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15話 夕日の浜辺

 俺は朝霧の家のリビングで猫のソウタを抱っこしてテレビをまったりと見ている。朝霧は自分の部屋の中で床に正座をさせられて、瑞穂姉ちゃんの説教を受けている真っ最中だ。



 まさか瑞穂姉ちゃんも自分が朝霧に利用されるとは思っていなかったのだろう。瑞穂姉ちゃんは朝霧の前に自分も正座して真剣に説教をしている。それも無表情で、感情を表さずに。これは精神的にこたえる。さすがの朝霧も涙目になって俯いている。



 瑞穂姉ちゃんが朝霧の部屋から出てきて、ソファにドサッと座る。何も言わない。ご機嫌斜めのようだ。できれば帰りたい。何か言ってくださいよ。沈黙でソファに座ったまま、じっと俺の顔を見るのは止めてください。今回は俺が被害者ですよね。間違っていませんよね。プリーズ何か言って。



「宗太。今日は悪かったわ。何かお詫びをしなくちゃ~ね」



「いえいえ、大人しく帰らせていただければ、それだけで十分です」



「それだと私の気が収まらないじゃん。それよりも私のお詫びを受け取れないって言うのか」



 何で俺が脅されてんの。なんかおかしくないか。しかし、ここで変なことを言って、瑞穂姉ちゃんの機嫌を損ねたくない。ここは黙っておこう。



「もう昼だね~。そうだ、宗太、私と2人きりでドライブでデートするか?これから海まで行けば、夕焼けには間に合うぞ。2人で浜辺でデートなんて良いだろう。高校生にはもったいない提案だろう。どうだ」



「お断りさせていただきます」



 瑞穂姉ちゃんと海辺なんかいったら、海の中に突き飛ばされる可能性大じゃん。そんな危険な場所にいきませんよ。



「こんな美人とデートできるんだよ。めったにないことだぞ。これでも私は大学ではモテモテだからな。男共から毎日のように告白されてるんだぞ」



「今、付き合ってる彼氏はいないんですか。それだけ美人なのに?」



「それがな。付き合った彼氏は何人もいるんだが。なぜか記憶をなくすまで一緒に酒を飲むと、次の日から怯えて男が逃げ出していくんだわ。まあ、本気で惚れた男なんて、今までいないからいいけどさ。だから今はフリー」



 本当に酒さえ止めてくれれば、良い女性だと思うんだけど。酒癖悪いからな~。たぶん、付き合った彼氏は酒を飲んだ後で、プロレス技を朝までかけ続けられたりしたんだろうな。瑞穂姉ちゃん、技かけるの好きだもんな。俺もこの間はコブラツイストをかけられたからな。



 豊満な胸が背中に当たって嬉しかったけど、それよりも体中に激痛が走って、思わず悲鳴をあげたし。



「瑞穂姉ちゃんって何かの格闘技をしてたことあるの?」



「ああ、言わなかったっけ、今の大学でシュートボクシング同好会に入ってる。小さい時からプロレスが好きでね~。空手や柔道なんかも少し習ってたんだけど、体を動かすって気持ちいいぞ。宗太もシュートボクシングするか。いまならタダで私が教えてやるよ」



 小さい頃から柔道、空手をしていて、プロレス大好き、今はシュートボクシングですか。俺にはとうてい敵う相手じゃない。絶対に怒らせないようにしよう。酒が入った時には逆らわずに逃げの一手だ。



「まだ昼だし、本当にどこかに行きたいね~。そろそろ結菜を許してやるか。3人で表に出かけよう」



 瑞穂姉ちゃんは朝霧の部屋に入っていった。暫くすると瑞穂姉ちゃんだけが部屋から出てきた。



「外に遊びに行こうって誘ったら、服を選ぶから時間がほしいんだってさ。私も着替えてこようかな」



 瑞穂姉ちゃんはTシャツにデニムというラフな格好でソファに座っている。普通のTシャツなのに胸が大きいせいかパッツンパッツンにTシャツがなっている。はっきり言って正視できない。常に胸を見ないようにしながら、俺は瑞穂姉ちゃんと話すようにしている。



