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S-8話 紗耶香の想いー朝霧結菜side

 放課後、結衣と凛が2人で一緒に帰り、私と宗太も一緒に帰ろうと帰り支度をしていると学校の廊下で男女が言い合いをしているような声が聞こえる。一方的に聞こえてくるのは紗耶香の声だ。



 宗太と2人で廊下に出てみると、紗耶香が一方的に佐伯に迫っていた。



「私のこと、どう思ってるのよ、慎。慎の心がわからない」



 紗耶香は佐伯の胸倉をつかんで大泣きをしている。佐伯はそれでも何も動かない。黙ったままだ。



 富士の樹海へ皆で行った時、佐伯からクリスマスイブに紗耶香に無理矢理に襲われて、佐伯は私達が思っている以上に傷ついたのかもしれない。佐伯の心が変わり、紗耶香を見る目も変わってきたのだろう。



 宗太はすぐに佐伯の所へ行き肩をポンと叩く。



「ここで騒ぐのは良くない。先生に見つかる。栗本も今すぐ学校を出たほうがいい。慎も頼むから、学校から出てくれ。話はそれからだ」



 佐伯は宗太の言葉を聞いてコクリと頷くと、階段を降りていった。そんな佐伯の後ろ姿を見て、紗耶香がすぐに追いすがっていく。



 私と宗太もすぐに帰り支度を済ませて、佐伯と紗耶香の後を追った。佐伯と紗耶香は学校の校門をでた十字路のところで、校門から離れた場所で紗耶香が佐伯にしがみ付いて泣いている。



 これは2人の問題だ。私はどちらの味方もできない。今回は紗耶香が問題を起こしている、だから紗耶香に同情的な言葉をいうことができなかった。私は何とも言えないモヤモヤした気持ちで2人を見守る。



 宗太が号泣している紗耶香に声をかける。



「栗本、いい加減に落ち着け。慎も何かあっったんだ?」



 佐伯のほうを見て宗太は一応問いかける。私達2人は佐伯と紗耶香がどうしてこんな感じになっているかを佐伯から聞いて知っている。宗太も佐伯が紗耶香に無理矢理に服を脱がされて、追い詰められていることを知ってるから、2人がもめている理由も知っている。でもこれは2人の問題だ。だから私と宗太は紗耶香に知らない振りをした。



 このまま紗耶香と佐伯の仲が悪化していくのを見ているのが辛かった。私は紗耶香に「紗耶香、大丈夫?」と問いかけると、紗耶香は自分のハンカチを取り出して涙を拭っている。「結菜・・・・・・ありがとう、最近になって、急に慎の態度が冷たくなったの。私のことを冷めている気がして怖いの。クリスマスイブ以降、連絡もくれないし、家に行っても、家族の方からは家にいないとと言われるし、避けられてるみたいに思ったの」



 紗耶香の予感は当たっていると思う。佐伯は紗耶香に会わないよういしてたんだ。



「さっき、廊下でたまらなくなって、慎に、私のことをどう思ってるの?と聞いても、下を向いて俯ていいるばかりで、何も言ってくれないの。私達、上手くいってない」



 紗耶香はまた号泣している。私は紗耶香の背中を優しく、何度もなでた。、佐伯の顔を見たら、完全に紗耶香に対して、心が離れていて、佐伯の顔を見ることができなかった。



「前にも聞いたけどさ・・・・・・もう慎は、栗本と付き合うことに疲れたのか?」



 宗太は佐伯の両肩に手をおいて、瞳を見つめて、佐伯に聞く。佐伯を心配して真剣な眼差しで見つめる。



「俺・・・・・・今だから、宗太達の前だから紗耶香に言うよ・・・・・・ゴメン・・・・・・紗耶香。俺と別れてほしい」


「イヤーーーーー!」



 紗耶香は佐伯の胸に飛び込むと、佐伯の胸を両手で叩く。私は佐伯の気持ちもわかるし、紗耶香の気持ちもわかる。別れる恐怖も伝わってくる。でも、今回は私は何もいうことができなかった。



 佐伯と紗耶香の今の関係を見て、自分と宗太がこうなったら・・・・・・私はそんなことを考えて怖くなった。私達2人がこんな修羅場になったらどうしよう・・・・・・私が宗太に捨てられることがあったら生きていけない。



 佐伯は宗太に深々と頭を下げた。



「俺は紗耶香のことが怖くなって、もう、どうしても付き合うことが無理なんだ。ごめん」



 佐伯がそう呟くと、紗耶香が走って来る車の前に飛び出そうとした。宗太は紗耶香の体を羽交い絞めにして、取り押さえる。



「栗本、走ってる車の前に飛び出すなんて、自殺するつもりか。お前、車にはねられる所だったんだぞ。落ち着け」



 紗耶香の体をしっかりと宗太は抱き抱えて、紗耶香を捕まえて、紗耶香が落ちつくまで、紗耶香を抱きしめて背中をさすっている。女の私では、紗耶香を止めることもできなかった。宗太がいてくれてよかった。紗耶香の精神が大丈夫か心配でたまらないけど、体が動かない。



 佐伯を見ると、佐伯はずっと地面を見て顔を引きつらせている。私は佐伯に「紗耶香のこと、もう1度だけ考えてくれないかな?」とおそるおそる聞く。佐伯は無言で首を横に振る。「朝霧・・・・・・ゴメン、それは無理。紗耶香のことは、、もう惚れていないんだ」とかなりインパクトのある言葉が佐伯の口から絞り出された。



 何もいう言葉を私は持ち合わせていなかった。内心では今回の件は紗耶香の行動にあることを知っている。佐伯が心変わりをするかもしれないことも知っていた。でもそのことを私は紗耶香にいうことができなかった。友達の紗耶香の悲しんでいる顔を見たくなかったから。



