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27話 サポート

 次の日の朝、瑞穂姉ちゃんが朝6時に俺の家にやってきた。車が俺の家の駐車場に入る音が聞こえる。



 加奈も俺もまだ寝ていて、何事が起ったのかと、パジャマ姿のままリビングへと集まった。



 インターホンから瑞穂姉ちゃんの声が聞こえる。



「宗太。サポートに来たよ。早く玄関を開けな」



 その声を聞いて、慌てて加奈が玄関のカギを開けると、普段着のTシャツにデニムパンツ姿で瑞穂姉ちゃんが登場した。



「やっぱり寝ていたね。そんなことだと勉強で学年内でベスト50なんて取れるわけないよ。勉強を教えてやろうと思って来てやった。ありがたく思いな」



 俺はパジャマ姿のまま唖然として、言葉にならない。朝6時なのに、なんでそんなにテンションが高いんですか。



 瑞穂姉ちゃんは加奈と簡単な挨拶を済ませると、俺の手を引いて、2階にある俺の部屋へグイグイと俺を引きずっていく。



 俺はパジャマ姿のまま机の前に座らされた。加奈が急いで自分の部屋から椅子を持ってくる。瑞穂姉ちゃんは「ありがとう」と言って、椅子を受け取ると、俺の真横に座って、すずなちゃんから用意されたプリントの束を見ていく。



「このプリント、使えるじゃないか。今度の実力テストの範囲は全て書かれてあるね。これを間違いなくできるようになれば、宗太のテストの点数も大幅にアップするはずだよ。寝ぼけている暇はないよ。早くやりな」



 俺は急いでペンを握って、問題を解いていこうとするが、まだ頭が寝ぼけている。頭が回らない。自然とペンの走りは鈍くなる。



「どこがわからないって言うんだい。私が丁寧に教えてやるから、わからない問題はすぐに教えな。時間が惜しいんだよ」



 俺がつまづいていた問題をペンで差す。すると瑞穂姉ちゃんがプリントを見ようと、俺の体に寄り添ってくる。瑞穂姉ちゃんの柔らかい体が俺の体に密着する。それに大人の女性の色香が漂ってくる。俺が振り向くと、間近に瑞穂姉ちゃんのきれいな顔がある。俺は自分の顔が火照っていくのがわかる。



 ちょっと視線をずらすと、Tシャツのクビ元から胸元が見えそうになっている。慌てて視線を逸らせるが、俺の網膜にしっかりと写り込んでしまった。心臓がドキドキする。こんな状態で勉強を続けるなんて、拷問に近い。



「この問題はな、こうして、こう考えると、こうなるだろう。だからそれを回答に書けばいいだけの簡単な問題だよ」



 瑞穂姉ちゃんは本当に優しく丁寧に、俺に教えてくれる。でも、俺の頭の中には半分しか入ってこない。



「わかったかい・・・・・・何、顔を真っ赤にしてんのさ。このエロガキ」



 頭に拳骨を叩き込まれて、両手で頭を摩って痛みを堪える。



「だってさ~、瑞穂姉ちゃんから良い香りするしさ~。瑞穂姉ちゃんの顔が間近にあるんだぜ。俺だってドキドキするって~」



「何、人の匂いを嗅いで、頭をボーっとさせてんだい。そんなこと言ってたら結菜に言いつけるよ。本気で結菜に怒られてもいいんだね。今は雑念を取り払って、勉強に集中しな。私と密着してるのも慣れるんだよ」



 慣れろと言われて、慣れるもんでしょうか。瑞穂姉ちゃんは見慣れてるから、間近に接近しなければ、最近は大丈夫だったんだけどな。自分でも耐性できてきたと思ったのに、まだダメなようだ。



「いいから。勉強に集中しな。そうでないと私がサポートに来た意味がないじゃないか。早くプリントに集中する」



 俺は両手で自分の頬を叩いて、気合を入れてプリントに集中する。俺が少しでもひっかかった問題は、すぐに瑞穂姉ちゃんが丁寧に解説してくれて、解き方を教えてくれる。俺はその通りに問題を解いていく。不思議とスラスラと問題が解け、プリントを捌く速さが、いつもの3倍だ。



