表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鯨の空  作者: 藤原(の)コウト
幼吸血鬼ヴィヨンドの受難
12/56

指輪とバラ

 

 白い病室のベッドに座るミサキさんは、入ってきたぼくに気づくと手を振ってくれた。


「やあ、少年。お見舞いに来てくれるとは嬉しいね」

「お元気そうで、何よりです。ミサキさん」

「ふっ、私の夫が処置したんだぞ? 完璧でなくて何となる」


 そう言ってミサキさんはくすりと笑う。左手の薬指に、キラリと光る指輪がある。


「ああ、これかい? リドのやつがつけてくれたんだよ。『(ことわり)返し』を封じる魔具さ」


 綺麗だろう? とミサキさんはぼくに指輪を見せてくれる。まるで新婚夫婦が友人に自慢するみたいに初々しくて、まぶしくて、ぼくはミサキさんの思いの丈を知った。幸せオーラに思い知らされたとも言う。


「今回色々君には思うところがあるけどね、リドを連れて来てくれたという点だけでもう全部許しちゃっていいかな、なんて気分なんだよ。私は」

「い、いいんですか、そんなので」

「いいさ。あいつ、あんな必死な顔で私を……ふふ。思い出すだけでも頬が緩むね。あいつのあんな顔、久しぶりに見たなあ……」


 にやけつつ指輪を()でるミサキさんは、ぼくの見たことのないミサキさんだ。こんなに幸せそうなというか、とろけたミサキさんは初めてだった。


 ぼくはそっと視線を逸らし、机に置かれた一輪の花を見る。真っ赤なバラだ。

 当然、白い病室には似合わないけど――それはリドさんなりの愛の示し方だ。そういうところは意外と不器用な彼に、ぼくも少し笑ってしまいそうになる。


「……リドは、もう行ったんだろ?」

「はい」


 そのリドさんは、すでにこの街を去ってしまった。シアハが暴れてボロボロになったマクヴィルの掃除を済ませ、彼女を連れてセシルさんと共にどこかに消えた。『鯨乗り』はそういうものだ、とミサキさんは言う。

 その生き様に()れたんだ、とも。


「だってかっこいいしね、ロボとかメカとか。超古代兵器とかスチームパンクとか。ロマンだろ? そういうの」

「……もしかしてミサキさん、ガンダムとかお好きです?」

「もちろん。全人類のバイブルだ」


 本当に掴みどころがないなぁ、この人。今まで結構話してきたのに、まだまだ知らないことが多すぎる。

 それ以上に色んなことを教えてくれたミサキさんに、ぼくは感謝しなければならない。


「ありがとうございます、ミサキさん」

「どういたしまして。では、いってらっしゃい」


 何が? とか。どうして? だとか。そんなまどろっこしいことは全部察してくれて、ミサキさんは笑顔でぼくを送り出してくれた。


 どこへ? なんて、察してね。

 666号室へ。

 ヴィヨンドの部屋へ。


「いってきます。今度は、ぼくがご馳走しますよ」

「ああ。楽しみにしてるよ」


 ぼくは病室を出た。それから、少し急ぎ足で廊下を行く。

 さあ、この物語の結末を見に行こう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