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34話 ママの温もりー朝霧結菜side

 別荘から帰ってくるマイクロバスの中で、私は宗太とギクシャクしたままで、ちゃんとした会話ができなかった。



頭の中で日下部さんの宣言がこだまする。「あんまり意地を張ってると、九条くんにアタックすると宣言いたしますわ」、その言葉が私の頭から離れない。



 日下部さんはきれいな美少女だから、いつ宗太が日下部さんに惹かれるかわからない。そう考えるだけで、私はマイクロバスの中も、みんなと同じように楽しめなかった。



 ただ、私は宗太にしがみ付いて私はバスに揺られて、街まで戻った。街まで送ってくれた、日下部さんが私達に優し笑顔で、手を振って帰っていった。



 あの透明感のある魅力的な優しい笑顔が宗太に向かえば、宗太なんて鼻の下をデレデレさせて、一発で撃沈されるに決まっている。結菜。これは一大事よ。頑張らなくちゃ。と、思うけど・・・・・・日下部さんに敵うわけない。



 私がしょんぼりしていると宗太は優しく撫でてくれる。そして指を絡ませて、手を繋いでくれる。宗太はとっても優しい。私を大事にしてくれているのを感じる。でも不安が過って、心が落ち着かない。



 宗太はマンションの玄関まで送ってくれた。ありがとう宗太。いつも家とは逆方向なのに、マンションまで送ってくれて、いつも本当は感謝してるの。いつも言わなくてゴメンね。



 宗太がママチャリに乗って、私のほうを振り返って手を振ってくれている。顔には優しい笑顔を浮かべてる。私って、まだ宗太に愛されてるんだなって思う。ありがとう宗太。なんだか涙がでてきそう。



 マンションの18階に上って、玄関を開けて、私と瑞穂お姉ちゃんは家の中へ入る。瑞穂お姉ちゃんは元気よく、ママに抱き着いている。瑞穂お姉ちゃんもママの前だと子供なんだから。



 私もママに「ただいま」と言って、自分の部屋に入った。キャリーバックを開けて、片付けしなくちゃ。そう思ったまま、ベッドにずっと座りっぱなしの私。ぜんまいが切れた玩具みたいに座ってるだけ。



 キャリーバックを開けたまま、放心状態でベッドの端に座っていると、コンコンとノックの音が聞こえて、ママが部屋の中へ入ってきた。ママは私の横へ座って「おかえりなさい」と言って、頭を撫でてくれる。



 私は心が爆発したようになって、ママに抱き着いて大泣きしちゃった。涙がどんどん溢れてくる。止まらない。



 ママは、そんな私を抱きしめて、髪の毛を優しく、何回も梳いてくれる。嗚咽して泣く、私を黙って抱いてくれる。



 ママ、ありがとう。私が落ち着くまで抱いていてくれて。



 ママは何も聞いてこない。たぶん、私から言い出すのを待っているんだと思う。瑞穂お姉ちゃんにも相談できない。宗太にも相談できない。友達にも相談できないと思っていた。でもママがいた。ママになら相談できる。



 私は決心して、思い切ってママに相談した。別荘であった出来事を話して、日下部さんが私に宣言したことを話す。そして私が宗太のことが大好きで、愛していて、誰にも渡したくないということを話した。




 たぶん、話は飛び飛びで、まとまったキチンとした話になっていないと思う。でも私はそのまま、口から溢れる言葉をママにぶつける。するとママは優しく、首に手を回して「結菜ちゃん」と言って優しく抱いてくれた。また涙が溢れだしてきた。私はママに抱きしめられながら泣き続けた。



「結菜ちゃんがどれだけ宗太くんのことを大好きで、愛しているかわかったわ。愛しすぎて束縛してしまうのね。愛しすぎて、誰にも渡したくないって思うから、自分だけを見てって思うから、結菜ちゃんの止まらない心が暴走するのね。だけどその暴走が宗太くんを困らせたり、束縛したり、喧嘩の原因になったりしてるのね。それは恋する女性なら、誰でも経験することよ。ママにも経験あるわ」



 ママにも経験あるんだ。そうだよね。ママも美人だし、きれいだし可愛いし、パパと出会う前もいっぱい恋してきたんだもんね。なんでパパと結婚したのか不思議だけど。ママならもっと良い人がいたと思う。



「ママ、日下部さんという女の子と会ったことがないからわからないけど、たぶんその子は結菜ちゃんのことも宗太くんのことも好きなんだと思うわ。だからあなた達2人を見守っていようと心から思っていたんだと思うの。でも、結菜ちゃんが宗太君を困らせている姿を見て、少し怒ってしまったのね。だから本音がでてきたんだわ」



