〜死にたがりside〜
〜世奈視点〜
運転手と目が合った。
瞼を固く閉じて、手のひらをギュッと握りしめる。
ホームから足が離れ、身体が宙に浮く。
闇に吸い込まれるように、ぐんぐんとレールに近づいていく。
ギギーッ、ギギッギーッ‼︎
けたたましい金属音を轟かせながら、荒々しい鉄の塊が迫ってくる。
まだ意識がある。
確か、自殺サイトには、飛び込むのと同時に意識はなくなり、一瞬でこの世から消えられると書いてあったのに……。
このままでは、想像を絶する耐えがたい苦痛を味わなければならない。
早く、早く消えたい!
それなのに、
まだ、まだ意識がある。
映画やドラマでよくある、最後の瞬間、人生が走馬灯のように映し出されるのは本当だったんだ。
幼稚園に通っていた頃の映像が見えてきた。
制服姿の私が、友達に遊具を取られ泣くのを堪えている。
わがままは言わない、我慢のできる子だった。
今度は、小学生の頃の映像だ。
人がやりたくない重い給食を運んだり、1人でゴミ捨てにも行っている。
勉強も運動もよくできる優等生だった。
学年を代表してピアノの演奏をした音楽会の映像もある。
次は、中学受験で第1志望校に合格した時の映像だ。
涙を流し喜んでいる母親を、私は冷静に見つめている。
素直に喜べなかった。
同じ塾から受験した、あとの2人が不合格だったからだ。
講師達は、泣いている2人を素通りして私の合格を大袈裟に喜んでくれたけれど、とても居心地が悪かった。
そんな辛い受験も全て終わり、夢や希望でいっぱいの中学校生活が始まると思っていたのに……。
入学式は、また新たな争いのスタートだった。
まわりは自分より出来る子ばかりで、闘争心もむき出しだ。
学力テストのクラス順位が発表され、絶望的になっている私がそこに居る。
45人中28位だ。
今、通っている高校の映像に変わった。
私は、1人でお弁当を食べている……。
いつから1人になったのか?
親友だと思っていた子にカンニングさせて欲しいと頼まれ、断ったことが原因かもしれない。
その日を境に、クラス全員から無視されるようになった。
最初は努力した。
自分から声を掛けて仲間に入れてもらおうとした。
けれども、諦めた。
みんな敵だと思ったからだ。
とにかく、上位をキープすることだけを目指した。
負けたくなかった。宿題漬けの塾にも必死に通った。
これは……、最後の映像かもしれない。
模擬試験が返却され、その結果に私は愕然としている。
恐ろしいほど最悪な点数で、希望する大学もA判定からC判定に落ちていた。
おそらく、高3になってみんなは本気モードに入ったのだろう。
親にもまだ見せていない。
両親は名が知れている大学を卒業しているから、当然それを超えると思われている。
期待に応えたかった。
泣きながら、努力してきた。
でも、
もう、疲れた……。
こんな人生は早く終わらせたい。
消えたい……。
この世界から消えてしまいたい。
こんな世界に未練はない。
まわりの人間も、自分も大っ嫌いだ。
私が居なくなっても、きっと何も変わらないだろう。
今までと同じように、この世界は動いているのだろう。
誰にも必要とされていない、なんの価値もない人間だ。
親には申し訳ないけれど、悲しむ人もそれほど居ないだろう。
ずっと死にたかった。
早く楽になりたかった。
楽しいことも、嬉しいことも、何一つない毎日。
もう、うんざりだ。
とにかく、消えたい。
とにかく、死にたい!
それなのに、どうして?
なんで消えないの?
何、この光は?
ま、眩しい……。