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43話 結菜と凛

 学校は体育祭が近づいてきて、体育祭ムード一色になっていく。



 俺のいる高校では、クラス対抗リレー、騎馬戦、徒競走、借り人競争、仮装リレーなどが人気だ。他にも、クラス対抗の綱引き、縄跳び、二人三脚などがある。後、応援合戦などもある。



 俺のクラスは体育祭について消極的なクラスだ。どちらかといえば、お祭り騒ぎができればいいと考えている。ということで、クラス対抗リレーは部活に入っている足の速い者にすぐに決まった。騎馬戦は男子全員出場なので問題ない。綱引き、縄跳びなどは脚の遅い生徒、またはやる気のない生徒達が挙手して順調に決まった。



 今、クラス委員長の2人が教壇に立って、黒板に各競技の参加者を書いていく。



 皆が参加を希望しているのが二人三脚と借り人競争と徒競走だ。なぜかこのクラスではこの3競技の人気が高い。



 二人三脚は男女ペアになるので、男子達は女子をゲットするために、目をギラつかせている。



 借り人競争は、自分の意中の人を間違えたと言って、連れて行けばいいと俊司が提案したら、みんながノッてきた。



 徒競走は個人で走るので、あまり他人に迷惑をかけることがないと感がる者が多くて人気だ。



 人気がないのが、応援合戦を行う応援団と、仮装リレーだ。応援団については「他のクラスと対抗するのは馬鹿らしい、斬新なアイデアが必要だ」という慎の一言をキッカケにチアガールをすることになった。



 ただ単に、慎がスケベ心を出して放った一言だったが、男子にとっては光の言葉だった。女子は反対するかと思ったが、意外とチアガールの恰好をしたがる女子が多く、女子全員でチアガールをすることになった。嬉しい誤算だ。



 他クラスよりも華やかになることは間違いない。応援合戦はこれで俺達のクラスが勝ちだろうと、男子の意見は一致している。



 仮装リレーについては、くじ引きで決めることになった。大きな箱の中にくじを入れて、手を箱の中に入れてくじを引く、シンプルなものだ。



 俺は不幸にも、くじ引きで当たりを引いてしまい、仮装リレーに出ることになった。そして徒競走を希望したのに落選した。本当に運がない。



 俊司と慎は借り人競争を希望し、見事、慎が借り人競争をゲットした。慎は誰を借りるつもりなんだろう。きちんと競技するつもりがあるんだろうか。



 俊司は二人三脚をゲットした。俊司は誰とペアを組めるのか、鼻の下を伸ばして待っている。そんな顔を見て、神楽が少しご機嫌斜めだ。神楽もすぐに二人三脚に立候補して、見事にゲットした。さっそく俊司元へ行って、ペアを組む。神楽も積極的になったもんだ。



 赤沢はクラス対抗リレーに決まっている。委員長は徒競走をゲットし、零は運動神経が悪いので、綱引きに参加となった。凛はなぜか大縄跳びを選んだ。運動神経は良いはずなんだが、なぜだろう。



 俺が仮装リレーになってしまったので、結菜は自ら立候補して、仮装リレーに決まった。結菜には迷惑をかける。



 俺は仮装リレーでレースクイーン役に決まったが、男子生徒から汚い股間は見たくないという意見だ殺到し、シンデレラ役で走ることになった。衣装は零のいる手芸部が協力して作ってくれるらしい。その衣装は文化祭の時に展示されるという。複雑な心境だ。



 結菜の衣装については、男子全員がレースクィーンを推したが、女子の猛烈な反対にあって否決された。結菜は猫の着ぐるみでの参加となった。衣装は結菜の持っている猫の着ぐるみパジャマに色々なパーツをつけるらしい。



 午後の授業を潰して、やっとクラス全員の出場選手が決まった。やる気ないクラスのわりには、妙に白熱した選手選びだったと思う。



 チアリーダーの服は、瑞穂姉ちゃんと相談して、大学のチア部から衣装を借りられるか、交渉してもらうことになった。もし、借りられない時には凛が衣装をレンタルしてくれることになっている。さすが凛、太っ腹だ。



 HRが終わり、放課後になるとクラスメイト達は部活へ行く者、帰宅する者に分かれて、教室を出て行った。俺と結菜は職員室へ向かう。職員室のドアを開けて礼をして、すずなちゃんの机に向かう。



