46話 体育祭
体育祭の日がやってきた。それまで1週間、俺達は自分の種目を練習してきたが、俺は仮装リレーなので、ほとんど普通のリレーの練習と変わりなかった。大変だったのは女子達だ。男子が応援団を拒否し、女子がチアガールで応援することになったためだ。
チアガールの服装は瑞穂姉ちゃんの通っているチア部に無理を言って、借りてきたが、さすがにアンダースコートまでは借りられないので、アンダースコートは全て凛が負担して、女子に配った。
俺達が練習している間。女子達がチアガールの服装ですずなちゃんが考えた振り付けで全員で脚をあげて踊っている。こんなのを見せられたら、男子は練習どころではない。
女子の弾ける笑顔。躍動する汗。高く上がる脚。そしてチラっと見えるアンダースコート。揺れ踊る胸。これを無視できる男子がいるだろうか。ここは断言したい。絶対に無視できない。ガン見だ。
男子達は自分達の練習もそこそこに女子の応援をし、拍手を送る。中でも際立って目立っていたのは、意外にも神楽だ。神楽は着やせしているが、爆乳の持ち主だ。もう揺れる揺れる。胸が全く違う生物のように揺れ踊るのだ。
俊司は鼻の下を伸ばして神楽に見惚れている。他の奴等も同じだ。
神楽には負けるが結菜もそこそこ巨乳である。そして脚が長い。揺れる巨乳。きれいに伸びあがる脚。アンダースコートがチラっと見えるのが、ハラハラドキドキさせる。弾ける笑顔はやっぱり結菜が1番に似合っている。
凛はスタイルが抜群によく、体が柔らかいので、脚を上にあげた時、頭の上まで脚があがる。普段、清楚でお淑やかにしている凛が躍動感いっぱいで踊っている姿は男子達を魅了する。
そんなこんなで、男子は全くと言っていいほど、練習にならなかった。それでも俺達のクラスの一致団結力は否が応でも盛り上がり、体育祭当日にはピークに達していた。
違う意味でこれほど、盛り上がっている体育祭は今までになかった。
女子からの提案で、良い成績を収めた男子には褒美としてチアガールから頬にキスをしてくれるという特典がついた。その途端に男子達の目の色が変わる。
男子の見せ場は騎馬戦だ。騎馬戦は男子の全員参加種目だ。この騎馬戦で勝ち残ればチアガールからのご褒美がもらえる。男子達の心に火がついた。
目指すは学年1位、誰かがそんなことを言い始めた。しかし、エロで完全に頭が壊れた男子達は自分達の実力も考えず、学年1位を獲るという夢に燃えた。
徒競走が始まった。女子の部では委員長が出ている。委員長は必勝の鉢巻をしてスタートラインに立った、チアガールの女子達の応援にも力が入る。
いつもは少し地味な委員長キャラだが、そこそこスタイルはいいのだ。鼻の周りに少しソバカスの後があり、それが実年齢よりも幼くみえ、童顔好きにはたまらない顔つきをしている。
スタート前に慎から「頑張れよ」と声をかけられた委員長の目が燃えている。スタートの音が鳴り、一斉に女子達は走り出す。委員長はすたーとダッシュをきれいに決めた。男子からは「委員長~」という声援が飛ぶ。
委員長は胸をタユンタユンと揺らして必死に走る。慎が「紗耶香、走れ~」と珍しく大声を出した。委員長の顔つきが変わり、目が吊り上がる。
今の委員長の目にはゴールラインしか見えていないだろう。委員長は僅差でゴールテープを切った。1位でゴールした委員長は、慎にむかってVサインする。慎は何も言わずいサムズアップした。
そんな慎に俺は近づいて声をかける。
「おい、委員長、1位になったじゃん。やるな~。お前も珍しく声だして応援してたな。」
「俺が大声で応援したんだから、1位になって当然だ。そうなってももらわないと困る。俺が恥ずかしい」
