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第3話

ラモン様は無事にクリステラに飽きられた。クリステラは新しくできた恋人に夢中だ。「新しい愛を見つけたの…」って男爵家子息の美青年とイチャイチャしている。クリステラの『愛』と言う言葉はまるでお洒落なアクセサリー。気分次第で付け替え可能。そんなことにすら気付かないで唯一の愛と信じ込むなんて、本当に男は馬鹿だ。ラモン様は今更そのことを思い知ったらしく、意気消沈である。約束通りクリステラとの仲がどうなっても我が家には責任はないということになっている。クリステラは両親に叱られて激しく泣いたけど、翌日はケロッとしていた。

社交界での噂は日に日にひどくなる一方だけど。

私は最近侍女に繕い物の仕方や、料理人に簡単な料理を習っている。「信じない」とは言ったけど、ロレンスがいつ迎えに来ても良いように。

また愛すれば羨んだクリステラに略奪されそうなので、こういう地道な努力は無駄なのかもしれないけど。



***

夜会の日、淡いピンクのドレスに袖を通した。私の髪は淡い栗色。この国で最も多い髪色。緩く波打つ栗色の髪は真珠のバレッタで留めてある。それなりに長い睫毛に囲まれたぱっちりとした瞳は紫。私が自分の体の中で一番気に入っている部分。クリステラは自分の方が何十倍も美しいくせにこの瞳が羨ましいらしい。交換できるならしてくれと言っていただろう。ツンと小ぶりな鼻にふっくらした薔薇色の唇。平凡ながら年頃の少女らしい愛らしさを備えた顔。17歳である。身体の凹凸はなくもない程度。しゅるんとしなやかで華奢。まあ多分とびぬけたところのない平凡な体つきだと思う。クリステラはむっちりした胸にキュッと括れた腰の男性なら思わず手にしてみたくなるような抜群のスタイルだけど。

今日のドレスはAライン。少し締まりのある形。それでも裾はふんわりしている。

薄く化粧も施して、準備万端。

クリステラと馬車に乗って、夜会会場まで行く。

今日の夜会は王宮で開かれる比較的規模の大きなもの。ダンスはなしの立食パーティーのようなもの。

寝取られ令嬢だって言われるんだろうな…と思うと憂鬱。ウキウキと楽しみにしているクリステラのオリハルコンのような精神が羨ましい。


「どうしたの?お姉様。溜息ばかりついて。」

「なんでもないわ。」


あんたがやらかしてくれたおかげで憂鬱なのよと言えればどんなにいいか。言ったところでクリステラが悲しんで涙して、私が嫉妬に狂って妹を泣かした…みたいな風評を立てられるんだろうけど。私に女性としての魅力がなかったのも悪かったのだろうと思う。クリステラはオリハルコンのような精神をしているくせに、何かあるとすぐにぴゃーぴゃー泣いて頼りなげな乙女の風情だもの。思わず守ってあげたくなるような可憐な乙女なのよね。

夜会会場へ着いた。

仲良しのご令嬢たちの輪に加わる。


「お久し振りですわね、ヘレナ様、キャロル様。」

「お久し振りですわ。ヴィオレッタ様。」

「ヴィオレッタ様は『丘の上の姫君』はお読みになりまして?」

「勿論ですわ。」


『丘の上の姫君』は今流行りのロマンスノベルズだ。以前一度悲恋として幕を閉じた物語だったが、最近続編が出て、そちらはハッピーエンドで終わっているのだ。


「やっぱりハッピーエンドはほっとしますよね。」

「ええ。悲恋の切なさも良いですけれど、やっぱり幸福なエンディングの方が楽しいですわ。」


よく夜会の醍醐味は情報収集だという人がいるけれど。私はどちらかと言うと友人を新しく作ったり、友人と他愛ないお喋りを楽しんだりしている。狸や狐の化かし合いにはあまり向いていない。上手に情報を抜き取るようなご令嬢とはそっと距離を置いている。

暫く3人でお喋りを楽しんでいると、もう一人ご令嬢が加わった。


「ごきげんよう。寝取られ令嬢さん。」


クスッと微笑むのは友人の令嬢の一人。歯に衣着せぬ物言いの大胆なご令嬢。私は面白くて結構好きだ。


「エレオノーラ様…」


ヘレナ様とキャロル様が微妙な顔になる。


「どうせ二人は腫れ物に触るようにその話題は避けていたんでしょう?私はずばりと言うわ。あなたはツイてるわ。」

「ツイてる……?」


婚約者を寝取られてツイてるとはどういうことか。


「ちょっと可愛い女の子にチヤホヤされてすぐ心が傾いてしまうような殿方は所詮その程度の存在。寧ろそのまま結婚してしまって結婚後になって浮気などされるより、婚約期間中に化けの皮が剥がれる方がよほどましですわ。態々体を張って試金石になってくれる存在がいるなんてツイてましてよ?」


そう…考えられないこともないような…確かに誰かに盗られるのが結婚した後だったら目も当てられないな。


「……そうですわね。」

「そうですのよ。気の多い妹なんて便利遣いしてやる!くらいの気持ちでいらっしゃいまし。」

「はい。」


エレオノーラ様はぱさっと上品に扇子を開いた。

まあ、それはともあれ、エレオノーラ様によると「ヴィオレッタがまた婚約者を妹に寝取られた」と言うのは有名な噂らしい。


「ヴィオレッタ様の妹さん身持ちは大丈夫ですの?誰だかと下町の連れ込み宿に入るのを見たとか、結構噂になってますのよ?」

「流石にないのでは?外に出るときは護衛が付きますし。」


うちも仮にも子爵家なので、護衛はちゃんとつく。


「お小遣いを握らせれば黙っててくれると思いましてよ?」


うーん…


「わかりませんわ。あまり仲の良い姉妹でもないですし。」


妹のシモの事情など知りようがない。私だって連れ込み宿には入っていないけれど、庶民向けの飲み屋には出入りしてるし。まあ、流石に両親もクリステラが連れ込み宿に入ってる情報が真実だったら怒髪天で家に監禁するかもしれないけど。


「ふふ。そういえば今日はトトカルテ侯爵家の御当主様が珍しく夜会にいらっしゃってるみたいよ。」


トトカルテ侯爵…確か法衣貴族で宮内で文官を務めている家の方だったと思う。お顔は今まで一度も拝見したことがない。


「どんな方ですの?」

「先ほど拝見して参りましたけど、なんて言うか野性的な美青年と言った感じでしたわ。確かまだ28と言うお話でしたわ。アッシュブラウンの御髪に琥珀色の瞳が情熱的で、見つめられたら蕩けそう…」


「キャー」と私たちは喜ぶ。若いしちょっとくらいミーハーな部分があるのは仕方ないと思うの。私だって話題の美男子は気になります。


「拝見してみたいですわ。」

「あら、見てくればよろしいではないですか。先ほどからホール内をうろうろされていてよ?」

「うろうろ?」

「なんだか、誰かを探されているようですわ。……あ、ほら、噂をすれば。」


一人の美男子が目に入った。



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