18話 秘密
7月に入って、期末考査のテストが明後日から始まる。今まで遊んでいた学生達も一夜漬けの勉強をするため、学校中がテストムードとなっていった。
今回のテストは少しだけ自信がある。すずなちゃんが渡してくれている居残り用のプリントをしていること、後、最近では授業に集中して、先生の言葉をキチンと聞き、黒板を写したり、教科書の内容を要約してノートに書いているためだ。みんなより早くテスト対策は始めてある。今回は安心してテストを受けられるだろう。
俊司が俺と朝霧のことを噂として流したため、それが拡大して学校中に流れてしまった。今では俺も、結構、学校中から注目される生徒になってしまった。女子達からは「なぜあんな男が朝霧さんと」という声がちらほら聞こえ、男子達からは「朝霧さんの気まぐれだろう」という声が大多数を占めたが、俺を敵視する男子の数は相当数にのぼった。
朝霧には言っていないが、この1週間の間に5回も校舎裏に呼び出され、毎日、軽くではあるが朝霧ファンの集団にボコボコにされた。昼休憩の合間に行われたので、相手もそこまで俺をボコボコにはしなかった。
さすがに1年生の男子の集団に囲まれた時はマジかと俺も驚いたが、1人対15人では太刀打ちできるはずがなく、俺は下級生にまでボコボコにされる羽目になった。これはさすがに情けなかった。
ボコボコにされるのはかまわないが、服が汚れるのには困った。俺は噂が広まった時にこうなるだろうと予測していつも替えの制服をロッカーの中に置いておいた。朝霧に見つからないように服を着替えるのは大変だったが、今も朝霧は知らないようで、俺をみてフニャリとした笑顔を見せてくれている。
朝霧には悲しい顔をしてほしくない。だから俺のことは隠しておきたい。俊司と慎は集団リンチのことは知っているが、朝霧やクラスメイト達にも、すずなちゃんにも黙っていてくれた。俊司は自分がクラスに噂を流したことが、拡大して学校に噂が流れてしまったことを後悔して、俺に謝ってきたので、すぐに許した。
遅かれ、早かれ、俺と朝霧のことは学校中に噂になることは確実だったからだ。それにしても朝霧の人気の高さを思い知った。1年生から2年生、3年生も含めて全学年から人気があるのだから、やはり朝霧はきれいで可愛いのだろう。もしかすると学校で1番有名な女子は朝霧ではないかと思うほどだ。
俺が耐えられたのは朝霧の笑顔があったからだ。最近、朝霧をチラっと見ると、必ず朝霧は俺を見つめていることに気が付いた。そして顔をフニャニャにして笑っているのだ。とても嬉しそうに、幸せそうに笑っている。
ただ、隣にいるだけで、そんなに喜んでもらえるものなのかと、はじめは思っていたが、毎回、嬉しそうに笑っている姿を見ると、その笑顔だけは守ってやりたいなと思った。
毎日、居残り勉強をした後に2人で校門から帰っている。その時は2人寄り添って帰っている。何を話すわけでもない。ただ2人で寄り添って帰っているだけだが、俺達は朝霧のマンションまで一旦、戻ってから1時間以上も散歩をして帰っている。その時間はイヤなものではなく、とても暖かくて、安心できる、心地よい時間だ。
その時間だけは誰にも邪魔されることなく、2人寄り添っていられる貴重な時間だ。俺はその時間を守ると決心した。これが瑞穂姉ちゃんのいう、朝霧を守るということだと俺は勝手に思っている。
ライン交換をしてから、ほぼ毎日、朝霧からラインがやってくる。いつも他愛もない話ばかりだが、朝霧がスマートホンの向こう側で笑っていると思うとラインのやり取りも楽しかった。
朝霧ファンの猛攻は凄まじいものがあるが、俺はそれから逃げずに、朝霧と毎日、平和に暮らすことを選んだ。