慎がスマホを弄りながら答えた。体育祭の日までスマホすんなよな~。
凛が体操服に着替えて俺の元へ走ってくる。次の大縄跳びに参加するためだろう。
「私のチアガール姿、見てくれたかしら?これから次の種目の大縄跳びをするため、集合場所へ向かいますの」
「ああ、チアガール、とっても似合っていたよ。凛があんなに楽しそうに踊っている姿が見られて、俺も嬉しい。凛はきれいで可愛いからチアガールの中でも一際、目立ってたぞ。大縄跳びも頑張ってな」
凛は俺に手を振って、集合場所へ向かった。暫くすると入場口から凛達が入場してくる。凛は大縄跳びの先頭を歩いていた。運動神経の良い凛だから縄にひっかることはないだろう。
大縄跳びが始まった。俺は凛の姿に驚いてガン見する。なんと凛は運動着をきちんとショートパンツに入れていなかったらしく、大縄跳びを飛ぶ度に可愛いおヘソが丸見えになる。この破壊力は凄まじい。
学校中の男性達がそのことに気づいたらしい。日下部コールが起こる。学年もクラスも関係ない。男子達の目が凛のおヘソへ集中する。凛は大縄跳びに集中していて、そのことに気付いていない。
大縄跳びを回している男性教師も顔がデレっとなっている。そして、他のクラスよりも大きく、ゆっくりと大縄跳びを回している。男性教師の心の声が聞こえてきそうだ。もっと長く回したい。もっと、長く飛んでいて欲しいと。
その結果、俺達のクラスは大縄跳びで学年1位となった。女性教師から物言いがつけられたが、何も違反をしたわけではないので、女性教師の意見は却下された。
俺達のクラス全員の男子は立ち上がって凛に大きな拍手を送った。中には泣いている奴もいる。たぶん凛のファンだろう。
凛が嬉しそうに駆け寄って来る。
「一生懸命に飛びましたわ。私の大縄跳びは見てくださいました?」
「ああ、見ていたぞ。可愛いおヘソが見えて、とっても可愛かったぞ」
「え、変なところを見るのは止めてくださいまし、うぅ~、恥ずかしいですわ」
「とにかく、1位、おめでとう」
「私はチアガールとして応援をしないといけませんので、失礼いたしますわ」
凛はふわっとした優しい笑顔で俺に一瞬だけ、抱き着いてから着替えに走っていった。凛に抱き着かれたのは、これが初めてだ。心臓がドキドキする。凛の良い香りが俺の鼻をくすぐった。
次は俊司と神楽の二人三脚だ。2人が入場口から入ってくる。これはダメだ。俊司の顔が既にデレデレになって鼻の下を伸ばしている。俊司は神楽と密着しているから、あの破壊力抜群のロケット巨乳がモロに体に密着しているんだろう。クラスの男子からは俊司に向かって「爆発しろ~」と野次が飛んでいるが、デレデレの俊司の耳には入っていないようだ。神楽は照れて、顔を真っ赤にしている。
二人三脚の競技が始まった。次にスタートするのは俊司と神楽だ。スタートをしてすぐに俊司の顔がキリっとなった。神楽とこれ以上ないくらいに密着して、神楽をリードしていく。俊司の鼻息が荒い。
よく2人を見ると、1歩走る度に密着した神楽の巨乳が俊司の体に当たってムニュっと変形する。たぶん、今の俊司は巨乳がムニュっと変形する感触に全神経が向かっているのだろう。まさにパラダイス。
意外なことに俊司の巧みなリードによって、俊司と神楽は1位となった。ゴールラインを過ぎて、1位の旗を持って、列に並んでいるにも拘わらず、まだ俊司は神楽と密着している。あいつ完全に現実を忘れてんな~。
俊司は退場口から神楽と一緒に体を密着させたまま、退場していった。
