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51話 祭りの後

 朝起きると、結菜の顔を目の前にあった。なぜか俺が抱き枕にされている。昨日、一体何が起こったんだけ?確か瑞穂姉ちゃんが無制限で缶ビールを飲んで酔っ払って、俺にプロレス技をかけたところまでは記憶があるが、そこから先の記憶がない。



 この部屋は結菜の家の客間だよな。俺が寝ているのはわかる。なぜ、結菜が俺を抱き枕にしてるんだ。結菜の体が密着しているから嬉しいのだが、何かを忘れているような気がする。



 近くでみる結菜の顔も可愛いな。寝ているうちにキスをしたら怒るかな。こんなチャンスはめったにないし、俺のスケベ心がムクムクと込み上げてくる。俺は唇を突き出して、後少しで結菜とキスができると思った瞬間、結菜の目がパチリと開いて、結菜の手が俺の口をつまむ。



 そしてフワリと笑んで、「悪い口でちゅね」と言ってくる。せっかくのチャンスが・・・・・・俺が考えていなければ、本能のままに行動していれば、今頃、結菜の可愛い唇にチュッとできたのに・・・・・・クソっ



 俺は仕方なく布団から起きる。そして、トイレに向かうため、客間の扉を開けて廊下に出る。そしてリビングへ歩いていくと『犬〇家の一族』ようなポーズで桜木さんが両足を天井に向けて、真っ逆さまになった状態で眠っていた。



 そういえば昨日、桜木さんが来て、瑞穂姉ちゃんのアルゼンチンバックブリーカーで気絶していたな。あの後、俺が瑞穂姉ちゃんのプロレス技の餌食にあって、気絶したんだった。



 あの後、桜木さんがどうなったのかはわからないが、この変な体制で寝ているということは、まだまだプロレス技をかけられ続けたみたいだな。最後は気絶したまま、放置されたっぽいな。



 リビングを見回しても瑞穂姉ちゃんの姿が見えない所を見るとキチンと寝室で寝たみたいだな。



 瑞穂姉ちゃんには1つの特技がある。べろべろに酔っぱらっても必ず自分の寝室できちんと、自分だけは寝るのだ。他のみんなを放っておいて。



 俺がトイレに行って、リビングへ戻ってくると、結菜が怯えた表情で桜木さんを見ていた。あの恰好をみたら、だれでも怯えるよな。



「結菜は最後まで起きてたんじゃないのか」


「ううん、宗太が気絶させられた後、客間まで私が支えて連れていって、そのまま一緒に寝ちゃったから、宗太が気絶してから後のことは知らないよ。でも昨日はすさまじかったみたいね。桜木さん変な恰好で寝てるけど、大丈夫かな?死んだりしてない?」


「体だけは丈夫な人だから大丈夫だろう」



 それにしても、このままだと見た目が悪い。せめて普通の恰好で寝かせてやるか。俺へ桜木さんの両足を持って、普通の体制に戻してやった。すると「ウゥ」という声が桜木さんの口から洩れる。大丈夫なんだろうか。



 俺は結菜に朝食を作ってもらって2人で食べる。旨い。やっぱり2人で静かに食べる朝ごはんは美味しい。



 瑞穂姉ちゃんが起きてくるとうるさいからな。昨日は無制限に缶ビールを飲んでるから、機嫌が悪いだろうし、できれば起きてほしくない。今日1日は静かに寝ていてほしい。



 桜木さんを連れてきたのはいいけど、帰りはどうするんだ。今日、瑞穂姉ちゃんは機嫌が悪いはずだから、絶対に送って帰ってくれることなんてないぞ。



「結菜。桜木さんを見てどう思った。感じが良かったら瑞穂姉ちゃんと付き合うのを応援するんだろう?」


「うん。良い人だと思うけど。まだまだ頑丈さが足りないかな。すぐに失神してるし、パパだったら、もう少し頑張ってたと思う。パパは頑丈だから。なかなか瑞穂お姉ちゃんでも気絶させるのは難しいの」



