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近距離戦闘の確認


龍真が取り出し構えたのはイビルティグレスの牙だったのだが、フェルスアピナの少女を見る限り他にも同系統の魔物がいるらしい。

某有名RPGゲーム等の基本種と上位種みたいな物だろう。


《ティグレスって名前の付く魔物は複数居るのか?俺が使ってるのはイビルティグレスっていう魔物の牙なんだが…っ》


《えっ…っ!!》


グラ・ダルガスの方を警戒しつつ少女に確認していた龍真だったが会話の途中で転がっていた木を掴み武器として使って振り回してきた。

大概こういう場面では話が一区切りするまで攻撃が無いのがお約束という奴だが現実襲われればそう都合良く待ってくれなかった。



《そこの、あー…グラ・ダルガス、だったか?言葉は通じるか?》


《メス、メスダ…メスハハラマセロ!ジャマハコロセ!》


《ひ…っ》


攻撃を避けて接近戦闘の練習になると判断した龍真はイビルティグレスの牙を両手で持ち一応話が通じるか声を掛けてみた。

興奮したグラ・ダルガスから返された返答は大体予想出来ていた物で、発情期でそうなっているのか異性を見ると変わるのか分からなかったが繁殖の為に襲いに来たようだ。

異様な殺気と興奮に加え自分が対象として狙われた事でフェルスアピナの少女は小さく悲鳴を上げる。

こんな場所に居るとは言え、身体が脆くか弱い人族が幾ら見栄を張って立ち向かった所でこの森の魔物には1人じゃ相手にもならないと言うのが少女の先入観を締めており、無事でいる事は絶望的だった。


《取り敢えずゆっくり話せるようにするのが先だな…》


《逃げ、ないの…?》


巨大な魔物と対峙して慌てて逃亡するでも無く立ち向かって倒すとグラ・ダルガスを見据えた龍真の表情に見栄を張ってるような感じが無かった事から少女が龍真の背中に問い掛ける。


《どの道連れて逃げても追ってくるだろうし、助けたのに見捨てるって言うのも後味悪い。練習にもなるし逃げる理由も無いな》


今度は振り向かずに少女の問いに応えた龍真は【識別眼】を発動して弱点を見定め、牙による突きの構えを取った。

弱らせる為に殴る事には使えても加工してない牙は剣と呼べる代物ではなく、相手を痛め付ける趣味もない龍真には最善の構えだ。


《「ついでに防御の方も確認しておくか。大して痛くないと良いが経験しないとな…」》


グラ・ダルガスの持つ木材は丸く、牙や爪のような殺傷能力も明らかに低い為初撃は受けて痛みや衝撃を体感する事にした。

大事な局面で力を発揮出来ないと困ると感じた龍真の大胆な判断だった。


「龍真さん、武器はアレだけど力は本物だから」


眼に映る外見の筋力より遥かに高いと注意するもちこを眼で制止すると龍真はグラ・ダルガスに向かって走り出した。


《あ…っ!》


(当たる様な危険の無い場所に居ると使う機会も無いからな…あの木の攻撃が当たる直前で……)