クラス席に戻ってきた俊司はクラスの男子の反感を買い、みんなに密に背中を叩きまくられたのはいうまでもない。俺も力いっぱい3発ほど背中を叩いてやった。クソっ羨ましい。それでも俊司はロケット巨乳の感触を思い出しているのかデレデレと鼻の下を伸ばしたままだ。当分、使い物になりそうにない。
零が俺の所へ走ってきた。
「僕、今から綱引きに行ってくるんだけど、宗太、応援してくれるかな?」
「おう、零か。お前、ひ弱だから頑張れよ。応援してやるから、精一杯、頑張ってこい」
零は嬉しそうに笑って集合場所まで走る。入場口から綱引きの生徒達が入場する。零が綱を持つ先頭だ。
いよいよ綱引きが始まった。先頭で綱を持つ零はとにかく目立つ。細い腕で綱を持って、一生懸命に綱を引っ張るが足が滑って、思うように立っていられない。
「ダメ~。」「そんなに強く引っ張っちゃーイヤー」「強すぎる~」と零の悲鳴が聞こえる。それが何とも色っぽい。
敵方の男性陣はその声を聞いて、顔を赤くして照れている。零は男ではあるが、外見は美少女だ。そんな美少女顔が、色っぽい悲鳴をあげているのだから、たまらない。敵方の男性陣は力が入らずに大崩れする。
「零~。頑張って~」とチアガールの中から零を応援する声があがった。赤沢だ。頬をピンクに染めて、零を懸命に応援している。なるほど、赤沢の好みは零だったのか~。そういえば、赤沢は零といる時はいつも顔を真っ赤にしてたよな。
「零~頑張れ~」と俺も大声をあげて応援する。
すると、零が「宗太、僕、頑張る~。もうちょっとだから頑張る~」ときれいな高音ボイスで答えた。その声を聞いた男性陣は何を想像したのか、敵、味方に拘わらず総崩れを起こす。
結局、僅差で俺達のクラスが勝った。こんな勝ち方でいいんだろうか。
綱引きが終わって整列している時、零がピョンピョンと跳ねて、俺のほうを向いて手を振っている。俺も零に手を振った。そして赤沢のほうを見ると、零に必死で手を振っている。零、少しは赤沢にも手を振ってやろうな。
次は慎の出る、借り人競争だ。慎がスタートラインに立つ。スタートダッシュを決めて、いち早く係員が持っている箱の中から髪を取った。するとチアガールの女子の元へ走っていく。そして何も言わずに委員長の手を握るとゴールへと走っていった。慎の取ったメモ紙にはいったい何が書かれていたんだろう。
慎が1位でゴールインする。係員がマイクを持って、慎が持っていたメモ紙を読み上げる。
「好きな女の子」と大声で係員がマイクを通してグランド全体に響きわたる。
学校全体が揺れた。学年もクラスも関係なく、男女共に歓声に沸きかえる。委員長ははじめポカーンとした顔をしていたが、段々と理解しはじめたのだろう。委員長の顔から涙が流れる。そしてその場にうずくまった。こんなの公開プロポーズと一緒だ。慎、お前っていつの間にそんなことをする度胸がついたんだ。恰好良すぎるだろう。
慎は泣き崩れた委員長の背中をさすっている。立ち上がった委員長は華やかな笑顔をを慎に向けて、慎と手を繋いで、幸せの笑顔を学校中に振りまいた。女子達からは「お幸せに~」と歓声が起きる。その中を慎と委員長は退場門へ歩いていった。
クラス席に戻ってきた慎に男子達は惜しみない拍手を送った。俺も拍手を送る。慎は無表情のまま、スマホを取り出して、またスマホで遊びはじめたが、顔が真っ赤になっている。照れ隠しだろう。
これで午前の部の競技が全て終わった。結菜が向日葵のような笑顔で走ってきて、俺に抱き着く。
「最後の借り人競争すごかったね。佐伯の奴。恰好良かった。見直したわ。これで佐伯と紗耶香も晴れてカップルね。アタシ、嬉しくって泣いちゃった」
