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26話 真相ー朝霧結菜side

 私はぬいぐるみを抱いて自分の部屋の中で俯て座っている。パパが帰ってきて宗太を追い出してから、何も考えることができない。どうして、宗太と付き合うのはダメなの。どうして、宗太と離れないといけないの。どうして、宗太は一つも悪いことしてないじゃん。私の頭の中で、どうして、ばかりが繰り返し流れていく。



 宗太、寂しいよ。悲しいよ。辛いよ。会いたいよ。



 パパなんて大嫌い。もう口も利かないし、目も合わせてあげないんだから。絶対にパパを許せない。



 私はぬいぐるみを抱いたまま、ぬいぐるみに顔を押し付けて泣いた。だって悲しくて心が潰れそう。



 パパの宗太に出した条件なんて、絶対にクリアーできない。だってパパ、柔道3段に空手2段なんだよ。喧嘩も弱っちい宗太が勝てるわけないじゃん。それに、私も宗太も勉強はお馬鹿なんだよ。やっと平均点を取れるようになったばっかりなのに、学年でベスト50に入るなんて無理じゃん。どれたけ頑張っても無理じゃん。



 パパの横暴だ。パパが無茶苦茶、言って、私と宗太を別れされるつもりなんだ。そんなこと絶対に許せない。



 もう、この家から出て行こうかな。宗太の家に飛び込んでいきたい。宗太とどこか遠くの街で一緒に暮らそうか。



 私にお金があったら、絶対に宗太と一緒に駆け落ちしてるのに・・・・・・私は馬鹿だから、そんなにお金持ってない。こんなことなら、お小遣いを毎月、貯めていればよかった・・・・・・私の馬鹿。



 スマートホンが振動する。私はベッドに放り投げていたスマートホンと取って耳に当てる。大好きな宗太の声が聞こえる。



《結菜、大丈夫か。そのことだけが心配で連絡した》



《宗太、元気なはずないじゃん。宗太に会いたいよ。宗太の顔を見たいよ。不安だよ。寂しいよ》



《俺もだよ。結菜に会いたい。会わせてもらえないと思うと、余計に会いたくなるなんておかしいけど、俺も結菜と同じ気持ちだよ。寂しい、辛い・・・・・・絶対に俺がなんとかするから。瑞穂姉ちゃんも協力してくれるって言うし、俺、頑張るから》



《でも・・・・・・パパの出した条件なんて絶対にクリアーできないよ~。パパ、柔道3段に空手2段なんだよ。喧嘩の弱っちい宗太なんて瞬殺されちゃうよ~》



 宗太がボロボロにされるのを見たくない。



《俺・・・・・・瑞穂姉ちゃんに格闘技を教えてもらう。結菜のお父さんの実力を考えると絶望的だけど、それでも結菜を諦めることなんてできない。やれるだけやってみる。どんな辛い練習でも頑張ってみる》



 格闘技って、そんなに簡単に身につけられるもんじゃないよ。だって瑞穂お姉ちゃんも何年も練習して、強くなったんだから。夏休みの間だけで急に強くなれるわけないじゃん。




《それに私も宗太も、2人共、学校内の成績でベスト50位内に入らないといけないんだよ。私達、この間、やっと平均点が取れるようになったばかりなんだよ。そんなの無理じゃん・・・・・・・絶対に無理だよ》



《無理だと言って諦めることなんてできないよ。俺は結菜と付き合いたいんだから。無理かもしれないけど、最後まで頑張るよ。だから結菜も協力してほしい。勉強、2人でベスト50位を目指そう》



 勉強を頑張れば、ある程度、成績は伸びると思う。でも絶対に学校内でベスト50を取るなんて、今の私達にとっては雲の上だよ。私は頑張っても無理じゃないかと俯いている。



 宗太は凄い。こんなパパの無茶苦茶な条件を言われても、頑張るって前向きに言ってる。私はぬいぐるみを抱いて泣いているだけ。ちょっと宗太のことを見直した。惚れ直した。宗太って男の子だったんだね。



《それでも無理だったらどうすればいいの?私達、別れなくちゃいけないの?》



《俺、毎日でも結菜の家に行って、結菜の家の前で土下座する。何時間でも何日でも、お父さんが許してくれるまで、俺、お父さんに土下座する。だって結菜を失いたくないから。結菜と会いたいから》



《でも、許してくれなかったら?》



《結菜のお父さんも、何も考えずに無茶なことを言ってるんじゃないと思うんだ」



《だって結菜のお父さんだよ。もっと結菜もお父さんを信じよう。だって、俺達は大学進学を目指してるわけでしょ。それなのに今は平均点しか取ってない。このままだと大学なんて無理だよ。だから俺と結菜には学力をあげろって条件をだしたんだと思う。結菜のお父さんが何を考えているのかわからないけど、俺はそう思うことに決めた》



《私にはパパが何を考えてるのか、なんて関係ない。ただ、宗太と会いたい。宗太に触れたい。宗太の温もりがほしい。宗太と一緒にいたい。そればっかり考えちゃう。心にぽっかり穴が開いたみたいで、何もできないよ~》



《俺もそうだよ。心に今はぽっかりと穴が開いた感じ。寂しいし。辛い。だから結菜の声が聞きたくて、連絡した。俺も明日から、頑張るから、結菜はできることをやってほしい。結菜のお父さんは、家に会いに行くのを、許してくれた。だから、2時間だけだけど、できるだけ会いに行くから。寂しがらないで。その2時間の間は、結菜のお父さんの前だけど、会えるから。それだけでも、結菜のお父さんは譲歩してくれたんだと思う》



 私は宗太に愚痴を言って泣いた。宗太は優しく、聞いてくれる。宗太と話をして、少し落ち着いた。私は腕で涙を拭いて、宗太に笑いかける。上手く笑えてるかどうか自信ないけど、これ以上、宗太に辛い思いをさせたくなかった。



