54話 映画館
最近も結菜はおかしい。それもこれも俊司と慎のせいだ。あいつ等がイチャつくようになっていから、結菜がことあるごとに「イチャつきたい。キスしたいー。倦怠期ー」と呟くようになった。
俺としては学校ではこれ以上ないくらいにイチャついているし、キスなんて学校の教室で堂々とすることではないと思っている。だから結菜の要望を叶えてやることができない。
この間、俊司が笑って、俺達の元にやってきた。そして財布の中から2枚のシートを取り出した。そのシートには「ウスウス」と書いてあった。奴はやる気満々だ。神楽の意思など関係なく、妄想の世界に羽ばたいているようだ。
そして、俺達が座っている席に委員長がやってきた。委員長は「何カ月ぐらいで、一線を越えたらいいかな?」と顔をデレデレにしながら来てくる。そんなの俺が知るかー!結菜の前でいらんことをいうな。また汚染される。
凛はそれを聞いて、真剣な顔をして「佐伯くんなら襲えばOKでしょう。体も貧弱そうだし、襲っちゃえば必然的にそうなるわよ」と真顔で委員長に言っている。凛、あまり委員長を焚きつけるな。今の委員長は頭のタガが外れているんだから、冗談ではなく、本気でとらえるぞ。見ろ。何か必死にメモをしてるじゃないか。
そんな俊司と委員長を見て、結菜が目を輝かせる。そして「私も宗太の赤ちゃんが欲しくなっちゃった」と爆弾発言を俺に落とす。そんなことになれば、結菜のお父さんに半殺しにされて、瑞穂姉ちゃんに本気で殺される。なんとか思いとどまってほしい。
俺は職員室へ入っていき、すずなちゃんの机の横へ椅子を持って行って座る。すずなちゃん、「今度は一体何?」っといった顔で俺を見る。俺はすずなちゃんに冷静に告げた。
「俊司が財布の中にヤバい物を2枚も入れている。名前は「ウスウス」何に使おうとしているかは、大人のすずなちゃんならわかるよね」
それを聞いたすずなちゃんが耳まで真っ赤にして立ち上がった。「神楽さんの貞操の危機が迫ってるわ。先生方々、私に力を貸してください。あの黒沢くんから神楽さんを守らないといけません。お願いします」
男性職員は手を挙げて「「「オオオーーーーー!」」」と言って職員室から出ていった。俊司が生徒指導室へ連行されるのも時間の問題だろう。俺達よりも早くそんな経験を済まそうとするような奴には制裁が必要だ。
俺がまだ椅子に座っていると、すずなちゃんが「まだ用事があるの?」という顔で小首を傾げている。
「最近、委員長が、いつ慎を襲ったらいいか、真剣に悩んでいます。慎はひ弱だから、襲われれば、日とたまりもなく、事が達成されるでしょう。俺には止める力がありませんでした。言いたかったのはそれだけです」
すずなちゃんが飲みかけていた、お茶を噴き出す。
「わかりました。栗本さんには私が直に話をつけます。今から行ってきます」
すずなちゃんが大急ぎで委員長を捕まえるために飛び出していった。これで悪は滅びた。俺は額の汗を拭って、安堵のため息を吐く。そしてゆっくりと自分の教室へ戻った。俊司と委員長の姿はなくなっていた。
結菜が俺の膝の上に載って、首に手を回してくる。
『ねえ、宗太、今日、私、映画が見たいの?映画を見ながらチュッてするって良い案でしょ。周りも暗いし、ムードもあるし。すこしだけチュッとするだけでいいの。私、満足するの。だから今から連れて行って』
耳元で甘くささやくのはやめてほしい。ちょっと行っちゃおうかなって、思ったじゃないか。確かに映画は良いムードになる。キスをしなくても、良いムードになれば、結菜の機嫌も直るだろう。
俺と結菜は鞄の中へ勉強道具を片付けると、凛に「これからサボるわ」と言って教室を後にした。校舎を出て、校門を潜って、駅に向かって歩いていく。映画館は駅で3つほど行った場所にある。
結菜は俺の腕に、自分の腕を絡めて、寄り添って駅まで歩いていく。結菜はルンルン気分で鼻歌を歌っている。こうやって歩いているだけでも十分、傍からみればイチャつているんだが、今の結菜にそれを言っても無理だろう。
俺達は駅について券売機で切符と買って、電車に乗る。電車の中は空いていたので、2人寄り添って椅子に座る。他の学生達が俺達のほうを見てヒソヒソ話をしている。絶対にイチャついていることを話題にされている。
結菜が機嫌が良ければそれでいい。俺がどれだけ恥ずかしくても堪えてみせよう。俺達は映画館についた。色々な映画があったが。結菜は「恋愛映画」がいいと言い張った。今やっている恋愛映画は「隣の幼馴染のお姉さんが、僕のことを好きだって??」という映画しかない。純愛、アマアマ・激アマ映画らしいが、これに耐えるしかない。結菜が喜んでくれるなら、苦手な恋愛映画も見ようじゃないか。
俺達は映画館のカウンターで映画のチケットを買って、座席の予約をする。そしてポップコーンを買いに行こうとすると結菜に止められた。
「今日は映画を見に来たのはチューのためでしょう。ポップコーンを食べに来たわけじゃないよ。だから禁止」
