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従魔が欲しい


「…色々考えたが、結局異世界転移系に従魔は欠かせないな」


洞窟に住居を構えてから数週間が経過していた。

【識別眼】で水源や温水の在処も判別出来る事が分かった龍真は早速無害の温水を掘り出した。

方法は【即死弾】で水脈の位置まで岩盤や土を死滅させて貫くえげつないやり方だったが。


火に関しては取り敢えずライターで賄っていたがいつまでも使える訳では無いので火起こし機を作るなり魔法を覚えるなり何か対策が必要だった。

衣服は持ってきた物を使い回しして川の水を引いてきた貯水場所の一つを洗濯専用として使用している。

川の水を近くに引いて来るのにイビルティグレスの牙が丁度持ちやすかったのでそれで掘り、小石を敷き詰めて簡単な水路の様にしたのだ。


イビルティグレスの牙は武器にも加工出来るらしく雑な使い方をしていたらもちこが慌てふためいていたが龍真は関係無く使っている。

洗濯洗剤は無かったが食べるのに適して無い青色の果実の実が同じような効果が有ると識別出来たので青い液体を混ぜて除菌していた。

甲殻を持った人間サイズ位のカニの様な魔物が居たので倒して殻を削り洗濯板に使った。


食事に関してもいつまでも持ってきた食料は無いだろうと魔物の肉を少量解体して加工した枝に突き刺して食べてみた。

食べれる物のスパイスや調味料が欲しいと感じた龍真はそれらを見付けてやろうと早々と決意したが中々見付からなかった。

人里に降りて買い物をしたらともちこが提案したのだが生憎この世界の金を持ち合わせてない龍真は頑なに拒否を示した。

下準備もせずに人と接触出来ない、命は1つなのだ。


テントの周りには防護柵が三層程出来ていた。

木の枝と蔓を使って適当に組んでみたが無いよりはマシだと思って作り続けた。

作る度に柵の強度や仕事効率は上がっているので最初の柵より後に作った柵の方が強度が高い。

柵に何かが強く当たれば蔓を延ばしてテントの中に吊るした石が揺れ、石同士がぶつかって音を鳴らすようにしてみた。

今の所何も侵入して来なかったが用心に越した事は無い。


そして転機は唐突に起こった。


ある時龍真は遠距離での攻撃ばかりに慣れるのではなく、近距離での戦闘経験も積んだ方が良いだろうと思い立つ。


「今日は近接武器で戦ってみようか」


武器として成り立つ物など1つもない龍真はイビルティグレスの牙を持ち易くしただけの水路作成に使った獲物を剣として手に持ち洞窟の外へ出た。

【即死弾】の即死スキルを牙に宿せる事を実証済みの為、不安無く探索する事が出来た。


暫く森の中を探し回ってると再びイビルティグレスが単体で肉を貪っていた。


「何か懐かしく感じるな…牙が通るだろうか」


《む…この匂い。キサマ…その牙を何処で手に入れた?》


龍真が同族の魔物に対して刃が通るか心配していると何処からか声が聞こえて来た。


「もちこ、何か声が聞こえなかったか?」


この世界に来て一番多く会話してる担当精霊とは全く違った声だった事で龍真はもちこが何か言った訳じゃなく別の生物の声だと判断した。


《我が盟友の牙、間違える筈も無い…。非力な人族ごときがどうやって手に入れたのだ》


《「まさか、声の主はお前か?」》


今度の声はより鮮明に聞こえた。

イビルティグレスが近寄って来ていた事から龍真はイビルティグレスが発した声だと判断して、イビルティグレスに向けて尋ねてみる。


「龍真さん、近付いて来てるよ!?」


《ほぅ、我等の対話が出来るか…キサマに話してるのは我で間違い無い》


聞き慣れない声の正体はイビルティグレスの声だと判明された。


「……これは驚いた、【多言語理解】っていうのは異世界の人間の言葉を理解するだけじゃなかったんだな」


「みたいだねぇ…私には一緒にグルルーって唸ってるだけにしか聞こえないけど、龍真さんには理解出来るみたい。こんな人族は初めて…って今更かも」


人間だけで無く魔物との会話も実現可能なら無駄な争いはしなくて済む反面、戦いに躊躇して隙を作る可能性が高まった。

そしてこれだけの理解力ならば地球に戻れるなら通訳要らずじゃないかとも考えてた龍真だったがこれは頭の片隅へ追いやる。


《この牙を持っていたイビルティグレスなら俺が倒した、襲い掛かって来たんだから反撃するのは仕方無いだろう?》


《馬鹿な!惰弱な人族ごときに倒される我々では無い…ましてキサマは1人ではないか。悪い冗談は身を滅ぼすぞ?》


倒したイビルティグレスの事を隠さず話した龍真の言葉をこのイビルティグレスは聞こうとしなかった。

冗談だと鼻で笑い、本当の事を話さないと命は無いと牙を剥き出す。


《信じられないか…これでも?》


《っ!!》


成長し続ける龍真は胆力も上がっており、イビルティグレスの威嚇にも物怖じせず鋭く見詰め返し【自由保存】の中から眉間を貫き牙を抜いたイビルティグレスの亡骸を取り出した。

