68話 頑張れ結菜
一部内容を改訂いたしました。
客室で目を覚ました。そういえば昨日は結菜の家に泊まったんだった。あまりにぐっすり熟睡していたので、今、どこにいるのかも、はっきりと把握するまでに時間がかかった。時計を見ると11時だった。これは寝すぎだ。やってしまった。慌てて、起きて、リビングへ向かう。
リビングでは結菜がソファに座って、俺の顔を見てにっこりと笑う。
「今日は、ゆっくりと寝ていたんだね。疲れていたみたいだったから起こさなかったよ」
リビングを見回しても瑞穂姉ちゃんと凛の姿は見当たらなかった。
「結菜、おはよう。瑞穂姉ちゃんと凛の姿がないけど、2人共、出かけたの?」
「瑞穂姉ちゃんは大学へ行ったわ。凛は大樹おじさんから連絡があって、10時頃に黒崎さんが迎えに来て、さっき、黒崎さんと一緒に家に帰っちゃったわよ。宗太に「お寝坊さんと伝えて」って笑ってたわ」
そうか、凛は黒崎さんの迎えがきたのか、もう少し早く起きれば良かったな。
「宗太、起きるのが遅すぎだよ」
結菜は頬を膨らませて、起ったフリをする。でも怒っていないのはわかる。だって目が笑っているから。
今日は学園祭の振替休日だから平日だった。瑞穂姉ちゃんは大学だし、凛も家で用事があったから帰ったんだろう。本当に暇だったのは俺だけか。
そんなことを考えていると結菜は俺にコーヒーを淹れてくれて、エプロンを着けてキッチンへ向かった。
「もう、お昼だし、朝食の時間には遅いから、お昼ごはんを作るね」
慣れた手つきで昼ごはんの準備をしていく。エプロンを着けて、テキパキと動く姿は実に様になっている。結菜のエプロン姿も可愛いな。結菜は短時間のうちに親子丼を作ってくれた。時計をみると12時だった。
2人でダイニングのテーブルに座って「いただきます」を言って、会話をしながら、親子丼を食べる。結菜のお弁当を毎日のように食べているが、本当に料理の腕があがったな。
今なら加奈に負けないくらい料理の味も美味しい。俺はあっという間に結菜に作ってもらった、親子丼を完食した。そんな俺の姿を見ながら、結菜は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「私って、良いお嫁さんになれるかな?」
俺には結菜の料理の味はとても合っていて美味しい。
「結菜の料理はどれも美味いと思うよ。俺は大好きだな。もちろん料理も大好きだけど、結菜のことも大好きだよ」
そういうと結菜が席を立って、テーブルを回り込んで、俺に抱き着いてきた。
「私ね。宗太のお嫁さんになりたの。だから料理も頑張るね」
結菜は俺に首に手を回して、俺の瞳を見てにっこりと笑うと、俺の頬にキスをする。
結菜は単純な所があるから、褒めたら伸びるタイプなのかもしれないな。昨日、結菜が勉強していた時も、瑞穂姉ちゃんも凛も、結菜が同じ問題でつまづいても、怒らずに丁寧に何度も教えていたもんな。そうすると結菜は、頷いて、何度も同じ問題にチャレンジしていた。凛と瑞穂姉ちゃんの根気の良さには舌を巻いた。
俺はそんな結菜の姿を見て「よく頑張ってるな。感心したよ。同じ大学に行こうな」と声をかけたんだった。俺がそう言ったら、結菜は少し涙目になって、「私、頑張る。本当は宗太と同じ大学へ行きたい。本当にはそのことを宗太に伝えたかった」と言った。
俺は結菜は大学に行くことを諦めていると思ったので、心の中で驚いた。その言葉を聞いて、正直に嬉しかった。「2人で一緒の大学に行ける」そう思うと嬉しくてたまらなかった。俺ももっと、勉強を頑張らないとな。俺は昨日、結菜が勉強している姿を見て、俺はそう感じたことを思いだした。
結菜が昼食の後片付けをしている間、俺はリビングのソファで猫のソウタとにらめっこをする。同じ名前でなければ、昔のように仲良くなれたのに、なぜ、お前は俺と同じ名前なんだ・・・・・・それでが残念だ。
俺の名前は宗太、そしてお前は猫のソウタ。宗太がソウタを呼ぶ。こんな複雑な気持ちになるとは思わなかった。それにややこしいわ。
