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50話 桜木さんの挑戦

 今日は土曜日で、瑞穂姉ちゃんと大学のショートボクシング同好会の道場へ来ている。いつものようにランニングを10kmこなして、俺は道場へ帰ってくる。すると桜木さんが俺を見つけて手招きする。



「どうしたんですか?桜木さん?」


「この前、瑞穂とリングの上で勝負したんだけどな、また負けたんだよ」


「今、何勝何敗ですか?」


「58戦0勝58敗だ。完敗中だな」



 桜木さんが爽やかな笑顔で、歯をキラッとさせて笑う。そこ笑うところじゃないですから。



「いい加減、諦めたらどうですか?」


「あんないい女を諦められるか」



 確かに瑞穂姉ちゃんは外見だけは美女だもんな。性格も優しいけど、色々と問題も多いんだよな。そのこと桜木さんは知ってるのかな。



「それで宗太、瑞穂と仲の良い、お前に相談したいんだ。どうやったら瑞穂と付き合える?」


「勝負に勝てばいいんでしょう。桜木さんの実力なら瑞穂姉ちゃんに勝つことできるって、瑞穂姉ちゃんも以前に言ってましたよ」


「確かに、本気の実力だと俺のほうが強いと思う。でも、瑞穂相手だと本気の実力を発揮できないんだよ」



 そのことも以前に瑞穂姉ちゃんから聞いている。エロい目で瑞穂姉ちゃんを見ているから、ちょっと胸をチラっとさせるだけで桜木さんは目が泳ぐらしい。そこへハイキック一発で決まりだ。これじゃあ、瑞穂姉ちゃんに勝てるはずがない。



「瑞穂姉ちゃんの胸を見ないで、勝負すればいいじゃなですか」


「違うんだよ。瑞穂の奴、俺と勝負をする時だけ、ノーブラでリングにあがるんだよ。目の前で、あの大きい胸がプルンプルンと揺れるんだぞ。男だったら誰でも見るだろう。宗太、お前も見るよな」



 はい、見ます。それもガン見で。それが男の生きる道。



「俺はどうしても大学にいる間に瑞穂と付き合いたいんだよ。頼むよ。相談に乗ってくれ」



 桜木さんも今年は大学3年生だが、来年は大学4年生になって就活に本格的に集中しないといけない年になる。そうなったら、この道場に通うことも難しくなるだろう。瑞穂姉ちゃんといられるのも残りわずかになるな。



「ん~俺には良い名案は浮かばないですね。ちょっと待ってくださいね」



 俺はポケットからスマホを取り出して結菜に電話をする。結菜が電話に出る。



《どうしたの宗太、今、道場じゃないの?》


《ああ、そうなんだけどな。道場で世話になってる桜木さんから相談を受けたんだ。俺だと名案が浮かばないから、結菜にも相談に乗ってもらおうと思ってな》



 俺は桜木さんが瑞穂姉ちゃんに惚れていることを話す。そして条件をクリアできれば付き合ってもよいと瑞穂姉ちゃんに言われていると説明する。条件はリングの上で、瑞穂姉ちゃんに勝つこと。桜木さんは瑞穂姉ちゃん相手では本気の実力を発揮できないことを教える。桜木さんは瑞穂姉ちゃんのことを諦められずに、俺に相談してきたことを伝えた。



《なるほど~。でも瑞穂お姉ちゃんで本当にいいの?その人って頑丈?》


《シュートボクシングをやっているくらいだから頑丈さは大丈夫だ》


《でも、瑞穂お姉ちゃんは色々と問題な面もあるでしょう。そこは大丈夫なのかな?》


《やっぱり、結菜も気になるよな》


《瑞穂お姉ちゃんを好きなら、瑞穂お姉ちゃんの問題点も含めて好きになってほしい。だから、家に連れてきて。家で酔っ払った瑞穂お姉ちゃんを相手できたら、私も少しは応援してあげる》


《わかった。今日、桜木さんを連れていくわ》



 俺は結菜との電話を切った。桜木さんが期待に満ちたキラキラした目で俺を見ている。そんなに期待されても困るんだけど。



「結菜が今日、桜木さんに会いたいって」


「おお結菜ちゃんっていうのは宗太の彼女で、瑞穂の妹だよな。その子が俺に会いたいってことは、俺は瑞穂の家に行けるのか。でかした宗太。グッジョブ。今日の俺は幸せだ~」