 瑞穂姉ちゃんはソファから立ちあがると自分の部屋へ入っていった。



 朝霧が部屋から出てきた。パフスリーブに花柄プリーツスカートを履いている。朝霧の白い肌にとても似合っている。メイクも薄目にしているようだ。いつもよりも顔が輝いて見える。



 そういえば初めて朝霧の私服姿を見たな。メイク姿も初めてだ。何もしてなくても、きれいで可愛いのに、メイクをすると、一段ときれいさが増すな。それに洋服がよく似合っている。



 瑞穂姉ちゃんはベロアのプルオーバーにダメージデニムパンツを履いて、部屋を出てきた。美女は何を着ても様になるな~。本当に黙っていればきれいなのに。酒飲むと台無しなんだよな~。完璧な人間なんていないって証明だな。



「さ~、とりあえず、海を目指してドライブと行きたいんだけど、それより忘れてたけど、宗太はその恰好で外に遊びに行く気か?それにお前財布とか、持ってきてんのか?」



 あ、ジャージ姿のままだった。このままだと外に遊びにいけないぞ。それに財布も持ってきてない。どうしよう。



「急いでジャージで来たのを忘れてました。財布も持ってないです。一度、家に帰って着替えてきていいですか?」



「面倒だし、お金は私が出してやるから気にするな。ジャージはそのままの方が面白そうだね。どこまで耐えられるか試してみようよ」



 何を試そうというんだ?俺の精神力を試して何が面白いんだ。今日1日で精神力ボロボロになるわ。お願いだから、着替えに帰らせて。お願いします。



「私は宗太がどんな格好で、外で遊んでても気にしないよ。大丈夫。私は理解ある女子だから」



 朝霧、フォローしてくれているつもりだろうけど、何のフォローにもなってないからね。むしろ、崖から突き落としてるから。少し黙っててくれるとありがたい。瑞穂姉ちゃんを説得するのに時間が必要だから。



「お願いします。ジャージは恥ずかしいです。家に帰らせてください」



「気持ちはわかる。だが断る」



 瑞穂姉ちゃん~。俺は涙目になって床に四つん這いになる。これは最後は土下座しかないのか。



「慌てるな。確か私の部屋に、昔の男が置いて行った服があったはずだから、それを着てみるか?」



 いや、いや、いや、それはない話でしょう。昔の男の服を俺に着ろっていうんですか。そんな無茶苦茶な。



「わかった。ドライブしている途中で、宗太の服を買ってやるから。それまでジャージのままでいい。お腹も空いてきたし、私と結菜が外に出る準備ができたら出かけよう。結菜、準備はできてるの?」



「ちょっと待って、お姉ちゃん鞄を忘れてた」



 朝霧は鞄を取りに部屋に戻る。その間に瑞穂姉ちゃんも自分の部屋に戻って、外に出る用意を始めた。暫くすると、2人とも自分の部屋から出てきた。



「じゃあ、ソウタ、出かけるからお留守番ね」



「わかった。俺は留守番な」



「猫のソウタに言ってんの」



 ややこしいわ。



 朝霧と瑞穂姉ちゃんと俺は、朝霧の家を出てエレベーターに乗った。俺と朝霧は1階のマンションの玄関でまっていると、地下の駐車場から黒い外車が、マンションの前に乗りつけられる。BMW8シリーズクーペだ。恰好いい。車のウィンドウが下がって、瑞穂姉ちゃんがサングラスをかけて笑っている。



「早く乗りな。行くよ」



 俺が後部座席に乗ると、朝霧も後部座席に乗って来る。なぜ助手席に乗らないの。なぜか俺の手を握っている朝霧の体が小刻みに震えている。いつもフニャリとした笑顔が、なんだか表情が硬い。なんだか嫌な予感がする。



「行くよ」



 BMW8シリーズクーペはタイヤをキュルキュル鳴らして、急発進した。ここは公道ですよね。なんでメーターが100kmになってんの。それって飛ばし過ぎでしょう。瑞穂姉ちゃんは上手いハンドル捌きで、右へ左へ車を躱して走っていく。



