71話 1年後のホワイトクリスマス
あれから1年の月日が経った。今日はクリスマスイブ。俺と結菜と凛は都会のターミナル駅で南さんとすずなちゃんを待っている。
去年は結菜の家で瑞希姉ちゃん、桜木さん、加奈、結菜、凛、俺でパーティをした。その時に、桜木さんがバイト代3カ月分の大きいダイヤのネックレスを瑞穂姉ちゃんにクリスマスプレゼントとして贈った。それから瑞穂姉ちゃんの態度が変わった。簡単にいうと桜木さんに優しくなった。どうして優しくなったのか聞いても教えてくれない。でも、瑞穂姉ちゃんの顔がきれいになったような気がする。以前よりも色っぽい。
まさか・・・・・・桜木さんと上手くいったのでは・・・・・・と思って、何度も聞くが、瑞穂姉ちゃんは黙った。また、微笑むだけで、何も言ってくれない。その優しい微笑みは何だ。少し妬けるじゃないか。
結菜から桜木さんに聞くと、去年のクリスマスイブの後に、正式に瑞穂姉ちゃんと付き合うことになった。桜木さんは号泣して感激していたそうだ・・・・・・なんとなく、俺は面白くない。
瑞穂姉ちゃんに聞いても、ずっと何も教えてくれない。結菜と違って、瑞穂姉ちゃんは恋愛に関しては秘密主義のようだ。俺くらいには教えてくれてもいいのに。しかし、よく桜木さんの告白を瑞穂姉ちゃんが受け入れたよな。本当に桜木さん、おめでとう。これから大変だと思うけど、瑞穂姉ちゃんに呆れずに頑張ってほしい。
今年、結菜と凛に用意したプレゼントは、南さんの会社でバイトした1年分のバイト代で、結菜には24金のルビーのネックレス、凛には24金のガーネットのネックレスを用意した。もちろん由梨姉ちゃんに選んでもらった。
ちなみにすずなちゃんにもプレゼントを用意した。俺達の高校3年生の担任もすずなちゃんが担当してくれたからだ。すずなちゃんには大きなバラの花束を用意した。
俺達が駅前のロータリーで待っていると、仲良く腕を組んだ大人のカップルが寄り添って歩いてくる。もう夜6時なので、暗くてあまり遠くまで見えない。
今日のクリスマスイブは、南さんから誘われて、俺は凛と結菜を呼んで、すずなちゃんと南さんのカップルと一緒にクリスマスイブを祝うことになった。
2人寄り添って歩くカップルが段々と近づいてくる。段々と姿が大きくなり、輪郭がはっきりとわかるようになってきた。南さんとすずなちゃんだ。
俺はこんなにウットリしてるすずなちゃんを見たことがない。南さんの腕に寄り添っているすずなちゃんの顔をウットリとしていて、普段の教師の顔はない。本当に恋する乙女だ。完全に目が溶けてトローンとなっている。どこまで陶酔するんだろ。
教師で担任をしているすずなちゃんと、南さんと寄り添って歩くすずなちゃんはまるで別人のようだ。女性とはこんなに変わるもんなのか。すごい変わりようだ。今度、南さんに学校に来て、すずなちゃんの教師姿を見てもらいたい。怖いんですよー。
高校3年生を受け持つようになったすずなちゃんは、今までのようなふんわりした雰囲気がなくなり、キリっとした女教師になった。絶対に生徒達を大学に合格させるという信念みたいなものが見える。
そんな日常の教師のすずなちゃんと、今のトローン、トローン、ウットリのすずなちゃんは別人だな。南さんと寄り添っているすずなちゃんのほうが大人の女性に見え、やたらと清楚だけど色っぽい。
結菜と凛は2人を見て羨ましそうにウットリとしている。俺も南さんみたいにスーツの似合う男性になれたらいいな。
「お待たせ。宗太くん、凛お嬢様。結菜さん」
南さんがすずなちゃんをエスコートしながら、爽やかな笑顔で俺達に気づいて話しかける。すずなちゃんも照れ笑いを浮かべる。
「今日はありがとうね。九条くん、朝霧さん、日下部さん」
俺達5人は小雪が降るロータリーから、きれいな街灯が並んでいる。街路樹の道路を歩き、南さんが予約してくれている、高級ホテルの最上階にある高級レストランへ向かう。
