61話 初めての喧嘩
あれから、一週間が経った。最近、すずなちゃんの様子が変わったというか、容姿がかわったような気がする。最近、とてもきれいになった。
大樹おじさんから南さんを紹介してもらって、すずなちゃんと南さんは上手く付き合うようになったと、大樹おじさんから聞いている。大樹おじさんナイスです。すずなちゃん、本当におめでとう。
しかし、結菜もそうだったが、恋をすると女性は本当に色っぽくなり、きれいになる。すずなちゃんも女だったか。頬がほんのりとピンク色に色好き、唇や艶やかで、目元がいつも潤んでいる。とてもきれいだ。大変身したといってもいいだろう。
女性って恋をするときれいになると話には聞いていたが本当だな。
まだすずなちゃんには南さんのことを、直接聞いていないが、今度、時間があったら南さんのことを、じっくりと聞いて見よう。
HRが終わり、1時間目の授業がはじまった。俺の後ろでは結菜がなぜか、上機嫌で授業中にも拘わらず、鼻歌を小さく歌っている。先生にばれらたマズイだろう。いますぐやめなさい。
俺は先生に気付かれないように、後ろを振り向いて、結菜を注意するが、結菜は俺が振り向く度に、俺の顔を見ては、唇をチューの形にして顔を突き出してくる。そんな甘い顔をされたら困る。今は授業中だ。キスをしたくなる自分の気持ちをグッと我慢する。
最近、結菜と毎日のようにキスをしているが、結菜が余計に壊れだしたような気がする。
俺は付箋に「今は授業中。キス禁止。大人しくしないさい」と書いて、結菜の机の上に付箋を貼る。結菜から付箋が周って来る。付箋には「宗太のいじわる。もっと宗太とキスをしたい」と書かれている。頭が痛い。
俺は眉がピクピクする自分の顔をなんとか無表情にして、結菜へ「教室や校門の前ではダメ。禁止」と付箋に書いて、結菜の机の上に貼った。
すると結菜から付箋が回ってきた。「宗太の意気地なし」と書かれている。一度、頭を殴ってやろうか。
俺はとうとう結菜はキスのせいで、頭が壊れたんだと諦めることにした。
今までは、結菜に毎日、朝からキスをねだられて、俺も嬉しいし、キスをしてきたが、結菜がここまで壊れるくらいなら、キスは結菜のためにならないと判断するしかない。毎日、結菜とキスはしたいけど、今は緊急事態だ。
キスばかりしていたから、俺のせいで結菜がおかしくなったと、俺は後悔をした。女心って複雑と噂で聞くが、結菜を見ている限り、単純にしか見えない。
後ろを振りむき、結菜の顔を見ると、結菜は授業内容も上の空でキスのことばかり考えて、顔をウットリとさせているようだ。このままだとヤバい。
最近では、すずなちゃんが作ってくれた、居残り用のプリントで勉強をカバーしているが、このまま授業を聞いていなかったら、結菜の成績が落ちる可能性がある。絶対に落ちる。嫌な予感しかしない。
今の結菜の頭の中はキスでいっぱいで、授業内容も、勉強も全く頭に入っていない。このままだと結菜と同じ大学に行く夢も絶望的で、結菜は大学を合格することもできないかもしれない。俺は顔を青ざめて焦る。
当分、結菜とキスをしないでおこうと断腸の思いで、俺は心に誓った。
隣の席から凛が小さな声で話しかけてくる。
「最近の結菜おかしいわよ。何かあったのかしら?」
凛まで結菜のことを心配し始めた。俺は次の休憩時間に、凛に相談した。
「仲がよろしくて羨ましいわ。しかし結菜とキスばっかりしていて、結菜がおかしい状態になるなんて、宗太の言う通り、勉強が大変なことになるわね。早く対応しないといけないわ」
「俺もそう思う。凛、なんとか結菜を助けてくれないか?」
「私では、今の結菜を止めれることはできないわよ。宗太しか無理よ」
凛はお手上げのポーズで俺を見てくる。
結菜と昼休憩になる度に、お弁当を凛と3人で食べ終わってから、屋上に行き、給水塔の下で、ずっとキスばかりしていたから、俺にも責任がある。直接、結菜にキスを控えるように伝えようと決心を決めた。俺も悪かった。ここまで悪化するとは思っていなかった。キスの破壊力を小さく思っていた、俺の判断ミスだ。
