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65話 3人で屋上へ

 朝のHRが始まった。すずなちゃんが元気よく教室に入って来る。



「今日のHRと1時間目は文化祭の出し物について皆さんに意見を出してもらいます。クラス委員は司会進行をしてください」



 そういうと赤沢と零が檀上へ上がる。すずなちゃんは窓際へパイプ椅子を持っていって足を組んで座っている。由梨さんが足を組んで座ったら、色っぽいんだろうけど、すずなちゃんは頑張っている感バリバリで可愛いとしか見えない。南さんはやはりかなり可愛いもの好きなのだろう。



 文化祭の出し物は、色々な意見が出たが、まず芝居はみんなが面倒だと言って却下。お化け屋敷はセットが大掛かりになる取って却下、では何かを展示するというと、何もしていないの同じということで却下。結局、最後は無難にコスプレ喫茶に決まった。ただし、ただの男装や女装ではなく、色々と趣向を凝らすこと、被り物も可ということになり、自分の服装は自分で用意することになった。



 しかし、ここで時間が尽きてしまった。だから誰がどんな被り物や変装をするというところまでは決まらなかった。クラス全体の出し物としては、コスプレ喫茶に決まったので、すずなちゃんは機嫌よく、教室を後にする。



 俺はそっとすずなちゃんの後をつける。すると後ろから歩いてくる足音に気付いて、クルっと体を回転させて、すずなちゃんが俺の顔を睨む。俺はそんなすずなちゃんの顔を見てニヤニヤする。



「もうすぐ授業ですよ。九条くん、自分の席に戻って、授業の用意をしてください」


「イヤー、すずなちゃん、最近の最新のベンツの内装って知ってる?なぜかすずなちゃんの写真がいたるところに張ってあるんだけど、見たことあるかな?」



 すずなちゃんは俺の顔を見て、シマッタという顔をした。俺はニヤニヤと笑う。



「九条くん、少し静かなところで2人で話をしましょうか。私も九条くんと話したいと思ってたんですよ」

 


 すずなちゃん、素直な反応って好きだな。やっぱり可愛いな。



 2人で生徒指導室へ入る。すると生徒指導室のドアを閉めるなり、すずなちゃんが俺の腕を掴む。



「どうして、九条くんが南さんの車の中を知ってるのよー!」


「この間、バイトした帰りに、南さんに車に乗せてもらいまして。この間から日曜日だけ南さんの会社でバイトさせてもらうことになったので、今日は報告しにきたんですよ」


「なんですとー!」


「そういえば、南さんから伝言です。「すずな、愛してるよ。毎日でも会いたい。今日も連絡するから待っていてくれ」だそうです。すずなちゃん、愛されてますねー。最近、恋に溺れているすずなちゃんとしては気分的にどうですか。嬉しい?恥ずかしい?」



 すずなちゃんが肩をプルプル震わせて、口の中でブツブツと呟いている。


「九条くんが、南さんの会社でバイト。私、そんなこと一言も聞いてない。そんな危険なことされたら、私の教師生活が危ないじゃない。南さん、何を考えてるの?それに南さんと九条くんの接点は何?」



 すずなちゃんの頭の中では?マークがいっぱいのようだ。



「南さんは日下部グループの会社の社員ですよね。日下部グループの会長は凛のお父さんですよ。今回、凛のお父さんの紹介で南さんと会ったんですよ。優しくてイケメンで部長さんなんて、すずなちゃんの玉の輿ー」


「玉の輿なんて狙ってません。たまたま南さんが部長さんだっただけです。デートも高価なデートはしていません。この間なんてラーメンめぐりデートだったんだから。南さんが1度ラーメン屋巡りをしたいっていうから仕方なく・・・・・・私になにを言わせてるんですかー!」



 別に俺は何も強要してないですけど。勝手にしゃべりはじめたのはすずなちゃんのほうですが。



「とにかく、毎週、日曜日は南さんに会社でバイトしますんで、それだけ報告です。南さんにご用の時は、俺に頼んでくれてもいいですよ。ではまた」



 すずなちゃんは小さな声で独り言を呟いている。



「九条くんは危険なのよ。何を巻き起こすかわからないから。南さん、九条くんのこと甘く見過ぎてるわ。早く、九条くんのことを、もっと詳しく、南さんに報告しておかないと・・・・・・」



