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32話 別荘 前編

 朝日が昇り始めた4時過ぎに、俺は眠た目を擦りながら、1階のリビングへ行く。テレビをつけて天気予報を見る。今日も快晴。雨が降らなくてよかった。今日は日下部の別荘へ行く日だしな。



 俺は、2階の自分の部屋へ戻ると、もう一度、寝ることにした。



「お兄ぃ。早く起きて、このままだと遅刻しちゃうよ。待ち合わせは朝7時なんでしょ」



 加奈が必死になって俺を叩き起こす。俺は目を覚まして時計をみると7時ちょうどだった。待ち合わせ場所は駅前だ。急いで用意をしないと間に合わない。荷物を詰め込んだキャリーバックを開けて、中を確認する。忘れ物はなさそうだ。



 俺は急いで着替えて、顔を洗って、2階から1階のリビングへキャリーバックを持って降りると、既に加奈は自分のキャリーバックを置いていた。



 2人で朝食を急いで食べて、後片付けをすませて、キャリーバックを引きずって玄関を出て、鍵を閉める。

そのまま歩いて駅前に向かった。



 俺達が駅前に着くと、既に結菜と瑞穂姉ちゃんは駅前に着いていた。神楽、栗本、赤沢の姿もある。俺達よりも遅く、俊司と慎が到着した。



 しばらくするとマイクロバスが駅前に到着する。中からは黒のスーツを着た白髪交じりの男性が降りてくる。



「今日は運転手を務めさせていただきます。日下部家で執事をしています。黒崎と申します。よろしくお願いいたします。皆さま、バスへご乗車ください」



 俺達はバスの乗車口からバスの中へ入っていく。キャリーバックは黒崎さんが荷物入れの中へ運び入れてくれた。



「では出発いたします。お乗り遅れの方は居られませんか。大丈夫なようですね。では出発いたします」



 マイクロバスは駅前を発車した。街中を過ぎ、高速道路に入っていく。黒崎さんの運転は実に滑らかで安心してバスの旅ができそうだ。



 俺と結菜は一緒に座り、後ろに加奈と瑞穂姉ちゃんが座った。その後ろに俊司と神楽が座り、その後に慎と栗本が座り、一番最後尾に赤沢と日下部が座っている。わざわざ日下部は俺達を迎えにきてくれたようだ。



 それにしても日下部はいつ見ても画になるな。涼やかな顔で座っている姿は1枚の絵ハガキのようだ。



 俺がジッと日下部を見ていると結菜に耳を引っ張られた。「日下部さんばっかり見てるんじゃないし」と唇を尖らせている。



「ついついな、口が毒舌だが、黙っていると画になるなと思ってな」



「どうせ私はそこまできれいじゃないし・・・・・」



「そんなことはないよ。結菜も高校では有名な美少女じゃないか。ただ結菜は生きてる女子って感じで、日下部は人形ってかんじかな」



「それって日下部さんが聞いたら、怒られると思うよ」



「うん、だから結菜と俺だけの秘密な。俺も毒舌攻撃には会いたくないからな」



 結菜の機嫌が直ったみたいだ。腕を絡めて俺にもたれかかってくる。そして目を伏せて鼻歌を歌っている。



 後からは加奈の悲鳴があがる。後ろを覗いてみると瑞穂姉ちゃんが加奈の首に手を回して、抱き着いている。そして加奈の首筋を舐めたようだ。加奈から「キャー」という悲鳴があがる。



「やっぱり若い子の肌は違うね。特に加奈ちゃんの肌はキメが細かくてきれいよ」



「私にその気はないです~。瑞穂お姉ちゃん。放して~」



 俊司と慎が席から立ち上がって瑞穂姉ちゃんの近くまで来て、スマホのカメラを連写している。



「エロガキ共、何、私を撮ってんだい。席に早く帰りな」



「美女と美少女の絡みなんて、席についているなんて勿体ない。見ているだけで幸せだ~」



 俊司と慎の頭の上に瑞穂姉ちゃんの拳骨が落ちる。慎は「俺は何も言ってないのに」とブツブツ文句を言っている。でもお前もカメラで連写してたよな。だから同罪だ。



「今日は結菜から缶ビールをストップされているからストレスが溜まってるんだよ。加奈ちゃんで癒されないと私が腐っちまうよ」



「だからって、私に抱き着かないでください。どこ揉んでるんですか~。お兄ぃも笑ってないで止めてよ~」



 許せ、ここにいる連中の中で瑞穂姉ちゃんを止められる奴なんて結菜くらいなもんだ。結菜は俺の横で鼻歌を歌って、今は妄想の彼方のようだ。骨は拾ってやる。頑張れ。



 黒崎さんがマイクロバスのマイクを使ってアナウンスをする。



「このバスにはカラオケも搭載しております。ご自由に操作していただいて結構です。運転席の横にあります。クーラーボックスにはジュースがございますので、ご自由にお飲みください」



