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第四話 組み立て人形

  リオーラお嬢様との出会い終えて後、俺は早速セバスチャンから執事レッスンを受けていた。


「ではクロにはこの半年間で、礼儀作法、家事、清掃、庭師の仕事、戦闘訓練をマスターしてもらいます」


  俺は最後に聞き捨てならない言葉を聞いた。

  戦闘訓練だって? とんでもない。

  俺は小学校の時は殴り合いの喧嘩なんて日常茶飯事だったが、中学に上がってからは進学校に合格するため内申を良くしようと喧嘩なんて一切しなかった。

  大体、執事に戦闘技能が必要なのか?


「失礼ですが、セバス様。なぜ戦闘訓練なんて物騒なものが必要なんでしょうか。執事に必要ないと思うんですが」


「そうですね。やはり、契約を結んだので真実を伝えようと思います」


「真実、ですか」


  少し気構えてしまう。先程、死亡宣告やら魔族宣言をぶっ込んで来たのだ。

  何が来てもいいように心構えをする。


「『組み立て人形(ドールズ オブ リム)』このスキル名を聞いたことはありませんか?」


  まず前提からおかしかった。

  スキル? そんなもの日本にはなかったしあってもゲームやラノベの世界でしか見たことない。

  魔法もあったので不思議ではないがこの世界のファンタジーさには少々ついていけない。


「すいません、まずスキルとは何ですか」


  セバスチャンは大きく目を見開いた。

  そんなにびっくりすることか。


「スキルをご存知ないので?」


  この反応からこの世界ではスキルというものが常識ということは分かった。

  でも地球にスキルなんて俺の知る限りでは無かったし仕方がない。

 

「はい、少し遠い東洋の出身なので」


  関所のおばさん、ズーミーは俺のことを東洋出身の少年と断定していた。

  こことは随分遠い所と聞いていたので、セバスチャンも東洋にスキルがあるかどうか分からないはずだ。


「東洋出身の方もスキルを使っていたのを記憶していますが」


  思わず表情が引き攣る。

  セバスチャンは思いのほか博識なようです。

  墓穴を掘っちまった。


「そうなのですか……僕の居たところは東洋でも辺鄙な所だったのでスキルという名称も初耳です」


  セバスチャンから疑わしげ眼差しを受けるが俺は真っ直ぐに目を見返した。

  こういう時は堂々と嘘をついた方がかえっていい時もある。


  それにしてもセバスチャンは老いている状態でも切れ目な目に高い鼻と顔が整っている。

  若い頃はさぞかしモテだろうな。


「今は追求しないでおきましょう」


  俺は心の中でホッと息をついた。

 

「ではスキルの説明ですね。人は生まれた時から神に祝福されるので人それぞれの特有のの能力を持っています」


  なるほど、まんま携帯小説やラノベのスキルのありふれた設定。どうやらここは本当にファンタジーの世界なんだな。

  俺は一応、人族に当たるからスキルを持っていたりするのだろうか。


「しかし魔族は生まれた時から魔神様から祝福されるのでシードという、人間で言うところのスキルを持っています」


「もしかして、全ての生き物が特殊な能力を持っているのですか? 」


「いえ、知性があったり、極めて魔力が強い生き物にしか持ちえないものです」


  魔族や人族で能力の呼び名が変わるのは、信仰している神が違うからなのだろうか。

  どの時代も自分の民族を上に見る風潮はあるようだ。

 

「それは具体的にどのようなことができるのですか?」


「人それぞれによって力も規模も異なってきます。桶1杯分の水を1日に1度出せる能力もあれば、聴力を底上げするものだったり、軍隊を1つ手玉に取れるような武力であったりします」


  この世界では一騎当千が可能なのか。

  前の世界では多勢に無勢という言葉があるぐらい、数の利っていうものは大きかった。

  それが単騎で覆るなんて、不平等だな世界。


「あの、自身のスキルを確認するためにはどうすればいいのですか?」


「クロは自身のスキルを知りたいのですか?」


「はい、生まれてから本当は能力があったのに知らないのは、なんだか損をしている気がして」


  「そうですね。スキルは戦闘にも大きく関わってくるので知る必要もありますね。もしかしたらLv4はないにしろLv3のスキルを持っているかもしれませんし。後で確認しましょうか」


  よしっ! スキルの確認の了承を得た。

  良いスキルを頼みますよ、神様。


  でもLv3やらLv4ってなんだ?