 俺はゴ〇ラか。俺はニューヨークを破壊するのか。すずなちゃんから、そんな危険人物に見られてるなんて、少しショックだな。ちょっと凹んだぞ。



 生徒指導室を出て、自分の教室へ戻る。既に科目担当の先生が授業をしていたが、生徒指導室へ行っていたことを説明すると、あっさりと許されて、俺は自分の席に戻る。ふと結菜をみると、結菜が小さく手を振った。そしてフニャリと笑う。可愛いな。俺は頷いて席に座った。



 授業が終わって休憩時間になった時に、凛から「なにかあったの?」と聞かれた。「この間、凛のお父さんに呼ばれてだろう。その時にバイトを紹介してもらったんだよ。毎週、日曜日だけ、南さんの会社でバイトすることになったんだ」



 凛はなるほどという顔で頷いた。結菜は驚いた顔で俺を見る。そうだよな。結菜と喧嘩している時に決まったんだもんな。知らなくても当然だよな。



「宗太、南さんって誰?凛のお父さんの紹介ということは大樹おじさんの紹介ということよね」


「ああ、そうだ。南さんっていうのはすずなちゃんの彼氏だ。すずなちゃんの彼氏の会社へバイトに行くことになったから、さっき、すずなちゃんにも相談に行ってたんだよ」



 凛も結菜もすずなちゃんの彼氏を聞いて驚く。そういえば上手くいってることを2人に話してなかったな。



「南さんってどんな人なの?恰好良いの?」


「ああ、超イケメンで、日下部グループの会社の部長さんで、ベンツに乗っていて、ちょっとすずなちゃんを溺愛しすぎ。恰好いいのは恰好いいけど、車の中を見て、すずなちゃんの写真がいっぱい張られている時は、正直にドン引きした」



 2人の顔も今、ドン引きしている。やっぱり写真は重いよな。俺も正直、そこまでできない。



「まーそういう訳だから、結菜にも凛にも、俺が毎週、日曜日にバイトしていることを伝えておこうと思ってね」


「わかった。私から瑞穂お姉ちゃんには言っておくね。大学の道場は毎週土曜日でってことにしておく」



 結菜がフワリとした優しい笑顔で了解してくれた。



「お父様に言って、1度、宗太のバイトしている姿を見に行こうかしら」



 凛が物騒なことを言いだした。それは止めてください。南さんの社員の方々への自己紹介で、一応、俺は凛お嬢様の婚約者候補になっているんだから。本人が登場したら、余計にややこしくなるわ。


 俺は顔を引きつらせて、凛には絶対に遊びに来ないように強く言った。凛は頬を膨らませていたが、すぐに機嫌を直した。こういう所は凛のほうが素直で扱いやすい。


 午前中の授業が始まる。結菜からの付箋もない。俺が心配そうな顔でちらりと隣を伺うと、凛がクスクスと笑って頷いている。何がおかしいのかと思って、後ろを振り返ると、合格と書かれた鉢巻をした結菜が鬼気迫る顔で、真剣に勉強していた。


 お前はどうして、そんなに極端なんだよ。大学受験はまだ1年以上先の話だよ。今頃からラストスパートしてたら、生き残れるもんか。限度を考えてくれ。今は学期末テストだけ、良い点数を取ればいいんだから。


 俺は苦笑いを浮かべて前を向いた。担当科目の先生も、驚きの目で結菜を見ているが、注意していいものか、どうか悩んでいるようだ。また結菜の生徒指導室コース確定だな。すずなちゃんも忙しいだろうけど頑張れ。


 昼休みの休憩時間になった。久しぶりに3人一緒にお弁当を食べる。お弁当を食べながら、結菜が涙を流す。



「こんな3人一緒のお弁当が美味しいと思わなかった。宗太がいなくて寂しかったー」



 もう大泣きである。凛がハンカチを取り出して、結菜の顔の涙を拭いてやっている。本当に仲良くなったな2人共。



「私、これから、頑張って勉強して、学期末テストには良い点数を取るから待っていてね」



 おう、一応、次のテストは学期末テストだということは覚えていたんだな。いきなり大学受験の勉強の話をされたらどうしようかと、ちょっと悩んだ俺が馬鹿だった。



「ねえ、今日は3人で一緒に屋上へ行かない?」



 結菜が珍しく凛を屋上へ誘う。



「良いのかしら?」


「うん。宗太と2人きりになるとキスしたくなっちゃうから、凛も一緒に来て」



 凛は優しく微笑んで、結菜の手を握った。結菜は向日葵のような笑顔で破顔する。俺達3人はお弁当を食べ終わると、ゆっくりと3人で屋上へ向かった。

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