 それもプリントには瑞穂姉ちゃんが教えてくれたところには要点を書いてくれている。瑞穂姉ちゃんいわく、後から何度もプリントをやり直す時に、要点が書かれていたほうが、見直しできるから、ということだった。



 それでも密着すると標準より大きい規格外の胸が俺の体に密着してくる。その柔らかさと温かさに意識を持っていかれそうになると何度も拳骨を落とされた。



 俺は涙目になりながら、プリントに集中してペンを走らせる。あっという間に10時になっていた。4時間、ぶっ通しで勉強していたのに、あっという間に4時間が終わったような気がする。普段より集中できていたということだろうか。



 加奈がショートケーキと紅茶を持って、部屋へとやってきた。



「瑞穂お姉ちゃん、お兄ぃのために、朝早くからすみません。お兄ぃから少し話を聞きましたが、大変なことになってるみたいですね」



 瑞穂姉ちゃんは紅茶を上品に飲んで、首を傾げて少し考えている。



「そんなことはないと思うぞ。今、宗太は平均点を取れるようになってるんだ。後はどれだけ間違いを少なくするかだけでも大幅に成績は伸びるはずだし、後はどれだけ結菜と一緒にいたいと思うか。絶対に結菜を離したくない。絶対に結菜と離れないぞと思って必死に頑張れば、ベスト50ぐらいなら手が届くと私は思っている」



 そんなもんだろうか。俺のことだけど、自分に自信のない俺は簡単に信じられない。




「今までの宗太はハングリー精神が全くなかったと言っていい。絶対に勝ち取るぞっていう気合が足りなかったというわけさ。今回はそんなことは言ってられない。ベスト50位に入らないと結菜と別れないとダメなんだからね。絶対にベスト50に入って、結菜を取り戻すんだっていうハングリー精神が必要だよ。一瞬でもできないなんて思ったらそこでダメになるからね」



 なるほど、瑞穂姉ちゃんの言っていることが胸の奥にスーっと入ってくる。今までの俺に足りなかったのはハングリー精神か。



 瑞穂姉ちゃんはショートケーキを少しずつ食べては笑顔になる。ケーキが好きなんだな。今度、お礼に、ケーキの食い放題でも奢るかな。瑞穂姉ちゃんだったら、本気を出したら、相当な量を食べるだろう。



「宗太、今、変なこと考えてたろう。失礼なこと考えていたら拳骨だからね」



 いつもながら、勘が鋭い。野生の勘だな。人間離れしている。



 突然、俺の頭に拳骨を叩き込まれた。



「だから、失礼なことを考えるんじゃないって言ったよな」



 はい。わかりました。俺が悪かったです。この拳骨、本当に痛いんだよな。



 俺と瑞穂姉ちゃんがケーキと紅茶を飲み終わると、加奈は「お兄ぃをよろしくお願いします」と言って、トレーの上に紅茶とケーキの皿を集めて、1階へと降りて行った。



 俺と瑞穂姉ちゃんは12時まで勉強を続けた。今日1日でプリントも相当できたんじゃないか。俺は達成感で笑顔がニンマリする。



「私はプリントを片付けるために来たわけじゃないよ。プリントを全部100点満点にするために来てるんだ。プリントが終わったら、1学期の教科書、参考書、問題集も全ておさらいするからね」



「え、瑞穂姉ちゃん、今日だけ応援にきてくれたんじゃないの?」



「そういえば言い忘れてたわ。私は毎日6時には宗太の家に来るからね。丁度、大学も休みだしね。6時から12時までは勉強を教えてやるから安心しな」



 安心というか、毎日、6時から12時まで勉強漬けなんて、地獄でしかない。それも瑞穂姉ちゃんの監視付き、よかったことは瑞穂姉ちゃんが美人だっていうことかな。これは天国なのか地獄なのかわからないぞ。



 12時になったので、机の上を片付けて、1階のリビングに降りると、加奈がチャーハンを作っていてくれた。

 俺も瑞穂姉ちゃんもテーブルに座る。できたてのチャーハンがテーブルに置かれる。加奈も席に座って、みんなで「いただきます」と言って、チャーハンを食べる。うん、いつ食べても加奈の料理は旨い。



