31話 プール
結菜、神楽、委員長のパジャマパーティで俺、俊司、慎の3人は結菜達と一緒に野外にある大型プール施設に遊びに行くことになった。
急にきまったことなので、当然、俺達、男性陣は新しい海パンなど持っていない。3人でモールまで行って、急いで海パンを買ってきた。
朝9時に駅で待ち合わせだ。集合時間15分前に、俺が到着すると女性陣は既にジュースを飲んで待っていた。
「俺も早く、着いたと思ったのに、結菜達に負けたな」
「それでも宗太は偉いよ。あとの2人はまだ来てないもの」
あの2人のことだ、慎は5分前ぐらいにフラッと現れるだろう。俊司は集合時間ギリギリに滑り込めればいいほうか。俺は結菜にジュースを分けてもらって、ジュースを一口飲んで、喉を潤した。
それにしても暑い、今年も猛暑だとはテレビのニュースで観ていたが、毎日、猛暑が続くと本気でバテテくる。
今日は野外の大型プール施設に行くんだけど、女性陣は日焼け対策は万全だろうか。
結菜の色白の肌が小麦色に変わったら、今はまだ日本に滞在している、結菜のお父さんに何を言われるかわからない。早くお父さん、日本から旅立っていただけないだろうか。俺の神経が削られていくんだが。
今日は、結菜も神楽も委員長も薄っすらとメイクをしている。3人とも、いつもより可愛い。結菜が可愛いのは当たり前だが、神楽もメイクをして照れて、頬をピンク色にしていることろが可愛い。委員長はなんだか、からかいたくなってくる。
「委員長、今日はメイクまでしてるんだ。気合入ってるね。委員長もメイクをするときれいになるじゃん。普段からメイクをしていたらよいのに」
「委員長、委員長っていうな。私には栗本って、名前があるの。九条のいいかただと、メイクをしていない時の私はダメみたいじゃないの。それってどういう意味。聞き捨てならないわね」
「それな~。委員長っていつも堅苦しいから、メイクぐらいしたほうが良いという意味だ。深い意味はない」
「九条の言い方って、いちいち、私をからかってるような気がするんだけど~。結菜からもなんとか言ってよ」
委員長が結菜に助けを求める。結菜はにっこりと笑って、委員長の肩を叩いている。
「せっかくメイクして可愛くなってるんだから、佐伯に見せたいんでしょう。そんなに怒らないの。そろそろ佐伯が来るはずよ」
慎がヒョロヒョロと集合場所に現れた。既に暑さでバテているようだ。委員長が余分に買っていたジュースを慎に手渡す。慎は手短に「サンキュー」というとペットボトルの蓋を開けて、ゴクゴクと喉を鳴らし飲んでいく。ほとんど一気飲みだ。どれだけ喉、乾いてたんだよ。
俊司も集合時間ギリギリにやってきた。俊司は上機嫌でサムズアップしている。何を伝えたいのかわからないが、盛り上がっていることだけはわかる。
俊司が到着したことで、全員が揃った。全員で電車の切符を買って、改札口を通って、駅のホームへ向かう。朝9時ということで、通勤ラッシュのようなサラリーマンの団体はいない。
電車が来て、俺達は電車の中へその他の人と共に入っていく。車内は意外と空いていた。俺達はペアに分かれて座った。俺と結菜、慎と委員長、俊司と神楽だ。俺と結菜は他のペアが上手くやっているか覗くと、俊司が神楽を笑わせようと、何か騒いでいる。神楽は恥ずかしいのか少し俯て、照れている。この2人は放っておいてもかまわないだろう。
慎と委員長をみると両手を前で握って俯いて、顔を真っ赤にしている。慎はマイペースにスマホを出してゲームをしているようだ。全く会話をしている様子がない。この2人はどうなってるんだ。
俺は席を立って歩いていって、委員長と席を交代した。すると委員長は結菜の隣に座る。俺は慎の隣に座った。慎はスマホを弄って、俺のほうを見ない。これは慎が知っていて、俺を無視している証拠だ。
「慎、聞こえてるんだろう。もう少し、委員長に優しくしてやれよ。慎は委員長のこと嫌いなのか?」
「嫌いだったら、横に座ってない。ただ、何を話したらいいかわからない。そういう時にはスマホに限る」
「せっかく委員長、メイクまでして頑張ってんだぞ。お前も委員長の気持ちを知ってんだろう」
「知ってる。今まで委員長って言ってからかってた相手に好意を持たれるとは思わなかった。今まででも仲が悪かったわけでもないから、どう対処してよいか、困っている。俺は俊司のような単細胞にはなれない」