俺も猫のソウタのことは可愛いと思っている。だって結菜に拾われるまでの間、子猫のソウタを育てていたのは俺なんだから。校舎裏に捨てられていた子猫にちくわを細かく千切って食べさせて、牛乳を飲ませていたのは俺だ。校舎裏からいなくなったと思ったら、いつの間にか子猫は結菜に飼われて、名前がソウタに変わっていた。
本当に運の良い子猫だ。結菜に可愛がってもらうなんて羨ましい。猫だから瑞穂姉ちゃんの被害も受けないしな。それにしても大きくなったな。顔から尻尾の先まで測ったら1m50cmはありそうだ。尻尾が1m近くあるように見える。とにかく尻尾の毛がフサフサ、フワフワして、触ればモフモフで気持ちいい。
「私達、朝にシャワー浴びちゃったから、宗太もシャワーを浴びてサッパリしたら」
結菜がクルリと俺のほうを振りむいて、浴室を指差した。そういえば体が少しベッタリしているように感じる。お言葉に甘えて、シャワーを借りる。昼間にシャワーを浴びると贅沢をしたような気分になる。身も心もサッパリだ。
俺が浴室から出てくると、脱衣所に着替えと、バスタオルが置いてあった。結菜だろう。こういう所は本当にソツがない。本当に気が回る。
俺が頭をバスタオルで拭きながら、リビングへ顔をだすと、リビングのテーブルに教科書やすずなちゃんからの居残りプリントを広げて、結菜が勉強をしていた。本当に勉強熱心になったな。でも、いきなりピッチを上げて勉強したら、疲れてしまってイヤになるかもしれない。ほどほどに頑張ってほしいな。
それでも真剣に勉強している姿を見て、俺は嬉しくなって、少しは勉強を教えてやるか、という気持ちになってくる。
「俺も一緒に勉強するよ」
俺達2人は夕方過ぎまで勉強をした。するとリビングのテーブルに置いてあった、結菜のスマホが振動する。結菜がスマホを耳に当てると瑞穂姉ちゃんだった。
瑞穂姉ちゃんから、今日は大学のコンパがあって、今日は大学の友達の所に泊まると連絡があった。酔っぱらった瑞穂姉ちゃんを泊めるなんて、命知らずな友達もいたもんだ。瑞穂姉ちゃんは酔っぱらっても、基本的に女性にはプロレス技はかけないから、多分、女友達なんだろう。男性だったら即気絶コース確定だからな。
時計を見ると、5時を過ぎていた。もうそろそろ帰らないと、加奈が夕飯の用意をし始める頃だ。俺はソファを立って、「俺もそろそろ帰るわ」と言うと、結菜が俺に抱き着いてきて、上目遣いで俺を見つめて、目をウルウルと潤ませて、俺をジッと見る。実にあざとい。でも可愛い。そんな顔をされたら「結菜のためなら、なんでもやっちゃうぞー」と言ってしまいたくなる自分が怖い。
「宗太、泊まっていって。今は宗太のほうが私よりも何倍も成績が良いから、私に勉強を教えてほしい」
真剣な顔をして結菜が俺を見つめてくる。んー、明日はまた学校があるんだけど、この目はそんなことは忘れてるな。まー、昨日は直接、結菜の家に制服を着て、お邪魔してるから、制服はあるんだけど、できれば洗濯してきれいな制服で登校したいよな。やっぱり帰ろう。
「結菜の気持ちはわかるけど、汗でベッタリの制服で学校に行くのもイヤだから、今日は家に帰るわ」
「そのことだったら大丈夫。もう制服は洗濯して、今、ベランダに干してあるから、まだ乾いてないわよ」
制服を持って帰らないと、明日、学校に行けないだろう。まだ乾いてなかったら、今、家に持って帰ったら、制服がシワでボロボロになるってことだよな。これじゃあ、家に帰れないじゃないかー。こんなことなら先に言っておいてくれよ。加奈に怒られるのは俺なんだからー。
俺は急いでスマホを取り出して、今の状況を説明して、今日は結菜の家に泊まると加奈に告げると「お兄ぃ。不潔ー」と言われて、電話を切られた。また1つ、誤解が生まれて、また1つ加奈を怒らせたようだ。どうしてくれる。
「泊まっていってくれてありがとう。私とっても嬉しい」
結菜は向日葵のような笑顔を俺に向ける。その笑顔は可愛い。でも計画があざとい。結菜から加奈に連絡してもらって、加奈の機嫌は結菜にとってももらおう。
俺は何も言わず、スマホを結菜に渡して「加奈の機嫌を取ってくれ。加奈に誤解された」とムスっとした顔をすると、結菜はにっこり笑って、俺のスマホで加奈に連絡をして、加奈と仲良くおしゃべりを始めた。15分ほど話をすると、加奈の機嫌は直ったようで「お2人でお楽しみにー」という言葉が返ってくる。