「加奈ちゃん、本当に料理が上手いね。こんど私にも料理を教えてくれないかね。私はどうしても料理が上手くならないんだよ」



 瑞穂姉ちゃんのエプロン姿。それもまた良し。見てみたい。加奈が瑞穂姉ちゃんに料理を教えに行く時は、ぜひ付いて行こう。



 頭に拳骨を落とされた。



「あんた、今、変な妄想してただろう。私の貴重なエプロン姿を宗太なんかに見せるか。加奈ちゃんに料理を教えてもらう時は、加奈ちゃんと2人きりだよ」



 俺達が食べた皿を加奈が片付けていく。瑞穂姉ちゃんは伸びをすると席から立ち上がった。



「宗太、いつまでパジャマでいるつもりだい。早く、着替えな。なるべく動きやすいほうがいいから、いつものジャージでいいから。それに着替えな。私はリビングで待ってるから」

 


 瑞穂姉ちゃんはリビングに座って、片づけを終えた加奈と話し始めた。



 俺は2階の自分の部屋で黒に赤のラインが入った上下ジャージに着替える。もちろん中にはTシャツを着ている。ジャージに着替え終わって1階にいくと、瑞穂姉ちゃんが立ち上がって俺の手を引っ張って玄関にいく。



「時間がないんだよ。お前といくところがあるから付いてきな。早くするんだよ」



 俺はせかされるように、瑞穂姉ちゃんと玄関を出て、瑞穂姉ちゃんが運転してきた車の助手席に乗った。駐車場から出た車は急発進する。



「瑞穂姉ちゃん、どこへ行くの?」



「私の大学だよ。あんたに格闘技を教えるっていっただろう」



 え~これからが本当の地獄じゃん。誰か俺を助けてくれ~。



 車はそんな俺の心の叫びを無視して快走していく。





◇◆◇◆◇





「ここがシュートボクシング同好会の道場だよ」



 立派なコンクリートで建てられた建物の中へ連れて行かれた。中には大学生の男性が大半をしめていた。全員、引き締まった体に、程よくついた筋肉がTシャツと短パンから見えている。



 瑞穂姉ちゃんは平気な顔をして奥にある、リングの近くに立ってる短髪の男性の元へ、俺を連れて行った。



 男性は振り向くと、意外に優しい目でにっこりと笑った。



「瑞穂じゃないか。最近、お前が来ないから、男性陣が寂しがってたぞ。同好会の拡大のためにも、頻繁に来てほしいんだけどな」



「こいつ、桜木健太っていうんだ。一応、同好会のリーダー。桜木、前に話してた宗太ってのが、このガキだ。よろしく頼む。私は着替えてくるから、面倒見ておいてくれ」



 そういうとスタスタと瑞穂姉ちゃんは更衣室へ着替えに行ってしまった。



「瑞穂に気に入られるとは羨ましいガキだな。みっちり鍛えてやるから、そのつもりでいろよ」



「それって少し嫉妬、入ってますよね」



「当たり前だろ。瑞穂が可愛がってる高校生と聞いて、見てみたら男子じゃね~か。俺は納得できん」



「これには色々とありまして・・・・・・瑞穂姉ちゃんは本当に姉ちゃんですから。勘違いしないでください」



「俺も瑞穂姉ちゃんって気軽に呼んでみたかった」



「さっき、瑞穂って名前、呼び捨てにしてませんでしたっけ?」



「それは、一応、俺がこの同好会のリーダーだからな。特権というわけだ。でも親密ではない。そこがな・・・・・・」



 さすが魔性の女。エロ魔女。どこにでも信仰者をつくるんだな。



 瑞穂姉ちゃんが戻ってきた。髪をポニーテールにまとめて、上は練習用のTシャツにしたは短パンにスニーカー姿だった。ポニーテールにすると形のよい項が艶めかしい。



「じゃあ、宗太、ランニングへ行くよ。はじめはお前のペースに付き合ってやるから、距離は短くて10kmでいいか」



 10kmって高校でも走ったことないんですけど・・・・・・



 瑞穂姉ちゃんは俺と手を繋いでリングの傍から離れていく。後ろから桜木さんが羨ましそうに俺を見ている。



 建物を出たところから、いきなり瑞穂姉ちゃんが走り出した。俺は後を必死でついていく。俺にペースを合わせてくれるって言ってたのに、はじめから無視じゃん。俺は瑞穂姉ちゃんの後ろを走っていくだけでやっとだ。



