表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第二話 奴隷落ち

  今の俺の目の前では、貴族や商人が手を上げ競りに参加していた。

  その競りの商品は俺。

  黒髪に黒目が珍しいということで俺は奴隷オークションにかけられている。


  あのおばさんが伝のある奴隷商人を紹介すると言っていたが、どこから情報を仕入れたのか珍しい奴隷がいるという情報を聞きつけ、予定とは違う奴隷商人の元へ俺は奴隷落ちした。

  その奴隷商人は珍しい奴隷しか集めず、そして集め、ある程度人数が揃うと、こうして競り市場を設けるのであった。

  おばさんも渋々、俺を引き渡すことを了承していた。

  それは競りの方が裕福な家庭に拾われやすい。

  俺が男ということもあり、競りの奴隷商人に引き渡した方が俺にとっても良いということであった。

  お詫びとしてはなんだがと、俺に異世界の言葉が分かる魔法をかけてくれた。

  3ヶ月もつそうだ、その間に日常会話くらい出来るようにならなくちゃな。


  「さぁさぁ、この男の子は年は16。世にも珍しい黒髪黒目の奴隷です。ただいま25番さんが230万ゴールドでビットしています、他にビットする方はいませんか?」


  周囲はガヤガヤと騒がしい。

  俺は両腕、両足に鎖を嵌められて貫頭衣を着替え、着ても着なくても同じような薄いスケスケの服を着ている。

 

  目まぐるしく変わっていく周囲にもう俺はついて行くことができなかった。

  頭の中で今何が起こっているのかは分かっていても、考えることは無い。

  もうどうにでもなれっという感じだ。


  「300万ゴールドでビット致します」


  周囲が一瞬、静まり返った。

  奴隷商人は目を見開くと、すぐに下卑た笑みを浮かべ、揉み手をしながら叫ぶ。


「37番さん、300万ゴールドです! 他にどなたかいらっしゃいませんか?」


  俺は先程、300万ゴールドと言った初老の男性に目を向ける。

  初老と言っても、身長は170センチ後半ほどの大柄で、鍛えていると分かるいい体でまだ衰えは感じさせない。

  執事服を着ていることのでどこかに仕えている人なんだろうか。

  しばらく待ったが、誰も声を上げることはなかった。

  奴隷商は決まったと言わんばかりに、1度礼をして高らかに宣言する。


  「では黒髪黒目の珍しい奴隷は300万ゴールドでの落札です! 有難うございました!」


  パラパラと拍手が起こる。

  俺はすぐに待機している奴隷商に顔を見合わせる部屋へ連れていかれた。


  部屋に入る前に、奴隷商に手枷を外してもらった。

  何やら奴隷商がブツブツ言うと勝手に外れたのだ。

  また魔法だ。俺も使えるようになるのだろうか、少しだけ興味がある。


「気をつけろよ坊主。相手は貴族だ。無礼があったらすぐにでも殺されるぞ。まぁ、貴族もピンキリ。良心的な貴族だといいな! 幸運を祈ってるぞ」


  笑いながら俺の背中を少し強めで叩く。

 300万ゴールドという大金を得てウハウハなんだろう。若干、テンションが高めでうっとおしい。

  こっちの気も知らないで。


  俺は意を決して待ち合わせの部屋に入った。

  これからの生活がかかっている、少しでも良い印象与えなければならない。

  部活をやめて封印していた敬語モードを発動する。

  その部屋はやけに豪華で、中央に大きな机とその横に革張りのソファが2つある。

  先程の執事はソファの側に立っていた。

  執事は俺をつま先から頭まで舐めまわすように見ると、頷いた。


  「お初にお目にかかります、執事のセバスチャンでございます。 お気軽にセバスとお呼び下さい。以後お見知り置きを」


  恭しくセバスチャンは一礼をした。

 その礼は洗練されていて、流石は執事だなと感心する。

  名前に突っ込みは入れない、異世界で執事ならば皆、セバスチャンなのだろう。

 


