魔物から救出を頼まれたからやってみた
《此処がお前達フェルスアピナの生息している一帯なのか?》
龍真達は一際大きな岩の山々に辿り着いた。
所々人が通れる程度の大きさの穴が空いておりちょっとした人間の集落に近い佇まいをしていた。
《えっと、他の群れは、何処に居るか分からない…けど、私のお母さんが捕まってるのは、此処…》
何処かのゲームや漫画に登場するかのような親近感を持った生息地帯だと龍真は思ったが、救出を頼まれてる身としては余り感慨深く見入ってる場合ではない。
次はゆっくり来て携帯で撮影でもしようなどと暢気な計画を立てて眺めていると、この住処から生物の気配がほぼ感じられない事に気付く。
《本当に此処で合ってるのか?》
《あ…うん、そう。だって、さっきまで皆、居た。》
フェルスアピナの少女の飛行速度がどれ程の物か知らないが、こうして短時間で戻って来れた事を加味して推察するにそれほど時間が経っているとは思えない。
なのにこうして気配がないとなると何か起こった事は間違いなかった。
《「そうか、じゃあこうしていても仕方無いか…突撃しよう」》
少女にも原因が分からないのであれば眺めていても仕方無いと龍真は小石を数個手に持ち、フェルスアピナの住処で一番近い穴へ向かって歩き出す。
「龍真さん、突撃って流れになったの?」
魔物としての言語で会話をしていた龍真が急に口を開いたかと思ったら殺傷武器に変わる小石を持って歩き出したのを見て話した結果の突撃だと思ったもちこは龍真の隣を飛んで尋ねる。
「いや、気配が殆ど無いから入って確めないといけないからな。丁度試したい事も有ったし好都合かも知れない」
もちこの問い掛けに首を横に振り独断だと返答した龍真はフェルスアピナの住処を睨み付け【識別眼】を発動させる。
(他の個体は見た事無いが…救出するのがこの子の母親なら…)
初見の相手の弱点を見付ける程の能力が有るスキルなら人を探索出来るのではないかというのが龍真の見解でそれが可能か試す為に龍真は少女の方を振り向き、【識別眼】で捉える。
(この子の個体を点灯表示、そして連結対象を血縁者にすれば…出来たみたいだな)
スキルの識別のイメージで少女に焦点を絞ると淡い緑色の光を放ち始め、関連する対象を同じ色で表示する様に判別させて見ると住処の地下の方が同じ色で淡い光を放った。
思っていた意図通りに扱えて口端を釣り上げ喜びを露にすると、手招きして住処の中に侵入した。
《母親は地下に居るみたいだが…魔物の気配は無いな》
《はい、…あ、あの…っ、どうして…下に居るって分かったの…?》
住処に入り込み地下に繋がる道を探しながら他の魔物が潜んでいるかと警戒していたがこの岩の住居はもぬけの殻だった。
初めて入る筈の龍真が自分の母親の居所を大まかとは言え的中させた事に少女は何度目かの驚いた表情を見せる。
《スキルの1つって事しか教えられないな。お前の仲間とは言え敵意を剥き出しにして襲って来たなら対抗しないといけない…》
《アナタ、不思議な人…多分…こっち》
少女の問い掛けに多少の罪悪感は残るが龍真は最低限を教えるだけに留めた。
日本時間にして1時間にも満たしてない接点の相手に教えられる内容でも無い。
不思議そうに首を傾げていた少女は自分が見覚えのある場所に出たのだろうか、一歩前に出てわずかながら積極的な案内を始める。
龍真とほぼ存在を消してるもちこは少女の案内に従ってフェルスアピナの住処を進んで行く。
何度か開けたフロアを通過していくと下に降りていく坂を見付けた。
少女が指差す下り坂と【識別眼】で確認した反応は一致している。
(…これは…血の匂いか?)