グラ・ダルガスが太い腕を振り下ろし接近する龍真の肩に叩きつけようとした瞬間、龍真は覚悟を決めてスキルを発動する。


「【断絶結界】っ!」


「うそっ!」


一切の衝撃を殺さず龍真に降りかかる筈の攻撃は龍真の身体をすり抜けた上で地面に叩き付けられた。

見た目古そうな木で地面を抉る辺り絶妙な力過激が成されているのだが攻撃がすり抜けた邪魔者に本人は困惑している。


「…感覚は有る、身体も他の場所も触れる。相手の攻撃から自分を断絶してしまうのか…?」


自分の得たスキルが攻撃を通さないと分かると今度は他の部分が気になり始めた。

グラ・ダルガスは棒立ちになり考え込んでる龍真の身体を思い付く限りの攻撃方法で滅多打ちにしているのだが全く手応えが無く全て擦り抜けている。


「場所は指定無く全身…後はスキル使用のリスクとか継続時間とか周囲への影響とかが気になるが今は戦いに集中するべきだな」


顔を撃ち抜かれた時は一瞬ヒヤリとしたが結果どの部分でも攻撃が通過してしまったので放置して効率的な使い方を考えてしまった。


《ど…どうなってるの…?》


「龍真さんってば…効果が知りたいなら実践で確認しないで聞いてくれたら良いのに~…」


眼を丸くして驚きっ放しのフェルスアピナの少女の横でもちこは苦笑いを浮かべて不服気味に呟いた。

自分の立つ瀬が無い事を考えられてしまえば仕方無い態度だが。


「武器はどうだろうな…」


意識を切り替えて最早何の危険性も無くなった振り回される木の横薙ぎの動線に入り、牙の中腹辺りに手を添えて攻撃を受け止める。

再び振り回して肉薄する攻撃の直前で【断絶結界】で武器を覆うイメージを牙に流し込んでみた。

すると今度は攻撃が牙と龍真を擦り抜け空振りして、グラ・ダルガスが大きく身体の重心を崩してしまう。



「有難いスキルだな…お前が武器を扱う魔物で助かった、お陰で戦いの幅が増えた」


《ア…ガ…メスガ…イルノニ、キサマ……ヒト…ゾク…ゴトキニ…》



重心が崩れたグラ・ダルガスの丸見えの弱点に狙いを定め、即死能力を纏わせたイビルティグレスの牙の先端を腰の捻りを加えて貫く。

ピンポイントで急所を抉られたグラ・ダルガスは悪態を吐きながらぐりんっと目玉が反転して白眼を向き、口から血を吐き出して仰向けに倒れた。


「…余程人間が弱い世界なのか…?怪我も無かったんだし別に良いか」


辺りを見回して木を振り回した被害は出ていた物の、自分達や守ろうとした対象が無事だったと一安心した龍真は牙を【自由保存】に収納してフェルスアピナの少女に向き直る。

最初に見た時より警戒心が薄れ、眼に輝きが宿っている様に見える。


《あの、イビルティグレスって…アナタが、倒したの…っ?今の…って、直ぐ使えるの?…ぁ、と…どうして人族、なのに…そんなに、強いの?》


《イビルティグレスなら…俺が倒した。今のって言うのはどれが当て嵌まるのか定かじゃないが、どれもスキルだから直ぐに使える。何で強いかに関しては…俺も分からないことばかりだから答えられないな》


戦闘が終わった後、少女は立ち上がって龍真に詰め寄り捲し立てる様に質問を重ねてきた。

その必死な眼差しを見て適当な返事で受け流すという野暮な考えは消え去り、龍真は答えられる範囲でなるべく手短に返答する。

長く話して何処まで理解出来るか分からなかったからだ。


《うん、それなら……この人なら、もしかしたら…》


(…成程、これは恐らくイベント発生して厄介事に巻き込まれる展開か。今回は魔物だから良いが対人相手には気を付けないとな)


《お、お願い、しますっ!私のお母さんを、助けて欲しいの…っ!》


少女が何かを話す前に次の言動を大体察した龍真は続く少女の母親を救出して欲しいという懇願にやはりそうかと納得する。

自分の今後を決める選択なのにイベントと捉える作家として、読者としての考えを捨て切れない龍真だった。


《「母親を助けて…か、案内出来るか?」》


未だこの少女しか見ていないフェルスアピナの他の姿にも興味が有ったしこの個体が迫害を受けてるのは納得出来ても交わった母親は無事だろうと思っていた龍真は何となく放っておけなかった。

無断で行方不明になった龍真の事を知った両親がどういう思いで生活してるのかが一瞬頭に浮かんだ事も要因の一つだろう。


直ぐに決断して少女に案内を求めると龍真に向けて満面の笑みを浮かべた。

愛らしい笑顔を見せる少女に"自分も後20年若ければ口説いてたかもな"等と考える精神34歳の龍真だった。


「え?この子の母親助けに行くってなに?」


そして、ろくな通訳も伝達もせずに二人で会話して今後の行動を決めた為、完全な置いてけぼりを食らってしまったもちこだった。


「悪い、話すの忘れてた」


嬉しさを隠し切れず手を引いて案内する少女と振り返って謝罪する龍真の後を置いてかれたもちこが着いて行く流れでフェルスアピナの住処へと向かって行く。






読んで下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。




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