「あんな派手なことをするキャラじゃないのにな。これで慎をからかえるわ。休み明けが楽しみだ」
凛も走ってきた。やはり顔には泣いた後がついている。慎の取った行動に感動したのだろう。
クラス席で弁当を開いて食べる。今日だけはクラス全員でお弁当タイムだ。俊司は神楽と一緒に弁当を食べている。慎は委員長と一緒だ。俺はもちろん結菜と凛と一緒にお弁当を食べる。零の近くには赤沢が座っている。
昼休憩の間、慎と委員長はクラス全員にからかわれた。委員長が顔を真っ赤にして起こるが、照れた顔で怒られても迫力がない。みんなから「今日の委員長は可愛いぞ~」「顔が真っ赤だぞ~」と言われて、委員長は顔を両手で隠してうずくまる。慎は下をむいて黙々とお弁当を食べていた。少しは委員長を助けてやれよ。
昼休憩が終わり、応援合戦だ。クラスごとに応援を見せ合う。やはり一番盛り上がったのは俺達のクラスのチアガールだ。腕を上げ、脚を上げ、時にはジャンプをし、可愛いポーズを決める。その度に胸がタユンタユンと揺れ、アンダースコートが見える。
ダンスを踊っている最中にチアガールをしている女子全員がスカートの中に手を入れて、アンダースコートを脱いで、真上に放り投げた。男子学生全員の目が釘付けになる。俺も思わず唾を飲む。チアガールをしている女子達が一斉に高く脚をあげた。男子学生全員からどよめきの声がおきる。俺もパンティが見えるのではと拳に力が入る。なんとチアガールの女子達はアンダースコートを履いていた。男子学生全員からどよめきが起こる。
アンダースコートを2枚重ねて履いているなんて反則じゃね~か。純情な男心を返せ~。
最後にきれいにジャンプを決めて、可愛いポーズでフィニッシュを決める。学校全体が拍手の渦となった。
これで俺達のクラスが応援合戦で1位だろう。
仮装レースの順番が回ってきた。俺は女子生徒に手伝ってもらってシンデレラの恰好に着替える。今までスカートなんて履いたことはなかったが、なんと無防備なんだろう。股がスースーする。それにヒールの靴を履いたが、靴の中で足が前に寄っていく。こんなもの、女性はよく履けるもんだな。歩きにくい。これで走るなんて無理だ。頭にウィッグを乗せられて、メイクをされて完成だ。鏡を見て、自分でも「オェ」と吐きそうになった。
これって完璧な変態じゃね~か。
結菜は猫の着ぐるみパジャマに猫の足のスリッパを履いている。お尻には猫の尻尾が生えている。いつ見ても、結菜の猫の着ぐるみパジャマ姿は可愛いな。お持ち帰りしたくなる。
男子生徒は結菜の恰好を見て「可愛い~」と悩殺されている。俺の恰好を見て「キモイ!帰れ!」と罵声が聞こえる。俺だって好きでこんな恰好をしてるわけじゃね~。俺は大声で叫び返した。
結菜が俺に近づいてくる。
「宗太、とっても似合ってるよ。女の子に見えないのが残念かな」
結菜、慰めの言葉って、時には傷つけることもあるんだぞ。俺は泣きたくなった。
俺はスタート位置につく。スタートダッシュをしようとした瞬間にヒールで足がグニャっと曲がって俺は大ゴケした。
スカートはまくれあがり、パンツ丸出しになった。頭に乗せていたウィッグも取れる。男子学生からは「汚いものを見せるな~」と罵声が飛ぶ。女子学生からは悲鳴が上がる。
俺は靴を脱いで、ウィッグを拾って、スカートを持って、必死に走った。しかし結果はビリだった。クラスの男性達から冷たい視線を浴びるし、チアガールも応援してくれなかった。凛は恥ずかしそうに両手が顔を隠している。
結菜はフニャリとした笑顔で手を振っていた。結菜、お前だけが俺の女神だ。涙が出てきそうだぜ・・・・・・クソッ
