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38話 相談

 瑞穂姉ちゃんにプロレス技をかけられて、気絶をして、結菜の家に泊まってから4日が経った。やっと、体の痛みが取れてきた。もう、瑞穂姉ちゃんは酒を飲まないほうがいいよ。絶対に周りに迷惑をかけるから。



 俺は今日の授業の用意をして鞄に詰め込んで、加奈と朝食を食べて、すぐに家を飛び出した。家の時計が10分も遅れていたからだ。帰ってきたら100キンへ行って、電池を買ってこないといけないな。



 俺はママチャリを飛ばして、結菜のマンションの玄関に行くと、結菜が手を振って待ってくれている。俺はママチャリを地下駐車場に置いて、結菜と2人で学校へ向けて歩いていく。



 まだ、この辺りは生徒達は少ない。結菜が俺にすり寄ってくる。俺は結菜の腰に手を回して、グッと結菜の体を引き寄せると、結菜が腕を絡めてもたれかかってきた。そして頭を俺の肩の上に乗せる。



 これが2学期に入ってからの俺と結菜の登校風景だ。結菜が少し目を伏せて気持ちよさそうに微笑んでいる。



 生徒が多くなってきて、俺達を見る視線も多くなってきたが、俺は平気な顔をして登校する。最近では生徒達も慣れてきたようで、あまり騒ぎたてない。



 段々と生徒達が通りに集まってきて、校門の前では密集状態になるが、俺は何も気にしない。結菜も鼻歌を歌って全く気にした様子もない。2人で寄り添って、校門を潜る。



 最近では校門で見張っている先生達も呆れて、何も言わなくなった。窓から手を振ってくる生徒達もいない。



 俺達は校舎に入って靴箱で上靴に履き替えて、寄り添ったまま2階に上り、自分達の教室へ入る。そして席に到着したところで結菜を放して、俺は席につく。



 俊司と慎がやってきた。



「宗太、最近、お前、感覚がマヒしてきたんか、堂々と寄り添ってきても平気な顔をしてるぞ。1学期の時なら、あんなに恥ずかしがっていたのに、どういう心境の変化だ」



「まだ委員長に風紀の乱れと言って、怒られても知らないぞ」



「ん~。結菜が俺と寄り添って歩きたがってるんだから。それでいいじゃないか。結菜が気持ち良さそうにしてるんだから、俺は邪魔したくないし、邪魔されたくない。ただそれだけだよ」



「「お前、変わったな」」



 そうなのだろうか。1学期から今まで、寄り添って歩いてきたんだから、今更、恥ずかしがっても、おかしいだろう。それに、俺と離れたら、結菜が悲しむ。そのほうが大問題だし、俺は結菜の笑顔がみたいのであって、悲しい顔は見たくない。



「そんなことより、俊司は神楽と上手くやってるのか?あんまり神楽に恥ずかしい思いをさせていないだろうな」




「ちゃんとやってるぜ。この間も2人でカラオケに行って、盛り上がったし、ゲーセンに行って神楽の好きなぬいぐるみをクレーンゲームで取ってやったし、プリクラも付き合ったんだぞ。神楽も楽しそうにしてたぞ。顔を真っ赤にして喜んでた」



 その、顔を真っ赤にしていたのは、嬉しかったからじゃなくて、恥ずかしかったからではないのか。ま~神楽が文句も言わずにデートをしているのなら、よいことだ。



「で・・・・・・いつになったら神楽に告白するんだ?」



「こ、告白なんて、まだ早い。俺達は健全な高校生であって・・・・・・」



 万年、女が欲しいと言っていた、お前の口から、健全な高校生なんて言葉を聞くことになるとは思わなかったよ。



「とにかく、早く神楽に告白してやれよ。せっかく良い雰囲気なんだから、神楽も待ってると思うぞ」



 俺と俊司がそんな話をしていると、慎がコソコソと逃げて行こうとする。俺はその首根っこを捕まえた。



「慎は委員長とどうなってるんだよ。委員長は一生懸命にお前の世話をしているように見えるけど」



「段々、俺の母ちゃんみたいになってきた。正直ウザい。あれこれ、注意されて困っている」



 まあ、委員長だもんな。お節介のカタマリみたいな女子だし、世話を焼かれている方からすれば、確かにウザい面もあるよな~。



「その割には、委員長を避けたりせず、けっこう一緒にいるじゃないか」



「仕方ないだろう。あんまり離れると、本当に涙目で怒ってくるんだから、女子を泣かすのは趣味じゃないし」



 そうだな。なんだかんだ言っても慎は女子には優しいもんな。イケメンでやさしい。なのに言葉が乏しいんだよな。本当に残念な奴だ。



 俺も結菜を泣かしてばかりだから、人のことは言えないな。もっと結菜を可愛がってやらないとな。



 最近の結菜は茶色の髪の毛を少し伸ばしている。そして軽いカールをかけている。俺はその髪型を気に入っている。最近の結菜は1学期の頃よりもきれいになった。それに物静かになったというか、大人っぽくなったというか、淑やかになったような気がする。そのことも俺は気に入っている。