最近では、暇があれば、朝霧の顔が浮かび、朝霧のことばかり考えてしまう。とうとう俺も朝霧にイカれてきたみたいだ。最近はそれでも良いかと抵抗するのを諦めた。
今では授業中に朝霧が何をしているのか気になって仕方がない。あんまりチラ見をしているのも、ストーカーだなと思って、授業に集中していると、視線を右隣から感じる。朝霧もチラチラと俺の様子を伺っているようだ。
俺は大きい声でいいたい。俺を集団で俺をボコボコにした諸君よ。俺は朝霧にチラチラ気にしてもらってるぞ。お前達はチラ見もしてもらったことがないだろう。その他、大勢のモブな男子達よ。ざまぁみろ。
俺はダサ男で、自分から女子に1度も告白したことがない小心者だ。だが、そのおかげで女子から振られたこともない。朝霧に告白して惨敗している諸君よ。小心者だから生き残るということもあるのだ。覚えておけ。
学校の噂では、既に俺は朝霧の彼氏ということになっているらしい。「なぜあんなダサい男が朝霧さんのハートを射止めたんだ」と男女共に理解に苦しんでいるらしい、学校の七不思議の1つとも言われるようになってしまった。
「最近、私に黙って昼休み、どこに行ってるの?」
やっぱり朝霧は勘づいていたか、そうそう誤魔化せないと思っていたが、さすがに毎日、姿を隠して校舎裏に行ってるんだもんな。さすがに様子が変だとバレるよな。
「別に何かをしている訳じゃない。朝霧、お前が気にすることじゃないぞ」
「だって、最近、一緒にお弁当を食べてくれないじゃん。いつも私、宗太のこと探してるんだよ」
別段、毎日、朝霧と弁当を食べていたわけではないが、そういえば2日に1回くらいの割合で一緒に弁当を食べてたもんな。それが1週間も一緒に弁当を食べてなかったら、おかしいと思うよな。
「もうすぐ、期末考査のテストの時期だろう。だから時々、1人になりたくてさ」
「屋上にも探しに行ったけどいなかった。宗太はいつもどこに行ってんの」
朝霧のファンに呼び出しくらって、毎日のように校舎裏に行ってますなんて、口が裂けても言えない。
俺と一緒にいた慎と俊司がコソコソと俺達から離れようとしていた。その行動を朝霧は見逃さなかった。
「おい、黒沢、佐伯、あんた達、宗太の秘密をしっているようじゃん。私に教えてちょうだいよ。早く。吐け!」
朝霧が俊司と慎の首根っこを捕まえて、女性陣の輪の中へ連れていく。女性陣は朝霧から訳を聞いて、慎と俊司を囲む。
俺は走って行って女性陣に「慎と俊司は何も知らないから開放してあげてくれ」と頼むが、女性陣は俺を突き飛ばす。奴らは本気だ。慎と俊司の顔を見ていると今にも泣きそうな涙目を浮かべている。
俺のことですまん。頼むから耐えてくれ。
授業を報せるチャイムがなった小休憩時間は終わりだ。慎と俊司はホッと安堵したような顔をして自分の席に戻る。俊司などは俺に向かって親指を立ててサムズアップする。そんなことすればお前が秘密を知ってるのがまるわかりじゃないか馬鹿。
俺は科目教師の説明に耳を集中させる。ノートへ黒板に書かれている内容。教科書を見て要点もまとめて、ノートに書いていく。すると朝霧が俺の机に付箋を貼ってきた。内容は「今日のお昼休みは弁当一緒に食べよう」と書かれていた。今日は先に先約がある。
今日は3年生の先輩方が校舎裏でお待ちになっている。
「女子と一緒に食べてくれ」と書いて朝霧の机にサッと付箋を貼った。すると朝霧は頬をプクッと膨らませてご機嫌斜めだ。俺は自分の筆箱から付箋を取り出して「ごめんな結菜」と書いて朝霧の机に付箋を貼る。
名前が書かれている付箋を見て。朝霧はフニャリと笑って頬に手を当ててヘラヘラと笑っている。けっこう朝霧の扱いにも慣れてきたんじゃないか、俺、結構、朝霧が単純で助かるわ。お前は笑顔が似合ってる。