 俊司と慎は歓声をあげる。そしてみんなでカラオケ大会がはじまった。



 慎と俊司はノリノリである。それに委員長と赤沢も参戦した。加奈と瑞穂姉ちゃんまで参加する。バスの中は大盛り上がりだ。



 昭和の歌から平成の歌、2000年以降の歌から今、流行りの歌までごちゃ混ぜでカラオケが順次、歌われていく。その度に、みんなの歓声があがる。



 俊司と慎がトイレ休憩を頼んだので、バスは休憩場へ入っていく。俺達もバスを降りてトイレへ向かった。女性陣もそれぞれトイレに行くようだ。



 トイレから出てくると、ばったりと日下部と出会った。



「今日は別荘に誘ってくれて、ありがとう。妹までお世話になって申し訳ない」



「旅は大勢のほうがたのしいですわ。それに別荘に1人いても楽しくないですもの。みなさんが来てくださって、私もうれしいですわ」



 日下部がにっこりと笑った。清楚な微笑みだ。どこからか爽やかな風でも吹いてきそうだ。少しの間、その笑顔に見惚れていると、耳を思いっきり引っ張られた。痛い。結菜が耳を引っ張っていた。目が吊り上がっている。俺は咄嗟に結菜に抱き着いた。



「そんなに怒ることないだろう。日下部に今日、別荘へ誘ってくれたお礼を言ってただけさ」



「でも、宗太、日下部さんに見惚れてたし」



「それは、誰だって、完璧な人形の容姿をみたら、見惚れるだろう。それと同じだよ」



「そんなことで騙されないんだからね。私と日下部さんとどっちが好きなの?愛してるのはどっち」



俺は結菜の耳元へ口を持っていってささやく。



「俺が好きなのは結菜だけだよ。俺が夢中なのも結菜だけだから」



「じゃあ、あんまり日下部さんに見惚れないでほしいし」と口を尖らせる。



 それは無理かもしれない。本当に画になるんだから、厭らしい意味じゃないんだけどな。女の子にはわからないみたいだな。しかたない、なるべく見惚れないようにしよう。結菜を怒らせても、可哀そうだ。やっぱり俺は結菜の笑ってる顔が好きだしな。



 俺達はバスに乗り込んで、バスは高速道路を走る。バスの中ではカラオケ大会で盛り上がっていたが、段々と皆が疲れてきて、ほとんど皆、居眠り状態になった。結菜も俺にもたれて眠ってしまっている。俺も結菜にもたれて眠った。



 後ではなぜか、加奈が瑞穂姉ちゃんに膝枕されて眠っている。加奈。お前だけだぞ。瑞穂姉ちゃんに膝枕されているのは、俊司や慎が見たら、羨ましがるだろうな。



 その慎と俊司も疲れたのか眠ってしまっているようだ。皆が寝静まった中、バスは一路、高速道路を走っていく。



 気が付けば夕方近くになっていた。バスは既に高速道路を降りて、一般道を走っている。別荘はもうすぐなんだろうか。バスは一般道を外れて、県道のような細い道へ入っていく。しばらくすると海の間近に別荘が見えてきた。



 巨大なコンクリートで造られた建物だ。マイクロバスはその建物の中にある駐車場へ停車した。



「皆さま、お疲れ様でございます。日下部家の別荘に着きました。順次、降りてください。荷物はお出ししますので、荷物を持って玄関からお入りください」



 玄関から入ると、玄関は高い吹き抜けになっていた。それにしてもどれだけ広いんだよ。この別荘は。玄関ではメイドさんが5名、深々と礼をしている。本物のメイドさんだ。やっぱりメイド服を着ているんだな。



 俺達はそれぞれに部屋へ通された。俺と俊司と慎は男子3名だけなので、一緒の部屋になった。女性陣もそれぞれの部屋に分かれて案内されている。



 俺達はキャリーバックを部屋に置いて、ベッドの上に横になった。ベッドのスプリングが凄い。ベッドもフカフカだ。俊司はもう、ベッドの上でジャンプをして遊んでいる。お前は子供か。慎はスマホを出して、ベッドに寝転びながらスマホで遊びはじめた。