午前中の授業が終わり、昼休憩のチャイムが鳴った。俺は結菜と凛と3人でいつものように、お弁当を食べる。お弁当を食べている間も、俺の顔を上目遣いで見つめて、結菜は目を潤ませる。完全にキスモードだ。凛も隣で呆れた顔をして結菜を見て、ため息を吐いている。
「ちょっと結菜を説得してくるわ」
凛にそう告げて、いつものように結菜と手を繋いで屋上に行く。屋上にでて、給水塔の影に着くなり、結菜がいつものようにキスをせがんできた。俺は結菜の肩を持って、結菜の目をジッと見つめる。
「このままでは内申もテストも落ちて大学にいけなくなる。キスは俺の責任だ。しかし結菜がここまでおかしくなるのは、成績のことも含めて、耐えられない。キスばかりしていたことが、結菜の悪影響になってしまった。キスは控えよう・・・・・・結菜のためだ。だから俺は結菜とのキスを禁止する」
結菜は頬を膨らませて俺から顔を背けた。全く俺の意見を聞く気がないらしい。
「また、宗太に私飽きられちゃた」
結菜を振り向かせると、結菜の目から大粒の涙が零れている。今の結菜は大学のことや勉強や授業中のことも考えていない。
「結菜、俺と同じ大学に行きたいんだろう!このままでは大学すらもいけない!」
涙目になっている結菜の両肩を掴んで、俺は必死に結菜に訴えた。
「今さえ良ければ私は幸せ」
そういいながら、上目遣いで俺を見て、目を潤ませる。とうとう俺は結菜からキスのおねだりを初めて断った。
「今の宗太なんて大っ嫌い!」
結菜は目から涙を溢れさせながら、屋上を駆け走って、屋上の扉を開けて飛び出していった。
どうして俺の気持ちがわかってくれないんだよ。付き合って結菜と初めての喧嘩だ。俺は当分、結菜のためにキスは禁止しょうと思ってる。だが、結菜は俺の気持考えてもくれない。俺は初めて結菜に対して頭にきた。
昼休憩が終わり、教室に帰ると、結菜が独りで落ち込んでるのがわかる。本当なら俺だって結菜と毎日キスをしたいんだ。しかしこのままだと結菜のためにならない。
俺は落ち込んでいる結菜の肩を優しくポンポンと叩く。
「大学受験、頑張ろうな」
今の俺にはそれしかいう言葉がなかった。しかし、結菜は俺を見ると頬を膨らませて目を逸らしてしまう。話にならない。
俺は諦めて午後の授業が始まり、必死に授業に集中することにした。すると科目担当の先生から「朝霧さん、授業をきいてますか!」と結菜が注意を受けている。
結菜は午後の授業も全く、授業内容を聞いていなかったことがわかる。結菜はふらりと席から立ちあげる。
「今は考え事をしてて授業に集中できません」
このままではマズイ。俺は顔を青ざめて、この場をなんとかしなければと頭を悩ませる。そして俺は手を挙げて、科目担当の先生に「結菜は今日は朝から体調が悪いんです。」と話した。
このままでは結菜がもっとダメになると確信をした。
午後の授業が終わり、すずなちゃんのHRが終わってからも、結菜の為と思って、俺は距離をおくことにした。
すると結菜が俺の近くに駆け寄ってくる。
「宗太は私のこと冷めたんでしょう。キスもしてくれないし、私、ショックで立ち直れない」
「結菜のことが1番だ。大好きだ。でも今の結菜はおかしい。キスしてから、勉強すら頭に入ってない。わかってほしい。俺はいつも結菜のことを心配しているよ」
「宗太は女心をわかってない!私、今日の宗太が好きじゃない。私のこと飽きてる!」
結菜がまた暴走はじまった。今回の結菜はどう説得しても無理だ。俺達の初めての喧嘩だろう。
結菜は「今日は1人で帰る」と言い先に教室を出て帰った。
俺は結菜のことの為に話したつもりが逆効果にまってしまったみたいだ。こうなったら、夜にでも結菜の家に言行って、結菜の誤解をとくために、瑞穂姉ちゃんの協力してもらうしかないだろう。
とにかく夜にでも、結菜のマンションに行って、瑞穂姉ちゃんと相談しよう。そして、結菜が元の結菜に戻れるように、結菜を説得しよう。今日は徹夜の覚悟が必要だな。俺は結菜が大好きだ。結菜、勘違いしないでほしい。
 