 日下部さんの本音・・・・・・私も好きだし、宗太も好き、だから私達を見守ろうとしていた・・・・・・でも、私が宗太に甘えて、困らせていたから、日下部さんが怒った・・・・・・



「だから日下部さんは宗太くんを無理してまで、結菜ちゃんから奪おうとはしてこないと思うわ。でも、結菜ちゃんが宗太くんを好きで、愛しすぎて、いつも不安に思っていたり、彼を束縛しようとしたり、勘違いで怒ったりばかりしていたら、日下部さんは本気で宗太くんにアタックするでしょうね。だから結菜ちゃんは宗太くんに甘えてばかりじゃなくて、優しくしていくことが肝心よ。だって今の結菜ちゃんは宗太くんに甘えてばかりいるもの」



 やっぱり、私、宗太に甘え過ぎていたんだ。宗太のこと、優しくしたいし、甘えさせてあげたいって思ってるんだけど、いつの間にか、甘えてばっかりになっている自分がいる。それがどうしても直らない。どうすればいいの。私が直さないといけないのに、うまくできないよ・・・・・・ママ、助けてよ。



「宗太くんは優しいから、結菜ちゃんはその優しさの中で甘えてしまって、自分が何をしないといけないか忘れてしまうのね。だから、宗太くんに優しくしたい、宗太くんを甘えさせたいっていう気持ちを常に持っておくことが大事なのよ、だってママはいつも結菜ちゃんや瑞穂ちゃんに優しくしたい、甘えてほしいと思っているもの。その心を大事にしているわ。それが本当に愛するっていうことだから」



 本当に愛すること・・・・・・私、宗太のこと大好きだし、愛してるよ・・・・・・



「結菜ちゃんがしているのは恋愛。恋ね。だからまだ愛じゃないのよ。愛というのは相手のことを大事にすること。自分のことより、相手のことを優先すること、相手に譲ること。だから、結菜ちゃんは宗太くんを大事にしてあげて、宗太くんに優しくしてあげて、宗太くんを甘えさせてあげて、自分のワガママを少し我慢すること。それが宗太くんを本当に愛してるということよ。宗太くんの笑顔を一番に考えること、それが愛なのよ」



 ママの言ってることは少しわかったけど、私はどうすればいいの。何をすればいいの。



「まずは焼きもちを直さないとね。それと宗太くんは結菜ちゃんの持ち物じゃない。結菜ちゃんの所有物でもないの。だから、本当なら結菜ちゃんのワガママを宗太くんがきく必要はないのよ。でも宗太くんは結菜ちゃんのことを大好きだから、愛してくれているから、結菜ちゃんに優しくしてくれてるのよ。そのことを心でわからないとダメ。宗太くんと喧嘩するなとは言わないわ。でも、すぐに仲良くすること。いつまでも意地を張って、ワガママな姿を見せているのはダメよ。宗太くんも困るし、日下部さんも自分の気持ちを抑えられなくなって、宗太くんにアタックをし始めることになるわ。宗太くんが結菜ちゃんといつも一緒にいてくれることが、宗太くんの優しさで愛だと心でわかるようになりなさい」



 うん、ママ。宗太はいつも私といつも一緒にいてくれる。そしていつも優しく笑ってくれる。それだけで本当は十分に幸せなんだよね。なのに自分の中の不安やワガママで宗太を困らせてる。それは私が宗太を愛しすぎているから。愛しすぎて目が盲目になって、自分勝手になちゃってるってことなんだね。そこを直さないといけないんだ。頭ではわかった。でも・・・・・・心でわかるって難しい。

 


 ママって凄いな。私もいつかママのようなきれいな大人になれるかな。



「いい結菜ちゃん。宗太くんは優しい男の子。優し過ぎるくらい。だから、あなたが自分をしっかり持たないと溺れちゃうわよ。宗太くんの優しさに浸かってもいい。宗太くんにいっぱい抱き着いてもいい。宗太くんにいっぱい抱き寄せられてもいい。でも宗太くんの優しさに溺れてはダメよ。良い女の子は男の子を自分の優しさで溺れさせるくらいでないと。男の子を甘えさせて溺れさせるくらいでないと、魅力的な女の子とは言えないわよ。それくらいで丁度いいの。だって女ってワガママで自分勝手な生き物だから。それでバランスが丁度よいのよ」



