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聖獣との戦い


龍真達がフェルスアピナの住処である岩山の外に出ると辺りは凄惨な光景に包まれていた。


《ほう、何か居るとは思っていたが人族とフェルスアピナの特殊個体か…迷子…と言う訳では無さそうだな?》


辺りを確認していると上空から声が放たれた。

龍真達が揃って上を見上げると翼を羽ばたかせ下を見下ろしている雄大な天馬が一体存在していた。

特筆すべき外見と言えば全身が漆黒で彩られていて額に有る角だけが黄金に輝いている事だ。


「もちこ、この世界にはペガサスって何頭も居るのか?」


「ペガサスって何?あれば聖獣ミルガ・ヴォリオス…最上位種の魔物、だよ」


《「聖獣…ミルガ・ヴォリオス」》


明らかにペガサスだと思った龍真は共通言語の生物だろうと思ってペガサスかどうか訪ねてみたが、期待した答えは得られなかった。


寧ろ龍真からしてみたら期待を良い方向に裏切られた形になる。


《私を知り、私と会話が通じる人族とは珍しいな…その特殊個体は私への供物か?》


《いや、この子は俺のスレイモンスターだ。それよりお前…俺とスレイリンクしないか?》


ミルガ・ヴォリオスは龍真を見下ろし一見物珍しそうに笑みを浮かべたような表情を作り、ミアティスを一瞥すると放棄された住処からの供物かと尋ねたが龍真は即答で否定する。

そして欲しいスレイモンスターの条件に見合ったミルガ・ヴォリオスの全身を眺め、逆に契約を持ち掛ける。

出来ればミアティスに捕まって飛行するのは避けたい本心とこの場を話し合いで納められる一見我儘で実は一石二鳥の龍真の提案だった。


《ふっ、はっはっはっはっ…面白い事を言う人族よな!まさか、無礼にもお前呼ばわりをして私をスレイモンスターにしようなどと言う輩が居るとは思わなかったぞ?》


一瞬硬直した後ミルガ・ヴォリオスにとっては予想を上回る提案だったようで大きな笑い声を挙げる。


《じゃあ俺と戦ってもし俺が勝ったら…って言うのはどうだ?》


《そいつはまた面白いっ!私と戦う無謀さも去ることながら、戦って勝つとな?愚かで惰弱な人間如きが!》


次案として龍真が住処から狙いを変えるために勝負を持ち掛けてみると面白い程あっさりと食い付く。

勇滅の森の魔物が人族を下に見ているのを感じて挑んでみたのだが聖獣も同様だったようだ。


ミルガ・ヴォリオスが雰囲気をがらりと変え、翼を一度羽ばたかせると力を乗せた風圧が龍真達に襲い掛かる。

木や石の破片が殆ど無くなっていたのは逆に幸いだった。

龍真やもちこは兎も角、ミアティスに関してはほぼ直撃する災害を防げたのだから。

暴風が収まると龍真は無言でイビルティグレスの牙を構える。


《この森の仔猫の牙か…何処で手にしたか知らないが貴様が倒したのではあるまい?それに仔猫程度の牙などどうとでもなる》


イビルティグレスを仔猫と呼んだミルガ・ヴォリオスは饒舌に語っていた。

龍真は推測で強いが為に孤高の存在なのではと予測し会話の途中で攻撃せずに黙って聞いた。

こういう"お約束"は余程の事じゃない限り守るべきだと思ったのだ…でなければ冷酷無慈悲になってしまう。


因みにもちこは完全に姿を隠蔽して気配を殺していた。

彼女はステータスを司る精霊で知識はあっても戦闘要員では無いからだ。


《ふむ…上空からの遠距離攻撃で絶望を味わわせ屠るのは容易いが、たかが人族にそのような必要もあるまい。ハンデとして地上で遊んでやろう》


ミルガ・ヴォリオスは心に隙を見せていた。

"自分を倒せる者は殆ど居ない"、"たかが惰弱な人族"、"何をされても自分を傷付ける事は出来ない"…そういう思いと長年に渡る常勝無敗の経験が無意識の内に油断を生んでいたのだ。


(即死攻撃は最後の手段として残しておこう…可能な限りスキルを使いこなす特訓をしないとな)


最短で最善の戦闘方法は【断絶結界】を発動しながら【即死弾(キルバレット)】で戦闘不能にする事だったが、それではスレイリンクも難しくなる為合わせて戦闘してくれてる内に近接戦闘で出来る所まで戦う事を選択した。


《そら、遠慮しないで好きな時に攻撃して来るが良い》


《…分かった》


レベルが上がっているのは肌身で実感出来てる龍真だったが、何処までの事が出来るのか、自分の身体の限界を龍真は未だ理解出来ていなかった。

尊大な態度で待ち構えてるミルガ・ヴォリオスを前に龍真は一言返事すると突きの構えを取り、取り敢えず思い切り力を込めて突撃した。


《…!人族の出せる速度では無いな》


龍真が数歩地面を駆けただけで龍真とミルガ・ヴォリオスの距離は無くなった。

本人も予想外の速度だったようで既に到達していた事に龍真も驚いていたが牙がミルガ・ヴォリオスの身体に達する事はなく、激しい音を打ち鳴らし黄金の角によって阻まれていた。


