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戦う改造人間と笑う人造人間  作者: フロッグ中尉
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第5話 逃亡

「ごはんですよー」

 そう言って楓が部屋に持ってきたのは、鳥飯・たくあん・牛肉の野菜煮・酢豚・わかめスープ・大根のキムチだった。

「有難う。いただくよ」

「どうぞどうぞ! 私の手料理なんてお父さんにも食べさせたことないんですからね? 味わって食べてください!」

 何も言わずに一通り食して確証を得る。

「ごはんのお替りもありますからね?」

 楓は食べずにニコニコと俺が食べるのを見ている。

「それは良いんだけどさ、全部食べ慣れた味なんだけど?」

 それぞれ皿に盛られた料理たちは、本来別の容器に入っていたはずだ。

「……」

 笑顔のまま固まる楓。

「嘘はつくなよな……」

 そう、これらすべて自衛隊の戦闘糧食。要はレトルトである。

「一応、ひと手間加えてあるんですよ?」

「湯煎やレンジでチンをひと手間言うな!」

 まぁ、おいしいからいいけど。


「料理はできないのか?」

 食後にコーヒーをすすりながら訊ねる。

「できますよ!」

「例えば?」

「……ラーメンとか焼きそばとか……」

「インスタントだろ絶対に!」

 苦笑いしながらコーヒーを一口すする楓。

「でも、一応言い訳しておくと、ごはん炊いておにぎりぐらいはできるんですよ? ただ、食堂の厨房も大変なことになってたので……」

 本当に皆殺しか……しかし、楓はそんな中レトルトとはいえ食べ物の調理をしてきたのか。

「お前、怖くないの? 死体とか、銃撃戦とか……」

「ないですね。だって、キョーキさんが守ってくれてるから」

「……」

 体をくねくねさせながら冗談めかして言う楓を黙って睨み付ける。

「……まぁ、撃たれた死体なんて軽いもんですよ。高レベルセキュリティの部屋行くと、人の形になれなかった子たちや実験の果てに滅茶苦茶になった子たちなんかを見ることもありましたし」

「えっ……」

「銃撃戦は言った通りキョーキさんが居るからへーきです」

 なんかスゴイ事いった気がするが、もうここから出ることだし、聞かなかったことにしよう……




 数時間後。満足に動けるようになったので再び駐車場へ。

「やっちまったなぁ……」

 囮に爆破した車の残骸が見事に出入り口を塞いでいた。これで車での移動は不可。歩いて山越えをしなくてはいけない。

 どうしたものかと考えつつ、今度は射撃場の倉庫へ。武器を調達するためだ。

 問題は何を持って行くかだ。ガンマニアな自分としては全部持って行きたいところだが……さすがに一個師団並みの量は持って行けない。

 とりあず、万が一の時のことを考えるとマイナーどころは持って行かない方が良いだろう。特殊な弾だと補給に困るし、流通の少ない種類だと故障時にパーツが手に入らない。使ったら敵からその都度奪う方法もあるが、撃ち合いになった場合敵も持ってきた弾を使うので奪える弾は少ないこともあるだろう。

 となると、AK系か米軍系の武器。この二択だと、共同訓練で撃たせてもらうこともあって、使い慣れた米軍系の武器だ。

 米軍が採用した銃が並ぶ辺りの前に立つ。

 まず、目に留まるのはM4だ。現在の主装備となっており、短めの銃身は取り回しもし易い。だが、個人的に肩当ての部分が伸縮できる可変ストックは好きじゃない。

 せっかくのなので好きなものを持って行きたい。


 ふと、気付く。

「なんだこれ……?」

 それぞれの銃がむき出しでショーケースに収められている中、なぜか1つだけガンケースが置いてあった。

 俺はそれを手に取ると、マットブラックに塗装されたジュラルミン製のケースを開ける。

「お……おぉ……」

 言葉が出ない。

 中に入っていたのは一見何の変哲もないM16A4。俺好みな長いアサルトライフルだ。銃前部を支えるハンドガードにはレールが四面に装備されており、様々なアタッチメントを装備することが可能だ。本来固定式のフロントの照準器は可倒式に変更されている。これは光学機器、スコープなんかを付けた時邪魔にならないようにだ。リアの照準器も同様の可倒式。