 俺は暇なので部屋を出てリビングへ向かった。すると加奈と瑞穂姉ちゃんと結菜に出会った。3人は同じ部屋らしい。するともう一つの部屋は神楽、委員長、赤沢の部屋だな。もちろん日下部は別の私室にいるのだろう。



「お兄ぃ。私、こんな大きな別荘に泊まったことない。まるでホテルみたい」



「私もこんな別荘は初めてだね。今日は得した気分だね」



「宗太、一緒に別荘を探検しようよ」



 結菜が笑って、俺の腕を取る。俺達は別荘の中をあるいた。螺旋階段を上ると2階にいくことができた。2階の廊下の突き当りの扉をあけると大きなテラスになっていて、そこから海を一望することもできる。キチンと背もたれつきのリラックスシートがいくつも置かれている。俺達はリラックスシートに座って海を眺めた。



 夕陽が海に落ちていくところは、きれいで、夕陽がテラスを照らしている。テラス一面は夕陽の色に染まった。



 結菜と加奈は手を繋いでテラスのベランダから夕陽と海を見てる。



 黒崎さんが、メイド達を連れて、テラスへやってきた。



「今日はテラスでバーべキューでございます。今から用意をしますので、暫くは部屋でくつろいでくださいませ」



 俺達はテラスを出て廊下を歩く。瑞穂姉ちゃんがテラスに残って黒崎さんに何かを頼んでいる。嫌な予感しかしない。結菜が目を放している隙に何を頼んでいるのだろう。これは結菜にチクったほうがよいのだろうか。



 俺達は自分の部屋に戻って休憩をした。俊司はベッドの上でだらしなく涎を垂らして眠ってしまっている。俺もベッドの上に寝転ぶ。あまりの気持ちよさに眠気が襲ってくる。バーベキューが始まったら、声をかけてもらえるだろう。それまでおやすみ。



「お兄ぃ。バーべキュー始まるよ。早く来て。瑞穂お姉ちゃんも結菜お姉ちゃんも先に行っちゃったわよ」



 俺が起きると慎と俊司の姿もなかった。テラスに行くなら、教えてくれてもいいのに、俺だけ残して行きやがって。



 俺と加奈は急いで2階のテラスへ向かう。するとテラスで日下部が深々と礼をしていた。



「今日は別荘にきていただいて嬉しいですわ。私、今まで友達を作ってきませんでしたので、こんなに多くの同級生を呼んだのも初めてなの。どうかゆっくりとしていってください。喜んでいただけると嬉しいわ」



 皆が日下部の言葉に拍手を送る。



「さ~皆さま、バーベキューの用意ができました。沢山、召し上がってください。食料はいくらでもありますので、沢山、食べてください」



 黒崎さんの号令で俺達は各々皿を持って、バーベキューの串を取っていく。肉は柔らかくジューシーで野菜もきちんと火が通っていて、とても旨い。いくらでも入りそうだ。メイドさん達はジュースを持ってきてくれる。



 日下部もバーベキューの串にかぶり付いている。珍しい光景を見たような気がする。



 俊司はバーベキューの串を持ってバ〇タン〇人の真似をしている。お前は馬鹿か。神楽が恥ずかしそうな顔をしてるじゃないか。やめてやれ。それ以上、馬鹿なところを神楽に見せるな。



 慎は黙々とバーベキューの串をかじっているが、タレで口の周りがベタベタになっている。すかさず委員長がハンカチを慎に貸している。慎も頷いて顔を拭いているが、おい、おい、顔全体に汚れが広がっただけじゃん。それだとダメだろう。



 結菜や瑞穂姉ちゃん達は皿を貰って、串から肉や野菜を皿に移して食べている。瑞穂姉ちゃんが背中に隠しているモノはなんだ。あれは外国産の黒ビールじゃないか。黒崎さん、絶対に用意しちゃダメなのに。あ~あ、あとからどうなっても知らないからね。俺は逃げるからな。



 本当に肉は柔らかく、香辛料も色々な種類が使われていて美味しい。いくらでも入る。瑞穂姉ちゃんが黒ビールを4本飲み終えた。これは酔いが回ったと思っていだろう。



 まずは俊司が餌食になった。瑞穂姉ちゃんお得意のコブラツイストだ。俊司は「痛い。痛い。でも胸が当たって最高~」と叫んでいる。まだまだ俊司は余裕だな。お~次にはマンジ固めに入った。完全に決まっている。これは痛い。「ヒー」っという声が俊司から聞こえる。もう俊司は涙目である。