 まさかこんな修羅場に立ち会うことになるとは思わなかった。私はどうしていいのか全くわからない。頭が回らない。私の心は苦しくて、本当はこの場から一刻も早く逃げ出したかった。でも宗太が冷静にこの場にいる。だから私も逃げ出さずに済んでいる。




 佐伯の心は紗耶香から完全に冷めきっている。紗耶香を抱きしめて、落ち着かせて抱きしめたい、でも今の紗耶香は宗太に体を捕まえられたまま、佐伯に絶叫している。



「イヤーーーーーー!別れたくない!九条助けて!お願いよーーー!」



 宗太は紗耶香を抱きしめて、冷静な顔で佐伯を見る。



「今日のところは、栗本は俺に任せろ。慎、お前の顔を見たら、栗本は余計に発狂する。だから慎、お前は帰れ!」



 佐伯は鞄を持って、「宗太、悪い、この場は任せた。俺は帰るわ」と言って走り去っていった。



 紗耶香は「慎、行かないでーーーー!」と泣き叫び、佐伯を追いかけようとするが、宗太にしっかりと抱きしめられているので、佐伯を追いかけることができない。佐伯は交差点を曲がって見えなくなった。



 紗耶香は宗太の胸の中で号泣して、宗太の胸を叩いている。



「九条!助けて!私、慎と別れたくないの。こんなの耐えられない」と大粒の涙を零している。宗太は無言で紗耶香を抱きしめて、落ち着かせようとしている。



 半狂乱の紗耶香相手では、私では力不足だ。何もできない。ここは男の宗太に任せるしかない。紗耶香の号泣している姿を見て、私も涙を頬に涙が伝う。どうしていいかわからない。



 いくら、今回の件が紗耶香が原因だったとしても、こんな辛い別れをする必要がないと思う。こんな別れ方、辛すぎるよ。



 宗太は落ち着いた紗耶香をベンチに座らせて、両肩に軽く手を置いて優しく語った。



「慎のこと・・・・・・もう栗本、忘れてあげてくれないかな?今の慎は、栗本が騒げば、騒ぐほど、栗本のことを嫌っていくと思う。もう少し、落ち着いて、いつもの栗本に戻ってくれ」



 近くの自動販売機で宗太と紗耶香と私のジュースを買っってくる。そしてベンチに座っている紗耶香にジュースを渡して、宗太にもジュースを渡す。



 紗耶香は放心状態だったから、隣に座った私がプルトップを開けてあげて、少しジュースを飲ませてあげる。紗耶香は私からジュースを取ると、チビチビとジュースを飲み始めた。私も安心してジュースを飲む。



「紗耶香、なんて言ったらいいかわからないけど、もっと落ち着こう」と私はできるだけ優しい声で語る。すると紗耶香は隣に座っていた私に抱き着いてきた。



「結菜、私はもう、慎にフラれちゃった。これからどうすればいいの?慎なしで、どうやって生きていけばいいの?」



 紗耶香は私に抱き着いたまま、涙を溢れさせて頬を濡らす。私は何もいうことができず、ただ、紗耶香を抱きしめていることしかできなかった。



 空を見ると夕日が沈み日暮れ時に差し掛かっている。大きなお月様もでてきた。



「栗本はとにかく落ち着くことだ。何も考えずに落ち着くこと。今日は栗本1人で家に帰らせるのは危ない。結菜、一緒に栗本の家まで送っていくぞ」



 宗太は紗耶香の腕をしっかりと捕まえて、私は紗耶香の腰に手を回して、2人で紗耶香を支えて、紗耶香の家まで送り届けた。



 玄関先で、ずいぶんと落ち着いた紗耶香が宗太に深々と頭を下げる。



「九条、結菜、家まで送ってくれてありがとう。さっきよりもずいぶんと落ち着いた。私、今すぐには慎のことは諦められないかもしれないけど、家に帰って、冷静に1人で考えてみる。今日は本当にありがとう」



 紗耶香は無理矢理に笑顔を作ると、手を振って、家の中へ入っていった。



 宗太は空を眺めて、大きくため息を吐いた。そして無言のまま、私と手を繋いで、少しの間、歩く。私も何もいう言葉が見つからなかった。



 急に宗太が私の腰に手を回してギュッと私の体を抱き寄せる。私も宗太の体に自分を寄り添わせた。大きなお月様が見えてるのに、今日はなんだか寂しい夜だ。2人で寄り添わないとハグレそうで怖かった。宗太も同じ気持ちなのだろうか。



 2人、寄り添って、私のマンションまで宗太は送ってくれた。お互いに目と目を合わせて、自然に唇を合わせた。唇を合わせないと怖かった。いつより長めのキスをして、宗太と別れた。



 家に帰ってからも、私から紗耶香に何を話していいのかわからないので、私から紗耶香に連絡することはなかった。紗耶香からも連絡は来なかった。



 私はベランダに出て月夜を見て、今日の佐伯と紗耶香のことを思い出して、辛くなり、目を伏せる。後日、落ち着いた紗耶香から連絡があった。



「私、この間の一件で、九条のことを見直しちゃった。九条といつまでも仲良くね。この前は本当にありがとう。私、慎のことを諦めて、新しい男性を見つけることにする」



 紗耶香が吹っ切れたような声で私に宣言をした。紗耶香も色々と考えたのだろうけど、新しい未来に向かって歩き出して行くと決めたようだ。紗耶香は芯のある強い子だ。すぐに新しい恋を見つけてくるだろう。私は心の中で紗耶香を応援する。頑張れ、紗耶香。

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