「瑞穂お姉ちゃんね。車に乗ると、いつもよりも狂暴になるの」



 朝霧は俺のほうを向いて、必死にフニャリとした笑顔を作ろうとしているが、顔が完全に引きつっている。



「キャッホ~」



 前から喜びの遠吠えが、聞こえてくるんですけど・・・・・・瑞穂姉ちゃん、行動は安全運転をお願いします。



 BMW8シリーズクーペは街中を快走し、高速道路に乗る。すぐに都会が遠のいていった。どこで俺の服を買うんですか。絶対に俺の服を買うことなんて忘れてるよな。さっき、お腹が空いたって言ってたけど、どこにも寄る気配もないもんな。俺達、どこまで連れて行かれるんだろう。



「ゴメンね。瑞穂お姉ちゃん、いつもこんなだから。実は私、車恐怖症なの」



 なんですと~。瑞穂お姉ちゃん。あなたのおかげで可愛い妹か軽くトラウマかかっていますけど・・・・・・時には人のことを考えましょうよ。



 瑞穂姉ちゃんは高速道路に入ってから、気に入った洋楽をかけて、ノリノリで運転している。ハンドルに置いた手は、指先が音楽に合わせて踊っている。音楽に合わせて体踊ってる。完全に俺達が乗っていることも忘れているようだ。怖くて、声をかけられない。普段は騒がしい朝霧も、今は大人しく、人形のように座っている。俺の手を力いっぱい握って。車に対する恐怖と戦っているようだ。一瞬たりとも窓から外を眺めようとしない。



「大丈夫か、朝霧?顔色悪いぞ」



「大丈夫、海が見えてきたから、もうすぐ着くと思うし。車恐怖症が出るのは、瑞穂お姉ちゃんの運転の時だけだし」



 BMW8シリーズクーペは2時間ほど高速を走って、市街地に降りた。ここは何県だろうか。間違いなく俺の知らない土地だ。市街地を抜けて、海へ向けて、瑞穂姉ちゃんはアクセルを踏む。



 やっと、海の防波堤の近くのパーキングに車を止めた。



「あ~楽しいドライブだった。宗太、お前達も楽しかっただろう?」



 いえいえ、瑞穂お姉ちゃんの運転に比べれば、日本最速ジェットコースターに乗った方が安全です。全然、楽しめませんでした。朝霧なんて、車が止まっているのに、まだお人形さん状態のままですよ。



「2人共、いつまで仲良く手を繋いでるんだい。早く車から降りてきな。海へ行くよ」



 俺は自分が車から降りて、反対側に股って、朝霧を外へ出してあげた。朝霧は膝がガクガクしていて自分で立てないようだ。俺は肩を持って朝霧を支えて、瑞穂姉さんの元へ歩いていく。



 瑞穂姉さんは車の鍵をセンサーでロックすると、颯爽と海へと向かっていく。海の風が瑞穂姉ちゃんの髪をたなびかせる。きらきらと光る髪がきれいだ。ちょっと変わった瑞穂姉ちゃんだけど、恰好いいと思った。



 俺達も瑞穂姉ちゃんの後を歩いて、防波堤を乗り越え、浜辺にたどり着く。俺は靴と靴下を脱いで素足になる。朝霧も靴を脱いで素足になった。瑞穂姉ちゃんは素早く素足になって、靴を指に引っかけて、砂浜をスタスタとモデル風に歩いていく。



 海辺にはサーフィンを楽しんでいる人達が、サーフボードを持って波を見ている。海ではサーフィンを楽しんでいる人が数多くいる。



 まだ6月にもかかわらず、海の家が看板を出して営業している。瑞穂姉ちゃんは海の家の中へと入っていく。俺は朝霧に肩を貸して、海の家に入ると、瑞穂姉ちゃんがテーブルに座っている。そしてにっこり笑って、手招きしている。俺達も2人並んで瑞穂姉ちゃんの前に座る。