レストランに入って、受付で南さんが名前をいうと、ウエイターが深々と礼をして、俺達を席まで案内してくれる。ウエイターが丁寧に椅子を引いてくれて、俺達5人は椅子に座る。
南さんが予約してくれたので、こんな高級レストランに来ることができたが、普段、高校生が来る場所ではない。
俺と結菜は多少、緊張してしまった。凛はそんな俺達2人を見てクスクスと笑う。さすが大企業のお嬢様だ。意外にもすずなちゃんが場慣れしているのに驚いた。南さんに時々、連れてきてもらっているのだろう。
最上階にあるレストランは四方がガラス張りで、四方の夜景を楽しむことができる。街の夜景がとてもきれいで、ムードたっぷりだ。店内のブルーライトもムードを盛り上げている。店内のいたるところに間接照明がオシャレに点々と輝いている。こんな店に来たのは初めてだ。
店内は静かだが、席は満席だ。ほとんどがカップルで埋めつくされている。さすがクリスマスイブだ。
南さんはウエイターに慣れた口調で、俺達の料理を頼んでくれる。料理が1品づつ運ばれてくる。南さんは、高級シャンパンを頼み、2人でシャンパンに口を付けて、すずなちゃんは「美味しい」と上品に微笑む。
俺達は未成年だから、南さんがノンアルコールのシャンパンを店に頼んでくれた。
「こんなのはムードだから、シャンパンを飲んだつもりになれればいいのさ」
南さんは爽やかに笑う。結菜と凛も誘われるように微笑む。大人の男性の色気ってすごいな。とても勝てない。
2時間をかけて、俺達は高級レストランの料理を楽しんだ。南さんとすずなちゃんは高級シャンパンの次は高級ワインを頼んで、ワインの香りを楽しんで、口の中で味を楽しんで美味しそうにワインを少しづつ飲む。
食事が終わって、皆で食後のデザートを終わった時、南さんがいきなり真剣な顔をすずなちゃんに向ける。すずなちゃんは不思議そうな顔で南さんを見つめる。
南さんはスーツのポケットから、ジュエリーボックスを取り出して、蓋を開けると何カラットするのかわからないけど、大きなダイヤの指輪がジュエリーボックスの中に納まっていた。
すずなちゃんはジュエリーボックスの指輪を見て、驚いている。
「すずな、僕と結婚してくれないか?必ず幸せにする。OKだったら、この指輪を受け取ってほしい」
すずなちゃんの目から嬉し涙が頬を伝う。言葉が出てこないようた。すずなちゃんは何も言わずに左手を南さんの前に差し出した。すると南さんがジュエリーボックスから指輪を取り出して、すずなちゃんの薬指にはめる。
「喜んで。こちらこそ、よろしくお願いします。南さんについていきます」
結菜と凛ももらい泣きをして、ハンカチで頬を拭いている。俺は何も言えない。こんなプロポーズの場所に俺達がいていいのか。場違いなような気がする。南さんは一体何を考えているんだろう。
「すずなと知り合えたのは、君達3人が深く関係している。だから君達3人に見届け人になってほしくてね。今日は一緒にクリスマスイブを祝ってくれてありがとう。そして、すずなが僕のプロポーズを受け入れてくれたことを見届けてくれてありがとう。すずなをきっと大事にして、幸せにするよ」
南さんはそう言うと爽やかに微笑んだ。すずなちゃんも俺達に微笑んでいる。
高校3年生で、プロポーズの見届け人なんて大役、荷が重すぎなんですけど・・・・・・2人が幸せそうだから、これはこれでいいのかもしれない。おめでとう。南さん、すずなちゃん、お幸せに。
すずなちゃんが嬉しそうに左手をあげて、俺達に指輪を見せる。相当に大きなダイヤだ。そして複雑で精密なカットが施されている。こんな高価なダイヤを見たこともない。相当に高価な品なんだろうな。俺が結婚する時、こんな高価なプレゼントをしてあげることができるんだろうか。たぶん今のままでは無理だな。さすが南さんだ。
レストランの四方のから夜景の明かりが遠くまで見える。そして小雪が舞っている様子も幻想的だ。