「はぁ、今日、私に負けたっていうのに幸せなのかい」



 瑞穂姉ちゃんがサンドバックでの練習を終えて、俺の所へやってきた。



「宗太も今日は全く、まだ練習してないじゃないか。桜木の相手をしている暇があったら練習しな。そうでないとリングの上で酷い目に合わせるよ」



 それはご免こうむりたい。



「あのさ、桜木さんから相談を受けたんだよ。瑞穂姉ちゃんとどうやったら付き合えるかって」


「はぁ、桜木、あんたね、私に勝てたら付き合ってあげるって言ってるじゃない。なぜ宗太に相談してるのよ」


「・・・・・・」



 桜木さんでは勝てないよな。だって瑞穂姉ちゃん、ノーブラは反則だと思うよ。




「たぶん桜木さん、これからもずーっと瑞穂姉ちゃんと勝負しても勝てないと思う。だから、俺も桜木さんを応援しようと思って」


「宗太が桜木のことを応援しても何の役にも立たないじゃないか」


「だから結菜に連絡した。結菜は桜木さんと実際に会ってみて、合格だったら桜木さんを応援するって言ってる。今日、桜木さんを家に連れて来てって頼まれたから、瑞穂姉ちゃん、家まで連れて帰ってね」


「宗太、なんだその投げやりな言い方は。どうして私が自分の家に桜木を連れて帰らなきゃいけないのよ。」



 確かに瑞穂姉ちゃんの立場だったらそうだよな。自分の家に男を入れたくないよな。



「結菜が言ってたけど、今日、桜木さんを連れて帰ってこなかったら、今日の缶ビールは抜きだって。もし、今日、桜木さんを連れて帰れば、今日は缶ビールを制限無しに飲ませてくれるって言ってたよ」



 瑞穂姉ちゃんの目の色が変わる。



「毎日2本しか飲ませてもらえない缶ビールを今日は制限なしだって、結菜が言ってたんだね。本当だろうね。ウソだったら、宗太、リングの上でわかってるだろうね」


「大丈夫。結菜に誓って、ウソは言ってないよ。その代わりに桜木さんを連れてくるようにだって」


「わかった。桜木、今日は特別に私の家に連れていってあげるわ。感謝しなさいよ」



 桜木さんを見ると、床に四つん這いになって、大粒の涙を零している。どれだけ嬉しいんだ。



「そうと決まれば、今日の練習はもう終わりにするよ。缶ビールが私を待ってる~」

 瑞穂姉ちゃんは上機嫌で更衣室へ向かった。俺は桜木さんを立たせて、更衣室へ向かう。



 着替え終わった、俺達3人は道場を出て、大学の駐車場に向かった。大学の駐車場にはBMW8シリーズクーペが止っている。桜木さんはBMW8シリーズクーペを見てビビッてる。



「このすごい車は瑞穂のか?」


「いや、父さんのだよ。父さんは海外赴任しているから実質は私のもんだね」



 瑞穂姉ちゃんは桜木さんに笑いかけて、運転席へ乗り込む。そして俺は当然、後部座席に乗る。桜木さんは助手席の乗り込んだ。



 瑞穂姉ちゃんがBMW8シリーズクーペのアクセルを踏む。BMW8シリーズクーペは駐車場でタイヤをキュルキュルいわせて、急発進する。いつもより衝撃がきつい。それほど缶ビールが飲みたいのか。



 街中の車道を車をすり抜けてBMW8シリーズクーペは走る。なんで一般道でメーター100kmになっているのか、毎回ながら意味がわからない。桜木さんを見ると顔が引きつって、手を広げて、体を固定している。



 そのまま一般道を走って高速道路へと走っていく。瑞穂姉ちゃんは気に入った洋楽をかけて、ハンドルの上で指先でテンポをとって上機嫌だ。瑞穂姉ちゃんはニヤニヤ笑って、アクセルを踏み込む。