なぜ、俺だと不機嫌になって、なぜ結菜だと歓迎されるんだ。俺は非常に納得いかない。しかし、今、それをいうと、加奈の機嫌がまた悪くなるかもしれないから、黙っておこう。
時計を見ると、夜6時になっていた。結菜はエプロンを着けて夕飯を作り出す。俺は猫のソウタを抱いて、できるだけスキンシップを取って、仲良くなろうと努力を続けた。爪で引っかかれた。小さかった時はあんなに可愛かったのに、ソウタの名前になってから、生意気になったな。誰に似たんだ。ソウタが生意気になったことを結菜にいうと、「ソウタは誰かさんにそっくりだからね」と言われた。誰かさんとは誰だ。まさか俺のことか。
結菜はとんかつとシザーサラダとコンソメスープを作ってくれた。2人でダイニングのテーブルで夕飯を食べる。そして、夕飯が終わると、また俺とソウタの戦いが始まる。絶対に仲良くなってやる。
そんなソウタと宗太の戦いを結菜は笑いながら見て、夕飯の後片付けをしていく。テキパキと後片付けを済ませるので、早い早い。あっという間にきれいになった。
結菜が食事の後片付けが終わった頃、時計は7時になっていた。それからリビングのテーブルので2人で勉強をする。結菜はやっぱり少し勉強が遅れているようで、少しのことでつまづいてしまう。俺は根気よく、結菜に丁寧に説明をして、ゆっくりと理解させる。お手本は凛と瑞穂姉ちゃんだ。
そのかいもあって、結菜は徐々に理解して、勉強が前に進んでいく。それでも勉強に集中すると疲れがたまってくる。結菜と俺は気分転換のため、シャワーを浴びることにした。
今は結菜がシャワーを浴びている。よく考えると、何回も結菜の家に泊まっているが、瑞穂姉ちゃんがいなくて、2人きりの夜を迎えるのは始めだな。そんなことを考えると心臓がドキドキする。妙に緊張してきたぞ。俺は気を引き締めた。
結菜は浴室から出てくると、冷蔵庫から麦茶を取って、カップに入れて、麦茶を飲む。
「宗太もシャワーを浴びてきて」
浴室でシャワーを浴びて、サッパリした俺は、頭をバスタオルで拭いて脱衣所から出てくると、ダイニングテーブルには冷えた麦茶が用意されていた。結菜に「ありがとう」と言って、一気に飲み干す。冷えた麦茶が上手い。
こと後、俺と結菜は夜12時まで勉強を頑張った。結菜が一生懸命に勉強している姿は可愛く、抱きしめたくなるが、今日は瑞穂姉ちゃんがいない。だから俺は必死で自分でブレーキをかける。真剣に結菜の勉強に協力して、教えていく。
夜12時が過ぎたから、もうそろそろ勉強をやめて、寝ようと提案する。今日1日でもずいぶんと勉強をしたはずだ。眠気が出てから勉強しても、頭が回っていなければ意味がない。
結菜は「まだ頑張れる」と言ったが、もく既に目が眠気でトロンとなっている。これ以上は無理だと判断した俺は、「今日はもう寝たほうがいい。もし勉強するなら、朝に勉強すればいい」と提案した。
結菜もそこまで言われると反論できないようで、大人しく勉強道具を片付けて、自分の部屋へ持っていった。
リビングの電気を消して、客室へ入ろうとした。俺の胸の中へ結菜が飛び込んできた。そして上目遣いで、目を潤ませて、唇を重ねる。室内は一気にピンクな雰囲気に包まれる。
「今日は私のワガママを聞いてくれてありがとう。宗太いつまでも大好きだよ」
俺と結菜はリビングの薄暗がりの中で抱きしめ合い、唇を何回も交わす。
「もう一つ、ワガママ言ってもいいなか。今日は宗太に抱っこしてもらって眠りたいの」
それはもちろん、俺も結菜と一緒に、結菜を抱っこして眠りたい。でも俺の理性は大丈夫か。
「お願い。抱っこして寝て」
結菜が上目遣いで瞳を潤ませる。その瞳には弱い。俺は「いいよ」と答えて、結菜の部屋の中へ入った。
朝まで目が充血して、俺が眠れなったことはいうまでもないだろう。そんな俺の腕の中で結菜は安心した寝顔でスースーと寝息をたてて、幸せそうに眠っているのだけが救いだった。
絶対、学校で授業中に爆睡確定だな。俺は朝日を感じながらため息をついた。