  もしかしてスキルにも評価がつくのか。

  そんなの付けてしまったら人による差別や格差も広がるだろうに。

  本当にどこにいっても知性を持つ生き物は優劣を付けたがる。


「レベルとは何ですか?」


  質問重ねで悪いが、こちとら昨日世界を超えて来ているので知らないことばかりだ。

  ファンタジーと現代社会はあまりに異なり過ぎて困ってしまう。

  セバスチャンはそんな俺にも優しく丁寧に答えてくれる、本当にいい魔族に出会えた。

  さっきは危うく、殺されそうだったけど。


「レベルとは端的に言えばスキルの強力さを表しております。しかしスキルレベルは持ち主本人による成長でレベルも上がるので最初のレベルから変化しないこともありません。当然と言えば当然ですが、成長するためには危険が伴いますので、最初のレベルから変わることはめったにないのです」


  Lv1、2は無能と同レベル。

 Lv3は低位魔族、魔物と互角に戦える。

 Lv4は中位、上位魔族と互角。

 Lv5は魔王の直属の部下(魔王によってよびなが異なる)と互角。

 Lv6は魔王や魔神と戦えるのだそうだ。

  ちなみに、人類の到達最高レベルは8で、魔族を通り越し神々とも殺り合えたらしい。

  神話になるので確証は持てないとセバスチャンは言っていたが。

  魔族が比較対象なのはセバスチャンだからなのか?


「ではだいぶ脱線しましたがスキルの説明も終えたので冒頭に戻ります。『組み立て人形(ドールズ オブ リム)』というスキルについてです」


  そうだ、そのスキルが俺の執事育成計画で戦闘訓練なんて物騒なものと結びつける原因なんだ。


 

「いったいどういうスキルなのですか?」


「スキル『組み立て人形(ドールズ オブ リム)』はLv4のスキルです。能力は自分の体の部位を相手が吸収すれば相手のその部位に関するスキルが得られるというものです」


  そのスキルの説明を聞き、俺の中で仮説が一つだけ立つ。

  頭の中でカチッとパズルの最後のピースが音を立ててはまってしまった。


  でもそれはあまりにも残酷で悲しい現実でとても信じられるものではない。


「その顔、ご理解頂けたみたいですね。はい、このスキルの持ち主は私たちの主、リオーラ様の持つスキルです」


  俺はリオーラとの出会いを思い出す。

  リオーラがセバスチャンが食事を置いたテーブルにすぐに移動しなかったのは何故か。

  俺がクローゼットの中身を見て驚いた訳は何故か。

  頭の中で、全てが繋がっていく。


  リオーラの片足が無かったからだ。


「そしてただ単にこれだけの能力にLv4などの評価は与えられません。この能力は組み立て人形という名の通り、他者の欠損した部位を治すこともできるのですよ。リオーラ様の体の部位を()()()()ることによって」


  どんどん悪い方向に思考がいく。

  なぜ、リオーラという少女がこの豪邸に執事と二人きりなのか。

  親はどこに行ったのか、他の召使いは?


「ご察しの通り、お嬢様は右足と()()を失っています。奪われると言った方が正しいでしょうか」


  右腕だと? 右足に加えて右腕もなかったのか。


  そして部位欠損というのは魔法でも治らないらしい。

  だから部位欠損をしたら諦めるしかない。

  でもスキルで治すことのできることを知ってしまったら?

  常識的な人はこのスキルを知った時にすぐさま手を引くだろう。

  でもあの競りに参加していた貴族達なら?

  俺は頭から血の気が引いていくのが分かった。


「お嬢様は盗賊団に誘拐されました。誘拐され、右足と右腕を切られたのです」


  嫌な予想って言うのは当たりやすい。

  あのまだ幼い少女が右腕と右足を盗賊団に切断された、という事実を俺はまだあまり飲み込めていない。

  予想はできても、飲み込めるかどうかなんて別の話だ。


「それでもお嬢様の家の格は公爵。お嬢様の家は全力で盗賊団からリオーラ様を取り返そうとしました。それはもう文字通り死にものぐるいで」

 

  もし物語だったら、そこで通りがかった勇者とかに助けられたのかもしれない。

  でも現実とは思っているよりもずっと非常である。


「でもそのお嬢様を誘拐した盗賊団は、ただの盗賊団ではありませんでした。たった8人で構成される、プリオノスクスという伝説の盗賊団だったのです。反撃に出た騎士はもちろん、関係者はもろとも家族も全員殺されました。そして総勢147名の死体は頭だけ無かったそうです」


  するといくつか疑問点が湧き上がってきた。

  そんな最強の盗賊団からどうやって、リオーラを奪還したのか。

  関係者、全員ということはセバスチャンは公爵家の関係者ではなかったのだろうか。


  まさかっ!?


「はい、お察しの通り。私がプリオノスクス元メンバー、ナンバー4の魔人。セバスチャン・プリオノスクスです。今はただのセバスチャンですが」


  セバスチャンの纏う殺気に俺は思わず、尻餅をついた。

  体全身が震え、立つことすらままらない。

  食事のあとのプレッシャーの比じゃない。

  ここにいるだけでショック死しそうだ。


  それでも俺は言わなければならないことがあった。


「な……ら、どう……して?」


  「絆された、と言うべきなのかもしれませんね。私も老い先短い人生です。あの方の最後の望みに心が打たれてしまって」


  そう言った、セバスチャンの顔はどこか悲しそうで、そして覚悟の決まった男の顔をしていた。

 

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