 桜木さんの顔が真っ青になっている。歯もガチガチと鳴っているのがわかる。助手席に乗ってるとマジで怖いんだよな。結菜が瑞穂姉ちゃんの運転恐怖症になったのがわかる。



 車を右へ左へ瑞穂姉ちゃんが華麗なハンドル捌きで躱していく。とうとう桜木さんが我慢できなくなった。



「ウォーーーーーバキ・・・・・・・」



 悲鳴をあげた桜木さんの顔面に瑞穂姉ちゃんの右ストレートが炸裂する。桜木さんは鼻血を出して目を回している。



「うるさいんだよ。桜木、男がこれくらいでガタガタ言うんじゃないよ。人がせっかく気分よく、ドライブを楽しんでるのに、デリカシーなさすぎだよ」



 いえいえ、デリカシーがないのは瑞穂姉ちゃんだと思う。男だってデリケートなんだよ。



 高速道路を降りて一般道路に入る。瑞穂姉ちゃんのハンドル捌きは冴えわたる。桜木さんは涙目になっている。俺もそろそろ限界がきそうだ。吐きそう。今日はいつも以上に運転が荒いな。



 BMW8シリーズクーペは結菜のマンションの地下駐車場に入っていく。今日はオーバースピードじゃないのか。このままだとマンションの壁に激突する。俺がそう思った時、瑞穂姉ちゃんがサイドブレーキをかける。車はキュルキュルとタイヤを鳴らして半回転して、駐車スペースに横滑りしていく。まるでスタントマンのアクションのようだ。BMW8シリーズクーペはきっちりと指定の場所で停車した。



 桜木さんの顔色が青を通りこして白くなってきている。今にも口から魂が抜けだしそうだ。目の白目を剥いている。完全に失神したな。最後のトドメは俺もきつかった。



 瑞穂姉ちゃんは運転席から降りて満足気な顔をしている。俺も車から降りる。桜木さんは助手席で失神している。



「桜木を連れてきたのは宗太だから、宗太が桜木の面倒を見るんだよ。少しサービスしたら失神するなんてだらしないね。結菜なんて失神もしないで、きちんと目を見開いていたわよ」



 それは怖くて硬直していただけだよ。瑞穂姉ちゃん。結菜があまりにも可哀そう過ぎる。



 俺は助手席側のドアを開けて、桜木さんを引きずり出す。さすがに桜木さん、格闘技を長年しているだけのことはある。筋肉の固まりだ。重くてどうしようもない。これは目覚めるまで放っておくしかないな。



「俺、桜木さんが目を覚ましたら、家に行くので、先に瑞穂姉ちゃんだけ家に帰っておいて」


「わかった。じゃ、お先に家に帰っておくから。桜木のことは頼んだよ」



 瑞穂姉ちゃんはエレベーターに乗って18階へ向かった。



 俺は1階へ歩いて上っていき、近くの自販機でジュースとミネラルウォーターを買う。そして地下駐車場で大の字に失神している桜木さんの元へ向かう。



 ミネラルウォーターの蓋を開けて、桜木さんの顔と頭にかける。桜木さんがやっと意識を取り戻した。



「大丈夫ですか。桜木さん。瑞穂姉ちゃんの運転はいつもあれだから、桜木さんも彼氏になるつもりだったら、慣れないとダメだよ。大丈夫ですか?」


「これくらいのことで瑞穂を諦めるか。俺は瑞穂が好きだ」



 第一関門クリアー。家に入るともう一つの難問が待ってると思うけど、桜木さんは耐えられるかな。


 俺と桜木さんはエレベーターで18階へ上って、結菜の家のインターホンを鳴らす。すると結菜が玄関を開けてくれた。結菜は俺を見て少し怒っているようだ。いつものフニャリとした笑顔での出迎えではない。