「はじめまして、貴方様の奴隷となりました。名前はどうぞ、ご自由につけてください。これからよろしくお願いします」


  前の名前にも少しは未練があった。

  しかし奴隷落ちした今「名前は主人に付けてもらえ、少しは愛着が湧くかもしれんからな!」とアドバイスを奴隷商から受けていたのだ。

  全ては少しでも待遇を良くしてもらえるようにと。

  俺はセバスチャンに倣って、お辞儀をする。

  セバスチャンは少し、顎に手を当て考える素振りをしていた。まるで名俳優だ。


  「でしたら、これからはクロと名乗って下さい。すみません、黒髪黒目で名前がクロだと覚えやすいと安直に考えまして」


  セバスチャンは少し笑いながら言う。

  確かに安直だ、でもシンプルなのは気に入った。

  セバスチャンは続けた。


「では詳しい話は馬車でしましょう、クロ。お給金のお話もしなければなりませんね」


  お給金が貰えるのかと俺は驚いた。

  てっきり奴隷になったら無休で無給の強制労働かと思っていたので朗報である。

  セバスチャンはさっさと奴隷商の契約書にサインし、何もないところから急に大きな金貨のつまった袋を奴隷商に渡していた。

  どうやら即金で払ったらしい。また魔法の力を垣間見た気がした。

  それには奴隷商も少しだけ驚いていたが、緩んだ顔を引き締めようと自分でビンタしていたのは滑稽だった。

  そして俺はセバスチャンと馬車へと向かったのだった。






  ガタンガタンと、電車よりも揺れ、尻が痛くなる。

  セバスチャンは俺の対面に座っている。

  スペースがあまりないのでセバスチャンの巨体では少し手狭な感じがした。


  「では僕は屋敷での執事見習いとして働けば良いのでしょうか?」


  セバスチャンは『はい』と頷いた。

  セバスチャンが俺に要求したことは全部で3つ。

  ・屋敷で働いて貰うこと

 ・そのために様々な技能を習得してもらうこと

 ・給金は1ヶ月1000ゴールドで、衣食住保証。でもその給金は自分を買い戻すためのお金に回され、合計で500万ゴールドで支払いが完了すれば自由であること

 

  かなり良心的な雇用条件だと思う。

  俺はまだ神様に見放されていなかった。

  屋敷で働くのは訳ないし、そのために努力しろと言われればする気でいる。

  それに俺の特技だって執事には向いている。

  まぁお給金については最初から期待していなかったので別にいい。

  奴隷館で聞いた話では、「死んだ方がマシと思うような生活が待っている」と脅されていたので、安心した。

  とりあえず生きることが出来るのだ、文句はない。


「では明日、詳しくお話しようと思います」


  セバスチャンはそう言うと何も喋らなくなった。

  確認事項を話終えると、互いに話すことはなくなり、ただの沈黙が続いた。

  そして馬車の揺れがだんだんとなくなり。馬車が止まる。どうやら屋敷へ着いたようだ。

  御者の人が扉を開いてくれた。

  セバスチャンが先に出て、俺はそれに続く。

  豪華な屋敷の前に俺は言葉が出なかった。

  目の前には元にいた世界でも豪邸と言えるような屋敷が広がっている。

  俺はここで働くことができるのかと少し誇りに思い気持ちが高ぶる。


  セバスチャンは屋敷の大きな門を両手でぐっと押した。それに伴い、門はグギギと鉄が擦れる音を出しながら開く。


  「では今日からよろしくお願いしますクロ。部屋に案内するので付いてきて下さい」


  少しだけ微笑を浮かべながらセバスチャンは屋敷へと歩き始めた。


  俺は内心、少しの不安を抱えながセバスチャンに続く。

  門は閉めなくていいのだろうか。

  俺は気を利かして閉めようと思ったがピクリとも動かなかった。どうなってんだ、この門。


  門からまっすぐに伸びた、屋敷の玄関までの石のタイルが敷き詰められた道を通る。

  その途中の真ん中には大きな噴水があった。

  側には庭師が整えたと思われる、選定された木々がある。

  周りをキョロキョロと見回していると、玄関に着いた。

  俺は屋敷を見上げる。

 

  俺の家の5倍はありそうだ。

  セバスチャンは玄関の大きなら扉を開く。

  屋敷の中は明かりの1つもない。

  暗くてよく分からないが、調度品が多くあることは分かる。

  月明かりによって照らされた、扉の先の一部分が赤い絨毯が引かれていることを示していた。


  セバスチャンは無言でずいずいと屋敷の中に入っていく。

  俺は「靴を脱がなくていいのか」と少しだけ疑問に思ったが、俺は転移した時は素っ裸で奴隷商でも靴は支給されなかったので杞憂に終わった。

 

  そしてセバスチャンは目的の部屋の前に着いたのか俺の方に振り返る。


「ここが今日からクロの部屋となります。明日の朝、呼びにまいります、詳しくは明日にしましょう。それまでに身支度は済ませて置いてください」


  セバスチャンは言うことだけは言ったとそのまま真っ暗な廊下を進んで闇に消えた。

  闇に消えるだけでも迫力がある。本当に何者なんだ。


  俺は少しだけ状況を整理する。

  これだけ大きな屋敷だ、仕えている人がセバスチャン1人だけとは考えられない。

  でよなぜ、この屋敷は真っ暗で光の1つもついていないんだろうか。

  この屋敷に来るまでの道のりで街灯があったのは見た、それなら技術的に不可能なはずではない。

  訳あり。

  そんな言葉が頭に浮かんだ。


  俺はいそいそと案内された部屋に入った。

  その中には簡易のベットと小さい机に椅子が1つ。奴隷には勿体ないほどの部屋だった。

  ここまでの好待遇だと少し疑ってしまう。

  それでも俺は今日のハチャメチャな1日に疲れていたのか、ベットにダイブするとそのまま眠ってしまった。

  少しだけかび臭いベットだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