯罪者?」
私たちはすごい形相で睨み合った。先に目を逸らした方が負け。そんなルールがいつの間にか、私たちの間では出来ていた。クソチビが、生意気にも睨み返してんじゃねえよ。
「……まあいい。俺様は大人だから一度の無作法は許してやる」
「あっれーもう終わりか小学生! まーしょうがないよなガキは大人にビビり散らかすモンだかんなぁあああああああ!!」
「貴様このカスやろ……ッ! ふ、ふん。それも許してやる。大人はそんな安い挑発には乗らないからな」
「てか(笑)スーツ似合わないなお前(笑)」
「カスが!! つうか俺様はこれでも三十だボケェ!!」
さんざ煽ったらついにブチ切れた。『あ』って顔しても遅いぜ。
「おいおい、大人からかうにゃまだ早えぜチビガキ。三十だ? もうちょっと大人の風格ってのを身につけてから言えよ」
「はっ! ギャンブルで破産して銀行強盗に手を出すような、そんな計画性のないヤツに大人がどうこうなどと語られたくない。しかもそれすら失敗しているようなカスにはな!!」
「んだとガキがァ! 競馬は甘さも苦さも兼ね備えた人生を学ぶ場所だ! 単なるギャンブルと一緒にするんじゃねえ!」
「それで一度でも甘いのを味わったのかカスが! まあ甘ったるい脳味噌には育ったようだがな!」
「ガキ!」
「カス!」
「あの、もうやめません二人とも? 話が進まないんですが」
見るに見かねたらしいKがおずおずと言う。
が、
「「うるせえ黙ってろカス!!」」
「なんでそこだけ息ぴったりなんですか! さっきまで全然仲悪かったじゃないですか!」
チィッ! なんでこんな野郎と息が合うんだ。不機嫌になって口を閉じると、ガキもそうしていた。ますます腹が立つ。真似するなこの野郎。
「……そうだな、そこのカスの言う通りだ」
「あれ、おれもカス呼ばわり?」
「このままでは話がまるで進まん。俺様の貴重な時間が無駄になるだけだ」
「じゃあ寝ていいか?」
「自ら永眠を望むとは、中々献身的なカスだな。いいぞ、死ね」
「てめえが死ね。で、こんなとこまで連れてきてサツ公が何の用だ?」
ガキはふん、と鼻を鳴らす。忌々しい仕草だな。手が自由なら中指立ててたんだが。
「あの男についてだ」
「あの男ぉ? ちゃんと名前で言えよ名前でよ、人の名前忘れるボケジジィか」
「赤荻滝二だ」
「……あ?」
私は一瞬呼吸を忘れた。ちょっと待て、はぁ? 困惑する私にガキは続ける。
「貴様らと同じ時刻に銀行を襲ったあのパワードスーツを着た男の名だ」
それを聞いて私はさらに首をひねる。赤荻? なんでそこで私の名字が出てくるんだ?
滝二? なんでそこで私の親父の名前が出てくるんだ?
赤荻滝二? そりゃ、十年前に失踪した私のクソ親父の名前じゃねえか。
ガキは固まる私を見て、勝ち誇ったような顔をする。
「どうした? まるで予想外のタイミングで知り合いの名前が出たような顔をしてるな、赤荻美希」
「……私の名前を呼ぶんじゃねえ」
そう恨み言を吐くので精一杯だった。クソが、こっち見んな。そのドヤ顔で見られると殺したくなる。
「ね、姐さんの親父さん? あのパワードスーツが?」
Kは見るからに狼狽している。
「で、でも、あいつ姐さんに思いっきり攻撃して……あ」
そりゃそうだ。私は目出し帽、あいつはフルフェイスのヘルメットをしてた。互いの顔なんて分かるわけがねえ。
たとえ十年越しの対面だったとしても、私たちは気づけずじまいでいた。
「よかったな、父と娘の感動の再会だぞ? 喜べよカス。しかし親子揃って犯罪者とは、ご先祖様が墓の下で泣いてるな」
「うるせえッ!」
ガキが。こんな口悪いヤツがどうやって警察になんかなれたんだ。死ねよクソ野郎。死んでクソになれ。ちくしょうが。
私はこれ以上ないくらい動揺していた。あそこにいたのが親父だとは、信じたくはなかった。私と母さんを捨てて出ていったクソ野郎が、どうして銀行強盗なんかやってんだ。しかも、あんなアホみたいなもんまで持ってきて。
「赤荻滝二が起こしたとされる銀行強盗は合計で二件。が、パワードスーツの方はもう五件にも登る。厳戒態勢敷いといてこれだ。全く屈辱的な数字だな」
はっ、ちゃんと働けよ税金泥棒……普段ならそう悪態づいただろうに、今の私は与えられた情報を整理するのでいっぱいいっぱいだった。
「そこでだ。今俺様たちがあいつの潜伏先を探っているから、見つけ次第お前はそこに行け」
「は?」
今なんつったこいつ?
「娘なら止められるだろうという上層部の判断だ。それに犯罪者だし、多少非人道的に扱ってもいいだろという、誰も言わんが誰もが思ってる当然の判断もある」
というわけで働け、犬。チビは私らに、というか私に向かってそう言い放った。ツッコミどころはたくさんある。が、まずはこれを言わんと気が済まない。
「ふざけんなバーカ死ね」
「撃て」
頭の横を! 銃弾が! 通り抜けてった!
「マジかてめえ! 正気か!? 本気で撃つか普通!」
「犯罪者に人権はねえ」
言い切りやがった。
「だから貴様らは人間とは認めねえ」
むちゃくちゃだ。
「そして犬は人間様に隷属する生き物だ」
犬派の連中に聞かせてやりてえ。リンチされろ。
「分かったらとっとと返事しろ。犬」
「てめえいつか絶対ぶっ殺すワン☆」
覚えてろ、クソガキ。
出所したら真っ先にてめえん家燃やしてやっからな!!