「それな~。慎も委員長を嫌っていないことだけでも聞けて安心した。今日1日、委員長と慎はペアだから、委員長と仲良くやってくれよ」
「善処する」
俺は立ち上がると自分の席に戻る。委員長が不安そうな顔で上目遣いで、俺の顔を覗いてくる。
「慎は委員長のこと嫌ってないって。普段からからかっていた相手から好意を持たれて、どういう反応をしたらいいか困ってるって言ってた。だから十分に委員長もチャンスがある。積極的に慎に話しかけても、慎は嫌がらないから、安心して迫ってくれ。俺にできるのはこれぐらいだ」
「そんなこと、佐伯に聞いてきたの。馬鹿九条。そんなこと聞いたら、私が佐伯のこと気にしてるのバラしてるのと同じじゃないの~。もう恥ずかしくって隣に座れない~」
「慎には今日はペア行動だって言ってあるから、慎と委員長がペアな。だから早く慎の席に戻ってくれ。俺は結菜とペアだから」
委員長は立ち上がるが、なかなか慎のいる席に戻ろうとしない。結菜が席から立ち上がって、委員長の首に手を回して抱きしめる。そして何か耳元でささやいている。
委員長はウン、ウンと頷くと両手を握り締めて、慎の席へ戻っていった。そして、慎の横でモジモジしている。
「結菜、委員長に何て言ったんだ?」
「佐伯は顔がイケメンだから、早くしないと他の女子に取られちゃうよって言ったの。紗耶香、頑張るって」
俺は自分の席に座って、結菜と雑談していたが、結菜は眠くなってきたらしい。俺に寄り添って、俺の肩を枕代わりにして眠ってしまった。俺は面白くなってスマホのカメラで結菜の寝顔をカメラに収めていたら、他の乗車している客から白い目で見られて、視線が痛い。仕方ないので俺も寝たふりをする。
1時間近く、電車に揺られると目的地の野外大型プール施設に到着した。多くの乗車客が降りていく。俺達も人の波に乗って、改札を潜り抜けて、目的地へ向かう。受付カウンターでチケットを買って、プール施設へ入った。
更衣室で海パンに着替えていると、慎と俊司が俺の腹を見ている。
「なんだ?俺の体をジロジロ見て」
「なんだか腹が細くなったというか、贅肉がなくなったというか、それに薄っすらと腹筋の縦筋ができてるな。本当に瑞穂姉ちゃんの通っている道場に宗太も通っているんだな。少し体形も変わったような気がするぞ」
俊司が俺の腹を撫でてくる。気持ち悪い。俺は男に体を撫でられる趣味はない。慎も俺の腹を突っついている。
2人の目から見ても体形が変わったというのは、俺からすれば嬉しいことだ。毎日、キツイ練習に耐えてきたかいがあったというもんだ。
俺達は更衣室から出て、プールサイドでストレッチを行った。俺がストレッチをしていると慎と俊司がビックリしたような顔をしている。
「宗太、お前、体、硬かったよな。以前よりも体、柔らかくなってないか。前屈もきちんとできてるんだけど」
俊司が引きつった顔で指を差してくる。慎の顔も少し歪んでいる。
「あの、怠け者の宗太が信じられない。これも瑞穂姉ちゃんの魔力か。凄いな」
そこは素直に俺を褒めろよ。俺は毎日のようにサポート2人がかりで、念入りにストレッチされているから、ストレッチだけは急速に伸びてるんだよ。いつも道場では悲鳴をあげているんだからな。俺を褒めてくれ。
女性陣が更衣室から出てきた。結菜は白いフレア・フリルのビキニを着ている。胸が三角形の小さなビキニだけで、結菜の豊満な胸を隠しきれていない。俺は思わず見惚れていた。
神楽はパステルカラーのワンピースだった。控え目な神楽には似合ってる。今も恥ずかしいのか、バスタオルで水着を隠していることろが可愛い。このおっとり系で可愛い神楽が俊司と引っ付くのかと思うと、腹が立ってくる。俺は俊司の尻を蹴飛ばした。
委員長、今回は頑張ったな~。薄いピンク色のビキニにパレオ姿だ。委員長がビキニをチョイスするなんて、勇気がいっただろうな。慎にアピールするために頑張ったんだな。少しは慎も反応してやれよ。
「結菜、日焼け止め塗ったか、色白なんだから、しっかり日焼け止め塗ってくれよ」
「うん。大丈夫。もう塗ったよ~。それとも宗太が塗りたかった~?」