昼休みになると早々と俺は教室を立ち去った。朝霧に見つかるのがヤバいから。校舎裏に行くと3年の先輩方々が多数、お見えなようで、今日も絶対にボコボコにされるのは確定コースだな。
俺は3年の先輩達の前に歩いていく。
「お前、なんで俺達に呼び出されたのか、わかってるよな」
「俺と朝霧の噂の件ですよね。実は付き合ってないんですよ。まだ。そう言ったら先輩達は信じてもらえますか?」
「そんな都合の良い話を信じるわけね~だろう。なぜお前なんかに、あの麗しの朝霧ちゃんが惚れているのかわからん。俺達は納得できん」
「あの~盛り上がっているところ、悪いんですが。俺達まだ、付き合ってないんですが、友達のままなんですけど~先輩達、話、聞いてますか?」
「ふざけんな。お前の話など誰が信じるか。お前にはそれなりの制裁が必要みたいだな。やっちまえ~」
先輩の1人が号令を出すと「オォーーー!」という声と共に3年の先輩が襲い掛かって来る。すぐに俺は倒されてしまう。俺は両手の拳で顔をガード、顔を怪我したら朝霧にバレるからな。肘と膝で鳩尾と脇腹をガードする。秘技、亀のポーズ。ただ体を横たえて丸まっているだけなんだが。先輩達は寄ってたかって俺を蹴りまくる。
さすがは3年生、1年生よりも力が強い。俺のガードが弾き飛ばされる。鳩尾に前蹴りがめり込む。脇腹に踵がめり込む。足の上を先輩がストンピングする。背中はどこもかしこも蹴り上げられる。頭を後頭部から思い切り蹴りとばされた。俺の頭はサッカーボールのように蹴り上げられる。頭部への蹴りで脳が揺さぶられる。顔だけは必死でガードする。体の痣は隠せることができる。
先輩達、そろそろ終了してもらえないでしょうか。本当にこれ以上されるとシャレにならないんですけど、先輩達の目はまだ怒りで瞳に炎が燃えているようだ。それから10分間蹴られ続けた。
いきなり先輩達がある方向を見て、動きを止めた。俺も先輩達の見ている方向をみると、朝霧が立っていた。俊司と慎の奴、昼休みに女性陣の吊し上げにあったな。話すなっていうほうが可哀そうだ。今回は許してやろう。
朝霧が校舎裏へ堂々と入ってくる。眦を吊り上げて怒り狂っているようだ。
「宗太、こんな3年の先輩達と付き合うのと、私と一緒にお弁当を食べるのとどっちが大切なの」
え、問題点はそこかよ。怒ってるところはそこですか。俺はお前のために・・・・・・お前のためにな・・・・・・
「3年の先輩達、宗太は私と楽しいお弁当を食べる予定だったの。勝手に宗太を呼び出して、ボコボコにしてるってどういうことですか。宗太をボコボコにして楽しいんですか。私と宗太のお弁当タイムを邪魔して楽しいんですか」
「・・・・・・朝霧さんはこの男と本当に付き合っているのか・・・・・・」
「私達が付き合ってるかどうかなんて先輩達に関係ないじゃないですか。それに私、先輩達の顔も覚えてないんですけど。誰なんですか。全く、もう!こんなことする先輩達なんて大嫌いです。宗太をイジめるなんて最低。それも集団でボコボコにするなんて酷過ぎ~。本当に最低ですね。2度と私の前にも、宗太の前にも姿を見せないでください。大嫌いだから」
「・・・・・・」
「まだまだ言わないとわからないんですか!」
「結菜、もうやめろ。先輩達もわかってる。もうそれくらいにしておけ」
あ~あ、朝霧にバレちゃったよ。今回は蹴られ過ぎて、すぐに立てないのに恰好悪いところ見られちゃったな。
先輩達、早く帰ってよ。もう朝霧に知られちゃったんだから、あんたら振られたのも同じなんだから。
「もう顔も見たくありません。もうどっかへ行っちゃって」
朝霧の一言で3年生の先輩方々は校舎裏から出て行った。
朝霧は俺に振り返るとフニャリとした笑顔をつくろうとするが上手くいかない。目から涙を流して俺に抱き着いてくる。痛い。痛いんですけど、滅茶苦茶、痛いからギュッとするのは今は手加減してほしい。