当の相手は様々な意味で事実を突き付けられ絶句していた。


《…信じられん、信じられんが信じるしかない。本人を見せられてはな…》


先程の勢いは鳴りを潜め、イビルティグレスは静か俯いて友の亡骸を見下ろしている。


《お前の友らしいが、倒した事は謝らない。反撃しなければ死んでいたのは俺の方だし生きる為にお前だって襲って喰らうんだからな》


倒した証拠を見せた後、早々に亡骸を【自由保存】で回収すると名残惜しそうに見詰めていたが龍真はそれを無視して謝罪しない事を告げる。


《確かにその通りだ、我が友はキサマより劣っていたからこのような結果になったのだ…文句は言うまい》


《納得してくれたか。それで?お前は俺に敵討ちをするか?》


自然の摂理として存在する弱肉強食をイビルティグレスは納得したように見えた。

しかし龍真は本心を知る為に敢えて敵討ちと称してこのイビルティグレスが戦いを仕掛けて来るか試してみた。

場合によっては放っておいた方が厄介になる危険性を持っていたからだ…復讐は恐ろしいイベントだ。


《いや…挑むまい、我が友と我は拮抗した力を持つ。結果は見えてるだろう…仲間に協力を求めて襲うのも違うのだからな》


どうやらイビルティグレスは本心から友の死を受け入れるのを選択したようだ。

返り討ちに遭って倒された者に多勢での復讐を行うのも違うという意見に龍真は表面上納得して臨戦態勢を解く。

魔物が嘘を付くか分からなかったが欺く可能性も視野に入れた為だ。

話したばかりの別な生物、それも魔物の言葉を簡単に信じられる程陽気な立ち振舞いは出来なかった。


《我はこのまま引く…慈悲が有れば見逃して欲しい》


そういうとイビルティグレスは背を向けて移動を始めた。

襲い掛かる速度を目の当たりにしていた龍真はもっと早く離脱出来る筈と違和感を感じたが、敵意は無いと証明するかの様に緩やかな足取りで離れて行ったのだ。


「魔物にも意思は有るし生活も有る…か、考えてみれば当然の話しだな」


新たな発見を得た龍真も近接武器を使った戦闘経験を重ねる目的を中断して洞窟に戻ったのだった。




色々な作業を続けながら、問答無用で襲い掛かる魔物を倒しつつ龍真は長い葛藤の末、従魔を持つ事を決意したのだ。



「本人の強さに関わらず従魔を持つ主人公や主要キャラは多くいる。時には愛らしさや強さに助けられたりする訳だし、持たない手は無いな」


「何言ってるの、龍真さん…」


読み漁ってた本や自分で書いた作品を思い出し従魔の存在の有用性を高める龍真にもちこは訳も分からない理論に呆れた表情で溜め息を吐いた。


「大体、じゅうま…って何?」


「知らないのか?魔物を従えてパートナーにするのが従魔って事だ」


あろうことか、もちこは従魔という言葉を知らないようだった。

龍真はそういう習慣やスキルも無いような異世界なら悪目立ちするから従魔を得る事自体を考えなければならないと残念に思い一瞬テンションが下がった。


「あぁ、スレイモンスターの事ね!それならそんなに珍しい方じゃないよっ」


龍真の説明にもちこは納得した面持ちで返答する。

この世界での従魔はスレイモンスターというらしい。

多言語理解がスキルに有るとは言え、文化的な違いも森で過ごす間に出来る限り覚えなければならない物だと龍真は感じた。


「そうなのか、そのスレイモンスターっていうのが1体か2体居たら便利だろうな…と思ってな」


自分の体験談を作品にするという目的で欲しいというのは伏せておいて利便性の面で必要な事をもちこに告げた。


「魔物とも会話出来るなら意外と説得出来るかも知れないしな」


嬉々として今後の予定を計画し始めた龍真にもちこはこうなったら何を言ってもやるんだろうな、と肩を竦めて龍真に近付き計画に加わった。






今回は連日投稿です。

読んで下さる方々、いつも有難うございます。



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