「もうそろそろプリント学習は終わりにしたいんだけど・・・・・・先生も暇じゃないし、参考書でも買って、それで勉強でもしたらどうかな?」



「参考書は既に買ってますよ。参考書も一通りやってます。ただ参考書だけだと時間が余るから、すずなちゃんにプリントを貰ってるんですよ」



「最近、あなた達はサボりもしないし、授業態度も良いと聞いてるわ。だからわざわざ居残り授業をする必要なんてないのに。変なことになっちゃったわね。このプリントって、評定の悪い学生用に作ったモノよ。ほしいというならあげるけど・・・・・・」



「それなら毎日2人でイチャついてる罰としてプリントください」



「わかってるならイチャイチャを直したらどうなの。みているこっちは辛いのよ。独身女性の辛さと悲しみなんて、あなた達にはわからないのよ・・・・・・私だって彼氏がほしいんだからね」



 すずなちゃん、それって、俺達に言う事では絶対にないような気がする。私情丸出しだよね。



 そんなことを言いながらも、すずなちゃんは俺達にプリントを渡してくれた。俺達は職員室を出て、教室に帰ると、凛が読書をしていた。



「あれ、凛、今日は早く帰らないんだな」



「私も2号、あなた達の仲間入りですから、お2人に勉強を教えて差し上げようと思って待っていましたの」



 なんか訳のわからん言い訳だが、勉強を教えくれると言われれば助かる。だって凛はクラスでもトップクラスに頭が良い。俺達とレベルが違う。



 俺と結菜は机を引っ付けて座り、プリントを解いていく。つまづいたり、すこしでも考え込んでいる気配を感じると、凛が丁寧に解説してくれる。おお~勉強がはかどる。やっぱり教えてもらうと、断然、覚えが違うな。



 俺と結菜はプリントを次々とこなしていく。俺達が書いた答えのチェックを凛がしてくれて、間違った箇所があれば、ただちに解き方を教えてくれる。なるほど、教え上手な凛がいると、ここまで違うのか。



 俺達は早々とプリントを終えて、参考書に移る。参考書も大事な要点の所を凛が〇で囲んでくれる。凛は俺達2人を教えるのに忙しそうだが、俺達2人は格段に勉強が進む。



 俺達が集中して勉強していると、凛はとても優しい眼差しで微笑んでいる。



「どうした、凛。楽しそうだな」



「ええ、あなた達と一緒にいるようになってから、毎日が楽しいですわ。本当に感謝してますの」



 別に俺と結菜も、特別なことは何もしてないぞ。



「1年生の時もそうでしたが、2年生になってからも私は1人も友達ができませんでしたわ。今ではお2人の仲に入れていただいて、一緒にお弁当を食べて、こうやって一緒にお勉強もできて、他にも色々と面白いことがあって、今の私は、毎日が充実しておりますわ。そのことが楽しいですの」



「それはお前が中学の頃から男子に告白されまくって、男性嫌いになってたからじゃね~の」



「それもありますが、女子からも何かと疎んじられていましたのよ。「男子にモテすぎるから嫌い」なんて陰口もたたかれておりましたわ。だから、女子からも敬遠されて、仲良くしてもらえませんでした」



 そうだったのか、モテる女子も悩みがあるんだな。女子同士の嫉妬って怖いもんな。



「私は宗太と結菜に出会えて、助けられましたの。2人は私に無償で微笑んでくださいますわ。そして私と遊んでくださいます。ほんとうに2号になれたことを嬉しく思っているんですのよ」



