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9話 キレた朝霧!

スタスタと公園の中央まで朝霧が歩いてきた。

俺は体を翻し、両腕を真横に広げる。


「ストーップ、どうしてお前がここに来るんだよ」

「九条達の姿が教室になかったから、駐輪場に行ったら自転車もないし。だから慌てて追いかけてきたんじゃん」


俊司と慎の間をすり抜け、朝霧は俺の前に立って、両眉をあげる。


どうして朝霧が俺の自転車を知ってるんだ?

というか、そんなことを気にしている場合じゃない。


「今、俺が遠藤先輩と話してるんだから、朝霧は後で俊司達と一緒にいろ」

「九条こそ、退いて! 私は遠藤君と話があるの!」

「興奮しすぎだって、ちょっと落ち着こうか」

「退いてって言ってんじゃん!」

「ハイ!」


朝霧の圧に負け、俺は姿勢を正して、俊司達の元へと歩いていく。

そして後を振り返ると、大柄な遠藤先輩の前で、朝霧が両腕を腰に当て、仁王立ちになった。

すると遠藤先輩の表情がひきつる。


「結奈、今、九条と話している最中だ」

「私は、遠藤君に話に来たの! いつから私が、遠藤君の彼女になったのよ!」

「だから後からゆっくりとだな……」

「学校帰りに二人で一緒に遊んだよ。マックやスタバ、ミスドやファミレスにも二人で行ったよ。でも、それで彼女にされるのっておかしくない?」

「いや……何度も好きだって言っただろ。付き合ってとも何度も言ったじゃないか。朝霧から断りの言葉を聞いたことがなかったし。それって俺のことを受け入れてくれたからだろ」

「勝手な妄想してんな! 筋肉ゴリラ! 私に優しくしてくれたし、食事を奢ってくれてるんだから、告白されても、すぐに断れるわけないでしょ! いい友達でいたいって思ったから黙ってたんじゃん!」


朝霧は遠藤先輩の間近まで体を接近させ、睨みながら見上げてる。

彼女の答えに戸惑った先輩はヨロヨロと二歩後ずさった。


「そんなバカな……」

「遠藤君がカラオケ行こうって手を出してきた時も、私、その手を握ってないよね。マックでもスタバでも二人でカウンターに座っていた時、体を密着させるように横滑りしてきてさ。その時、私、体が触れないようにサッと離れたよね」


朝霧、止めてあげて……弱ってる遠藤先輩にトドメを刺さなくてもいいだろ。

同じ男として、見ていて辛すぎる。


顔を横に向けると、俊司と慎も、悲壮な表情で目を伏せていた。


それでも朝霧の追撃は止まらない。


「三年生の間で、私と遠藤君の噂が広まってるのは知ってたわ。でも毎回、奢ってもらってるしさ、友達だと思ってるから、遠藤君が恥をかかないように、私は黙ってたのに!」


朝霧の怒りに困惑した遠藤先輩が、チラッと俺の方を見る。


「……九条を追いかけて……朝霧はそこまで奴のことを真剣に……」

「何、恥ずかしいこと言ってんのよ! 九条といたら楽しいから一緒にいるだけでしょ!」

「彼氏じゃないんだな? では俺のことも考えてもらえるんだよな?」

「はぁ、そんなことあるはずないでしょ! 私、筋肉ムキムキのマッチョなんて一切、興味ないわよ!」


朝霧の激高を浴びて、遠藤先輩はガクリと肩膝を着き、俯いてしまった。


あぁ……この一撃は致命傷だろ。

ボディービルで鍛え上げた筋肉が、遠藤先輩の自信の源なのに……それを無残にも引き裂くなんて。

俺が先輩の立場だったら、一か月はニートになって家に引き籠っているかもな。


動かなくなった遠藤先輩を見下ろし、満足したのか朝霧は身を翻して、俺達三人の方へ歩いてくる。

その姿を見て、俺は盛大に溜息を吐いた。


「俺を助けてくれたつもりだろうが、やり過ぎだ。今まで先輩との噂も我慢していたなら、あんなに追いつめなくてもいいだろ」

「だって……九条がマッチョに襲われると思ったら……もう我慢できなくて……」


変な表現をするな。

その言い方だと、俺が貞操の危機だったみたいに聞えるだろ。

あんな筋肉に押し倒されら、俺の思考回路が崩壊するわ。


黙ったままでいると、朝霧の目にウルウルと涙が溜まり、俺の胸の中に飛び込んできた。


「原因は私なんだから、一人でカッコつけないでよ……」

「俊司と慎も一緒にいるだろ」

「男子だけなんてズルい……」


朝霧は泣きながら、小さく呟く。

すると俊司が隣に寄ってきた。


「俺と慎は、遠藤先輩をフォローしてくる。傷心で自殺されても困るからな」

「ちょっと待ってくれ」


俺はズボンの後ポケットに片手を伸ばし、財布から五千円札を取り出して、俊司に手渡す。


「遠藤先輩と三人で何か食べてくれ。満腹になったら少しは心が癒えるかもしれないからな」

「わかった、慎、行こうぜ」

「宗太、しっかりと送り届けるんだぞ」


二人は一度振り返り、遠藤先輩の方へ駆けていった。

俺は朝霧の両肩に手を置いて、そっと体を離す。


「ここにで泣いてても仕方ないだろ。送っていってやるから」

「うん……お腹空いた。マックに寄っていく……」

「わかった、わかった。連れて行ってやるから」

「……九条の奢りだからね……」


さっきまで俺のことを心配してくれていたはずだろ。

やっぱり女子って、男子より現実主義なんだな。

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