下に降りて行くに従って最近になって嗅ぎ慣れた血の匂いが鼻腔を擽る。
直ぐに攻勢に入れるように身構えながら更に奥へ進んで行くと岩が重なる行き止まりに辿り着いた。
《……不自然にある岩の造りの後ろに幽閉する部屋が有ったりするのか?》
《っ!そうだけど、なんで…?》
行き止まりの手前で全体を見回した龍真は反応の手前に重なってる2枚の岩を指差して場所の最終確認をしたのだが見事的中したようだ。
簡単に見破られたのは龍真がそういうジャンルに精通していたからだろう。
ゲームのダンジョン攻略やダンジョン探索系小説なんかでは有りがちの仕掛けな上に今は【識別眼】で確認まで出来る…これで把握出来ないという状況は有り得なかった。
(…ゲームとかなら色が変わって見える処置はしてそうだが…実際に見ると結構同化してて分かりにくいんだな)
これから救出するというのに不謹慎な事を考えていた龍真はふと岩の破壊をしないといけない事に気付き、少女に"これもスキルだ…"と簡潔に答えると小石を2つを持って【即死弾】をそれぞれの岩に放ち、粉々に砕いた。
砕いた岩の影響で砂煙が舞い上がったが岩の奥は思った通り空洞になっており、隠された場所が徐々に晴れていくのに比例して鮮烈に血の匂いが立ち上がる。
《お、お…お母、さん…っ》
砂煙が晴れて確認出来たのは少女の母親1人だった。
髪を毟られ、牙を砕かれ、羽根は無惨に引きちぎられた上に変な方向に曲がっており身体は鋭利な刃物で無数に刻まれた傷が刻まれ、脚は何本もの杭で貫かれ至る場所から出血していて生きているとは思えない状況だった。
《「…酷いな、息は有るのか?」》
《どう、したの…お母さんっ?何で、こんな…》
少女は母親に近付いて膝を着き動転している。出た時は元気だったのに短時間で戻ってみればこの様子なのだから無理もない。
龍真も追従して母親に近付いて見たがか細く息をしているだけだ。
もし1日遅れていたら恐らく助からなかっただろう。
《う…ん……何故、戻って来たの?逃げなさいと、言った筈よ》
《けど、お母さんを見捨てたくなくて、助け…呼んできたの。羽根、撃たれて…落ちちゃったけど、助けてくれて…人族、なんだけど、不思議な力使うの…》
母親に意識が戻ったようで微かに目を開けて娘の存在を確認すると直ぐに戻ってきた娘を叱る。
少女な少女で母親を見捨てたくなかったようで独断で助けを求めたらしい。
少女は隣に居る龍真の事を母親に説明する。
《余り無理に喋らせたくないから簡潔で良い、何が有ったのか教えてくれ》
《貴方は…私達の言葉を理解出来るのですか?》
怪我の状態を考えれば安静させるべきなのだが事情を知らないと困る為龍真は簡潔な説明を求めたが母親は言葉が通じる事に驚いていた。
黙って頷き母親を眺めている龍真に母親は言葉を続けた。
《この住処はとある高位の魔物に狙われました、私達が束になっても敵わない魔物ですから他の仲間は皆、先に逃げたのです。…私は娘が生け贄にされそうなのを知り、娘を逃がしましたが代わりに生け贄として抵抗出来ないようにされ、残されたのです…》
要約すると大量の仲間を逃がす為に1人残し生け贄にしたと言う事だ。
母親はそのままハーピーの姿と酷似した状態だが少女は違う為生け贄に選ばれていたのだ。
そうなると羽根を撃ち抜き、少女を落とした存在は同族だと見て間違いないだろうと龍真は判断した。
《人族の方…私はもうこんなですからこのような姿の娘を守ってやれません……通り掛かりの貴方に頼むのは申し訳有りませんが、安全な所までで構いません…娘を連れてって貰えませんか?》
母親は必死な眼を向け龍真に娘の身の安全を守って貰うように嘆願してくる。
少女の容姿を見れば今後を案じるのは一目瞭然だろう。
《分かった、それより…此処に来る高位の魔物とやらを倒したら、貴方を救う手立ては有るのか?》
《え…?》
人間と変わらない親子関係に龍真は承諾すると続いて問題解決に高位の魔物を討伐すると提案したら少女と同じ顔で母親が驚く。
人族への扱いを見れば倒せるとは思ってないのは明らかだったが、母親がそれを口に出す前に住処全体に得体の知れない重圧が襲い掛かる。
《さて、私の新居に巣食う邪魔者は未だおるか?》
12月も宜しくお願いします。読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。