「ここは最近見つけた、私の穴場だよ。ゆっくりと海を見ようじゃないか。宗太も結菜も、お腹が空いているなら、何でも頼みな」



「やっぱり海といえば焼きそばじゃん」



「そうだな」



「私の分も頼んでおくれ。後、缶ビールが飲みたいな・・・・・・でも運転だから我慢するか」



俺は海の家のバイトのお兄さんに、焼きそばを3つ頼んで席に戻る。



「海の音が気持ちいい~」



 車恐怖症から脱した朝霧が、フニャリとした顔で微笑む。よかったな、体調が戻って。やっぱり笑顔のほうが似合ってる。



「これで缶ビールが飲めたらな~」



 まだ瑞穂姉ちゃんは缶ビールへ、未練タラタラのようだ。飲酒運転は禁止です。俺達を殺す気ですか。事故をしても瑞穂姉ちゃんだけ、生きていそうだから怖い。



 バイトのお兄さんが焼きそばを持ってきてくれた。チラチラと瑞穂姉ちゃんのことを見ている。瑞穂姉ちゃんはサングラスを取って、にっこりとバイトのお兄さんに微笑んだ。



 バイトのお兄さんは顔を真っ赤にして、体をギクシャクして、店の奥へと戻っていった。すると店の奥から他のバイトのお兄さんが何人も顔を出して、瑞穂姉ちゃんを盗み見している。



 瑞穂姉ちゃんがバイトのお兄さん達に手を振ると、お兄さん達はボーっとなって手を振っている。さすが美女はモテるな。さすが美女の魔法。あ、バイトのお兄ちゃん、鼻血出してる。



 バイトのお兄さんがジュースを3つ持って走ってきた。「俺達からの奢りです」と言って、ジュースを3つテーブルに置いていった。瑞穂姉ちゃんは「あら、プレゼント、嬉しいわ」と、どこから声を出しているのかわからないが、いつも家で話している声とは違う、美声でお礼を言う。さすが魔女。声色まで変化させるとは怖ろしい。



 俺は腹が空いていたので、焼きそばを平らげる。朝霧は小さい口で焼きそばを食べている。食べている姿も可愛い。



 瑞穂姉ちゃんは片手で髪の毛を後へ流して、片手で箸を使って、上品に焼きそばを食べている。食べ方がエロい。どこで自分がどう見られるのか、瑞穂姉ちゃんの計算は完璧だ。これだと男はコロっと騙されてしまうだろう。怖ろしや。



 朝霧よ、いくらお姉ちゃんが好きでも、瑞穂お姉ちゃんのような大人にはならないでくれ。純粋な朝霧のほうが好きだな。



 焼きそばを食べ終わると、いつの間にかバイトのお兄さんが、焼きそばの皿を持っていってくれた。最高の笑顔つきだ。完全に瑞穂姉ちゃんに心奪われてるな。



 海を見て、海の音を聞いていると、段々と時間がゆくっりと流れていく。段々と太陽が沈んで、夕日に変わってくる。



「宗太、結菜をつれて、海辺を散歩してきな。へんな男が寄ってこないように、寄り添って歩くんだよ。私はバイトくん達をからかって、ジュースを奢ってもらっとくから、早く行きな」



 寄り添って歩けと言われて、はい、そうですねって、行動に移せるわけないだろう。余計に意識するわ。



 朝霧が顔を赤くして手を伸ばしてくる。朝霧もいつも以上に緊張していようだ。大丈夫。俺も緊張してるから。俺は朝霧と手を繋いで、波際まで歩いていった。波が時々のぼってきて、足を濡らす。やっぱり海水の温度は冷たい。



 朝霧が俺の腕に自分の腕を絡めて、体を密着させて、頭をコテッと俺の肩の上に乗せる。夕日が朝霧の顔を映し出す。ハッとするほどきれいだ。長くて多いまつ毛と小さな鼻が可愛い。口を少し尖らせている。