 俺と桜木さんは玄関で靴を脱いでリビングへ入っていく。結菜が俺のシャツの裾を掴んでいる。俺が立ち止まると、耳元へ口を寄せてきてささやく。



『今日、瑞穂姉ちゃんにウソ言ったでしょう。今日は缶ビールを解禁にするって、私、そんな許可を出した覚えないんだけど』


『だって、桜木さんに瑞穂姉ちゃんの色々な癖を知ってもらうんだろう。なら缶ビールの制限を解かないと仕方ないじゃないか』


『私はいいけど、泣くのは桜木さんと宗太だからね。私は知らないから』


『勝手に結菜の名前を使ったことは謝るよ。俺が危ない時は助けてね』


『・・・・・・』



 リビングへ行くと既に缶ビールを3缶開けて、瑞穂姉ちゃんはほろ酔い状態だ。これ以上が危険水域だ。


 結菜が桜木さんに挨拶をしている。桜木さんも顔を真っ赤にして挨拶をしている。



「おい、宗太。結菜ちゃんも相当に可愛いな。さすが瑞穂の妹だ。美人姉妹だな。宗太、お前が羨ましい」



 結菜が台所へ行って、リビングのテーブルの上にガスコンロを置く。そして、その上にすき焼き鍋を置いた。



「今日の夕飯はすき焼きだね。これは缶ビールが進むね。今日の結菜はよいこじゃないか。さすが、私の妹。わかってるね~」



 瑞穂姉ちゃんが缶ビールをガンガン飲まない間に、すき焼き鍋を食べないと危険だ。俺と結菜は目を合わせて頷き合う。そしてみんなで「いただきます」と言い、俺と結菜は急いですき焼きを食べていく。桜木さんはすき焼きを味わって、ゆっくりと旨そうに食べている。その間に瑞穂姉ちゃんが缶ビール5本目に突入した。段々と目が据わってきている。これは危険だ。



「桜木、せっかく来たんだ。缶ビールをご馳走してやる。飲め」


「いや、俺は酒は弱いというか、すき焼きをもっと楽しみたいというか、まだ食べたいというか・・・・・・」


「私が大事な缶ビールをやるって言ってんだよ。つべこべ言ってないで飲め。ほれ、飲め」



 桜木さんは缶ビールを受け取って、プルトップを開けて、一気に飲む。


 俺と結菜はすき焼きを食べ終わって、2人でご馳走様をして、結菜の部屋へ逃げ込む。



「私ね、今日の瑞穂お姉ちゃんは狂暴だと思うの。宗太は今のうちに帰っておいたほうがいいわよ」


「でも女性2名の家に桜木さんだけ置いていくわけにはいかない。俺が結菜を守らないと」



 ドアの向こうから絶叫が聞こえてくる。俺と結菜はそっと部屋を出て、リビングを覗く。するとコブラツイストを桜木さんにかけている瑞穂姉ちゃんの姿があった。



 桜木さんはよく耐えている。顔から汗を滴らせ、必死に奥歯をかみしめて、痛さをこらえている。瑞穂姉ちゃんが卍固めに移行した。桜木さんの両手がピクピクしている。そして脚もガクガクして、崩れ落ちた。そこへ瑞希姉ちゃんのアキレス腱固めが炸裂する。これは痛い。



「ウァーーーーーー!」



 桜木さんの口から悲鳴が上がる。瑞穂姉ちゃんは艶やかに色っぽく笑いながら、四の字固めに移行する。流れるような技の移行。素晴らしい。



「イテェーーーーーーー!」



 そして腕ひしぎ逆十字固めに以降する。流れるような瑞穂姉ちゃんの動きが素晴らしい。



「瑞穂~大好きだーーーーーー!」



 まだそんなことを言う余裕があるのか、さすがに頑丈だな。



 瑞穂姉ちゃんは桜木さんの髪の毛掴んで、立ち上がらせると後ろに回って、ジャーマンスープレックスをきれいに決める。桜木さんの首にイヤな音がする。白目を向いて泡を吹いている。



 それでも瑞穂姉ちゃんは止らない、最後に桜木さんを持ち上げて、アルゼンチンバックブリカーでフィニッシュ。



 完全に桜木さんはノックアウトされて、リビングに大の字になって倒れた。体が痙攣している。完全に失神している。



 思わず俺と結菜は桜木さんに駆け寄った。息はある。呼吸もできてる。桜木さんは失神しているのに、何かを呟いている。耳を寄せてよく聞くと「瑞穂~。瑞穂~。瑞穂~」と名前を連呼している。桜木さんの瑞穂姉ちゃんを好きな気持ちは本物だ。これで確信がもてた。結菜も隣で頷いている。


 

 いきなり、俺の頭が掴まれた。瑞穂姉ちゃんの目の色が変わっている。瑞穂姉ちゃんが酔いつぶれるまで近寄ってはいけなかった。俺は次の犠牲者となった。

この作品を読んでくださっている皆様、大変、感謝いたします。(*- -)(*_ _)ペコリ

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