 俺は瑞穂姉ちゃんの色っぽい項だけを見て走ることに決めた。なりふり構っていられない。項を見るためには追い付かないといけない。俺は必死に項を追いかける。



 5kmになったところから、俺の足はピタリと止まった。一歩も歩けない。



「なんだい、もやしっ子。まだ半分じゃないか。もう立てないのかい」



「5分間だけ休みな。足を前に伸ばせ。私がマッサージをしてやるから」



 瑞穂姉ちゃんがしゃがみこんで、俺の足をマッサージしてくれる。それはいいんだけど、瑞穂姉ちゃんが前かがみになっているのでTシャツが下がって、胸元が全開にみえる。それもスポーツブラっぽい。これはヤバい。見たら殺される。俺は空を向いて、青空を眺めた。そうでもしないと俺の下半身が危険だ。




 マッサージをしてもらったら、足が軽くなった。瑞穂姉ちゃんが前を走っていく。俺が後ろを追いかける。瑞穂姉ちゃんは俺から離れないようにペースを落としてくれている。なんとか10kmのランニングを完走することができた。



 やっとシュートボクシング同好会の建物に帰ってくると、桜木さんがニヤニヤして待っていた。



「桜木、宗太へのストレッチは頼むわ。怪我をしてはダメだから入念にお願いね。宗太は体が堅そうだから」



「わかった。おい、お前等、こいつのストレッチをするぞ」



 筋肉隆々の男性2人に腕を掴まれてマットの上に移動させられる。瑞穂姉ちゃんはきれいにストレッチをしている。それにしても体が柔らかいんだな。床にペタンと体がついてるよ。スゲー



 俺は股を開いてつま先へ両手をもっていく。背中が90度以上曲がらない。すると男性2名が力任せに俺の背中を押す。スッゲー痛い。俺は「ギャーっ」と悲鳴をあげる。それでも力を緩めてくれない。すると段々と手がつま先近くまで寄っていく。俺はズルをしようと膝を曲げようとすると、桜木さんがやってきてニヤリと笑って足を持たれて、膝を伸ばされた。2人の男性はもっと力を入れていく。背中が折れそうだ。



 俺の絶叫が辺り一面にこだまする。それからも色々なストレッチを3人がかりでされたが、途中から意識が朦朧として頭が回らない。何回も絶叫したことだけは覚えている。



 やっとストレッチが終わったら、いきなりリングの中へ放り込まれた。相手は瑞穂姉ちゃんだ。瑞穂姉ちゃんもグローブはつけていない。



「宗太、柔道家と対戦する時に、尤も注意しないといけないことは何だと思う?」



「服を掴まれないこと」



「それも正解だけどな。服を着ていなかったらどうする」



「・・・・・・」



「腕を掴まれないことさ。柔道家は必ず、体のどこかを掴みにくる。それを払いのけられるようになれば、防御はできる。だからあんたには両手で相手の掴みにくる手を弾く練習をしてもらう。私が最初は相手をしてやるよ」



 リングの上で俺と瑞穂姉ちゃんの練習が始まった。瑞穂姉ちゃんの手が俺の服を掴みにくる。それを俺は自分の手で弾き返す。はじめはゆっくりと瑞穂姉ちゃんは俺でもわかる速さで手を出してくれる。それを俺は弾き返していく。



「そうだ。その調子だ。ちょっとスピードを早くするよ」



 段々と瑞穂姉ちゃんの手が早くなっていく。俺は必死で弾いていくが、もう追いつかない。左腕を掴まれたと思った瞬間に、胸元を掴まれて、背負い投げで、リングの上で俺は倒れていた。



「まだまだ、休むんじゃないよ。練習はこれからだよ」



 俺は何回も瑞穂姉ちゃんに背負い投げや一本背負いで投げ飛ばされた。



「ま~最初だから仕方がないね。宗太には基礎の筋力が圧倒的に足りないね。桜木~。宗太に筋トレをしてくれ~」



「おう、わかった」



 桜木さんを含めた3人がリング状で転がっている俺をマットへ運んで行く。



「まずは腹筋からだ。1回10セット、5回にしてやるわ。軽いところからはじめよう」



 ボロボロの体に腹筋はキツイ。それでも腹筋を1回10セット、5回をクリアーした。すると桜木さんはニヤリと笑う。



「次は腕立て伏せ50回な」



 腕立て伏せ50回なんてしたことないんですけど・・・・・・



 俺は両足を広げて、腕立て伏せをする。25回ほどで腕がプルプルとして体が硬直して動かない。左右に男性がついて俺の補助をする。少し楽になった。なんとか50回をクリアーする。



