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21話 宗太の呟き

短いです。

 期末考査の定期テストが始まった。俺と結菜が居残りで頑張った成果を発揮する初めてのテスト。俺の中ではやりきった感がある。テストの点数はわからないが俺は満足している。



 結菜もテスト期間中もニコニコと笑っている。上機嫌なようだ。こいつの場合、テストの手応えが良かったからニコニコしている訳ではなさそうだ。あの生徒指導室の一件があって以来、毎日、笑顔が絶えない。



 あの日以来、夜になると毎晩のように結菜から電話が来た。そして深夜近くまで話している日々が続いている。おかげで、テスト勉強も夜遅くまでできたので、結菜からの電話が邪魔になったということはない。



 夜遅くまで電話で他愛のないおしゃべりをし、電話を切ろうとするとダメと言われる。これが辛い。最後には「私が寝るまで電話をつけたままにしておいて」とわがままを言い始める。



 酔っぱらっているんじゃないかとはじめは思ったが、そうではないようだ。



 俺もはじめての彼女なので基準がどこにあるのか、全くわからない、手探り状態だ。



 今も、ママチャリに乗って、結菜のマンションまで迎えに行って、一緒に登校している。結菜はすぐに腕を絡めて体を寄り添って歩きたがる。初めは恥ずかしかったが、最近では諦めることにした。



 俺が女子と付き合って覚えた、はじめの1つは諦めるということだ。そのほうが楽になる。世の中の男性が、女性に対しての対処方法として諦めるという回答をしている場面をテレビで見たことがあるが、実際に自分も諦めることになるとは思わなかった。



 校門が近づいても、結菜は俺から離れる様子はない。目を伏せて鼻歌を歌っている。すずなちゃんから何回も注意を受けているのに「ただ、一緒に登校しているだけです」と言って、教師のいうことなど、どこ吹く風だ。



 俺は恥ずかしくてたまらないんだが、無理矢理に結菜を離す気になれない。だって結菜の体は柔らかく心地良いし、いつも良い香りがしているから。俺も離れたくなくなってしまう。これが女子の魔力なのだろうか。



 今では、校門で先生に呼び止められることもなくなった。すずなちゃんも生徒指導室に呼ぶこともなくなった。実質的には結菜の粘り勝ちといえる。女子は強いな。



 俺と結菜の登校する姿は学生達の間で名物となってしまった。結菜と俺が歩いていると、皆、立ち止まり、前を歩いていた生徒達は波が割れるように道を開けてくれる。そして俺達を唖然とした顔で見送っている。



 今まで、俺を付け狙っていた結菜のファン達は、俺達が学校公認のカップルになったという噂が流れた途端に、俺を付け狙うことが無くなった。学校公認という看板が、彼らの行動を止めているようだ。



 これを結菜が考えていたとしたら、相当な策士といえるが、結菜のことだ。そこまで考えていなかっただろう。おかげで昼休みの呼び出しや、他の嫌がらせもなくなった。皆、結菜のことを諦めたようだ。



 結菜は学校で一番噂されていた美少女から、高校一のバカップルの女子として有名になりそうだ。もちろんバカップルの男子は俺だ。



 最近では登校してくる俺達を一目見ようと、朝早くから登校してきて、窓から手を振っている男女もいる。俺達はいったい何者になったんだろう。



 妹の加奈にも噂が伝わり、高校では兄妹の縁を切ると言われてしまった。こんな悲しいことがあるだろうか。今まで俺が一番可愛がってきた妹からの強烈な一撃だった。



 俺には冷たいのに、結菜のことを結菜お姉ちゃんと言って慕っている。この差はなんだ。理不尽を感じる。



 妹に毎日作ってもらっていた美味しい弁当。その弁当を作るのを拒否された。そこまで冷たくしないでいいと思う。



 妹に「お前、焼きもち焼いているのか」と聞いたら「お兄ぃにお弁当を作る期間は終了しました」と言われた。そのことを結菜に話すと、すでに加奈と話していたようで、これからは結菜がお弁当を作ってくれるようになった。