 慎重にケースから取り出し、構えてみる。ストックは本来の野暮ったい三角形のような形のものではなく、確か一部海兵隊員が使っていた近代的な細身のストックだ。剛性はしっかりしていそうなので格闘戦で多少殴っても大丈夫だろう。

 弾を装填する時に、最初の1発を込めるチャージングハンドルは左右どちらからでも操作できるアンビタイプだ。セーフティ・セミオート・フルオートを切り替えるセレクタもアンビタイプ。弾倉を排出するボタンもだ。

 引き金を覆うカバーも湾曲した、広いものがついているから厚手のグローブや防寒グローブでもスムーズに操作ができるだろう。

 試しに1回、引き金を引いてみる。

「おぉ!」

 引きは軽く、引き量も短い。単発での戦闘時も連続での発砲が容易だろう。

 俺は我慢できなくなり、弾を込め、射撃場に立つ。そして人型のターゲットにセミオートで発砲していく。

「すっげぇ……」

 その精度の良さと、操作性の良さに感動。間違いなく一級品のフルカスタムだ。

 なぜこんなものが、こんなところに……


 メインの銃は決まった。ハンドガンは楓が拾ってきた奴が結構良さげだったのでそれを持って行く。

 俺は銃以外の弾薬や爆発物、メンテナンス道具やら多種多様なアタッチメントをバッグに詰めるだけ詰めた。あと、ボディアーマーも用意する。これは世界的に広く普及しているもので、防弾ベストに様々なポーチなどの装備を取り付けることが可能だ。防弾のプレートも一番レベルの高いものを選ぶ。

 楓に着せる分は弾倉のポーチは付けずに、いろいろと物を入れられる多目的のポーチを複数付け、医療キットの入ったメディカルポーチもつけておいた。

 それぞれの装備は緑や茶色等々の複数の色が混じり合ったマルチカム迷彩でそろえた。

 万が一軍人に間違われると色々と支障が出るかもしれないので、服は目立たない色を着るが、せめてボディアーマーなどの装備は目立たないようにしたい。銃やアタッチメントもできれば塗っておきたいが時間がないのでそのままだ。

「よっこらせ」

 バックパックにスコップまで下げた重装備だが、筋力強化のおかげでそんなに重くは感じない。

「この力が自衛隊時代にもあれば……」

 辛い訓練を思い出し、ぼやきながら倉庫を出た。

 一通りの準備を終え、研究所の正面玄関から出た所で楓を待つ。屋内は死体が痛んできて悪臭が充満しているので用がなければ中に居たくない。死体に対する恐怖を感じない楓も、感覚強化により鼻がかなり効くらしく、涙目になっていた。

