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名前は大福もちこ


ステータス…その名の通り自分の能力値を差す物で大体プレートだったり表示だったりされている基本的な物だが、この世界では1人の人族に付き1人精霊が居てステータスを管理するそうだ。

龍真は後に知る事になるが全体に見えるように姿を現したり本人にだけ見えて会話出来たり、危険な時は姿を隠したりする事が出来る。


「ステータスの開示?それは…気になるけど今は良い…面倒臭い」


龍真は自分の能力値がどんなレベルで何を持っているのか気にはなったが、今すぐには見る気が起きなかった。

日本で朝から山登りに入り素人ながら登山をして、知らない内にこの世界に来てからも化物に追い掛けられて精神を磨り減らしながら走りっ放しで、そんなステータスの内容など一々説明を聞いてられる余裕は今持ち合わせてない。

何より、先程小声で呟いた通りこの状態でのチュートリアルなど面倒臭いのだ。


「…………」


龍真を担当すると言ったステータスの精霊は無言で滞空状態を維持しつつ龍真を見詰めている。それはもう食い入る程に。

スキルが新しく追加されてもステータスを確認しないなんて有り得ない程常識知らずが…と思っている様な冷めた視線だが、龍真は面倒臭がって意に介さない。


「…………」


龍真も何も話さないステータスの精霊とやらを無言で凝視して仕返しする。

ステータスの確認など、地球で作られた作品で有ればどんな作品であれ誰でも簡単に出来る作業だ。それを、何でわざわざ疲れてる今面倒な手順で確認しなければならないのか…という意味を込めて見返していた。


「あの、ですねぇ…ステータス開示は普通に行われる基本的で一般的な物ですから面倒な事は無いし簡単に伝わるんですよ?折角追加されたのに見なくて良いんですか?」


龍真の面倒だと言う最後の小さな呟きは確り精霊の耳に聞こえていた様だ。

どうしても開示させようと食い下がってくる。


「いつでも見れるんなら余計に後で良いじゃないか。さっきまで俺は化物に襲われてたんだぞ…安全な場所でって思う事の何が悪いんだ?」


龍真が思ってた以上に簡単な手順でのステータス開示でも龍真の後にしたいと思う意思は変わらない。

あからさまな溜息を吐いて精霊から視線を逸らし、荷物の中から外出前に準備してきたパンを取り出してその封を開けると黙々と食べて腹を満たし始めた。


「うっ…そんな事言わないで一度開いて下さいよぉ~。貴方の許可が無いと今の私じゃ開けないし、盟約上このままじゃ困るんですから!」


「はぁ…成程、それなら最初にそれを言ってくれ。…ステータスを開示してくれて構わない」


一筋縄ではステータスを確認しない様子を見せる龍真を見てステータスの精霊は涙目になりながら自分にとって開示するのは重要な所作だと懇願してきた。


リアル日本人女性より二次元に近い容姿と精霊と言われて納得する服装は異世界モノの醍醐味として十中八九皆が可愛らしいと思う物で、"これで小さくなければな"…と内心残念に思う龍真は精霊の方に視線を戻すと、溜息を吐き出し渋々ステータス開示の許可を出して再び食べ掛けのパンにかぶり付く。


「……っ!」



【ステータス】

名前:夜光 龍真

レベル:1

年齢:14歳

種族:異世界人

職業:小説家

精霊:???

スキル:万物創造,多言語理解



「え?えっ…?何、このステータス…っ」


龍真が許可すると精霊の全身が輝き、その途端に龍真の脳裏へ自分の情報が羅列されて映し出されていた。

精霊が必死に求めていたステータスの開示は、口での説明や書類化のような物では無く、本当にあっさりした物だと理解した龍真は一瞬驚いたものの安堵の表情を浮かべる。

逆にステータスの精霊の方が予想外の表示だったようで困惑している様子を見せていたが。


「なぁ…この、精霊ってのは何だ?それに年齢14歳って…可笑しいだろ。俺は今年で34だぞ?何かの間違いじゃないのか?」


自分が所持していたスキルの方も気になりはしたが、龍真が先に興味を惹かれたデータは"???"と表示された精霊の欄と表示された自分の年齢だった。


ステータス開示で表示された年齢が本人の実年齢より20歳も若くなっていれば驚くのも無理は無い事である。


「私の方からも龍真さんに聞きたい事はあるのですが…先ずは貴方の質問への返答が優先ですね。…精霊の欄が???になっているのは担当となる精霊、つまり私ですが、その精霊の名前を契約者の龍真さんが名付ける事になっているんです。名前を戴ければ表示が変わりますよ。」