 俺と俊司と慎が雑談をしていると日下部が教室の中へ入ってきた。なぜか朝から眉根を寄せている。機嫌が悪そうだ。最近では珍しいな。何があったんだろう。



 日下部が隣の席に座ったので、「おはよう」と声をかけると「おはようございます」と返事はかえってくるが、顔色も青い、やっぱり調子が悪そうだ。



 日下部が俺のほうを向いて座る。そして俺と結菜を交互に見て、ため息を吐く。それを見て結菜がキョトンとした顔をしている。俺も何があったんだろうと、首を傾げる。



 日下部が唐突に、俺達に頭を下げた。そして「お二人に相談したいことがありますの」と話を切り出した。



 その瞬間に俊司と慎が逃げるように、俺の席から離れていく。勘の良い奴らだ。なにやら厄介ごとの匂いがする。できるなら関わりたくない。



 結菜のほうへ振り返ると、結菜はフニャリとした笑顔で頷いた。話くらいは聞いてもいいということだろう。



「簡単な話だったら、今、聞くけど。込み入っている相談なら、昼休憩に聞くことにしていいか?」



「ええ、簡単に話せる内容ではありませんの。お昼休みに時間をくださいな」



 はぁ~。せっかく平和に1日を暮らせると思ったのに、次は何なんだろう。



 HRのチャイムが鳴り、すずなちゃんが入ってくる。



「今日は特別な話はありません。みなさん、科目担当の先生の授業をよく聞いて、だらけないように頑張ってください。もし、科目担当の先生から意見が出た時は居残りにさせますからね」



 それだけクラスに伝えると、すずなちゃんは教室を去っていった。



 これから1時間目の受業が始まる。













 あっという間に昼休みになった。俺はいつものように席に反対に座って、結菜が見えるように座る。結菜が机の中から2つ弁当を出して、俺に弁当を渡してくれる。



 そこへ日下部が席を移動してきて、重箱のような弁当を持ってくる。ここまではいつもと同じだ。まずは日下部の話を聞く前に、みんなで弁当を食べてしまったほうがいいだろう。話がややこしいなら、早く食べたほうがいい。


 俺達はいつものように、おかずの交換をして、結菜の弁当を美味しく食べ、日下部の専属シェフのおかずをいただいた。3人共、弁当を食べ終わって、弁当を片付け終わったところで、日下部が話始めるのを待つ。



「2人にお願いなのですが、1日だけ九条くんをお借りすることはできないかしら。1日でいいの」



 俺はその言葉を聞いて噴き出した。結菜も目を白黒させている。一体、なにがどうなって、今の言葉になったんだ。



 結菜がふんわりと微笑んで「訳を話してくれるかな。それだけじゃ、わからないよ」と言う。俺も同意見だ。



「先日、お父様と話す機会がありまして・・・・・・その時、見合いの話を、お父様が出されまして、候補者10名ほどの写真といただきましたの」



 おお~。この展開は俺達、平民の間ではないな。さすが大会社の社長の娘というところだな。



「私、まだ、特定の男性と付き合ったこともないのに、いきなり見合いをしろというのは、あんまりなことだとおもいませんか」



 そうだな。男性と付き合ったこともない女子に、いきなり見合い話を振られても、困るだけだよな。



「お父様は、付き合っている男性がいなければ、この候補者の中から彼氏を選べと言われてしまって・・・・・・つい・・・・・・ウソを言ってしまいましたの」



 なんか嫌な予感だする。背中に冷や汗が流れてきた。今すぐ逃げたほうがいいと、頭の中で警鐘が鳴っている。



「ついつい・・・・・・私は付き合っている殿方がいると言ってしまって・・・・・・そのお相手の名前として、九条くんの名前を言ってしまいましたの」



 俺は噴き出した。そして咳き込む。結菜も目を白黒させている。なんてウソをついてんだよ。いまから撤回しにいけよ。俺を巻き込むなよ。なんで俺の知らない所で、そんな勝手なことを言ってくれてんの。