ん~そう言われれば塗りたいが・・・・・・人前で塗るなんて、高校生の俺には早すぎる。恥ずかしくなるに決まっている。結菜が日焼け止めを塗っていてくれて助かった。
女性陣もストレッチをして、プールに入る用意が終わったと思ったら、結菜が必死に浮き輪を膨らませている。なぜ、スポーツ万能のはずの結菜が浮き輪を用意してるんだ・・・・・・皆で遊ぶためだよな。
「結菜、俺が浮き輪を膨らませてあげるよ。それより、この浮き輪を何に使うんだ?」
「宗太には言ってなかったっけ。アタシ、足の付かない場所では泳げないの。怖くて、体が固まっちゃうから」
浮き輪を膨らませ終わると、嬉しそうに浮き輪を腰につけている。いつも可愛い結菜だが、浮き輪を付けた姿はなんだか残念だ。非常に残念だ。
俺達は波のあるプールに入っていく。マシーンが水を押し出す度に、大きな波が起こる。結菜は必死に浮き輪にしがみ付いて波の上に浮いている。俺は浮き輪を手で持って、結菜から離れないように波を漂う。
俊司と神楽は手を繋いで、波が来ると大きくジャンプをして楽しんでいる。
慎と委員長は、冷静な慎に、パニックになっている委員長がしがみ付いているようだ。このくらい、積極的なほうがいいだろう。後から委員長をからかってやろう。
俺達は波のでるプールから出るとよろよろとプールサイドに座った。まだ委員長が慎にしがみ付いている。よほど怖かったのだろう。慎がぼそぼそと『大丈夫だから。もうプールサイドだから』と言って、落ち着かせている。
俊司はまた1人で波のでるプールへ飛び込んでいった。元気の良い奴だ。神楽も恥ずかしそうにしながら、俊司の後を追っていく。その姿をみると微笑ましくなってくる。
「宗太、アタシ、かき氷を食べたい」
「俺も食べたい」
結菜が言うのはわかるが、慎もそこにくいつくか。意外だったな。
俺達はテラスにあるかき氷屋の列にならぶ。委員長がテーブル席を取ってくれている。列が段々と進んでいき、俺達の番になった。俺は抹茶アイスに練乳をトッピングしてもらった。結菜は苺アイスに練乳を頼んだ。慎はブルーハワイを頼んだ。委員長の分はレモンアイスを頼んだ。
店員のお兄さんがかき氷のカップを機械に入れると、細かい氷が機械から落ちてくる。それを手でカップを回して上手く、かき氷の形にしていく。そしてシロップをかけて、練乳をかけて先がスプーンになっているストローを差してくれる。俺達はかき氷を手に持って、委員長が座っているテーブルに座った。慎が委員長の分のかき氷を委員長の前に置く。
「やっぱり練乳入りは美味しいね」
結菜がニコニコ笑って嬉しそうだ。練乳入りはお気に入りのようだ。俺も氷が溶けないうちにかき氷を口に入れる。慎と委員長は静かに食べているが、委員長は嬉しそうに笑っている。それなら、まあ、いいか。
俊司と神楽が戻ってきた。俊司は元気いっぱいだが、神楽はヨロヨロしている。大丈夫だろうか。俊司、少しは女の子を労わることも覚えろよ。このままだと神楽がバテるぞ。
俊司と神楽もかき氷を買って、俺達のテーブルについた。俊司がスプーンでかき氷をガッツいて食べていく。
「ノォーーーーー!」
いきなり、俊司の悲鳴があがった。そんなに一気にかき氷を食べたら、頭がキーンと痛くなるに決まってるじゃないか。さすが俊司だな。鉄板をはずさないな。横で神楽が恥ずかしそうにしてるじゃないか。でも笑っているからいいか。
かき氷を食べ終わった後、少し休憩をして、俺達はウォータースライダーに乗りに行くことにした。ここでは、2人乗りのウォータスライダーがある。お目当てはそれだ。
俺達は階段を上って、列の最後尾へ並ぶ。ウォータスライダーには浮き輪は必要ないと思うのだが、結菜は浮き輪を腰につけたまま、階段を上っていく。ちょっと恥ずかしい。
慎と委員長がペアで円形のボートの乗るとパイプの中へ消えていった。暫くすると委員長の悲鳴が聞こえる。なかなか楽しそうだ。次に俊司と神楽がボートに乗って、パイプの中へと消えていった。
次は俺と結菜の番だ。俺と結菜はボートに対面で乗る。係員がボートを押し出してくれる。すぐに結菜は「キャー」っと悲鳴をあげて、俺の首に抱き着いてきた。おかげでボートの重心が偏った。ボートの揺れがその分だけ激しくなる。俺も必死に結菜を抱きしめて、ボートにしがみ付く。なかなかのスリルだ。