《…次、行くぞ》


《調子に乗るでないわ…っ!》


迎撃された龍真は競り合って力比べせず直ぐに距離を取って次の攻撃を繰り出そうとするとミルガ・ヴォリオスも黙って見ておらず光輝く閃光弾を4発放った。


「【識別眼】、【断絶結界】…こうして見えるなら」


攻撃が迫る前に龍真は【識別眼】と【断続結界】を発動させ万が一に備え、眼を凝らし光弾の動きを見る。

1発目、大きく右横に回避する。

2発目、身体を下に沈ませ光弾から逃れる。

3発目、イビルティグレスの牙で近くの岩を叩き身体を捻って紙一重で回避する。

4発目、後ろに岩山の住処とミアティスが控えてた為実態が有るか分からない光弾に対し即死効果を纏わせた牙を叩き付け消滅させる。



《貴様…本当に人族か?》


速度を把握した後のミルガ・ヴォリオスが繰り出した閃光弾、最初は大きく回避していた攻撃を4発目には周りを把握した対応まで取られた事は少なからず動揺を招いた。


仮に龍真が瞬き一つで成長を続けていると知っていたのなら対処は変わったのかも知れないが。


《自分の速度には慣れて来たし何とかなりそうだ…力の方も試してみるか》


ミルガ・ヴォリオスの問いに応える迄もなく、龍真は小石を4つ拾い1つずつ思い切り投石する。


《小癪な人族めっ》


高速で飛来する小石に苛立ちを覚えたのか、ミルガ・ヴォリオスは漆黒の翼を拡げ羽ばたきで小石の軌道を逸らす。

最後に2つの小石を同時に投げた龍真は1つを直線で、もう1つを近くの岩に投げ跳弾を使って時間差攻撃するが肉眼で視認出来る程の風を巻き起こして撃ち落とされた。


《…意外と上手く行くと思ったんだけどな。》


《は、無い知恵を絞って頑張りよるわ…っ!》


ぼそりと呟いた龍真の声が聞こえていたのか、ミルガ・ヴォリオスが挑発的に嘲笑うが次の瞬間龍真が再び隙を突いて突撃し、再度黄金の角で受け止める。


今度の突撃では直ぐに離脱せず互いに視線を絡め睨み合い、暫く競り合うと四足の利を活かしたミルガ・ヴォリオスが龍真を弾き返した。


《今度はこちらの番だな、精々耐えてみるが良いっ》


態勢を崩し弾かれた龍真を見逃さず四足の足に魔力を溜めたミルガ・ヴォリオスが初速からトップスピードに乗った眼にも留まらぬ速さで龍真に角を使った突きを放つ。


(最初の動きより遅く感じる…だが油断は出来ないな)


【識別眼】で軌道を読み、レベルアップした事で視力も成長した龍真は高速の一撃を受け止めず牙の腹を使って左上に払い上げる。

しかしミルガ・ヴォリオスは剣のように角を扱い、払い上げられた位置から龍真へと切りかかり巧みに首を振って鋭い連撃を繋げ龍真を防戦に追い込む。


「…っく」


武術の心得の無い龍真は眼と身体能力に頼るのみで何とか受け止め続けたが、やがて限界を迎え不安定な足場でバランスを崩し宙に投げ出された。


《貰ったぞ!》


無防備な龍真目掛けて角を降ったミルガ・ヴォリオスだったが龍真は眼を見開き【断絶結界】を集中して念じ必死確定の一撃を擦り抜ける。


《此処だ…っ》


今度は空振りしたミルガ・ヴォリオスの胴体に向けて牙の腹を思い切り振り下ろし龍真が攻撃するがミルガ・ヴォリオスは尻尾に魔力を纏わせ、牙の腹に巻き付け攻撃を止める。


《小僧、貴様面白い身体をしているな。それに動きも良い…仔猫が倒され牙も採られる訳だ》


《それはどうも…》


イビルティグレスの牙を巻き付けたミルガ・ヴォリオスと離れるにも武器を手放せない龍真が会話を交え、龍真が牙に【断絶結界】を掛けて尻尾の巻き取りから逃れる。


《たかが人族だと思っていたが意外に面白い戦いをしてくれるじゃないか。褒美に私も少し面白い物を見せてやろう…集え光よ》


永い時を生き、孤高の存在となったミルガ・ヴォリオスにとって余程刺激的な戦いだったのだろう。

心底楽しそうな声色で龍真への侮蔑の認識を改め評価すると共に身体に光の粒子が集束していき全身から光を放つ。


《果たしてこの攻撃に耐えられるかな?》


漆黒の身体とは真逆の光の力を纏わせたミルガ・ヴォリオスが尊大に笑い龍真を見据えた。





読んで下さってる皆さん、本当に有難うございます。



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