結菜と凛はまだ興奮が冷めていないようで、小声で「素敵ー」「南さん格好いいー」と顔を赤らめながらささやいて喜んでいる。俺もすずなちゃんのために用意していた大きなバラの花束を、すずなちゃんに渡して「おめでとうございます」と2人を祝った。すずなちゃんはバラの花束を受け取ると、また涙を流して喜んだ。南さんも「ありがとう」と言って喜んでくれている。偶然でも、大きなバラの花束を用意しておいてよかったよ。
南さんとすずなちゃんが、俺達がもうすぐ高校を卒業するから、卒業式後に結婚したいと、結婚式の日取りを相談しはじめた。話し早すぎだろー。今、プロポーズしたばかりじゃないか。もっと落ち着て考えようよ。
南さんのプロポーズという嬉しいハプニングがあったので、結菜と凛にクリスマスプレゼントを渡すのをすっかり忘れていた。俺は2人に「遅くなったけど、クリスマスプレゼント」と言って、それぞれに包装袋を渡した。
凛が包装袋を開けると、ジュエリーボックスが入っていて、蓋を開けると24金のガーネットのネックレスが入っていた。凛はとても喜んで両手を合わせている。結菜がさっそく、凛に24金のガーネットのネックレスを付けている。胸元でガーネットが赤く輝いている。
次に結菜が包装袋を開けると、ジュエリーボックスが入っていて、蓋を開けると24金のルビーのネックレスが入っている。次は凛が結菜の首元へ24金のルビーのネックレスを着ける。ルビーが胸元で深紅に輝いている。
俺は喜んでウットリしている2人を見て、「2人共、すごく似合ってるよ。メリークリスマス」と声をかけた。
結菜も凛も2人共、満面の笑顔で破顔した。笑顔が輝いている。ジュエリーをプレゼントに選んで正解だったな。由梨姉ちゃんにお礼を言わないといけないな。
すずなちゃんと南さんも小さく拍手して、結菜と凛を祝福している。結菜と凛の2人から俺にプレゼントをもらった。
「2人で1年間貯めたお金で一緒に買ったの。できたら毎日、着けていてね」
包装袋の中のボックスを開くと高価そうな時計が入っていた。既にサイズは俺にピッタリになっていた。
俺達と南さん達は高級レストランを出て、ネオンでキラキラ光る街路樹が並ぶ道路を歩いて、駅へ向かう。駅のターミナルで、南さんとすずなちゃんと別れる。南さんとすずなちゃんは寄り添って、歩いていった。
俺達は南さん達を見送った後に駅へ向かうと、黒崎さんがリムジンで待ってくれていた。凛が呼んでおいてくれたらしい。凛の気遣いはさすがだな。
リムジンに乗って結菜のマンションまで送ってくれた。凛はそのままリムジンに乗って家に帰っていった。
俺は少しだけ結菜の家に寄ることになり、家の中に入ると、瑞穂姉ちゃんと桜木さんの2人が家で俺達の帰りを待っていてくれた。
最近、瑞穂姉ちゃんに驚くべき変化が起こっていたのを忘れていた。瑞穂姉ちゃんは最近になって缶ビールやお酒を飲んでも、去年から、プロレス技をかける癖が治ったのだ。今も落ち着いた感じで色っぽく缶ビールを飲んでいる。飲んでいる姿が実に艶やかだ。
瑞穂姉ちゃんは桜木さんと付き合うことで、ストレスが解消されて、酒癖が治ったんだと思って、瑞穂姉ちゃんを問い詰めるが、プイと顔を逸らされてしまった。
今の瑞穂姉ちゃんは、素敵な女性になってきたと思う。以前よりも妖艶になってきたのが、ちょっと怖い。
リビングのソファに座って、瑞穂姉ちゃんの左手を見ると薬指にダイヤのリングが輝いている。桜木さんからのクリスマスプレゼントだろう。でも、左手の薬指ということは・・・・・・おめでとう桜木さん、瑞穂姉ちゃん。
桜木さんの顔をみると、さっきまで泣いていた、涙の筋が頬に残っている。よっぽど嬉しくて号泣していたんだな。
俺達は皆で結菜の家で今年もクリスマスを楽しんだ。今日の南さんは恰好良かった。クリスマスにプロポーズするんなんて。おめでとう!すずなちゃん。
桜木さんも瑞穂姉ちゃんにクリスマスプレゼントの指輪を付けてもらって、おめでとう。瑞穂姉ちゃんも、おめでとう。
皆にサンタクロースのプレゼントと幸せが舞い込むように、ホワイトメリークリスマス!