自分の疑問を後回しにしたステータスの精霊からの説明によると、精霊の名前は契約する側の人族が名付け、それが終わると自動でその名前に変更されるそうだ。自動で変更してくれるのは多少便利なお約束能力だ、と龍真はパンを頬張り続けつつ無言で考える。


「次に年齢表示の差異があるという事ですが…これは私にも分かり兼ねますね。私が初めて見掛けた時から龍真さんは何処から見ても少年に見えますよ?はっきり言ってとても34歳だと信じられませんし何かの力が作用したという推測しか…」


龍真の年齢が劇的に変化した事についてはステータスの精霊と言えども把握出来なかったらしい。

何故なのか意味は分からなかったが、それでも化物に襲われて逃亡した時の身体の軽さに関してだけは納得していた。

実年齢より急激に年齢が進んでしまうのは困るが、若返る分には大した問題にはならないし寧ろ喜ばしい。これは十中八九大半の人間が同意するだろう。


「そう言う事なら年齢に関しては追々確認する他仕方無いとして、もう1つは俺が決めれば解決するんだな?」


「そうですね、私としましてもパートナーとしての名前を決めて貰えたら助かります」



先程慌てていた精霊も自分の名前に関しての事だという事で真剣な瞳を向けて向き直り、肯定だと頷く。

名前の決定を待ち望んでるステータスの精霊を龍真も見詰め返すと、周りに注意を向けながら腕を組んで精霊の名前を考える。



「…直ぐには中々浮かばないな…取り敢えず考えるけど、お前が聞きたい事っていうのは何なんだ?」


直ぐに相応しい名前が浮かばなかった龍真は精霊の命名を先送りにして、良い名前が浮かぶまでの間を埋める為精霊からの疑問の解消に話を進めた。


「はぁ…そ、そうですか。え…と、私が聞きたいのはですね。龍真さんが此処に来る前何処から来て、最初から持っていたスキルをいつ何処で発現したのかって事です」


考え込んだ割に後回しにされ、若干引き気味になったステータスの精霊は姿勢を正して自分が疑問に思っていたステータスの内容を質問するが、それを聞くと今度は龍真が訝しげな顔を見せた。


「そうだな、日本って場所を知ってるかどうか聞いた時点で予想出来る通り、俺はそこから来た。後、スキルの発現がいつかについては…俺も知らない。そもそも 今日迷い込んだばかりで知る訳無いだろ」


「それは…そうですね。何の例外もなければ産まれた時から私達が居るでしょうし、此処と陸続きで覚えもない地名からこんな場所に居る訳有りません。…ですが異世界人なんて初めてで、こんなスキルの所持者も初めての事だったので動転してしまいました」


"異世界人"という部分が指すようにそれを見れば質問の答えも大体分かりそうな物の興奮していたとはいえ聞いてしまった事で罰が悪そうに俯き、勢いを無くすステータスの精霊を見て龍真は少し罪悪感を覚えつつもステータスで得て会話から理解出来た新たな情報を頭で整理した。


異世界からこの世界に転移してきた者は龍真が初めての事。

所持スキルも【多言語理解】が追加されたものの【万物創造】は何の前触れも無く始めから持っていた固有のスキルだと言っている。


転移者は龍真以外の前例が無いとは聞いたが、異世界転生者の方はもしかしたら他にも居て何処かで過ごしているかも知れない。

そう思うとそんな人間を探すのも良いかも知れないと思っていた龍真の脳裏に精霊に付ける良い名前が舞い降りて来た。


「…───そうだ、もちこ」


「えっ?」


「お前の名前、今思い浮かんだ。これからお前は"大福もちこ"な」


唐突に思い浮かんだ名前を口にしてステータスの精霊が確認するのも構わず、龍真がフルネーム"大福もちこ"を命名する。

そしてその余りにも残念な名前に一瞬固まり肩を震わせたステータスの精霊の絶叫が危険も省みず森の中に反響した。




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