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鯨の空  作者: 藤原(の)コウト
トリプル・バンク・ブッキング
17/56

金庫を漁るパワードスーツ

 ぎちぎち、と嫌な金属音がこだました。重く厚い扉がひしゃげる音だ。そうして俺は強引に貸金庫に押し入った。そのまま並び立つロッカーケースを無理矢理こじ開けていく。

 中に入っていた札束を、宝石を、床に散らばるたび踏み潰す。不気味なほどに静まり返った銀行内に、その破壊音だけが響いている。


「(あった……)」


 金庫の奥、壊れたロッカーケースの中に目的のものを発見すると、俺は着ているパワードスーツにコマンドを打ち込んだ。装甲の全面が開き、操縦者、つまり俺が排出される。生身のまま奥へと進み、俺はそいつを手に取った。


「(あの〝妖精〟が言っていたのは、間違いではなかったのか……)」


 それは、真っ黒の宝石をはめ込んだペンダント。どこか禍々(まがまが)しい雰囲気を宿す、美しい装飾品だ。

 目的のものは手に入れた。もうここに用はない。ペンダントを首に掛けると、俺はパワードスーツに再度乗り込んだ。


「…………?」


 ふと、生体検知センサーが反応を示した。真後ろに誰かいる。一人ではない。

 このパワードスーツでは振り向く必要もない。背中側のカメラに映っていたのは、さっきの二人組だった。


『私の金はどこだッッッ!』

「…………」


 集音マイクから、そんな欲にまみれた叫び声が聞こえた。大方あのトランクケースのことを言っているのだろうが、それならさっき踏み潰してしまった。あれは俺の求めるものではない。


 それを知らずに俺が奪ったとでも思っているのだろうが……どの道ちっぽけなピストル程度では、こいつには傷の一つもつけられん。対して、生身の人間ならまっすぐ突進するだけでグチャグチャになる。どちらが優位かなど問われるまでもない。


「(……一度は、見逃したぞ)」


 俺はパワードスーツの巨躯(きょく)を反転させ、あいつらに突っ込もうとした。その直前に、モニターの隅でアラートが鳴った。膨大な熱源反応。それは真正面、あの二人からだった。


「(RPG……!?)」


 高速で向かってくるミサイル弾は、間違いなく俺が装甲車に積んだ装備だった。ということは、盗まれたか。

 回避する暇もなく、直撃。衝撃が骨まで響く。上下感覚が失われる。自分が立っているのか倒れているのか、それすら分からなくなる。


「ぐ、」


 だがそれも一瞬だ。すぐにこの優秀なパワードスーツは姿勢を戻す。ヤツらを視界に収める。ミサイルを撃った衝撃に耐えられなかったのか、無様にひっくり返ってはいるが、表情を隠す目出し帽の奥でも、なぜだかその不敵な笑顔は見て取れた。


「(勝ったつもりか……!)」


 であればその認識は間違いだ。装甲は凹みこそすれ、少しの穴すら開いていない。返す刀で俺はマシンガンを向けた。

 慌てて逃げる背中に銃弾を叩き込むが、強引に破壊した金庫の厚い扉に阻まれる。あれはさすがにマシンガン程度では壊せない。あそこに隠れられては、こちらが取れる手段は限られる。

 外に出るしかないか。俺は諦めてヤツらを直接見つけようと試みる。その直前で、何かが足元に投げ入れられた。それをグレネードだとセンサーは言っていた。


 だが、


「(…………安全ピンがついたままじゃないか)」


 これでは爆発などするはずもない。爆発したとて、一個二個でこいつの装甲がどうこうなることもないが。

 それを知らずか、ヤツらはいくつもグレネードを投げ入れた。投げ入れる瞬間を狙って撃つが、当たらない。歩きながらだと射線がブレる。それも貸金庫を出てしまえば、もう遮蔽物はない。終わりだ。


『終わりだッッ!』

「?」


 マイクがそう叫ぶ若い女の声を拾った。俺の意識に空白が生じる。その隙にヤツらはもう一発、俺の足元に向けてミサイルを撃った。グレネード(爆発物)で満杯の床に。

 一瞬画面が真っ白に染まる。マイクが最後にノイズを届けて何も聞こえなくなった。


「( 熱  痛、?)」


 俺はそれを感じた。感じるはずのないそれを。

 駆動系損傷。装甲一部破損。姿勢制御装置損害軽微。再起動(リブート)再起動(リブート)再起動(リブート)。アラートが鳴り止まない。なんだ。俺は、何をされた?


 熱源探査不可能。集音装置応答なし。損傷許容量超過。逃走推奨。推奨。逃走せよ。逃げろ。


 まだ走れる。熱に焦がされた意識が、ちかちかと俺に応答する。まだ逃げられる。


 ――退け(run)。


 不意に頭に去来した声は聞き覚えのない声で、全身の肌を泡立たせるくらいゾッとするものだった。

俺はそれに従うように、真っ直ぐ走り抜けた。


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