「お待たせしましたー」

「お前……」

 楓は真っ赤な大きいリュックを背負って出てきた。




「うぅ……お気に入りだったのに……」

「あほか! あんなもん背負ってたら森の中でも遠くから見つかるわ!」

 ぐずる楓を叱りながらマルチカム迷彩のバックパックに中身を入れ替えさせた。

 ただ、荷物をチャックのできる防水のビニール袋に小分けに入れていたのは褒めてやりたいところだ。褒めると調子に乗るので何も言ってないけど。

 今俺たちは山の中を道路沿いに移動している。道路を歩いていると敵に見つかるかもしれないし、楓には言ってないが、研究所の人間に見つかって連れ戻されたくはないからだ。

 進む速度は遅くなるが仕方がない。

 地図が無いのでとりあえず、どこか街に出るまでは道沿いに進むのみだ。

「いいか? 楓、これは逃走だ」

「逃走?」

「そう。逃げてるんだよ、敵から。だからあまり目立つような行動はするな?」

「了解です!」

 敬礼をしながら大きな声で言う楓に対し、こいつ絶対に理解していないなと俺は冷ややかな目で返した。

「でもおしゃべりぐらいはしてもいいですよね?」

 言ってる傍からコイツは……まったく能天気な奴だ。

「あまり大きな声は出すなよ」

「おしゃべり……おしゃべり……う~ん……」

「話題を思いつくまで静かにしてろ!」


 そう言って楓を黙らせて暫くは黙々と進み距離を稼いだ。

 道なき道を進んでいるのでどうしてもペースは落ちるが、数キロは歩いただろうか……能力のおかげで俺に疲れは感じないが、楓のペースがみるみるうちに遅くなっていった。

「……楓?」

「……大丈夫です…………」

「真顔で答えるな。お前らしくもない……しょうがない、休憩するか」

「有難うございます!」

 そこで初めていつもの楓らしい人懐っこい笑顔を見せる。

 休憩といっても荷物を降ろし、水筒の水を飲むぐらいなのだが足休めにはなる。

「ふぇ~生き返るぅ~」

「疲れたら早く言えよ。力尽生きて動けなくなる方が面倒くさい」

「キョーキさんて、優しいのか優しくないのかわからない人ですよね……」

 そんなこと言われたって生まれつきの性格だ。

「しかし、目的地がはっきり定まってないのはなかなか辛いな。あとどれぐらい歩けばいいんだろうな?」

「外の世界なんて私も初めてですからねぇ」


 ただぼぅっと座っているだけなのだがかなり癒される。人の手が入っていない自然の森に、鳥のさえずり、風に揺れる木々の音。肉体的には疲れていなかったが、精神は疲れていたのだと知る。

 元自衛官の俺ですらこんな状態なのだから、楓はもっと辛かっただろう。ましてや文字通り研究所という箱に入った箱入り娘だったのだ。

 少しかわいそうなことをしたかな、と反省する。

「どうしました? そんなに見惚れて。可愛いからしょうがないですね」

「……」

 敢えて何も反応せずに目を逸らす。相手にするほど優しくない。

「キョーキさん。キョーキさんは日本から連れてこられたんですよね? どんな国なんですか?」

 鞄を枕に寝転がる楓。気持ちよさそうなので俺も寝転がる。

「何も知らないのか? お前が喋ってる言語も日本の言葉なんだぞ。そういえば研究所職員はみんな日本人だったな……」

「そうなんですか? 私はあそこがすべてだったので……教育係からは国語、数学、理科ぐらいしか習わなかったのです」

「たぶん、外の世界に興味を持たせないためだな……逃げ出さないように」

 見た目は、髪や瞳が赤いことを除けば、明らかに日本人だ。話す言葉も日本語だし、そういえば研究所で使われている文字も日本語ばかりだった。

「雰囲気が、ここは日本じゃないようだ。だが、日本の企業か、政府かが秘密裏にヤバイ実験するために海外に施設を建てたんだろうな」

「日本ってどんなとこなんですか?」

「どんなとこって言われても……」

 当たり前にあった日常。それを急に説明といわれても困るな……

「あー、お前ぐらいの年の子は学校に通って勉強したり、友達と遊んだり、オシャレや……恋愛事を楽しんでいたな」

「へぇ~」

「まぁ、俺には関係なかったんだが……」

「へぇ……」

 遠い目で言う俺に、楓も合わせて遠い目になる。

 なんでこんな状況でいきなり悲しい思いをしなくちゃいけないんだ……自分で蒔いた種なんだけれども……

「俺はずっと趣味に生きていたからな。男友達ばかりだった。モデルガンとか、バイク、車、ゲームにいろいろだ」

「知ってますよ。それオタクって人なんですよね」

「まぁ、そうだけど……」

 趣味が高じて自衛隊に入ったわけだが、それがこんな結果になってしまった以上、趣味は趣味として置いておいて普通の企業に就職すべきだったかもしれないな。

「じゃー女の子と仲良くするのは私が初めてってことですね!」

「いいや?」

 俺の即答に楓が固まるのがわかる。

「自衛隊にいた間は、趣味の合う仲の良いやつが居たなぁ。そいつがまた男勝りな奴でさ。男友達と変わりはなかったけど、良いやつなんだ」

「キョーキさん。女の子と話す時に他の女の話題はNGです」

「はい……わかりました……」

 真剣な声の楓に思わず敬語なってしまった。

 しょうがないだろ。彼女いない歴イコール年齢なんだから。

「そろそろ行きましょう。十分休めましたし、今はとにかく動きたい気分です」

「お、おう、そうか。行こう」

 楓が率先して立ち上がり荷物を背負う。どうやら機嫌を損ねてしまったらしいので言われた通り出発する。

 女の扱いは難しい……


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