覚悟を決めるバンクロバー
「姐さん、大丈夫ですか。姐さん!」
「んあ……?」
なんか見覚えのある爽やかイケメンに肩を揺すられて目が覚めた。明るい茶髪が似合う年下、うーん九十点。そういや誰だこいつ。
「Kです! ほら、銀行強盗の……!」
「K……」
ああ、私の仲間だ。ヤクザに紹介された。道理で見覚えがあるはずだ。ん? でも私こいつの素顔見たことあったっけ? まあいいか。
「……どこだここ?」
「路地裏です。銀行の裏口から姐さんを連れて、ここまで逃げてきました」
ふうん。体を起こしてちらっと車道側を覗けば、銀行は目と鼻の先だった。装甲車が強引に通った轍と、風通しのよくなった入り口が見える。
「あと、逃走用に用意していた車ですが、ダメでした。銀行前に路上駐車していたせいで、装甲車に潰されていました」
あの様子では運転手もダメでしょう。Kはさほど残念がらずに言う。私も全然悲しくない。
「別の車を用意して逃げましょう。幸い、あのパワードスーツはこっちに興味はないらしいですから」
「ああ、それがいい。とっととオサラバしようぜ……」
なんて言いつつ立ち上がろうとして、あることに気づく。というか、あるはずのものがないことに気づく。
「ねえ。私の金がねえ! どこだ!? どっかで落としちまったのか!?」
「え、ええ。さっき吹っ飛ばされた時、手から離れてそのまま……」
「何で拾ってこなかったんだテメエ!」
「そんな余裕ありませんでしたよ! 逃げるので精一杯で……」
マズい。私は考え込む。あのヤクザ共を前に手ぶらで帰ったら確実に殺される! あの耳元で鳴った銃声、あと半年は忘れられん!
私の借金は蒸発したクソ親父がこさえたのも含めてざっと億はある。それを今更待ってなんてどの面下げて言えるかよ!
「…………取り返すぞ」
「しょ、正気ですか!? 相手はあのパワードスーツですよ!?」
「今すぐ死ぬか後で死ぬかの違いでしかねえ! なら早い方がいいだろ!」
「姐さん自分で何言ってるか分かってます!? すごく支離滅裂ですよ!」
「うるせえーーーーッ!」
とにかく金は必要だ。アレがないと殺されちまうんだ! 私は絶対に強盗を成功させなきゃならない。こんなとこでくたばるわけにはいかない。
「私はこれが終わったら、コンビニでワンカップ大関ラッパ飲みすんだ……!」
「死亡フラグにしてはささやか過ぎませんか!? でもそんなとこも愛おしいです!」
「何だお前、その顔でそんなこと言われたらきゅんとするだろ!」
「意外と押しに弱いのもギャップですよね! 褒められると素直に受け取れないツンデレマインドです!」
「前言撤回だ気持ち悪りいなお前!」
「そんな罵倒も姐さんのものなら心地いい!」
ぎゃーぎゃーやってる内に、緊張もほぐれてきた。あぁこれだ。こういうのが普段の私ってヤツだ。自信過剰、向こう見ずに無鉄砲。外した競馬予想は数知れず。それでこんな場所まで落ちぶれてきたんだ。
おみくじで大凶引いたっつうことは、これ以上下がらねえってこったろ! 私は目出し帽を手に取って、それを被ってみせた。こいつがないと強盗っぽくねえもんな。
「止めても行くぜ」
「ならお供します」
でもその前に。Kは私に進言する。
「おれにいい考えがあります」
それこそ死亡フラグじゃねえの? 私はそう思ったが、Kの本気な目に口には出さなかった。