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第5話

ロレンスは本当に我が家に婚約を申し入れてきた。勿論私との婚約。両親は喜んで承諾した。


「ヴィオレッタも今度こそちゃんとお嫁に行けそうだな。」


お父様が喜んでいる。

因みにこの場にいるのはロレンス、私、父、母である。クリステラは部屋に閉じ込められている。両親は「ヴィオレッタのものをやたら欲しがる」クリステラを警戒して、部屋に閉じ込めることにしたようだ。私もクリステラとロレンスをあまり会わせたくはないけれど。それはそれで小骨が喉に引っかかった感が。うまく言えないけど、クリステラから逃げおおせる形で結婚して、それでいいのかと。私は結局逃げてるだけなんじゃないかと。葛藤。

4人で婚約書類を整えてお茶を飲んでいるとバキッと何かが破壊される音がした。「お嬢様!」という使用人の悲鳴が聞こえる。嫌な予感がした。

ガチャっと扉が開いてクリステラが登場した。


「ロレンス様!……お会いしたかった…!!」


クリステラがロレンスにしがみついて涙を流した。


「クリステラ嬢?」

「私、両親とお姉様に部屋に閉じ込められていて……でも私…私…ロレンス様に一目お会いしたくて…」


きらきらと涙の滴を零しながらロレンスにしがみついた。


「なんだ?リック殿とドロシー夫人はそんなことをしていたのか?」


ロレンスが呆れたように言った。

リックとドロシーというのは私の両親の名前である。


「は、はい…その…なんと言いましょうか…」

「クリステラ嬢の悪癖のことはちゃんと聞いている。寧ろ比較した上でヴィオを選ばねばヴィオだって納得できないだろう。」

「そう…ですね。」


お父様もお母様も決まり悪げだ。両親は政略ではない、私が自ら望んで連れてきた相手だから「今度こそ結ばせてやりたい」と思っているようなのだ。私も出来れば「今度こそ」とは思っているが、それはロレンス次第だ。

エレオノーラ様の『試金石』という言葉が脳裏に蘇った。クリステラに試してもらう…ロレンスの本質を…


「あくへき…ですか…?お姉様、何をお話したの?ロレンス様に私の悪口言ったの?酷い…ロレンス様…私、ロレンス様の思ってるようなひどい子じゃないです…」

「そうかそうか。クリステラ嬢は男性関係が大変華やかだと社交界では評判だったぞ。捨てられた男の怨嗟の声を聞いたことはあるか?」


ロレンスはクリステラの言い分を戯言のように聞き流している。

クリステラははらはらと涙をこぼした。


「違います…真実の愛じゃなかったんです…みんなみんな……私はこの人こそって思う人と愛し合いたいだけなんです…」


きゅっとロレンスの服の裾を掴む。

私の婚約者を奪い取る度に「真実の愛を見つけてしまったの」って言ってるくせにね。クリステラにとって『愛』はただのアクセサリーだからね。


「そうか。」

「わかって…いただけましたか?」


うるうると涙に濡れる瞳、紅潮した頬。見事な雌犬の顔。腕と腕で胸の谷間を寄せて、絶妙に見せている。この胸の谷間寄せに鼻の下を伸ばす男性は多い。

ああ、また勇気が萎んでいく。私はクリステラの性格は如何なものかと思うけど、可愛いことに間違いはないから。涙だって綺麗だった。


「ヴィオ、負け犬の顔はするなと言っただろう。」

「だって…」

「だってじゃない。戦う前に逃げ出す犬ほど弱い犬はいないぞ。お前の俺を信じろ。」


クリステラはロレンスに悲しそうな顔を見せる一方で私を睨み付けた。

ロレンスは片手で私の頭を撫でた。撫でられると少し落ち着く。

5人でお茶。クリステラはロレンスにべったりだった。恋する乙女のオーラをロレンスに向けている。雄を誘うフェロモンでも出すかのように。



***

「お前の妹面白いな。」


ロレンスが酒場の隅でエールを飲みながら笑った。どきりとした。それは好意的な感情だろうか。


「ありゃまるで発情した雌犬だな。発情期がお前に相手が出来た時って言うのがなんともおかしいが。」

「私は全然笑えないんだけど。」

「馬鹿だな。お前が育てた特殊性癖だぞ?」

「私が育てた…?」


そんな覚えは全然ないんだが。クリステラは気がついた時にはあんな感じだったと思うんだけど。私から何かした覚えはない。


「確かに他人の持つものほどよく見えることはある。だが、あの女はお前から何か物を奪うことに快感を感じてるんだ。お前の負け犬の顔が見たくて仕方がないんだよ。盗るものはお前にとって大きな存在であればあるほど快感を感じている。自覚はないんだろうが立派な特殊性癖だ。」


うーん…そうなの…かなあ…そんなこともあるような…確かに「私のものを奪う」ときが一番クリステラは生き生きしてるんだよね。どうしてそんなに熱心に奪いたがるのか、その快感は私には共感できない類の感覚だけれど。

蒸した貝が美味しい。レモンで酸味を足していただく。


「まあ、お前に会う機会がなくなれば、病気も収まるだろうさ。喪失感はでかいかもしれないがな。」


私は来年ロレンスと結婚する予定だ。ロレンスが「急かすわけじゃねーけど、俺が30になる前に結婚したい。」とリクエストしたので1年後である。今は両家の招待する家の目録作りだとか、採寸やドレスのデザインなどやること満載だ。因みに結婚式は両家の身内だけで教会で神聖に行い、披露宴はどちらかの自宅のホールで盛大にというのが多いパターンである。貸し出しのホールを使う家もあるようだが、今回はトトカルテ家のホールを使用することになった。お出しする料理や招待客の席順なども決めなくてはならない。中々にやることが多い。呼べなかった家に「ゴメンね☆」と手紙を送らないとならないし。


「私が結婚かあ…」


実感湧かない。

婚約してもすぐに奪い取られてきたから結婚できる未来のヴィジョンがあまり思い浮かばないのだ。嬉しいことだけど、またクリステラに略奪されるのではないかという一抹の不安も。ロレンスはクリステラにあまり心動かされた様子はなかったけど。


「うちでは使用人が大喜びしてるぞ。皆俺が一生嫁を貰わんと思ってたらしくてな。失礼な奴らだ。俺だって生きてれば恋の一つもするというのに。」

「ふふ。」


因みにロレンスのご両親は既に他界しているらしい。5年前に病気で亡くなったと聞いている。正真正銘天涯孤独の身の上だと言っていた。爵位も高くて本人も有能で美形の独身者。令嬢が狙わぬはずがない。特に両親が亡くなった5年前、慰める風を装って近づくご令嬢の多さに辟易したロレンスは社交界から退いて、仕事だけする半隠居形態をとっていたらしい。確かに「ご両親は残念でしたね…」と口で言いながら色目を使われたらげんなりすると思う。

今後は私を引き連れて少しだけ外に出るそうだ。お家の躍進とかは特に狙っていないから、熱心に情報収集に励む必要はないが、精々陥れられない程度には情報も集めておくように言われた。あと味方を多く作れと。徒に借りを作ることはしたくないが、いざというときに庇ってくれる人は多ければ多いほど良いようだ。

頑張るけどねー。




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