まだ、覚えていたのか。ポップコーンを食べていてくれたら、忘れてくれると思ったのに。映画の開場の時間が迫ってきた。俺達は座席にすわる。なぜか結菜が選んだ席は、1番後ろの端の席2つだった。これは絶対にやる気だ。もう俺は逃げられない。
映画が始まった。何だ。幼馴染の近所のお姉さんと、転校生の弟役が主人公なのか。けっこうありきたりなストーリーだな。段々とストーリーは進む。学校に隠れて同棲してイチャつく2人。ベッドで見つめ合い抱きしめ合う2人を見て、結菜の手が俺の手の上に重なって、力が入っている。かなり映画にのめり込んでいるようだ。
クリスマスに日本海に旅行って、ちょっと暗くないか。でも旅館の部屋の中で2人に1つの布団って興奮するな。
これはやれっていうサインじゃないのか。よく主人公の男子は耐えているな。俺と結菜がその場にいたら、絶対に歯止めなんて聞かないだろう。結菜が俺の腰に手を回して俺の体を引き寄せていく。映画に入り込みすぎだって。
2人が初めて何度も長く唇を合わせた。すると結菜が俺を見て、目を潤ませて顔を近づけてくる。俺の目の前には形のよい結菜の唇がプルンと近づいてくる。これはやるしかないというか、ムードに負けるしかない。俺達は映画館の中で初めて唇を合わせた。結菜の唇は柔らかくてプルンとした弾力があって、とても気持ちがいい。俺も積極的に唇を重ねる。
映画の中ではキスシーンが終わっていたが、俺達のキスシーンは終わらない。俺は結菜を抱きすくめて、何度も長く唇を合わせてキスをした。1度してしまったものは止まらない。
映画でキスシーンがある度に俺達もキスをした。映画の最後で大学の近くに引っ越しした主人公が、長馴染みのお姉さんとまた一緒に同棲を始めることになり、ベランダで長いキスをするシーンで終わった。
俺と結菜はエンドロールが終わって館内に明かりが灯るまで、唇を合わせた。結菜は満足そうにウットリとしている。俺も結菜とキスができて満足だ。今はそれ以外、何も考えられない。
つい、映画に引き込まれてキスを何度もしてしまった。もうこうなれば、他のことは考えないようにしよう。
映画館を出て、喫茶店に入って、2人かけのテーブルに座って、俺はコーヒーをもらい、結菜はアイスティーを頼んだ。
「さっきの映画、主人公は私達と同じ高校2年生と高校3年生だったよね。2人で大学に行ったら、結婚しようって約束してたけど、映画では大学に入学したところで終わっちゃったけど、どうなるのかな?」
「それは大学に入ったんだから、結婚したんじゃないのかな」
「キャー!学生結婚!ねー宗太、私達も大学に行ったら、学生結婚しましょう」
俺は飲んでいたコーヒーを噴出した。映画の影響受けすぎじゃん。いくらなんでも早すぎるし、結菜のお父さんが許すはずないよ。瑞穂姉ちゃんなんて、大学行ってるのに今は、彼氏いないんだから、絶対に怒られるって。
結菜はまだ映画の中にいるようだ。嬉しそうに映画の話をして、キスで盛り上がっている。あの映画が過激な映画でなくて良かったよ。過激な映画だったら、結菜は今頃、何を言い出すかわからなかった。
結菜が落ち着いたころに喫茶店を出ると、夕暮れが過ぎて、空には星空が輝いていた。俺達は電車に乗って地元の駅まで戻る。そして、駅前から結菜の家まで寄り添って歩いた。その間も、誰もいなくなると結菜が顔を近づけて俺にキスをしてくる。俺も周りを気にしながら、結菜の唇を受け入れた。
これはヤバい。癖になる。絶対に結菜のことだ。学校でも隠れてキスしようとするに違いない。俺は学校でキスしても良いけど、昼休憩の屋上でだけだよっと固く約束させる。
結菜は「うん、ありがとう」と言って、俺にまたキスを求めてくる。俺も結菜を抱きしめて結菜にキスをする。
結菜のマンションに着いた。結菜は「離れたくない」と言って、俺の服の袖を引っ張って離さない。そして結菜が俺の首に抱くついて、キスをする。俺はキスを受け入れた。
「なんだい。こんな時間からマンションの前でチュッチュしてる奴等がいると思ったら結菜と宗太じゃないか」
慌てて振り向くと瑞穂姉ちゃんが仁王立ちで立っている。そのオーラの色は怒りの色ですか。
「確か、父さんとの約束では、結菜とキスしない約束になってたよな。堂々と私の前でキスするなんて、宗太、度胸があるじゃないか。ちょっと来い」
瑞穂姉ちゃんが俺の耳を引っ張って、マンションの中へ連れ込まれた。説教が3時間ほど続いた後に、缶ビールで酔っ払った瑞穂姉ちゃんから、ありとあらゆるプロレス技をかけられて、俺は失神した。
失神する前に見た結菜の顔はウットリとしたままで満足そうだった。それだけが唯一、俺の救いとなった。
「隣の幼馴染のお姉さんが、僕のことを好きだって??」完結記念です。
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