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母の願い


最初ミアティスの母親視点で進みます。





《良かった…どうか、これからは…幸せに…》


スレイリンクを終え、ミアティスという名を付けられた娘と主の龍真さんを見送った後、私は娘の幸せを願い、せめて娘の無事を確認出来るまではと振り絞っていた力を抜いて瞼を閉じました…。


私も人族との混血でしたが、幸いな事に姿はフェルスアピナのまま、人間の父から受け継いだのは知能の方でした。

父は私の母と愛し合った後何処かへと旅立ち、母は私が成体になった直後他の魔物と争い命を落としました。


父と母の影響からか、私は他の魔物より人族の方へ興味が向いてしまったのです。

それが愛しい娘の迫害へ繋がると知っていたなら…例え嫌悪する容姿だろうと私は他の魔物と子を成した事でしょう…。


地上ではあの子達が逃げているのでしょうか。

少なくともあの人族は自分が敵わない相手なら無謀に挑むような蛮勇には見えませんでした。

未だ少年の様に見えましたがきっと達観させるような人生を歩んで来たのでしょう。

戦っていなければ良いのですが。


私の生の終わりが近いのか、色々な事を思い出します。

人族もこういう事があるんでしょうかね。


………あれは視界が霞む程の雨の日でした。

私が羽根休めで木の上に腰を下ろすとその下に一人の人族が俯せに倒れていたのです。


近寄って見ると顔を真っ青にした若い雄の人族でした。

恐らくこの"勇滅の森"に挑戦するか調査するかで無謀にも一人で挑んできたのでしょう。


彼は私の気配に気付くと他のフェルスアピナとは違い直ぐに襲い掛からなかった事に疑問を持ったのでしょうか?

暫く眼を合わせた後、"この森に入った時点で死は覚悟している。殺されるのは当然だと思うが毒に犯されたこの身体を食べたりすれば死ぬ…だから口にするな"…こう忠告してきたのです。


人族とフェルスアピナの混血だった私は人族の文字は分かりませんが人族の言葉は理解できました。

私が彼に対して頷いてみせると驚いた顔をして、そのまま意識を失ってしまいました。


私は彼がこのまま朽ちていくのを可哀想だと思い、彼の身体を傷付けないように足の爪で服やベルトを掴み雨に濡れず解毒の実が作られる木々の近くの岩陰に運び込みました。


端正な顔立ちを眺めていると彼の呼吸が激しくなったから私は雨の中解毒の草を取りに行き、口で咀嚼して彼に飲ませたのです。

呼吸が落ち着いたらこれ以上悪化する毒ではありませんが、体内の毒を抜かなければなりませんでした。


私に有るのは爪と牙ですがどちらも人族の身体では雑菌が入り血液からの毒抜きは危険を伴います。

…そうでしたね、だから私は人族の雄と交わりを持って助ける事にしたのでした。

別の方法で彼を助けられていたら、別な生き方が出来たのでしょうかね…。


その時の私にはそれ以上の考えが思い浮かばず、この事が影響で私はあの子を授かりました。

フェルスアピナの血が半分の私が、更に半分の血を分けて生を受けた子…それが人族の影響が強まる可能性が高い事を…産まれてくるのを楽しみにしていた私は考えられませんでした。


産まれてきたあの子は人族によく似ていました。

余り詳しくは有りませんが翼人族…という種族が居るのを耳にした事が有ります、恐らくそちらに近いのでしょう。

魔物同士で交われば大抵フェルスアピナの姿で産まれてくるのですが、人族の血が強いこの子は特殊な個体となって生を受けたのです…。

けれど私の胸元で笑顔を向けるあの子を見ていたら安らぐ気持ちになって、何が有っても守ってあげようと決めたのでしたね。



…それからのあの子の生の時間は辛い物だったはずです。

私が居る所では目立った害を受けてませんでしたが、一人の時は明らかな迫害を受けて育って来ました。


同じ世代のフェルスアピナとも仲良くなっても親の影響で遊べず、仕舞いにはその子達から暴言を浴びせられ…その親からも忌避の眼を向けられ、人族と同じ手が有る為に雑務を一人で請け負い、孤独と群れの扱いで満足に会話もさせて貰えず私以外に心を閉ざしてしまった…この危険な森では群れを成して生きなければたちまち命を散らす事になるとは言え、何年も酷く辛い想いをさせてしまって…私は親失格ですね。