俺は上半身を持ち上げて、縋り付いてくる朝霧を抱きとめる。嗚咽をして泣いている朝霧の髪の毛を優しくなでる。「どうして、教えてくれなかたのよ」と言って、俺の胸をポカポカ叩く。
「結菜には、毎日、笑って過ごしてほしかったんだよ。俺が殴られても蹴られても、お前の笑顔だけは守ろうと思ってた」
「馬鹿」
朝霧が俺の左頬に思いきりビンタした。鼻に当たって鼻血が流れてくる。一番強烈なビンタだと思う。
「宗太がボコボコにされてて、私が笑えると思ってるの。宗太がボコボコにされているのを知らずに、私だけ笑っていろって言うの。そんなの全然、嬉しくない。そんなの悲しい。そんなの寂しい。そんなの私、辛いよ~」
「俺が悪かったよ」
「黒沢と佐伯から聞いたよ。私のファンだって言ってる学校の学生達から毎日のように宗太が集団リンチにあってたって。どうしてそこまでして私に秘密にしてたの?」
「だってよ。朝霧のことだから、そんなことを知ったら、お前は俺のことを守るっていうのがわかってたからな。俺が結菜を守るんだ。守ってもらってたら立場が逆になっちまうだろう。それに俺は怒ってる結菜より笑っている結菜のほうが好きだ」
「もうバレちゃったんだから。私に秘密にする必要ないわよね。これからは私がいつも宗太と一緒にいて、宗太を守るから。ずっと一緒にいて守るから。だって大好きな人が傷つくのはヤダもん」
ま~朝霧だったら、バレたらそう言うよな。
「私は優しい宗太が好き。優しい笑顔を見せてくれる宗太が好き。そんな優しい宗太をボコボコにする人達をアタシが許さない。そんな人達、全員、氷姫を見習って振ってやるんだから」
頼むから「氷姫」を見習うのは止めてくれ。日下部の言葉の刃を聞いたことないから朝霧はそう言えるんだ。あいつの辛辣な棘のある言葉を朝霧に真似してほしくない。その言葉が俺に向いた時、俺、即死確定だからね。
俺は朝霧の体を抱えたまま立ち上がった。もうそろそろ昼休みが終わる時間だ。早く教室に戻らないと。俺は朝霧と手を繋いで校舎裏を後にした。
校舎に着いて、俺はトイレで顔を洗う。鼻血は止まっていた。そしてロッカーに入れておいたシャツと今、着ているシャツを交換して、新しいシャツを着る。ズボンも履き替えて、トイレから出る。汚れた制服はロッカーに入れておく。
その間も、朝霧は廊下で待っていた。俺を見つけると笑顔で寄ってきて腕を絡ませてくる。いつもなら離せというところだが、もう隠すことに疲れたし、堂々としていたほうがいいなと考え方を変えた。
朝霧と俺は寄り添たまま教室へ入っていく。目を丸くして驚く女性陣。慎と俊司は口を手で押えて、驚愕の顔をしている。俺達は席に着いた。もうすぐ昼休みが終わってしまう。今日は時間がかかったので、加奈が作ったお弁当を食べていない。午後の授業が終わってからでも、食べようと思っていたら、朝霧が自分の机の上にお弁当を広げだした。朝霧も食べていなかったようだ。
椅子を俺の席に持ってきて、すぐ隣に座ると、弁当から箸で卵焼きをつまんで、俺の口に持ってくる。朝霧は「あ~ん」と言ってくる。俺も恥ずかしかったが、「あ~ん」と言って口を開けた。口の中に卵焼きが入ってくる。
俺は卵焼きを味わう。旨い。
「結菜の料理はいつも旨いな」
教室内が喧噪の渦に巻き込まれる。「キャー」「やっぱり噂は本当だったのか」「結菜ちゃん、おめでとう」「宗太、死ね~。爆発しろ~」「結菜だって~。名前呼び~」「お前を呪ってやる~」クラスメイトは俺達を見て色々な奇声をあげている。
朝霧はそんな声を聞いても、全く動じていない。俺にお弁当を食べさせて、自分もお弁当をつついている。
慎と俊司が飛んできた。
「とうとう宗太も朝霧さんと付き合うことになったのか?」