 宗太がスマホを切った。また、私は1人になる。悲しくて仕方ない。



 リビングで瑞穂お姉ちゃんとパパの話ている声が聞こえる。わたしはそっと部屋の扉をあけて、リビングの近くへ隠れて2人の様子を見守る。



 瑞穂お姉ちゃんが缶ビールを片手にパパに話かけている。



「あんな無茶な条件を宗太にだすなんて、ただの嫉妬に狂った馬鹿親のすることだろう。いったい父さんは何を考えてるんだ。何も考えてないって答えたら、父さんでも問答無用でぶっ飛ばすぞ」



「どうして瑞穂はそんなにガサツに育ったんだ。中学生のころまで、お淑やかだったじゃないか。父さんはかなしいぞ」



「うるさい。私にも色々と事情があったのさ、父さんには関係ないだろう。そんなことより、何も考えなしで、あんな無茶苦茶な条件を出した、本音を聞かせてもらうか」



「九条という男子は見るからにもやしっ子だった。あんな貧弱な体では、もしも、結菜が危ない時に、結菜を守ることもできんだろう。男なら女子を守るのは当たり前だ。、あんな軟弱者に、結菜を預けられん」



 そうだよね。誰から見ても、宗太はもやしっ子に見えるよね。たぶん、私よりも喧嘩は弱っちい。そんな宗太も可愛くて私は好きだけど。



「男なら好きな女子ぐらいは守り切ってもらいたい。だから、あの条件をだした」



「だからと言って、柔道3段、空手2段の父さんに、夏休みの間だけの特訓で勝てるはずないだろう」



「たぶん、彼は負けるだろうな。それでもどれだけあがくか見てみたい。どれだけ立っていられるか、どれだけ私に挑んでこれるか見てみたい。夏休みにどれだけ必死に実力をつけたか見てみたい。私は九条くんの誠意を見てみたい」



「もう1つの条件の目的は何だい?」



「瑞穂、お前から結菜の成績についてはメールを貰っていたな。満足な成績のものが一つもなかった。このままいけば大学進学なんて無理だろう。この高2の夏休みが勝負だ。ここで怠けたら、後で取り戻せないかもしれない。結菜と同じような学力の九条くんも、条件は同じだろう。だから夏休みのうちに必死に勉強に取り組んでほしかった」



「父さんのことだから、そんなことだと思ってたよ。で、2人が頑張ったら、2人のことは許すのかい?」



「いや、約束事は約束事だ。守ってもらうのが前提だ。2人が別れたくないと本気で思っているなら、成果を出してくるだろう。できれば約束をクリアーするのがベストだが、九条くんが結菜を本当に離したくないと考えていれば、条件をクリアーするために必死になるはずだ。私はその結果を見てみたい。どこまで結菜を大事にしているのか見てみたい。結菜もそうだ。本当に九条くんが大切なら勉強を必死にするはずだ。今の時点で諦めているようなら子供のママゴトだ。それなら別れさせたほうがいい」



「とにかく私は勉強もそうだが、男として結菜を守れる男になるように宗太を鍛えればいいんだね。絶対に父さんを驚かせてやるよ。宗太はただの軟弱男ではないところを父さんに見せてやる」



「瑞穂も九条くんを気に入っていたようだな。そこまで肩入れするとは思わなかったぞ」



「あんたが居ない間、宗太が遊びにくるようになってから、この家は明るくなった。結菜も明るく笑顔が絶えたことがなかった。私も宗太でよく遊んだ。私にとっても宗太は弟のようなもんだ。肩入れするのは当たり前だよ」



「お前がそんなに肩入れするとはな~。なんでも無関心のお前が。いっそのことお前が九条くんと付き合えばいいんじゃないか。結菜はやらんが、お前は好きにしていい。どうせ親のいうこともきかないんだから」



 え、瑞穂お姉ちゃんの彼氏に宗太はなっちゃうの。そんなの絶対に嫌。なぜそんな話になってんの~



「可愛い妹の結菜の彼氏でなかったら考えていたかもしれないね。でも私も結菜を大事にしている。そんなことできるはずないだろう。父さんもいい加減なことを言って、私をからかうな。それ以上からかうと、缶ビールの量を増やして、父さんに絡むからな」



 パパの顔色が青くなって、首を横にブルブルと振る。瑞穂お姉ちゃんの酒癖の悪さは、パパも体験済みだ。



「とにかく、口だけで行動の伴っていない男子は嫌いだ。九条くんがそうでないことを祈ろう」



 私はパパの心の内を、本当に思っていることを立ち聞きしてしまった。それで私は何もいえなくなった。私は静かに部屋の中へ戻った。



 パパが意地悪な条件を言っている真相はわかった。私達2人がどれだけ真剣に付き合おうとしているのか、試しているんだ。私達の誠意を試されてるんだと、私は思った。



 宗太も頑張ると言ってるし、私だけウジウジして宗太の足を引っ張るようなことになったら申し訳ない。



 私は机に座って、教科書と参考書、すずなちゃんからもらったプリントの束を見た。まだほとんどが、手付かずの状態だ。このままだと絶対に成績なんて伸びない。パパに認めてもらうためには成績を伸ばすだけだ。



 私は意識を切り替えて、プリントの束に手をつけた。



 絶対に宗太の足を引っ張りたくない。足手まといになりたくない。私も宗太を見習って頑張る。宗太と一緒に2学期も楽しく学校生活を送るために私頑張るから・・・・・・宗太、私のこと見守ってね。



 でも、やっぱり、パパのことは腹立つから、絶対に口も利いてあげないし、これから冷たく接してやるんだ。

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