 結菜の弁当も好きだが、時には妹の弁当も食べてたい。それが兄という生き物です。妹よ。わかってほしい。



 昼休みになると席を並べて弁当を食べるのが恒例になった。俊司も慎も茶化しにこない。



 1度だけ慎と俊司が弁当を食べている時にニヤニヤ笑いを浮かべて俺をからかいにきたことがあったが、結菜が冷たい視線で顎をクィっと動かした途端、顔を青くして逃げていった。俊司と慎と結菜の間が、どんな関係になっているのか、結菜に問いただしてもフニャリと笑顔になるだけで教えてくれない。



 弁当を食べる時に「あ~ん」をさせられるのは滅茶苦茶、恥ずかしい。教室の中、クラスメイトの視線が集まる中で「あ~ん」なんかできるわけないだろう。そんな度胸は俺にはない。



 栗本が何回か「教室の中の風紀が乱れる」と結菜に注意をしたが、「紗耶香も彼氏、作ったらいいじゃん」と結菜に言われて、肩をガクっと落として、それから何も言わなくなった。俺は委員長が可哀そうでならなかった。



 結菜さんや。思ったからといって本当のことを言ってはいけないこともある。委員長を追い詰めてどうする。お前の友達だろう。



 俺は弁当を食べ終わったあと、委員長に謝りに行ったが「九条に謝られる筋合いはない」と言われてしまった。そんなことはわかっているが、委員長がシュンとなっている姿が可哀そうだ。



 結菜が謝りに行けば委員長も機嫌を直すだろうと俺が言うと結菜は笑っていた。後で、結菜が話しかけると普通に笑顔で話していた。女子ってわからん。



 最近、結菜はきれいになった。彼氏になったから言うわけではない。何かが変わったように急にきれいで可愛くなった。女性は恋をするときれいになるとテレビで見たことがあるが、本当だっただな~と感心してしまう。



 俺は最近、授業中でも結菜が何をやっているのか気になってチラチラと結菜を見しまう。



 結菜は真剣に勉強をしているかと思えば、黒板をみながら、肘をついて顔をフニャフニャにして笑っている時もある。ちょっと引く。



 フニャリと笑っている時の結菜の目は黒板に向いているが、現実を見ていない。何を授業中に妄想しているのか、怖くて聞けない。



 放課後の居残りはテスト期間中はなかったが、結菜が帰りたくないと言い張るので、仕方なく、教室に居残ってテスト勉強を2人でやった。俺達2人共、成績が同じぐらいなので、誰か教えてくれる人が必要なのだが、友達連中はサッサと俺達を置いて帰ってしまった。



 おかげで教室で2人きりになった結菜は俺に甘えたい放題だ。これでは勉強できないと注意しても、可愛い顔で近づいてきて、耳元で可愛くささやかれると、俺は抵抗ができない。さすが瑞穂姉ちゃんの妹だと思った。



 学校で無駄に時間を過ごしている間にテスト期間は今日で終了となった。2人で校門を出て、いつもの通学路を結菜のマンションへ向かって歩いている。



 いつものように俺の腕に結菜は自分の腕を絡めて体を寄り添わせて歩いている。もう夜も遅くなっているので、外灯の電気が等間隔でポツポツと光っている。車が車道を行き交うだけで、歩道には人は歩いていない。



 結菜がいつもの鼻歌を歌っている。何の歌を歌っているのかと聞くと、その時の気分という曖昧な答えが返ってきた。自作だったとは思わなかった。なかなか作曲の才能があるかもしれないと思ってしまった。



 最近は帰る間も、散歩している間もほとんど話すことがない。話題がないわけじゃないが、話題をしてこの雰囲気を壊すのが嫌だった。心地よい時間、心地よい空間の中を2人で歩いているのに、話は不要な感じがした。



 結菜も始終微笑んでいるだけで、無用なおしゃべりはしなくなった。おしゃべりはお互いに家に帰ってからラインや電話ですればいい。そんな感じだ。



 俺達は付き合い始めたばかりのバカップルだ。これから何が起こるかわからないけど、結菜の手だけは離さず、捕まえておこうと思った。だって結菜を自由にすると何をするか、わからないから。



 結菜のマンションまで送っていって、俺は地下駐車場に置いてあるママチャリに乗る。マンションの玄関で結菜は両手で鞄を持って待っている。



 結菜は向日葵のような笑顔で手を振ってくる。俺はママチャリに乗って、手を振ってペダルをこいで家に帰った。



 夜になれば結菜の声が聞けるから。俺はそれを楽しみにして待っていよう。

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