 凛は本当に清楚な優しい目でにっこりと笑った。その顔はきれいでとても美しかった。



「凛、今度、私の家に泊まりにおいでよ。本妻と2号のパジャマパーティしましょ」



 おお、本妻と2号のパジャマパーティとなれば、話題は俺のことか。結菜、あんまり恥ずかしい話はやめてくれよ。



「本当によろしくて。私、中学の時からお泊まりにいったこともございませんの。是非、お伺いしたいわ」



「瑞穂姉ちゃんもいるし、宗太も遊びにくればいいよ。みんないたほうが楽しいし。紗耶香達も呼んじゃおうか」



 そうだな。委員長や神楽とも凛が友達になれたら、凛もきっと喜ぶだろう。



「それは楽しそうだな。男が俺1人というのは、少し寂し気もするけどな」



 俺1人は寂しいが俊司と慎を呼ぶ気はない。結菜の家に俺以外の男子が入るのは許さない。



 そんなことを話しながら、俺と結菜は参考書の区切りのよいところで勉強を終わらせた。丁度、日が沈む頃だ。この時間なら、凛も帰りやすいだろう。



「今日は黒崎さんはどうしてるの?」



「もう、リムジンで学校の近くに待機してますわ。だから帰りのことは大丈夫です。街中も1人で出歩かないようにしておりますから」



「そっか、それなら良かった。みんなと仲良くなったら、みんなで街へ遊びに行こう。そうすれば安心だから」



「それは嬉しいですわね。その前に、私、1度も宗太とデートをしたことがありませんの。1度くらい、お誘いいただいてもよいと思うのですが・・・・・・」



 そういえば凛とデートなんてしたことなかったな。



「あ~。私も宗太と2人きりでデートってしたことない。私もデートがしたいよ~。宗太。デート」



「それじゃあ、3人でデートするか?」



「「絶対にイヤ。2人がいい」」



 凛と結菜、仲いいな。声がハモってるよ。これは別々の日にデートするしかないな。



「わかった。別々の日にデートしよう。2人でデートな。わかった。」



 結菜と凛は両手を握り締め合って喜んでいる。

 


 俺と結菜は勉強道具を鞄に片付けて、3人で教室を出て、階段を下り、下駄箱で靴に履き替えて、校舎を出る。そして校門を潜ったところで、凛と別れた。凛は嬉しそうに手を振って、リムジンの待つ駐車場へ向かった。



 俺と結菜は校門を出て体を寄り添って、ゆっくりと歩いて帰る。結菜はいつものように気持ちの良さそうな顔をして俺の肩に顔をもたれさせている。



「なぁ、さっきの凛のデートの話。本当に俺と凛が2人きりでデートしてもいいのか。少しも焼きもちないのか?」



 少しも焼きもちを焼いてくれないのも、なんだか寂しい。




「ん~、私にも自分の気持ちがよくわからないの。凛に宗太を取られたくないって気持ちはあるよ。それは絶対に許せない。でも、凛って私から宗太を取るつもりがないんだもん。たぶん凛は宗太のことも好きだけど、私のことも好きになってくれてると思うの。私も凛のこと好きだし。凛を悲しませることはしたくないな」



「俺が凛と2人きりになって、キスしたらど~するんだよ」



「そんなこと宗太はしないって信じてるから。宗太のセカンドキスは私がもらうの。それは絶対に譲れない。だって宗太のファーストキスを瑞穂お姉ちゃんに取られちゃったんだから。あれだけは許せないわ」



 あれは人工呼吸であって、あれは非常事態だったんだから、ノーカンだと思うんだけど、結菜の目がマジだから言えない。



「それにね。凛って宗太のこと本当に諦めかけてると思うの。だから凛に良い思い出を作ってほしいよ」



 凛は俺のこと諦めてるのかな。最初から2号でいいとか言ってるしな。相手が結菜だから凛も俺のことを譲っているような気がする。もし、他の女子だったら、凛は本気で俺に迫ってきてただろうな。



「これからもっと凛と仲良くなるの。そして本当の親友になるのが私の目標。絶対に仲良くなって凛をメロメロにしちゃうんだから」



 女の考えることってわからん。それとも結菜が特殊なんだろうか。俺の理解の範疇を越えている。



「でも、はじめにデートするのは私。最初は私じゃないと嫌。それだけは覚えておいてね」



 結菜はにっこりと笑う。それは優しい笑顔で、最近の結菜はこんな優しい笑顔ができるようになってきた。とても落ち着いていて魅惑的な微笑み。俺は結菜の笑顔に見惚れてしまう。今では俺のほうが結菜に惚れているだろう。



「わかった。覚えておく」



 結菜と俺はゆっくりと歩く。夕陽が沈みかけのおぼろげな時間の中をただ2人寄り添って、しっとりと歩く。



「今度のパジャマパーティには委員長達も呼ぶのか、みんながいたほうが楽しいけど、人数多いと大変だぞ」



「ん~紗耶香と結衣に聞いてみないとわからないかも。2人が来なかったら、凛と2人で楽しくパジャマパーティするし。瑞穂お姉ちゃんもいるし、昼間に宗太も来れたら来てね。パジャマパーティは男子禁制なんだから」




 へ~パジャマパーティって男子禁制だったんだ~。それは当たり前だな。女子の中で1人だけ男子が寝ていてもおかしいもんな。



「紗耶香と結衣も、きっと凛と友達になってくれるよ。だって私の友達だもん」



 確かに委員長も神楽も良い性格をしている。凛が優しくなった今なら、仲良くなるのに時間もかからないだろう。



 1学期から付き合ってるけど、結菜はどんどん変わっていく。可愛くなっていく。凛も優しくなってきた。可愛くなってきた。みんな笑顔が広がっている。俺はそのことが嬉しい。



 俺と結菜は寄り添ってゆっくりと歩いていく。この穏やかな時間がとても愛おしい。

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