「瑞穂お姉ちゃん、マイペースだから、宗太に迷惑かけたみたいで、ごめんね」



「ん、海まで連れて来てもらったんだ。贅沢はいえないよ。今年、初めての海だな。夕日がきれいだ」



 俺と朝霧は波打ち際を2人寄り添って、歩いていく。波の音が気持ちいい。



「来年もこの海に来れたらいいな~」



「瑞穂姉ちゃんがいるから、来年も来れるさ」



「違うの。宗太がいないと意味ないじゃん。来年も一緒に来たいって言ってんの」



「ああ、そうだな。来年になったら、瑞穂姉ちゃんに頼んで、また連れてきてもらおうな」



 朝霧は顔を真っ赤にして俯く。だが、腕をギュッとして体を寄せてくる。俺も恥ずかしくて、俯いて波を見る。



「私、頑張って宗太と同じ大学に行くからね。宗太も頑張ってね」



「ああ、俺も大学は行きたいからな。まだどこに受けるか、決めてないけどさ。2人で頑張ろう」



「・・・・・・嬉しい・・・・・・」



「・・・・・・」



 なんかスゲー恥ずかしくなってきたぞ。どうしよう。




 朝霧は腕を離すと、波打ち際よりも海に近く入っていく。スカートの裾が濡れるのも気にせずに。そして海水を両手で汲むと、俺に向かって海水をかけてきた。



 俺もジャージの裾をまくって、波打ち際より少し海の中へ入って、海水を両手に汲んで朝霧にかける。



「冷た~い。キャーー!お返し!」



「止めろって、ジャージの上が濡れる。俺もお返しだ」



 俺も朝霧も恥ずかしかったんだと思う。やたらはしゃいで2人で海水をかけあった。朝霧に海水をかけられないように朝霧の両手を掴む。



 朝霧が上目遣いで、ウルウルした瞳を俺に向ける。俺もじっと朝霧を見る。なんかこの雰囲気ヤバくないか。



 朝霧が俺の胸の中へ体を飛び込ませる。俺は朝霧の体を受け止める。朝霧は俺の首に両手を回して、ギュッと俺を抱きしめる。



 朝霧の顔が間近に見える。とてもきれいで可愛い。夕日の光で一段と可愛く見える。時間が止まったように見つめ合う。波の音だけが静かに聞こえる。心臓がドキドキする。朝霧の瞳に吸い込まれそうだ。朝霧が少し背を伸ばして、顔をあげて目を瞑る。この状況は・・・・・・この状況は・・・・・・



 俺は咄嗟に朝霧から離れようと1歩だけ後ろに足をずらした。すると足の下で砂がグニっとなった。俺はバランスを崩して、海へ背中からザブンとコケてしまう。



 海から顔を出し、首を横に振って、髪の毛についた波を飛ばす。そして海から立った。全身、ずぶ濡れだ。




「・・・・・・宗太のいくじなし・・・・・・」




 朝霧は口を尖らせている。俺はそんな朝霧ににっこり笑った。







「なんだい。良い雰囲気になってたから、せっかく間近で見ようと思って、歩いてきたのに・・・・・・結菜、残念だったね。宗太がずぶ濡れだから、今日はここまでだな」



 朝霧は口を尖らせて不満顔だったが、俺の手を握ってきた。俺も朝霧の手を握る。2人で手を繋いで、瑞穂姉ちゃんの立っているところまで歩いていく。



「これじゃあ、どこへも行けないね。そろそろ夕日も沈むし、帰るとしようか。2人には良い記念になっただろう」



 ええ、記念に残りました。夕日で輝く、朝霧の顔は忘れることはないだろう。後、俺が海でコケて、ずぶ濡れになったことも・・・・・・



 車まで帰ると、瑞穂姉ちゃんがいつの間に用意していたのか、バスタオルを車から出して、俺に放り投げた。



「このままだと宗太は車に乗せないよ。濡れた服は全部脱ぎな。バスタオルで体を拭いて、腰にバスタオルを巻いて帰るんだよ」



 俺が家に帰るためには、瑞穂姉ちゃんの言うことを聞くしかない。だって、ここがどこか知っているのは、瑞穂姉ちゃんだけだし、俺、財布も持ってないし、言うこと聞くしか方法ね~じゃん。



 俺は渋々、パンツ以外の全てを脱いで、腰にバスタオルを巻いて、車の中に乗る。脱いだ衣服をビニール袋に入れて、膝の上に置いた。



 朝霧が目を丸くして驚いている。そりゃ、驚くよな。隣にほとんど全裸の男が座ったんだから。でも、おまえのお姉ちゃんの命令だからね。



 俺達を乗せたBMW8シリーズクーペはゆっくりと海を離れて、市街地を通り、高速を快走した。もちろん瑞穂姉ちゃんはノリノリだ。俺と朝霧は次の日、本当に風邪をひいた。

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