 最後に出た、これを女子の前でやるもんじゃないと思うが電気アンマーだ。これは股間に聞く。「あ~やめて~」となんだか俊司から色っぽい声が聞こえる。思わず神楽が両手で顔を隠して、指の隙間から凝視している。



 俊司がグッタリと伸びたところで、次は慎が捕まった。必殺の四の字固めだ。あれは痛い。慎は必死で床をタップしているが瑞穂姉ちゃんは笑っている。そして酔っている。質が悪すぎる。



 ゆらりと立ち上がった瑞穂姉ちゃんと俺の目が合う。俺は速攻でテラスの端、ベランダの縁まで逃げた。するとクスクスと笑い声が聞こえる。隣をみると日下部が笑っている。



「私、こんなに別荘で過ごす時間が楽しかったことはありませんわ。みなさん楽しいひとばかり。九条くんや黒沢くん、佐伯くん達とも、もっと早く友達になっておけばよかったですわ」



「なんで俺達3人はいいんだ?俺達も男だぞ」



「だって3人共、私のことを告白しようとか、狙ってきたりしないんですもの。そんな男子は少ないのよ。私を見たら、何かアクションを起こす男子ばかりで、男子恐怖症になってしまったくらいですから」



「そうだな。日下部は画になるからモテるもんな。モテるのも大変だな。不憫に思うよ。美少女も大変だな。それにしても、よく考えると今日、来ている女子はレベル高いな~。面白い奴等ばっかりだけど。特に瑞穂姉ちゃん、面白すぎだから」



「そうですわね。本当に楽しい方々ですわ。明日からの別荘での1日も楽しそうだわ」



 結菜がいきなり、俺に飛びついてきた。



「なんで、宗太はベランダにいて日下部さんと仲良さそうに話してるの。やっぱり日下部さんがいいのね」



 すると日下部が動いて、結菜の前に立つと、結菜に対して指差した。



「焼きもちも、いい加減にしなさいまし。私は九条くんにお礼を言ってたのよ。九条くん、黒沢くん、佐伯くんは私のことなど、何とも思っていませんわ。それが私にとって嬉しいことだと話してましたの。それを誤解されるのは嫌ですわ。全く違いますのに」



「そんなこと言ったって、宗太は日下部さんのこと、お昼からジッと見てたんだよ。それで今、仲良く話しててさ。私のこと、宗太はどう思ってんのよ」



「それは、結菜は可愛い結菜だと思ってるよ。昼間も言ったけど、日下部は絵画のように画になるなと、思って見ていただけで、厭らしい意味も何もないよ。結菜の誤解だよ」



「そんなの信じられない。だったら、私にキスしてよ。日下部さんの前でキスしてくれてもいいじゃん」



 結菜の目を見ると目が据わっている。これはヤバい。



 俺は結菜の肩に手を置いて頬にキスをして、首筋にキスをした。すると急に結菜に顔を真っ赤にして、その場にへたり込んでしまった。体から力が抜けてしまったようだ。



「日下部、悪かったな。結菜も悪気はないんだ。リラックスシートに寝かせてくるわ」



「わかっています。それよりも朝霧さんは可愛いですわね。焼きもちを焼くなんて、本当に可愛い彼女ですわね。大事にしてあげてくださいまし」



 俺は結菜をおんぶしてテラスにあるリラックスシートで眠らせた。寝息をたてて可愛い顔で眠っている。



 俺がバーベキューをしている場所にもどると、瑞穂姉ちゃんにコテンパンにされた慎の横で委員長が添い寝している。



 神楽の膝の上で俊司は気絶している。



 今、瑞穂姉ちゃんの餌食になっているのは、赤沢だ。さすが剣道部。瑞穂姉ちゃんに捕まらずに逃げ回っている。加奈はそんなこと、そっちのけでバーベキューを詰め込んでいる。わが妹ながら逞しい。



 瑞穂姉ちゃんは赤沢を追いかけて、運動している間に酔いが回ったようだ。いきなり倒れると寝息を立て始めた。赤沢はハァハァと息を吐いている。お疲れ様。



 メイド達が、寝てしまった瑞穂姉ちゃんを部屋へ運んで行く。黒崎さんは陽気に笑っていた。



「瑞穂様に黒ビールを頼まれたのですが、今後、瑞穂様にもビールを渡さないようにいたします」



 まったく瑞穂姉ちゃんは何考えてんだ。女性陣はメイドさん達に頼んで、俺は慎と俊司と抱えて自分の部屋へ戻った。

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