「クソ宗太。爆死しろ~!」
朝霧がキョトンとした顔をする。
「私達はまだ付き合ってないわよ。私が宗太に好きって言ったの。今は返事待ちの状態よ」
教室の中がシーンと静まり返った。みんなも意味がわからないようだ。
「まだ付き合ってないのに、そのイチャイチャぶりかよ~!」
「朝霧さんも変わった生き物を好きになったもんだね。こいつただのダサ男だよ」
慎、お前、そんなこと思ってても本人の前でいうなよ。ちょっと傷ついたぞ。そっか、俺は告白されて・・・・・・え、今、朝霧は何ていった?俺の返事待ちだって・・・・・・え~、いつの間にそんなことになったんだよ。こんなことがあっていいのかよ。相手は学校でも有名な美少女だぞ。その女子が俺の返事待ちだと・・・・・・あり得ね~
「きちんと返事を聞かせてね。宗太、ずっと待ってるから」
また教室が喧噪に包まれた。「九条くん、女子を待たせるなんて最低~」「結菜は可愛いから早く捕まえなさいよ」「宗太、やっぱり爆発しろ~」「九条、お前を子孫まで呪ってやる~」
朝霧はテキパキとお弁当を片付けて、席を元の位置へ戻す。
午後の授業が始まる。それでも教室中でヒソヒソ話が絶えない。俺と朝霧は真面目に授業を受けた。
恥ずかしくって前以外見れるか。みんながチラチラと俺達のほうを見てくるんだぞ。敵視されているよりもマシだけど、本当に恥ずかしいわ。
それでも俺はこれから堂々としていようと決めた。
昼の授業が終わって、放課後になる。俺達2人は居残り授業をする。みんなはそれぞれに帰っていった。
俺達はプリントを終わらせて、職員室にいるすずなちゃんにプリントを渡して帰る。
校門を出て、いつものように2人で寄り添って帰る。
2人共黙ったまま歩くがそんな雰囲気が心地良い。
「結菜、教室で俺を守ってくれてありがとうな」
「んん、いいんだよ。私が宗太のこと、大好きなのは事実だし」
「俺はずっと、お前がからかってんだと思ってたよ」
「酷いな~。あんなに一生懸命にアタックしてアピールしたのに」
お前の場合は、アタックしすぎなんだよ。それにアピールの仕方を根本から間違えているように思うぞ。
「俺さ~、最近、お前のことが妙に気になってさ。結菜が本当に俺のことを好きなのか、ずっとモヤモヤしてたんだ」
「何回でも言うよ。私は宗太のことが大好き。私からはじめて告白した人は宗太だけ」
「そっか、俺ってモテたことがないから。俺のどこがいいのか、わかんね~けど、好きになってくれてありがとう」
朝霧は俺の好きなところを言い始めた。ずっと聞いていると俺の失敗談ばかりじゃね~か。恰好いいところが一つもない。それって俺、地味に傷つくんだけど。
「私、宗太の優しいところから、ドジでダサいところまで全部、全部、宗太のこと大好き」
朝霧も俺がダサいということは認めてるんだ。悲しくなるな。
朝霧のマンションに着いた。朝霧が俺の両肩に手を置いて、つま先立ちになって顔をあげて目を伏せる。
「結菜、それはまだだよ。俺はお前のことを気になって仕方がない、お前のことを1番に考えたいと思う。瑞穂姉ちゃんとの約束は関係ない。結菜を大切にしたいと思い始めたばかりだ。俺がきちんと返事ができるようになったら、いや、俺から告白できるようになったら・・・・・・それまでお預けな・・・・・・」
「宗太のいくじなし」
「俺はまだ結菜を好きになり始めたばかりだ。もっと好きになってから俺からも告白したい」
「そんなのいうの宗太が初めてだよ。いいわよ。私、もっと宗太にアタックしてアピールして、絶対にもっと、もっと、宗太に好きになってもらうんだから。もっと私のことを好きになったら告白してね。待ってる」
朝霧はフニャリとした笑顔で俺に笑った。やっぱり笑顔が可愛いな。結菜を守らなくちゃと、俺は心に誓った。