「そうしましたら、お父様が、私と見合うだけの殿方かどうか、見極めると言われはじめて、来週の日曜日に、九条くんを連れて家にこいと言われましたの。お二人には申し訳なのですが、このような事情がありまして、1日だけ、九条くんを貸していただけませんか」



 なにを言ってるんだ君は~。いきなり日下部のお父さんと会うなんて、レベルが高すぎるわ。そんなハードルを一気に乗り越えられるか。なんで俺なんだよ。もっと良い男子は沢山いるだろう。



 結菜は黙って考えている。そして席を立って、俺の手を引っ張った。



「これから屋上に行って2人で考えてきます。これって結構、大問題じゃん。簡単には答えをだせないよ。日下部さんには悪いけど、もう少し時間をちょうだい」



「ええ、構いませんわ。できれば良い返事をお待ちしています。だって私、見合いは嫌ですもの」



 結菜と手を繋いで、屋上へ行って、給水塔の日陰に寝そべって結菜に膝枕をしてもらう。



「たいへんなことを日下部はやらかしてくれたよな。俺にそんな大役できるはずないだろう」



「そうだね~。いざとなったら緊張しちゃう。宗太だもんね。きっと失敗すると私も思う」



 結菜がフワリとした笑顔で俺を優しく包み込む。俺を見つめる目はクリクリとしていて可愛い。



「でも、宗太が断ったら、日下部さん、見合いをしなくちゃいけないんだよ。宗太に日下部さんを見捨てることできる?」



「見たこともない奴というか、写真しかみたことない奴と見合いをしないといけないのは、正直、可哀そうに思う」



 でも、俺が出て行って、解決できることなんてないだろう。それに俺には結菜がいる。



「全然、関係ない話なんだけどね・・・・・・もし日下部さんが宗太のことが好きだったとすると、私と日下部さん、どっちを選ぶ?宗太が1番好きなのは誰?一番愛してるのは誰?」



「それは結菜だ。間違いない。そのことは揺るがない」



「そっか、ありがとう宗太。だったらね、私、日下部さんを助けてあげてほしい。これは宗太にしかできないことだから」



「いいのか?1日中、彼氏の振りをするんだぞ。手を繋ぐかもしれないし・・・・・・」



「かまわなくないけど、宗太が私のことを1番好きで、1番愛してくれてるなら我慢できる。1日だけだもん」



 結菜は今は変化し始めているとはいえ、基本は焼きもち焼きで、寂しがり屋で、不安を多く抱える癖を持っている。俺が1日でも顔を出さないと泣いてしまうような一面もあるのに、結菜に我慢なんてできるのか。



「俺は反対だな。結菜のことが心配だ。結菜のことに比べたら、日下部には悪いけど・・・・・・」



「同じ女の子だからわかるの。だって見ず知らずの人と付き合うなんて私には無理。宗太でないと無理だもん。だから日下部さんの気持ちがわかっちゃう。宗太、私からもお願いだよ。日下部さんを助けてあげて」



 それが結菜の笑顔につながるのか。本当に結菜はそれでいいのか。無理して我慢してないか。



「宗太は、私が無理して、我慢してるって思ってるんだね。だから渋ってるんだ。そんなことないよ~」



「・・・・・・」



「じゃあ、1日彼氏が終わったら、私を甘えさせて、いっぱい宗太に甘えるから。そして、宗太も私にいっぱい甘えて。それでお互い確かめあおう・・・・・・ね・・・・・・これで約束」



「・・・・・・」



「日下部さんを助けてあげて。失敗してもいいから、宗太らしく、日下部さんのお父さんに会ってあげて。そして宗太の言葉で日下部さんのお父さんに、日下部さんの気持ちを伝えてあげて」



「わかった。結菜がそれでいいというなら、俺、頑張ってみる」



「ありがとう。宗太。やっぱり優しい。大好き」



 結菜はそういうと、俺の顔を抱えて、俺の頬にキスをした。



 俺達2人は屋上を降りて、教室へ入る。そしてシュンとなっている日下部に2人で話し合った結果を伝えた。



「日下部、俺、1日彼氏の役、引き受けるよ。でも、それで日下部のお父さんが諦めてくれるかどうかわからないけど・・・・・・うまく日下部の彼氏役ができるかどうかわからないけど・・・・・・もしかするとバレるかもわからないけど・・・・・・全力で日下部の彼氏役を頑張るよ」



 日下部は嬉しそうに微笑んで、「お願いします」と小さく呟いた。

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