 どんな親子関係だ。毎回酔っぱらった娘に気絶させられる親って威厳がないよな。



 バタンと音がなって、瑞穂姉ちゃんが自分の部屋から出てきた。顔が無表情だ。絶対に機嫌が悪い。そのままトイレにいってしまった。トイレから「オェ」という声が聞こえる。2日酔いのようだ。どれだけ缶ビールを飲んだんだよ。



 結菜がリビングを指差して、不思議そうな顔をしている。



「パパが大事にしていたブランデーが1本なくなってる。瑞穂お姉ちゃんはビール党だから飲まないし、誰がのんだんだろう?」



 結菜、それは飲んだとは言わない。飲まされたというんだよ。たぶん桜木さんが犠牲者だ。



 瑞穂姉ちゃんがトイレから出てきた。冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと一気に飲み干す。



「あ~2日酔いの後の水は旨いね~。生き返るわ~」



 瑞穂姉ちゃんは桜木さんを見て不思議な顔をしている。



「あれ?桜木の奴。まだ家にいたのか。もう帰ったもんだと思ってたよ。女子ばかりの家で堂々と寝やがって、デリカシーのない奴だね。ちょっと起こしてやるか」



 リビングを歩いて瑞穂姉ちゃんは桜木さんの近くへ歩み寄る。瑞穂姉ちゃん、なんで桜木さんの足元に立ってんの?それも足の開いた丁度、真ん中に立つなんて、嫌な予感しかしないんですけど。