ザブーンと音がなってボートはプールの中を進んでいく。俺と結菜は茫然となっていた。こんなに面白いとは思わなかった。
俺達は何度もウォータースライダーを楽しんだ。結菜が満面の笑みを浮かべている。大満足のようだ。よかった。
俊司に神楽がしがみ付いて、ヨロヨロと歩ていている。少し目が回っているようだ。神楽に抱き着かれて、俊司は鼻の下を伸ばしてデレデレ顔になっている。そんな顔で歩くな。恥ずかしい。
慎の腕に委員長は自分の腕を絡めて寄りかかっている。委員長、それは演技とみた。あざとい。
俺達はトイレに行くことにする。女性陣もトイレに行ってしまったので、俺達も男子便所で用を足す。そして洗面所で3人で手を洗う。俺は俊司と慎に問いかける。
「どうだ、俊司は神楽と一緒で楽しいか。仲良くやってるようにみえるけど」
「ああ、宗太、聞いてくれ。神楽って思った以上にスタイルいいんだぜ。胸もあってさ。そして柔らかいの。今日は来てラッキーだったわ。神楽も俺にしがみ付いてくれるしな。今日は俺にとって、最高にハッピーな日だ」
「それはお前の鼻の下が伸びた、だらしない顔を見ていればわかる。神楽のことどう思ってんだ。ただいやらしい目で見ているだけなのか?」
「神楽はおっとりしているし、可愛いし、優しいし、文句なしだよ。俺と一緒のペアでいいのかって思うくらいだ」
「そっか、お前が神楽のことを気に入っていればいいんだ」
俺は慎のほうを向くと、慎は顔ごと背を向ける。
「慎、俺の質問をわかってると思うけど、委員長とは上手くやってるか?」
「今日1日で委員長の色々な面を発見した。普通ならからかう所なんだが、今日の委員長は調子が狂う。ちゃんと女の子してるから。慌てる」
「慎は委員長といて楽しいか」
「それなりに楽しんでる」
「慎、お前、委員長のこと嫌いなのか?」
「そういうわけじゃない。今まで友達だと思っていたのに、いきなりアタックされているから戸惑っているだけだ。知らない女子と比べれば、委員長といたほうがホッとする。色々な表情をするから面白い」
『ま、委員長の道のりは長いかもな~』と俺は小声で呟いた。
俺達がトイレから戻ってみると結菜達が大学生風の男性にナンパされていた。
「お姉さん達、3人とも可愛いね。3人で来たんなら、俺達と遊ばないか?」
「俺達も暇してんだよ。いいだろう」
結菜が腕を伸ばして男達を指差す。
「ナンパはお断りです。私達には連れがいますから、あなた達とは遊びません」
「いいじゃん。連れなんて放っておいて遊ぼうぜ」
大学生風の男性が結菜の腕を持とうと手を伸ばした。俺は咄嗟に結菜の前に立って、手を払いのけた。
「すみません。この子達の連れです。今、トイレから帰ってきたんです」
俊司と慎も駆けつける。
「なんだ、高校生のガキか。お姉さん達、こんなガキより俺達と遊んだほうが楽しいよ。一緒に行こう」
大学生風の男性が、また結菜の腕を掴もうとする。俺は大学生風の男性の手を払いのける。
「勘弁してもらえませんか。今日は楽しくプールに来てるんで、楽しく帰りたいんです」
「うるせ~よガキ」
大学生風の男性が俺の腹に一撃を繰り出した。痛かったが、耐えられない痛さじゃない。
俺は大学生風の男性の手を握って、冷たい目で告げる。
「このままだと、係員に通報しますよ」
「チィっ」と言って大学生風の男性達はその場を去っていった。
男達が去ってから、俺はその場にへたり込んだ。怖かった~。殴られるかと思った~。というか1発殴られてるけどね。
結菜が首に縋り付いて泣いている。
「宗太に大事がなくて良かったよ~宗太、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それよりも気分を変えて遊ぼう!」
「「「「「オオー」」」」」
俺達は色々なアトラクションを楽しんだ。そして流れるプールで結菜の浮き輪に捕まって楽しく泳いだ。
俊司と神楽も手を繋いで楽しそうだ。慎も無表情だが、しっかりと委員長と手を繋いでいる。
このプールで2組とも1歩前進したようで、俺と結菜はチョッピリ嬉しかった。俺達だけでイチャイチャするのも良いが、友達を応援したいという結菜の気持ちもわかる。
「今日は良いことをしたね」と結菜が向日葵のように笑んだ。やっぱり笑顔が可愛いのは結菜が1番だ。