 俺は仰向けになって、息をハァハァと吐いて、呼吸を整える。すると男性2名が俺を支えて、ジムの機械に乗せる。



「これな、腕力を鍛える機械だ。腕を占めるだけの簡単な機械だ。一番、軽くしてあるから、お前でも大丈夫なはずだ」



 俺は両手を内側に向けて力を入れるとマシーンは内側へ移動する。これは簡単だと思っていたら、すぐに限界がきた。すると男性2名が俺の両腕を握って、無理矢理に腕を動かしていく。もう限界を超えています~。これ以上やったら、腕が上がらなくなる~。ある程度のところで男性2人は俺を機械から降ろしてくれた。



 次は足を鍛えるマシーンに乗せられる。足を引っかけてマシーンを上に持ち上げるだけのマシーンだ。俺はマシーンに座ってバーを力いっぱい握って、足を持ち上げる。設定が軽いというだけあって、初めは快調にマシーンを持ち上げることができた。それでもすぐに限界がくる。



 男性2名が来て、俺の足首を持つと、無理矢理に足を上に持ち上げる。もう無理です~。これ以上やったら、立ち上がれません~。男性2人はある程度のところでやめてくれた。手加減はしてくれているようだ。



 次はベンチプレスだった。35kgのベンチプレスをあげていく。もうすでに腕がプルプルする。男性が2人、補助についてくれている。両端で落ちないように支えてくれているが、持ち上げてはくれない。俺は3回、ベンチプレスを持ち上げただけで、ギブアップした。



 桜木さんがやってきて「最後にストレッチな。硬くなった筋肉は解さないとな」



 また地獄のストレッチが待っていた。俺の絶叫が建物内にこだまする。もうこんな地獄は嫌だ~。



 瑞穂姉ちゃんが自分の練習が終わって、更衣室で着替えて、俺の元へやってきた。



「どうだい、宗太の具合は。桜木はどう思う」



「こんな弱っちい奴は久々だな。楽しい奴が入ってきた気分だ。当分は楽しませてもらえそうだな」



「これから毎日、宗太を連れてやってくるからよろしくな。もちろん、私も毎日、参加する。それで取引成立でどうだ?」



「瑞穂が毎日、来てくれるなら、同好会の連中も練習に身が入るってもんだ。宗太も面白いし、毎日でも連れてきてくれ。俺も宗太を鍛えるのに協力しよう」



「桜木、悪いけど、やめていった部員のお古でもいいから、トレーニングウェアを宗太に用意してもらえるかい」


「わかった。用意しとくわ。練習用のスニーカーも用意しておくから心配すんな」



「私達、帰るわ。また明日、よろしく」



 そういうと瑞穂姉ちゃんは俺を抱えるようにして同好会の建物を後にした。



 不覚にも車の中で俺は熟睡してしまった。



 家の前に車が停車する。車の中で瑞穂姉ちゃんが俺を起こしてくれた。



「うちの父さんに勝とうっていうんだから。これくらいの練習で弱音を吐いてたらダメじゃん。明日からも連れていくからね」



「・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」



「明日も朝6時には勉強を教えにくるから、家へ戻ったら、勉強の予習と復習をしておくんだよ。たぶん、体が悲鳴をあげてるから無理かもしれないけど。できるだけ頑張れ」



 これも結菜のお父さんとの約束をクリアーするためだ。堂々と結菜と付き合うためだ。俺は自分に言い聞かせた。



「瑞穂姉ちゃん、色々とサポートありがとう」



「まだまだ、これからだよ。じゃ、私は帰るわ」



 俺が車をおりると、車はタイヤをキュルキュル言わせて急発進していった。俺は鍵を開けて玄関に入る。加奈が俺のボロボロな様子を見て、口に手を当てている。俺は何も言う気力もない。俺はそのままソファに寝転んだ。



 加奈の夕飯の用意ができるまで、ソファで少し横になろう、そう思って目を瞑ると、あっという間に眠りに落ちた。

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