「トゥーーー!」



 瑞穂姉ちゃんが気合の入った前蹴りを一発、桜木さんに入れた。それも股間の真ん中だ。



「ウォーーーーー!ウォウォウォ!」



 桜木さんは奇声を上げて、そのまま、目を白目にして泡を吹いて気絶した。



「やっぱり、男の弱点はここだね。結菜、危なくなったら、ここを狙って蹴るんだよ。男なんてこれで一発だよ」



 結菜にへんなことを教えないでください。結菜はきれいで可愛い結菜です。瑞穂姉ちゃんと違うんだよ。



 桜木さんがやっと気絶から復帰した。そして立ち上がるとその場でジャンプしている。かなり痛そうだ。目に涙が浮かんでいる。



 結菜が瑞穂姉ちゃんと桜木さんの朝食の準備をしている。食パン、目玉焼き、ウインナー、野菜サラダをテーブルに準備する。飲み物はミネラルウォーターだ。



 桜木さんがピョンピョン跳ねながらテーブルに座る。瑞穂姉ちゃんがそんな桜木さんを見て笑っている。



「昨日は楽しかったな桜木。私も無制限で缶ビールを飲ませてもらったのは久々だったから上機嫌だったよ」


「・・・・・・」



 桜木さんは無言だ。必死で何かを言いたいのを我慢しているようだ。



「桜木も酒が強くなったな。ブランデー1本を一気飲みだからな。さすが男だ。見直したよ」


「・・・・・・」



 桜木さんは尚も無言だ。何か文句を言いたいのだろうが、必死に我慢をしている。



 結菜がフニャリと笑って、桜木さんに問いかける。



「何か言いたいことがあったら、言ったほうがいいですよ」



 桜木さんは瑞穂姉ちゃんのほうを向いて口を開いた。



「お前、大学のコンパの時、あんな酔い方したことないじゃないか。いつも女っぽく顔を赤くしているだけで上品にビールを飲んでるだけだっただろう。あれは何だ?」


「みんなの前で本格的に飲めるはずないじゃないか。帰りに車に乗って帰るのに、飲まないように気を付けていたに決まってるだろう」


「お前の飲んでいる姿にどれだけの男性が惚れていたと思ってるんだ。男の純情を返せ」


「勝手に見惚れる、エロ学生が悪いんだよ。私は何も悪いことなんてしてないわよ。人聞きの悪いことをいうな」



 確かに騙される男子大学生も悪いが、上手く化けたもんだよな。外見だけは美人だからな。



「これで瑞穂お姉ちゃんを諦めますか?桜木さん?」


「いや、むしろ、もっと好みになった。俺と是非付き合ってくれ瑞穂」


「はぁ、昨日、あれだけ気絶させたのに、まだ足りないのかい。桜木、ドMの気質持ってるんじゃないだろうね」


「昨日、目覚めた」



 そんなのは目覚めなくていいから、桜木さん、変態にまっしぐらですよ。今まで尊敬していたのに、返せ・・・・・・クソッ。



「とにかく、桜木さんも瑞穂姉ちゃんも朝食を食べようよ。食べた後に話合えばいいだろう」


「宗太はそういいうけどな。俺は昨日、必死で瑞穂に付き合って、ブランデーの一気飲みまでしたんだぞ。あんまり酒を飲めない俺が、必死に飲んだんだ。瑞穂も少しぐらい、俺のことを認めてくれてもいいだろう」


「ヤダ」



 瑞穂姉ちゃん「ヤダ」の一言で片づけるのは、ちょっと可哀そうだと思うんだけど、少しは桜木さんに優しくしようよ。



「私の理想の男性は・・・・・・そうだな・・・・・・宗太だな。宗太だったら彼女になってやってもいいぞ」



 はぁ・・・・・・いい加減なことを言って俺を巻き込まないでほしい。桜木さん、なぜ充血した目で俺を見てるの。瑞穂姉ちゃんの冗談に決まってるでしょう。なぜ、結菜、泣きそうな顔をしてるんだよ。何か俺が悪いことをしたみたいじゃないか。



「宗太、毎週、毎週、お姉ちゃんと勉強したり、道場に行ってたのは、浮気をしてたのね。それも瑞穂お姉ちゃんとだなんて許せない」



 結菜さん、ちょっと落ち着いて考えようよ。相手は瑞穂姉ちゃんだぞ。怪獣も裸足で逃げ出すような女性だぞ。俺にそんな女性の相手なんて無理にきまってるじゃん。



「宗太、俺はお前のことを信じて、恋愛相談していたのに、お前が瑞穂の相手だったなんて、俺を馬鹿にしていたのか許さん」


「瑞穂姉ちゃん、いい加減にしてくれ。ここで冗談だって言ってくれないと、俺と結菜の仲がおかしなことになるじゃないか、そうなったら瑞穂姉ちゃんのことを恨むからな」



 瑞穂姉ちゃんはクスクスと笑うと、手をヒラヒラとさせる。



「結菜、冗談に決まっているだろう。結菜の大事な彼氏を私が奪うわけないだろう。あんまり桜木がウザいから、からかってみただけだよ。安心しなさい。宗太は結菜のもんだよ。私も応援してるから。大丈夫よ」



 結菜は泣きながら俺に抱き着いてきた。俺は結菜を抱き寄せて背中をさすってやる。結菜が泣いちゃったじゃないか。瑞穂姉ちゃん、許さないからね。



「宗太もごめんよ。そんなに怒らないで。勘弁しておくれよ。ちょっとした冗談じゃないか。でも、こんな美人に言い寄られて、宗太も少しは良い気持ちになったんじゃないか?」



 いいえ、全く、本性を知っているので、恐怖しかありません。



「それで、桜木、いつまでここにいるんだ。私は送っていかないよ。早く家に帰んな」


「それは勘弁してくれよ。俺は道場から直行してきたんだぞ。財布も何も持ってきてないぞ」



 はぁ、大学生が電車賃も持っていないなんてマジですか?ちょっと引きましたけど。



「そんなこと、私の知ったことじゃないよ。さっさと帰んな」



 桜木さんは瑞穂姉ちゃんになんとか連れて帰ってくれと拝みこむ。

  


 瑞穂姉ちゃんはため息をついて「送っていってやるけど、手間が焼けるね」と言って、桜木さんを送っていった。



 桜木さんと瑞穂姉ちゃんが去った部屋には、俺と結菜が残った。



「桜木さんを応援するって、結菜は言ってたけど、本気でどうする?」


「私、桜木さんを応援するのやめた。だって、電車賃も持ってないような人なんだもん。最後までダサすぎよ」



 優しい結菜にまで見放される桜木さんって、哀れ過ぎる。俺は同じ男として、少し涙がでてきた。



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