…どうか許して下さい。


いえ、許さなくても良い…その分幸せになって欲しい。


けれど、私の願いは叶う事無くこの日を迎えてしまいました。


高位の魔物が住処にやって来る…私達では束になっても追い返せない程の。



この報告を受けた私達の群れは早々に住処から去る事を決めました。此処までは良かった。


《足手纏い、イラナイ…生け贄おくゾ》


群れの何体かのフェルスアピナが特殊個体のあの子を生け贄に差し出そうと提案しました。

囲まれて萎縮して、声も出せない娘を庇う味方は私以外いません。

反対も虚しく…あの子は地下に幽閉されました。


こんな終わり方なんてさせない。

こんな事の為にあの子を産んだ訳じゃない。


私はこれが最後になっても構わないと仲間達の隙を突いて幽閉されたあの子を外に逃がしました。

運良く生き延びてくれるなら此処に居て生け贄にされるよりずっと良い。


何度も振り替える娘を見送り、私はあの子の代わりに私は生け贄として幽閉されました…今度は逃げられないように、そして鬱憤を晴らすように痛め付けられて。


こんな痛みが何だと言うのでしょう、心を多感にさせてしまった娘が受けた痛みはもっと痛くてもっと辛かった筈です。

この程度では肩替わりには程遠いですね。


可能性は限りなく低くとも、私の命の代わりに高位の魔物に娘の守護をお願いしようとしたら…あの子ったら、此処に戻って来ちゃって。


羽根が傷付いていたけど少し後ろに人族が居て、恐らく助けられたのだと思いました。

一度助けてくれた彼なら安全な所に連れて行ってくれるのではないかとお願いしたら了承してくれて本当に救われました。


逃げるように促した直後、周辺一帯にとても激しい重圧が襲い掛かって来ました…これは高位の魔物…という次元ではありません。

ところが、人族の彼は特に恐怖を感じてませんでした…私達ですら押し潰されそうで恐ろしいのに。


彼が持っていたイビルティグレスの牙を見て一人であの魔物を倒せるなら娘を守ってくれるのではないかと感じて、送り届けるのではなくスレイリンクの方をお願いしました。

勝手な母親で、図々しい魔物で…こんな姿で同情を誘ってごめんなさいね。


でもあの子が守られるのなら、幸せの可能性があるならどう想われても構いません。


幸い彼、龍真さんはスレイリンクを承諾してくれて…しかもその場で誓約してくれた。

未だ少年なのに私の事まで考えてくれて、有難う。


最後に娘にも会わせてくれて、もう私は充分…。


振動が止んだ、という事は逃げられたのかしら。

血を流し過ぎて何も聞こえない中、私は暖かい何かに包まれて痛みがどんどん和らいでいきました。


どうやら、高位の魔物の生け贄とされる前に生が終わるみたいですね…。

こんな安らかな気持ちで終わりが来る魔物がどれ程居るでしょうか。


あぁ…叶うならもう一度、笑わなくなって久しくなる娘の…ミアティスの笑顔が見たいですね。



《───…さんっ!お母さん…っ!》


これは夢でしょうか、娘の声が聴こえます。

今眼を開けたら姿が見えるのでしょうか…?







─────────────────────────────

────────────

───…


《お母さんっ、良かった……良かっ、た…っ》


ミルガ・ヴォリオスの回復スキルは傷付いたミアティスの母親を完全に癒し、母親は眼を覚ました。

治療してる途中、母親の傍に寄り添い目覚めるのを待っていたミアティスの顔を見て、母親は夢ではないかと戸惑っているようだ。


《ミア、ティス…?私の生は終わった筈では…》


《貴女の傷はコレに治療させた。原因はこいつに有るだろうし貴女にも生きていて貰わないとミアティスの今後に大きく関わる》


《龍真さん…それに、せ、聖獣様…?》


ミアティスの横に龍真が近付き母親に事の元凶と治療した本人のミルガ・ヴォリオスを指差した。

"コレとかこいつとは大層な物言いではないか、友よ"等と悪態吐くミルガ・ヴォリオスを龍真は無視して母親の容態を確める。


くいっ。


不意に龍真の服の裾を引っ張る感覚が起こり、龍真が視線を向けるとミアティスが龍真を見上げていた。


《マスターぁ…あり、がと。ありがとぉ…》


母親を救ったのは龍真本人ではないが龍真がいなければこのような結果にならなかっただけにミアティスは満面の笑みを浮かべて母親以外に少しだけ心を許せる自分の主に礼を告げ、期せずして見たかった娘の笑顔を見れた母親は静かに見守っていた。


(…ん、これは映像にしても絵に出しても映える笑顔だな)


小さく頷きミアティスを見ながら素直に感謝を受け取れない龍真は異世界で過ごしていても作品作りに貪欲だった。





読んで下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。



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