 ママの言ってること、少ししかわからないけど、自分の気持ちを我慢するのはとっても難しい。それより、宗太に優しくしよう、宗太をあまえさせようと思うほうが簡単。もっともっと宗太に優しくする。宗太を甘えさせる。すると宗太の優しい笑顔が、もっと優しくなる。もっと私のことを愛してくれる。そっちのほうがいい。



 ママの言葉は魔法みたい。意味はよくわかんないけど、温かい気持ちが流れてくる。ママって凄い。本物の魔法使いみたい。ママ大好き。



「絶対にしてはいけないことは意地を張ること。これだけはしてはいけなわ。いつでも素直でいなさい。自分に素直でいることも大事だけど、それよりも大事なのは、周りに素直でいることよ。これを勘違いしたら大変よ」



 うん。わかった、意地っ張りにならないこと。周りに素直でいること。覚えた。2度と忘れない。



 ママは私の額にキスをして部屋から出ていった。



 私はママから元気をもらって、キャリーバックの中身を片付けて、宗太に連絡をして、別荘で素直でなかったことを素直に話して、謝った。宗太は「気にするな」と言ってくれた。宗太はやっぱり優しい。これが宗太が私のことを愛してくれている証なんだね。以前より不安が小さくなったような気がする。



 日下部さんの宣言は宗太には内緒。今は誰にも内緒にしておこう。



 だって、私と宗太がラブラブだったら日下部さんはアタックしてこないんだから。







◆◇◆◇◆◇







 別荘に行ってから5日が経った。今日はママとパパが海外へ帰ってしまう日。ママが居なくなると思うとなんだか寂しい。瑞穂お姉ちゃんもなんだかシュンとしている。



 宗太もお別れの挨拶をするために、私の家に来てくれた。また、パパが宗太を捕まえて遊んでいる。「お前には結菜は絶対にやらんぞ」とパパの怒鳴り声が聞こえる。そして宗太はそんなパパを見て冷や汗をかいている。



 パパがいくら反対してもママが味方だもん。だから怖くない。だってパパはママに頭が上がらないから。



 私の将来は私が決めるの。私は将来、宗太のお嫁さんになるって決めてるの。パパには絶対に邪魔させないんだから。ママにも瑞穂お姉ちゃんにも協力してもらってパパなんてポイなんだから。



 ママが宗太に挨拶をしている。



「ワガママな結菜ちゃんだけど、宗太くんのこと、いつも大好きだし、いつも宗太くんのことだけ見続けているから。宗太君も結菜ちゃんの手を放さないでね。私も2人を応援しているから、頑張ってね」



「はい。結菜さんときちんとお付き合いさせてもらいます」



「本当に宗太くんって良い子ね。優しいし、可愛いわ」



 あ~、ママ、宗太に抱き着くのは止めて、そんな頬にキスしちゃダメ。宗太は私の、なんだから。なんで宗太も顔を赤くしてるの。私のママだよ。ママを好きになっちゃダメ~。何、どさくさに紛れて、瑞穂お姉ちゃんまで、宗太の頬にキスしてるのよ~。やめて~。



 そういえば、瑞穂お姉ちゃんって、宗太のファーストキスを奪ったじゃない。これ以上、宗太をあげないんだから。姉妹だからって宗太を分けることはできないんだからね。



 私は、瑞穂お姉ちゃんから宗太を引き剥がして、宗太の体にしがみ付く。ママはそんな私を優しく見守って微笑んでいる。そっか、ママのその微笑みが愛なんだね。ママの愛って大きいな。



 今度、ママと会う時には、私も、もっと大人になっておかなくちゃ。ママ、いつも見守ってくれてありがとう。



 パパが両手でいくつもキャリーバックを持って、玄関から出て行く。ママが玄関で、走り寄る私をギュッと抱きしめてくれる。寂しくて涙が溢れてきた。ママともっと一緒にいたいよ。笑って見送るはずだったのに、結局、泣いちゃった。



 ママが私を放して、宗太に深々と礼をして、にっこり笑って手を振った。瑞穂お姉ちゃんとママが玄関を出る。今日は、瑞穂お姉ちゃんが空港まで車で送っていくんだって。私は宗太がいるから家に残った。それに空港でお別れなんて寂し過ぎて、悲し過ぎる。



 ママが居なくなった部屋は明かりが消えたようだ。なんだか悲しくなってきた。私は宗太に寄り添って、しがみ付く。



 ママ、これからは宗太のこと優しくするね。宗太を甘えさせるね。宗太を大事にするね。色々教えてくれてありがとう。愛を教えてくれてありがとう。



 私と宗太はベランダに出て、いつまでも2人寄り添って、空を眺めた。もしかするとママが乗っている飛行機が見えるかもしれないから。

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