次に走る結菜がスタートラインに立つ。結菜は両手を上げて、みんなに手を振っている。男子学生からは応援の声があがる。俺の時とは大違いだ。
結菜が走りはじめた。猫足のスリッパなので走りにくそうだ。走る度に尻尾が左右に揺れる。とても可愛い。俺も「結菜~頑張れ~」と声援を送る。結菜はピコピコと走ってゴールした。結果はビリだった。しかし、男女から「可愛い~」と大歓声が巻き起こる。俺の時とは大違いだ。クソっ。
結菜はピコピコと俺のところまで走ってくる。
「宗太と同じでビリになっちゃた」と舌先を出して笑っている。
俺は結菜の腰に手を回してギュッと抱きしめた。
男子学生から「ムカつく~」「爆死しろ~」と罵声が飛び、女子学生からは「キャー」と歓声が上がる。
結菜を抱きしめて癒されないと俺の心がダメージなんだよ。何とでも言え。俺は結菜を抱きしめ続ける。俺達2人は手を繋いで退場門から退場した。
次の競技は騎馬戦だ。俺は大急ぎで体操服に着替えて、入場門へ集合する。俺は騎馬の騎手役だ。鉢巻を取られたら負けになる。馬が潰れても負けだ。
俺の騎馬の馬役の中には慎と俊司もいる。俊司は馬の先頭役だ。
競技スタートの合図が鳴らされた。一斉に騎馬が動き出す。俺達はなるべく相手にしなように、逃げ回った。それでも、すぐに敵の騎馬に追い詰められる。相手の騎手が俺の鉢巻を取ろうと手を伸ばしてくる。それを俺は腕で弾き返し、手で払いのける。
瑞穂姉ちゃんと道場で、相手に捕まれない練習ばかりしてきた俺だ。鉢巻を守るくらいは造作もない。俺は敵の腕を弾き返して、敵の鉢巻を奪っていく。俊司と慎もよく耐えてくれている。とうとう俺達の騎馬だけが残った。
俺達が1位だ。これでシンデレラのマイナスは取り戻せただろう。
最後にクラス対抗リレーが始まった。はじめに走るのは赤沢だ。赤沢は剣道部で足が速い。スタートダッシュで1番に躍り出る。2番手、3番手は赤沢がかせいだリードを守り続ける。3番手は遠藤だ。遠藤はサッカー部で足が速い。リードを守り切って僅差で1位になった。遠藤が走り終わった後、男泣きをしている。その背中を赤沢が優しく摩っていた。
全競技が終わり、女子はチアガール姿でクラス席に戻ってきた。男子は既にクラス席にいる。
テントの中では係の者と、先生達が集計を始めている。俺達はいい加減なクラスの割には、良い結果を出したほうだと思う。マイクをもって先生が優勝者を発表していく。2年生の学年優勝の発表の番になった。
「2年生、学年優勝は2年1組」
俺達のクラスが学年1位となった。俺達のクラスは大声をあげて喜びを分かち合う。委員長は慎の頬にキスをする。神楽は俊司の頬にキスをする。赤沢は零の頬にキスをした。そして俺には結菜と凛の2人が同時に、頬にキスをする。
それを見ていた他の男子学生と女子学生から歓声があがる。
俺達の体育祭は2年1組の学年優勝で幕を閉じた。総合優勝は3年生のクラスがなった。総合優勝は逃したが、俺達は学年優勝だけで十分満足だ。
俺達は皆、バラバラにクラスに戻る。俺は結菜と凛と手を繋いで教室に戻ろうとしていた。その時、加奈が手を振って走ってくる。
「お兄ちゃん、私の走り、見ていてくれた。徒競走で1位だったんだよ」
あ、自分達のことで必死で、加奈のことを忘れてた。加奈は俺の顔を見て察知したのか、俺は加奈の顔を見て「お兄ぃ、今日の晩御飯抜きだからね」と言い放つ。加奈よ。今日は俺達のクラスは学年優勝だったんだよ。今日は祝いの日なんだ。すこしだけお恵みください。
結局、俺の心の声は加奈には届かなかった。俺は飯抜きにあい、ベッドの中で丸まって泣いた。




